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ねおきのごかい

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旅行の満足と疲れからの深い眠りの中にいたが、突然頬を引っ叩かれて起きた。飛び起きた俺の口に輪口枷はなく、尻にバイブはなく、頭にカチューシャはなかった。しかし首輪はベッドの足と繋がっていた。

「……寝てる間に飼い主襲うなんて最低だよポチ!」

まだ状況が理解できていない俺は反対側の頬を叩かれた。

「…………おはようございます」

「おはよう! じゃなくて、ポチ昨日何したの! どうして僕は服着てなくて、シーツにカピカピの白いのついてるの!」

痛む両頬に手を当てながら昨晩を思い出し、雪兎の立場になって考えてみる。俺は寝惚けた雪兎が物欲しそうにしていたから応えてやっただけと認識しているが、雪兎にしてみれば寝ている間にイタズラされたという認識になる。怒っても仕方ない。

「……ユキ様が寝ぼけて俺の手に擦り付けてきたんですよ。だから抜いてさしあげて、出たものをしっかり舐め取らせていただいたんです」

「え……? 僕が擦り付けてって……そんなことする訳ないでしょ!? 僕はそんな三回も四回も出せないの! 昨日は船でポチに二回あげて限界だったはずだよ! 嘘つきは嫌いだよ!」

嘘ではないのだが、信じてもらえるかどうかは微妙だ。

「襲ったなら襲ったって正直に言いますよ俺は、お仕置きも好きなんですから。ユキ様は昨日自分から抜いて欲しいって俺の手に擦り付けてきたんです、車でもやってたでしょう?」

流石に車の件は覚えているようで、雪兎は顔を赤くして枕を投げてきた。俺の顔に当たって落ちた枕をすぐに拾い、それを抱き締めて顔の下半分を隠し、赤紫の瞳で俺を睨む。

「………………ほんと?」

「本当です」

「…………………………叩いて、ごめんなさい」

俺を睨んでいた赤紫の瞳が潤み、枕に押し付けられて見えなくなる。膝立ちで寄って頭を撫でてみると、弱々しい声の謝罪が聞こえた。

「ごめんなさい、ポチ……叩いて、ごめんなさい」

「大丈夫ですよ、もう痛くありません」

「ポチ悪くないのに、ポチ悪いって決め付けて、叩いて……僕、僕っ……」

「大丈夫です大丈夫です、寝惚けているのをいいことに襲ったって考えれば俺が悪いんですからね」

だから可愛い泣き顔を俺に見せて。泣き顔が笑顔に変わる瞬間も俺に見せて。

「……ごめんね、ポチ。僕……自分勝手だよね」

「その方がご主人様らしいですよ」

「ダメ……もっと、大人にならないと…………雪風とも、ちゃんと付き合っていくんだ。ポチと一緒に、雪風とも仲良くする、父さんって……呼びたい」

「ユキ様……!」

「…………雪風に言っちゃやだよ」

潤んだ赤紫の瞳が枕の影から俺を睨む。首を横に振りながら雪兎を抱き締め、頭を撫で回す。

「……ありがとう、ポチ。許してくれて」

「怒ってませんもん」

「ふふ……じゃあ、ポチ。付き合ってくれないかな、僕が大人になるための第一歩」

どんなことか聞く前に頷く、それが犬というものだ。

「……おじいちゃんに謝りたいんだ。ほら、旅行前……旅行が二日くらい学会に行かされたせいで潰れちゃったでしょ。おじいちゃんが学会行けって言ったから、旅行なんかどうでもいいだろって言ったから……だから、おじいちゃんに謝りたいんだ」

いつまで会えるか分からない祖父や祖母は大切にするべきだ。俺はうんうんと頷きながら雪兎の頭を撫で回す。

「…………おじいちゃん、別館に居るからね、今からでもいい? あ、シャワー浴びてから……」

「ええ、もちろん」

別館に居たのか。電話をかけていたり何年も会っていないなんて言っていたから、雪風同様遠くに住んでいるものだと思い込んでいた。

「おじいちゃん潔癖症だから気を付けてね」

「はぁ……分かりました」

なら雪風のような色情狂ではないのかな。
俺は祖父についての考えを早々に放り投げ、雪兎と共に入る風呂への興奮を募らせた。
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