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くるーざー、ご

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いつまで経っても雪風が痛がる様子はない。そっと背を撫でても微かに跳ねることすらない。不思議に思いながらも抱擁を続ける。

「真尋……真尋、は……死なないよな?」

「……死なないよ」

「俺を本当に愛してくれるんだよな?」

「もう愛してる」

「……っ、まひろ……真尋ぉ、真尋……ま、ひ……ろ……」

俺の名前を呼びながら泣きじゃくる雪風の腰に手を下ろし、抱き起こす。
俺の首に腕を巻いたまま、ほとんどの体重を俺にかけて、俺に全幅の信頼を置いて立ち上がった。

「…………真尋ぉ、雪兎は……本当にいいのか?」

「……大丈夫」

大丈夫じゃない。大丈夫な訳がない。雪兎の嫉妬深さは並ではない。二股なんて雪兎が許すはずがないから、雪風の方に妥協してもらってひっそりと関係を続けていきたかったのに、雪風の精神が想像以上に脆かった。

「俺……今回の旅行で、父親できるかな……」

「別に無理に尊敬されようとしなくていいんだよ、多分無理だし。楽しくゲームでもして……友達みたいな親子関係もあるだろ? 雪兎は反抗期って言われる中学生だ、下手に父親面すると悪化するぞ」

「そ、う……か。そうだな……友達、友達な。ゲームか……」

脆いのは仕方ない。壊れかけて頭の中で時系列がめちゃくちゃになったのだろう、自分でもおかしいと分かっていて捨てたかったのだろう、過去を吐き出してくれた。

「……雪風」

「ん?」

「お前を傷付ける奴は俺が全員潰してやる。だから、もう何にも怯えるなよ」

「……ふっ、ふふ、ははははっ! 潰すって、はははっ!」

確かに自分でも格好付け過ぎたとは思うけれど笑わなくてもいいだろう。だが、家庭教師だった男一人に叔父……居場所さえ分かれば何とかなる。使用人に協力を扇いで、庭のワニが本当に喰ってくれるのなら、雪風のためなら、俺は二人くらい──

「…………もう笑うなよ、恥ずかしい」

「だって……同じこと言うから」

「同じ?」

「…………あんたに手ぇ出す奴は私が全員シメる、だからそんなぴーぴー泣くんじゃない……って」

「……嫁さん?」

雪風は嬉しそうに微笑んで頷く。嫁はレディースか何かだったのか……?

「そっか、そっかー……ふふ、同じなんだな、安心していいんだな。雪兎、大丈夫なんだよな。好きなままでいいんだよな……ふふ、はは、ははは……」

笑いながらポロポロと零れていく涙を舐め取る。

「…………俺、殴られなくていいんだよな?」

「当たり前だろ」

「ダメな、出来損ないじゃ……ないんだな?」

「雪風は顔も頭も身体も最高なんだろ? 自他共に認めるハイスペックイケメンだろうよ、お前が出来損ないだったら全人類畑の肥やしだって。ってか、ダメな出来損ないだからって何で殴られなきゃなんねぇんだよ、ダメでも出来損ないでも何してたって他人に口も手も出していい権利なんかねぇよ」

口だけに笑顔を仄かに残したまま声を上げて泣く。虚勢と仮面を全て剥がしたら幼過ぎる心が見えた。誰からも手酷く使われ続けて、人間らしく生きられたのは数年だけ、その一桁代の子供を俺が愛して守り抜かなければならない。

「当主様! 如何されましたか!」

外からバタバタと足音が聞こえたかと思えば使用人が一人扉を勢いよく開けた。雪風はそれに気付かないまま泣きじゃくっている。

「え……ポチさん……?」

「…………えっ、い、いや、違う! 俺じゃない!」

雪風は全裸で俺に抱き着いて泣いている。身体も手足も痣だらけだ。

「雪風、ちょっと待っててくれ、すぐ戻る」

上着を脱いで渡し、泣きながら満面の笑みで頷いた聞き分けのいい雪風を置いて使用人を押し出して部屋を出る。

「ポチさん、一体何が……」

「雪風の元家庭教師、知ってます? 小学生……中学生くらいの時に雪風を性的にも虐待してたクズです。雪風はそいつに最近会って、縛られて殴られ蹴られ犯されたって言ってました。まぁ昔の写真で脅されでもしたんじゃないですかね。傷がチラっと見えて気になってひん剥いて聞いたら泣いちゃったんです、分かりました?」

「わ、かり……ました。分かりました、分かりました……」

使用人は携帯端末を取り出し、どこかに電話をかけた。俺の疑いは晴れたようだし家庭教師の罪もちょっと上乗せ出来た。そろそろ戻って雪風を甘えさせよう。

「……はい、当主様の元家庭教師。最近会ってたはずで──はい、はいはい、はい……ぁあ?」

扉を開けた直後、使用人の声色が変わったのが気になって足が止まる。

「……いいっから今すぐ捕まえて手足の腱切って全身焼いて皮膚剥がせ! 許可なんか要るか! 工作も後で考えろっ! とっとと捕まえて延命しながら殺せ!」

「…………頼もしー」

「あっ、す、すいませんポチさん見苦しいものを……失礼しまーす…………おい聞いてんのかとっとと──」

やっぱ暴力団だろアイツら。
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