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くるーざー、さん

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歯並びのいい口内を丁寧に蹂躙して、息苦しくなってきた頃に口を離した。少しくらい絆されてくれると思っていたが、雪風は俺を突き飛ばした。

「……バカ、バカっ、バカバカバカバカばかぁっ!……このバカ犬! ふざけんな! お前を……お前を忘れるためにっ……俺は」

「……何したんだよ」

「…………抱かれた」

やはり、そうだったか。そんな気はしていた。叔父に抱かれようとした時のように、他の奴と寝るのだろうと、何となく分かっていた。分かっていたのに、それを聞く覚悟もあったのに、ショックは大きい。

「……だからっ、もう……いいだろ? 俺なんか。目ぇ離すとすぐ他の奴と寝るんだよ……辛そうな顔してるぞ? 犬、ショックなんだろ? 俺に情が沸いたんだろうけど、とっとと振り切らないと大変だぞ? いくらお前の腕の中で甘えて喘いでいようと、それは他の男と同じ反応なんだよ」

口角を歪に釣り上げて、潤んだ赤い瞳を見開く。辛そうな顔をしているのは雪風の方だ、辛いのは雪風の方だ。ショックを受ける権利は俺にはない、身勝手に傷付けているのは俺なのだから。

「勘違いさせて悪いな、でも、筆下ろしさせてもらったからっていつまでも執着すんなよな。迷惑だ」

「……雪風、愛してる」

「…………迷惑だ、って言ってるだろ。俺は! お前なんかどうっでもいい! お前が居なくたって、他にもセフレはいくらでも居る! お前だって嫌だろ? 嫌だって言えよ! こんなビッチ嫌いだろ!?」

「愛してる」

「……っ、やめ、ろよ……やめろ、やめてくれよ。やめて……お願い、やめて……」

無理矢理作っていた笑顔が完全に崩れて、瞳に溜まっていた涙が一気に溢れる。ソファの上に蹲って子供のように泣いている。
俺はそんな雪風の背を摩って、頭を撫でた。

「お前は……雪兎が、好きなんだろ」

「それはポチだ。俺じゃない、俺は真尋で、俺が好きなのは雪風だ」

「……ふざけんなよっ! それで雪兎が納得してないんだろ!? する訳ない、そんな言い訳して浮気してるだけだよお前は!」

「雪風が言ったんだろ? そうしろって」

真っ赤な双眸は俺を睨んでいる。当然だ。恨まれて、憎まれて然るべきだ。けれど分かる、雪風はまだ俺を好きでいてくれている。嫌いになったと心の底から言われるならともかく、好きだと喚く心のまま関わるなだなんて泣かれて、首を縦に振れる訳がない。

「雪兎にはお前しか居ないんだよ、俺が少しでも盗る訳にはいかないんだよっ……そりゃ最初に手を出したのは俺だけど、それは謝るから……」

「……雪風には誰か居るのか?」

「いっ、居るに……決まってんだろ。俺だぞ? この顔で、この頭で、この財産で……誰も居ないなんてありえないだろ」

「俺を忘れるために抱かせた奴、どうだったんだよ。そいつ、好きなのか?」

雪風は弱々しく首を横に振る。こういうところで素直なのは助かる。

「……愛されてるのか? 優しくされたか?」

また、首を横に振る。

「雪風……お前には、愛し合える奴は居るのか?」

「お、お前っ、は……雪兎の、もので。雪兎はっ……俺のこと、嫌いで、父親なんて要らないらしくて…………お兄ちゃん、に……電話したけど、恋人と旅行中とか言われて……だ、れも……俺を」

「……俺は愛してる」

苦しそうな呼吸をして、涙でぐしゃぐしゃになった顔を隠すように、俯いて首を横に振る。

「雪風、本気なんだよ。俺は本当に雪風を愛してる。雪兎だって本当は父親が恋しいはずなんだよ、居ないところじゃ寂しがってる。上手くそれを雪風の前で出せてないだけなんだ、お前もそうだよ、そんだけ雪兎のこと思ってるくせに……だから、今回の旅行で……」

「だ、れもっ……俺を、愛しては……くれないけど、せんせっ……は、せんせ、は……殴ってくれた。また……いっぱい、ぶってくれた」

「………………は?」

「ダメな……子だから、出来ない、からっ……ぶって、もらえた。誰にも、愛されない……けど、せんせはぶってくれた……! 愛されないからっ、殴ってくれた!」

俺は蹲る雪風の身体を力づくで開かせる。足をソファから下ろさせて、シャツのボタンを引きちぎって、真っ白な肌を……真っ白だったはずの痣だらけの肌を外気に曝した。
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