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これでさいご

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名前を呼んで喘ぐことほど相手の欲を煽る仕草はない、少なくとも俺にとってはそうだ。それと同時に腕を絡めて足をビクビクと跳ねさせていれば、どれだけの好意と快感の中に居るのかが分かる。

「……雪風っ、そろそろ……出すけど」

「んっ、ぅんっ! きてっ……真尋ぉ……」

雪風が俺を好きだというのは本心で、その俺への好意もあって俺でこれだけ感じてくれている。好きな人に抱かれる幸福感はよく分かる。刺激なんて二の次だ、抱かれているという認識だけで全身が温かな綿にでも包まれたような心地になる、ふわふわと浮かれてしまう。

「……っ、ふ…………雪風、俺……」

ごちゃごちゃと考えているうちに射精を終えた。自分のことなのにどこか他人事だ、激しくしてしまわないように、欲情し過ぎないようにと必死に気を逸らしていたが、それは役に立っただろうか。

「……俺、どうすればいいのかな」

雪風の膝の裏に腕を回し、軽い身体を慎重に持ち上げて腰を引きながら立ち上がる。快楽に浸された肢体はくったりとベッドの上に横たわる。

「まひろー……」

胡乱であろう意識でも俺を俺として認識し、両腕を弱々しく広げた。美しく可愛らしいその仕草は欲情の対象であるはずなのに、俺は何故か心臓を氷水に濡らした手で握られたような心地になった。

「雪風、雪風……大丈夫、俺はここに居る。雪風が痛がることはしない。優しく、優しく──」

──愛してやるから。その言葉は喉につっかえて出てこなかった。
俺がこの痛々しく可愛らしい義父に抱いた感情は憐れみだとか同情だとか言われるもので、体を重ねるのだって想い人に似ているからで、決して雪風自身を愛している訳ではない……

「…………まひろ?」

「ぁ、あぁ……ごめんな、雪風」

頬を撫でれば無邪気に笑って、額に唇を寄せれば嬉しそうに頬を緩ませて、その虚ろな赤い瞳に俺だけを映している。

「…………雪風、その、こういうことは、もう……」

俺は純粋な好意に応えられない罪悪感に耐えられない。悪いが俺なんてとっとと諦めてもらって、俺に関わるのはやめてもらおう。そうだ、俺はポチだ、雪兎のペットなんだから。

「まひろぉー、俺もう眠い」

「……なら寝れば」

「…………起きたら、居ないんだろ。真尋……また会ってくれるよな? また……抱いてくれるだろ?」

「ぁ……ああ、うん、もちろん」

…………何を言っているんだ?

「また今度、明日にでも」

違う。雪風には俺を諦めてもらわなければならないんだ。

「……真尋って、俺を呼んでくれたら……いつでも傍に行ってやる」

「ふーん……? まひろー」

子供のように笑う雪風を覆い被さるように抱き締める。

「ははっ……来た。真尋……」

「……あぁ、真尋だ。俺は…………真尋」

「んー……真尋ぉー、好き……」

今まで散々雪風や叔父に向かってクズだなんだと言ってきたが、俺も存外タチが悪い。呼び名が変わっただけで俺の何が変わる訳でもないのに、呼び名の違いで罪悪感だとかを薄れさせて束の間の快楽を貪っている。

「あぁ……俺も、雪風が好きだ」

そして俺は自分勝手に願うのだ。どうか、雪風との関係が雪兎に一切バレませんように……と。
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