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おしろ、ろく
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観光客も疎らになってきた古城の順路を逆走する。雪兎は身体を丸めて俺に抱きついており、非常に可愛らしい。
古城の門まで来ると観光客の帰り道を塞ぐ黒い車が見え、銀色の髪の男がその前に立って言い争っていた。
「十分も停めないんだから少しくらい我慢し…………雪兎君! 雪兎君、こっち!」
その男は白いスラックスとシャツに身を包み、雪兎を見つけると黒い革手袋に包まれた手を振った。
「……めっちゃ怪しいんですけど知り合いですか」
「叔父さんだよ。怪しいけど……うん、怪しいよね」
叔父らしい男は後部座席のドアを開け、自分は助手席に乗り込んだ。俺は不信感でいっぱいだが叔父だという雪兎の言葉を信用し、後部座席に飛び込みドアを閉めた。
「痛た……ポチ乱暴……」
「仕方ないでしょ」
「二人とも、シートベルト締めて」
言われなくてもとシートベルトを締め、改めて車を観察する。確かに、窓や壁は分厚いように思える、ナンバープレートの印だとか運転手の徽章だとかは確認出来なかったけれど、先程の怪しい連中との違いははっきり分かった。
車は人波を無理矢理かき分け、あの正月旅行の時よりも乱暴に速度を上げた。
「叔父さん何でここに居るの?」
「君と同じだよ、旅行」
「……叔父さんニートじゃなかった? そんなお金あるの?」
「誰かに似て失礼な子だね」
バックミラー越しに赤い右眼が雪兎を睨む。雪風によく似たその顔は兄弟だという確信を持たせた。雪風との違いといえば髪の色が少し濃いことと、左眼は青いこと、そして髪型くらいのものだ。
「君のお父さんから仕送りはもらってるからね。それなりに稼いでくれる恋人も居る。お金はあるよ」
働いてはいないのか。
「ところで、その黒っぽい子誰?」
「ポチ? 僕のペットだよ」
「ちょっ……ユキ様」
初対面の人にペットだという紹介はしないで欲しい。叔父だとしても嫌だ。
「ふぅん…………調教済み?」
何を聞いているんだ。雪風の兄弟なら仕方ないのか? この家系はどうなっているんだ。
「貸してくれない?」
どいつもこいつも……何なんだこの一族。
呆れはするものの彼らの会話に集中していなければトラウマが刺激されかねない。視界の端に流れる景色すら怖いのだ、雪兎から視線を外すことなど出来ない。
「……恋人居るんじゃないんですか?」
気を紛らわすのも辛くなってきた俺は会話に参加することにした。
「浮気したら死ぬか殺すかの子だよ。だからさ、寝なくてもいいから一回あの子の目の前でキスしてくれない?」
「…………え? あの、ユキ様、通訳お願いします」
「叔父さん変態なんだよ」
「刺激が欲しいだけだよ。たまには波風立った方が楽しいだろ? そう……旅行中に振り切ったりね。ふふ、どんな顔してるかなぁ…………さっきから着信すごい来てる」
変態という言葉で表していいのだろうか、表せるのなら奥の深い言葉だ。俺があえて雪風にキスマークをつけさせたのと同じ? いや、あれは妬かせたかっただけだ。彼は刃傷沙汰になると予想しておきながら実行しようとしている。泣き顔を見るのも嫌なのに俺ならそんなことは出来ない。
「電話くらい出てあげてくださいよ」
「誰のせいで旅行中に振り切ったと思ってるの? 甥っ子が誘拐されそうだとか聞いたから車回したんだよ? 弟に泣きつかれたから仕方なくやったんだよ? ねぇ、もう一度聞くよ。誰のせいだと思ってるの?」
「…………すいませんでした」
皮肉だったのだろうか。いや、違う。
「……いや電話は出てあげてくださいよ!」
「三桁行ったらね」
「ユキ様! ユキ様の親類には変態のクズしか居ないんですか!?」
「居ないね……」
そこは否定して欲しかった。雪兎もいつか彼らのようになるのだろうか……まぁ、雪兎ならクズでもいいか。
古城の門まで来ると観光客の帰り道を塞ぐ黒い車が見え、銀色の髪の男がその前に立って言い争っていた。
「十分も停めないんだから少しくらい我慢し…………雪兎君! 雪兎君、こっち!」
その男は白いスラックスとシャツに身を包み、雪兎を見つけると黒い革手袋に包まれた手を振った。
「……めっちゃ怪しいんですけど知り合いですか」
「叔父さんだよ。怪しいけど……うん、怪しいよね」
叔父らしい男は後部座席のドアを開け、自分は助手席に乗り込んだ。俺は不信感でいっぱいだが叔父だという雪兎の言葉を信用し、後部座席に飛び込みドアを閉めた。
「痛た……ポチ乱暴……」
「仕方ないでしょ」
「二人とも、シートベルト締めて」
言われなくてもとシートベルトを締め、改めて車を観察する。確かに、窓や壁は分厚いように思える、ナンバープレートの印だとか運転手の徽章だとかは確認出来なかったけれど、先程の怪しい連中との違いははっきり分かった。
車は人波を無理矢理かき分け、あの正月旅行の時よりも乱暴に速度を上げた。
「叔父さん何でここに居るの?」
「君と同じだよ、旅行」
「……叔父さんニートじゃなかった? そんなお金あるの?」
「誰かに似て失礼な子だね」
バックミラー越しに赤い右眼が雪兎を睨む。雪風によく似たその顔は兄弟だという確信を持たせた。雪風との違いといえば髪の色が少し濃いことと、左眼は青いこと、そして髪型くらいのものだ。
「君のお父さんから仕送りはもらってるからね。それなりに稼いでくれる恋人も居る。お金はあるよ」
働いてはいないのか。
「ところで、その黒っぽい子誰?」
「ポチ? 僕のペットだよ」
「ちょっ……ユキ様」
初対面の人にペットだという紹介はしないで欲しい。叔父だとしても嫌だ。
「ふぅん…………調教済み?」
何を聞いているんだ。雪風の兄弟なら仕方ないのか? この家系はどうなっているんだ。
「貸してくれない?」
どいつもこいつも……何なんだこの一族。
呆れはするものの彼らの会話に集中していなければトラウマが刺激されかねない。視界の端に流れる景色すら怖いのだ、雪兎から視線を外すことなど出来ない。
「……恋人居るんじゃないんですか?」
気を紛らわすのも辛くなってきた俺は会話に参加することにした。
「浮気したら死ぬか殺すかの子だよ。だからさ、寝なくてもいいから一回あの子の目の前でキスしてくれない?」
「…………え? あの、ユキ様、通訳お願いします」
「叔父さん変態なんだよ」
「刺激が欲しいだけだよ。たまには波風立った方が楽しいだろ? そう……旅行中に振り切ったりね。ふふ、どんな顔してるかなぁ…………さっきから着信すごい来てる」
変態という言葉で表していいのだろうか、表せるのなら奥の深い言葉だ。俺があえて雪風にキスマークをつけさせたのと同じ? いや、あれは妬かせたかっただけだ。彼は刃傷沙汰になると予想しておきながら実行しようとしている。泣き顔を見るのも嫌なのに俺ならそんなことは出来ない。
「電話くらい出てあげてくださいよ」
「誰のせいで旅行中に振り切ったと思ってるの? 甥っ子が誘拐されそうだとか聞いたから車回したんだよ? 弟に泣きつかれたから仕方なくやったんだよ? ねぇ、もう一度聞くよ。誰のせいだと思ってるの?」
「…………すいませんでした」
皮肉だったのだろうか。いや、違う。
「……いや電話は出てあげてくださいよ!」
「三桁行ったらね」
「ユキ様! ユキ様の親類には変態のクズしか居ないんですか!?」
「居ないね……」
そこは否定して欲しかった。雪兎もいつか彼らのようになるのだろうか……まぁ、雪兎ならクズでもいいか。
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