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おしろ、いち

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ウェットスーツを着てたっぷりと弄ばれた翌日、昼。俺はベッドの上で一人毛布に包まっていた。数分前に起きたばかりだ、時間を確認するのが限度で雪兎を探す気力はない。

「…………二度寝」

流石に今日くらいは休ませてくれるだろう。そう思って目を閉じ、俺は再び闇の中に意識を落とした。
だが、腹に飛び乗った者によって俺の意識は強制的に覚醒させられた。

「どぉーくった真似しなさんな……」

「え?  何、ポチ」

「…………ふざけた真似しないでくださいよ、結構効くんですよこれ。せめてゆっくり乗ってください」

肺の空気が追い出されると言うべきか、昨日食べたものを吐いてしまうと言うべきか、どちらなら雪兎に躊躇を生ませられるだろう。

「ゆっくりじゃ起きないじゃん。ところでさポチ、ポチってどこ出身?」

「ぁー……大まかに言えば多分関西ですけど、それが何か。ユキ様ってなんかたまに出身気にしますよね、ローカルなお菓子をローカルと知らず人前で言って変な反応されたトラウマとかあるんですか?」

「…………ポチ、そういう思い出あるの?」

「……この話やめましょうか!」

会話を早々に切り上げ、用意されていた昼食をダイニングの床で平らげ、リビングのソファで時間を浪費する。隣に座った雪兎は観光雑誌を真剣に読んでいた。

「今日はお城の見学予約してるからさ、一緒に行こうね」

「何時からですか?」

「えーっと、日が沈むかな?  ってくらい」

予約をしているなら時間を覚えておいて欲しい。

「……そういえばこの旅行っていつまでなんですか?  春休みは二週間だそうですけど、めいっぱいって訳には行きませんよね」

「…………明後日、帰らなきゃなんだ」

雑誌を持っていた手の力が抜けて、雑誌は雪兎の膝の上にパタンと倒れる。帰る話なんてしなければよかった。

「……十日くらいは居るはずだったのに」

「何かあったんですか?」

「…………分かんない。でも、なんか……危ないから早く帰ってこいって」

「危ない?  何がです?」

「………………分かんない」

雑誌を背の低い机の上に投げ、雪兎はソファの上で蹲る。危ないから……か、帰国を早める理由にしては抽象的だ。

「テロとかそういうのですか?」

「分かんないよっ!  分かんないの……何にも、僕には……何も教えてくれない」

「……すいません。大丈夫ですよ、ユキ様。帰るまでめいっぱい遊びましょ、ね?」

「ポチ……僕ね、ポチ、大好き」

首に腕が巻かれ、雪兎の身体が膝の上に乗る。劣情を全く煽られない訳ではないが、今迫っては台無しだ。
俺はただ優しく雪兎を抱き締め、その甘えを全て受け止めた。
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