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どっくふーど

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首輪を引かれ、冷たい石の廊下を四つん這いで歩く。犬の手足を模したらしい分厚い手袋と靴下はいつの間にか着けさせられていたが、それ以外に俺に衣服はなく膝は冷たさを感じる。

「はい、ポチ。ご飯だよ」

ダイニングに到着すると雪兎は机に乗っていた器を当然のように床に置く。

「ちゃんと冷ましてあるからそのまま食べられるよ」

ドリアだろうか、ホワイトソースに絡んだ米が見える。雪兎はそれをぐちゃぐちゃとかき混ぜ、スプーンを俺の口の前に突き出した。唇で温度を確認してから口に入れる。味は相変わらず世界レベルだし、冷ましたという言葉通りちょうどいい温かさだ。料理そのものに不満はない。

「……美味しい?」

「はい。あの……やっぱり、食器は」

「その手で使えるならいいけど」

分厚い布に邪魔な肉球、両手で何かを挟んで持つことくらいしか出来ないだろう。当然、スプーンなんて持てる訳がない。
前にもやったし、腹は減ったし、冷えたドリアは食べたくない。俺は肘を曲げ、皿に口を近付けた。

「待て!」

首輪を引っ張られ、咳き込む。

「僕まだよしって言ってないよ」

「ぇほっ……味見、させたじゃないですか……」

「それはそれ、これはこれ」

尻尾飾りに触れないよう足を少し開いて正座し、雪兎を見上げる。首が絞まって勝手に零れた涙で視界が歪んでいる。

「……何すれば食べていいんですか?」

「犬って芸したらおやつ貰えるよね?」

俺は右手を雪兎の腹に当てた。

「自主的にお手しないの」

「早く言ってくださいよ。冷めちゃうじゃないですか」

「……そのカッコとか床で食べることにもうちょっと屈辱を覚えて欲しいんだけどなぁー」

屈辱なら覚えている。しかし、足が痺れてきたことの方が重大な問題だ。

「ポチってわんちゃんはー、肉球で胸とか擦って一人で気持ちよくなっちゃうって聞いたなぁ。僕、見てみたいなぁ……犬のひとりえっち」

「…………分かりましたよ」

「もう少し嫌がって欲しいしそんなにペラペラ喋らないで欲しい」

「屈辱だわん……?  でもご飯のためだから仕方ないわん……?」

「違う!  違うよポチのバカ!」

雪兎の言いたいことは分かるが、雪兎が望むような反応をすればこれからもこのプレイが定期的に行われるのは明白だ。俺は犬耳だの肉球だのをつけてワンワン言うのは嫌だ、恥ずかしい、みっともない。俺がもう少し細身で雪兎のように美少年扱いを受けるような見た目ならやってもいいが、俺には似合わなさ過ぎる。

「……えっと、とりあえず……やりますよ?」

「…………ポチ、何か早く終わらせようとしてない?」

「早く食べたいんで」

「……嫌、なのかな?  犬のカッコさせられてるの恥ずかしいのかな?」

いつの間に読心術を身に付けたのだろう。

「照れ隠しで何とも思ってないふりしてるのかな?」

「違いますよ。本当に何ともありません、こんなカッコ」

雪兎はしばらく俺を見つめていたが、不意に立ち上がると皿を持って首輪を引いてどこかに向かおうとする。痺れた爪先に気を遣いながらよろよろとついて行くと、雪兎は大きな鏡の前に皿を置き、その横に立った。

「……ほら、鏡の方見て」

「…………ユキ様、あの……これ、は」

「鏡の方見て。そう……目を逸らしたり閉じたりしちゃダメだよ。じっと見て、自分をオカズにする気で見て、芸してよ」

目の前に犬耳や肉球などで身を飾りほぼ全裸で正座する色黒で筋肉質な男が居る。いかにもな強面のくせにこんな可愛いグローブを……カチューシャを……

「嫌っ……嫌です、ユキ様……さっきの、ダイニングでやらせてくださいっ!」

「だーめ。ほら、ちゃんと鏡見て、芸して」

他人を威圧するような鋭い目に涙を貯めて、それを肉球付きの可愛らしいグローブで拭おうとして──なんて情けない姿だ。
雪兎の見張りは厳しい、少し目を逸らせば注意を受ける。しかし自分を見ながら自慰なんて出来る訳がない、それも胸周りだけでなんて。
どんどんと涙が溢れてきて、その姿を見てさらに恥ずかしくなる。悪循環に嵌る俺を雪兎は屈託のない笑顔で眺めていた。
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