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いちじげんめ
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鏡の前で自分の姿を見ながら、というのはかなりの苦痛だが、鏡越しに雪兎の顔を見るという対策もできる。まぁそれもやり過ぎるとバレてしまって逆効果だけれど。
「じゃあどこから教えようか、せっかくだし顔から行く?」
「……人外レベルの美少年に自分の顔語られるとか地獄ですよ」
「とりあえず膝立ちになってくれない? 首痛いんだけど」
小さくて可愛い、なんて言ったら怒るだろうか? 俺は黙って膝を折った。
「ふふ、ほら、よく見て?」
雪兎は俺の後頭部に手を添えて鏡に近付けた。触れはしないけれど、鏡の冷たさは鼻先で感じる。
「前髪上げるね……ふふ、ね? 分かる?」
「顔が良い方だとは思ってますけどね」
冗談交じりにそう言った。
「それは分かってるんだ。見てよこの目」
「切れ長ってやつですね、ちょっとツリ目……目付き悪いな俺」
「俗に言う「目が死んでる」ってやつだよ。きゃー色っぽーい」
恐ろしいまでの棒読みで色っぽいなんて言われても嬉しくない、感情を込められても困るけれど。
「それでね、ほら、右目の下……よく見て」
「え……? ぁ、ホクロある。気付かなかったな…………いや前までありませんでしたよコレ、描きました?」
「ん? いやいや、前からあったよ……えっと」
雪兎は携帯端末を持ってきて、俺が見たアルバムアプリとはまた別のアルバムアプリを開く。人や場所や日付を登録しておける便利なものだと。
「…………中学の時にはないね、高校の……一年の時にはなくて、二年の時はあるよ」
「……なんで分かるんですか?」
「ほらこれ、学生証」
「うわ懐かしっ……ってなんでその写真を持ってるんですか!?」
「……ざ、財閥ぱわぁ」
「怖ぇ! 金持ち怖ぇ!」
「冗談だよ。養子にした時に雪風がポチものあらかた引き取って──」
「聞いてない! えっじゃあ俺の私物あるんですか!? 俺今の今まで手ぶらでこの家来たと思ってたんですけど!?」
叔父に呼ばれて義父になると思っていた中年男性に連れられ、この部屋に放り込まれた。前々から養子に出すという話は聞いていたけれど、まとめた荷物は何一つ持って来なかった、いや来れなかった……と思っていた。
「保険証とか要るし……話脱線したけど、ポチの顔の説明に戻るね」
「待って待って待って! まだ戻らせませんよ、じゃあなんですか、俺のゲーム機とかパソコンとか漫画とかDVDとか改造通学鞄とかあるんですか!?」
「……あるけど、もう要らないでしょ?」
「まだクリアしてないゲームがたくさん……」
「ポチがアニメ漫画ゲームその他のオタクだってのは分かってるけど、しかもコレクター気質なのも分かってるけど、残ってるって言うと面倒そうだったからさぁ」
人の趣味をなんだと思っているのだろうこの御曹司は。
「俺別にオタクじゃないですし、コレクターでもありませんし、ユキ様を蔑ろになんてしませんよ!」
「……なら、まぁ、返してあげてもいいけどさぁ。前のゲーム事件忘れてないからね」
雪兎の中では事件と化していたのか。この家がカタギではないと分かった日だったから、俺の中でも事件ではあるけれど──
「…………なんで僕ポチの頭掴んで鏡に向けてるの?」
「俺の良さ語ってくれるんでしょ!? は、恥ずかしいけど楽しみっ……ってキュンキュンしてた俺の気持ち返してください鳥頭!」
頭も要領も良いくせに、稀にこういった抜けた素振りを見せる。演技なのか天然なのかはともかく、俺の心を掴んで離さない要因の一つだ。
俺は軽い謝罪と共に俺の髪をかき混ぜる雪兎を鏡越しに見て、思わず笑みを零した。
「じゃあどこから教えようか、せっかくだし顔から行く?」
「……人外レベルの美少年に自分の顔語られるとか地獄ですよ」
「とりあえず膝立ちになってくれない? 首痛いんだけど」
小さくて可愛い、なんて言ったら怒るだろうか? 俺は黙って膝を折った。
「ふふ、ほら、よく見て?」
雪兎は俺の後頭部に手を添えて鏡に近付けた。触れはしないけれど、鏡の冷たさは鼻先で感じる。
「前髪上げるね……ふふ、ね? 分かる?」
「顔が良い方だとは思ってますけどね」
冗談交じりにそう言った。
「それは分かってるんだ。見てよこの目」
「切れ長ってやつですね、ちょっとツリ目……目付き悪いな俺」
「俗に言う「目が死んでる」ってやつだよ。きゃー色っぽーい」
恐ろしいまでの棒読みで色っぽいなんて言われても嬉しくない、感情を込められても困るけれど。
「それでね、ほら、右目の下……よく見て」
「え……? ぁ、ホクロある。気付かなかったな…………いや前までありませんでしたよコレ、描きました?」
「ん? いやいや、前からあったよ……えっと」
雪兎は携帯端末を持ってきて、俺が見たアルバムアプリとはまた別のアルバムアプリを開く。人や場所や日付を登録しておける便利なものだと。
「…………中学の時にはないね、高校の……一年の時にはなくて、二年の時はあるよ」
「……なんで分かるんですか?」
「ほらこれ、学生証」
「うわ懐かしっ……ってなんでその写真を持ってるんですか!?」
「……ざ、財閥ぱわぁ」
「怖ぇ! 金持ち怖ぇ!」
「冗談だよ。養子にした時に雪風がポチものあらかた引き取って──」
「聞いてない! えっじゃあ俺の私物あるんですか!? 俺今の今まで手ぶらでこの家来たと思ってたんですけど!?」
叔父に呼ばれて義父になると思っていた中年男性に連れられ、この部屋に放り込まれた。前々から養子に出すという話は聞いていたけれど、まとめた荷物は何一つ持って来なかった、いや来れなかった……と思っていた。
「保険証とか要るし……話脱線したけど、ポチの顔の説明に戻るね」
「待って待って待って! まだ戻らせませんよ、じゃあなんですか、俺のゲーム機とかパソコンとか漫画とかDVDとか改造通学鞄とかあるんですか!?」
「……あるけど、もう要らないでしょ?」
「まだクリアしてないゲームがたくさん……」
「ポチがアニメ漫画ゲームその他のオタクだってのは分かってるけど、しかもコレクター気質なのも分かってるけど、残ってるって言うと面倒そうだったからさぁ」
人の趣味をなんだと思っているのだろうこの御曹司は。
「俺別にオタクじゃないですし、コレクターでもありませんし、ユキ様を蔑ろになんてしませんよ!」
「……なら、まぁ、返してあげてもいいけどさぁ。前のゲーム事件忘れてないからね」
雪兎の中では事件と化していたのか。この家がカタギではないと分かった日だったから、俺の中でも事件ではあるけれど──
「…………なんで僕ポチの頭掴んで鏡に向けてるの?」
「俺の良さ語ってくれるんでしょ!? は、恥ずかしいけど楽しみっ……ってキュンキュンしてた俺の気持ち返してください鳥頭!」
頭も要領も良いくせに、稀にこういった抜けた素振りを見せる。演技なのか天然なのかはともかく、俺の心を掴んで離さない要因の一つだ。
俺は軽い謝罪と共に俺の髪をかき混ぜる雪兎を鏡越しに見て、思わず笑みを零した。
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