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わんわん! ご

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雪兎はしばらくの間俺に抱き着いていたが、程なくして離れ、背を洗い終えた。
雪兎はまた前に回って、今度は前から俺に抱き着いた。

「ぎゅって、して」

「はい」

雪兎は俺の頭を抱き締めている。俺はそんな雪兎の細い身体を抱き締める。このまま抱き潰してしまえそうだ。

「……ポチ」

「はい」

「…………ずっと、一緒だからね。僕から離れたら、僕以外の人を見たら、許さないんだから」

腕が解かれ、俺も解く。雪兎は泡まみれの手で俺の頬を撫で、顎を持ち上げ、唇を重ねた。

「………………ぅ、苦っ!?  ちょっと泡口に入った!」

「なんの風情もない。俺も色んな意味で苦い」

「うぇぇ……まっずい……いい香りするのに、こんな味……」

「美味しかったら子供とかペットとか危ないんじゃないですか?」

言ってから気が付く、子供にペットはまさに俺達だなと。

「……なんか気分無くなったなぁ」

「ははっ……最後まで洗ってくださいよ?」

「あぁ、それはもちろん。次は足だね」

雪兎は俺を立ち上がらせ、今まで座っていた風呂場用にしては高い椅子に俺を座らせる。風呂場用だけあって真ん中に穴は空いているが、痔用やどこぞの店用ではない為、尻尾飾りが押し込まれる。

「んっ……」

「あれ?  何?  まだ何もしてないよ?」

「……後ろ、尻尾が……」

「あぁ!  なるほど。座ったらそうなるんだ、へぇ……」

雪兎はそう言いながら椅子を蹴る。その振動は椅子から尻尾飾りに伝わり、俺の中に響く。

「ひぁんっ……もう、ユキ様……」

「ふふ、可愛い可愛い。じゃあ足洗うね」

雪兎は俺の前に正座を崩して座り、自分の太腿の上に俺の足を乗せる。雪兎を踏むような体勢になるのは抵抗があって、俺は雪兎に重さを感じさせないよう足に力を込めた。

「ふくらはぎが本当にふっくら。ヒラメ筋ってやつだね、ヒラメだよこれは」

「ユキ様のだと……サンマくらいですかね」

「サバくらいはあるよ!」

「またまた」

膝の裏から手を下ろして足首で止まる、それを往復し、雪兎は俺のふくらはぎを洗っていく。
次は膝から脛だ、というところで雪兎は俺の脛を見つめて動きを止める。

「……ユキ様?  どうしました?」

「…………蹴りとか、得意?」

「えーいやーやったことないですから分かりませんねー」

髪を掴んで膝に叩きつける、くらいならやっていたが、本格的な蹴りとなると経験が少ない。

「ふーん……?  まぁ、どっちでもいいんだけどさぁ」

雪兎は手を動かし始める。膝や脛は擦られてもそう感じない、普通に話が出来るはずだ。

「……ユキ様は俺に喧嘩強くあって欲しいんですか?」

「…………喧嘩してたーとかなら怖いけど、強かったら頼りになるなって」

「頼りってそんな、別に何もないでしょう?」

俺よりずっと体格の良い、人を各三人程度殺してそうな連中に守られているくせに。この世で一番安全な中学生だろう。

「……小学校の時誘拐されたし、お目付け役に二回くらい襲われかけたし、中学校でも先生に閉じ込められたことあったし」

安全じゃなかった。

「な、なんでそんな……」

「あ、その先生はもう居ないよ?」

「いやそりゃそうですよ。じゃなくて……やっぱり身代金とか?」

全員ショタコンだった、なんてのも有り得るけれど。いや、雪兎を見て目覚めたと言った方が?
雪兎は俺を怖がる様子はそう無い。男に襲われたのなら俺のように筋肉質な男は怖がるはずだ、荒い口調は嫌がるけれど、こうやって普通に触れてくるのだから過去にそういった経験は無いだろう。

「そうだと思う。先生はいいお金になったらしいよ」

「へぇ……えっ?  金?」

「うん、えーっと、何千万……?  かなぁ、よく知らないんだよね」

どこかに売り飛ばした、という話でも、薄給で働かせている、という話でもない。
これはまさか、バラして内臓を売り捌いたという話ではないか。

「まぁいいや。ポチ、足もう片っぽ」

雪兎は無邪気な笑顔を見せ、もう片方の足を引く。
俺はこの家の反社会性については知らない方がいいと察し、笑顔を返した。
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