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のろけ
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俺に睨まれた雪風は少し怯えているように見えたが、その頬は赤みを増していく。白い手袋に包まれた手がその赤い頬に添えられ、口が緩み、目は細く眉は下がる。
「…………どういう表情なんですか」
「……あ、目逸らすなよ。もっと睨んで、もっと凄んで、胸ぐら掴んでくれよ、手加減してビンタして」
「…………どういう趣味なんですか」
マゾヒスティック、とも少し違う気がする。別にSMに詳しい訳でもないけれど、雪風のこれは性癖ではないと思う。
「嫁がな……ふふ、お前に似てて…………」
「……嫁が居るくせに男に手を出すってどうなんです。しかも息子のペットですよ?」
「じっと俺を見てたから好きなんだろうと思って声をかけたら、「女がみんなお前に惚れると思うな」って……バチンと。鼓膜破れた」
雪風は俺の話を聞かず、自分の惚気話に移る。
「出会いの話ですか? なんでそれで結婚できたんです?」
「ふふ、それから毎日毎日プロポーズしたからな。最初の方は返事もよく聞こえなかった……それほど夢中でやってたんだ」
「鼓膜破れたからですよそれ」
「…………丁度百日目、あの日は雨で、彼女のバイトが終わるのを店の裏で待ってた。俺は身体が丈夫じゃなくてな、彼女が出てくる前にそこでぶっ倒れたんだよ。気が付いたらその店のバックヤードで寝かされてて、彼女が介抱してくれてた。薬指に指輪をはめて、な」
「他の奴に取られちゃってるじゃないですか」
「なんでそうなる! 大学で講義中に居眠りしてた彼女の指のサイズを勝手に計って作った特注の指輪だ! 俺がその日渡そうとしてた指輪だ!」
ナンパされて即ビンタも中々聞かない話だが、百回のプロポーズや勝手に計った指輪、普通に職場を知っているなど、通報ものだ。
「ストーカーって被害者との恋実るんですね」
「何言ってる、実らなかった奴がストーカーだ」
そう得意気な表情で言うと、雪風は俺に歩み寄り手を伸ばす。その手はゆっくりと俺の頬に触れ、次にその反対の頬に唇が触れた。
「真尋……」
「…………ポチですよ」
頬に触れた手が降り、ネクタイを緩めシャツのボタンを外す。二個ほど外すと今度は首に唇が触れた。
「慣れてますね」
「……隣の部屋に行こうか、ベッドがある」
「嫌ですよ、ヤリたくないって言ったでしょ」
もっと乱暴に、ボタンをちぎったり噛み付いてきたりしたなら、強く反抗できるのに。
「真尋、真尋……なぁ真尋、俺を見てくれよ、睨んでくれ、なぁ……」
どうしてそんな捨てられた仔犬のような目をするんだ。どうしてそんなに雪兎に似ているんだ。どうして俺の名前を呼ぶんだ。
「……隣の部屋、でしたね。何もしませんからね。ずっと立ってるのも疲れるので、座るだけですから」
そう、少し休むだけ。少し構うだけ。最愛の人を失う悲しみは分かるから、慰めてやるだけ。
誰に言うでもなく自分に言い訳をして、俺は雪風に引っ張られるままに隣の部屋に進んだ。
「…………どういう表情なんですか」
「……あ、目逸らすなよ。もっと睨んで、もっと凄んで、胸ぐら掴んでくれよ、手加減してビンタして」
「…………どういう趣味なんですか」
マゾヒスティック、とも少し違う気がする。別にSMに詳しい訳でもないけれど、雪風のこれは性癖ではないと思う。
「嫁がな……ふふ、お前に似てて…………」
「……嫁が居るくせに男に手を出すってどうなんです。しかも息子のペットですよ?」
「じっと俺を見てたから好きなんだろうと思って声をかけたら、「女がみんなお前に惚れると思うな」って……バチンと。鼓膜破れた」
雪風は俺の話を聞かず、自分の惚気話に移る。
「出会いの話ですか? なんでそれで結婚できたんです?」
「ふふ、それから毎日毎日プロポーズしたからな。最初の方は返事もよく聞こえなかった……それほど夢中でやってたんだ」
「鼓膜破れたからですよそれ」
「…………丁度百日目、あの日は雨で、彼女のバイトが終わるのを店の裏で待ってた。俺は身体が丈夫じゃなくてな、彼女が出てくる前にそこでぶっ倒れたんだよ。気が付いたらその店のバックヤードで寝かされてて、彼女が介抱してくれてた。薬指に指輪をはめて、な」
「他の奴に取られちゃってるじゃないですか」
「なんでそうなる! 大学で講義中に居眠りしてた彼女の指のサイズを勝手に計って作った特注の指輪だ! 俺がその日渡そうとしてた指輪だ!」
ナンパされて即ビンタも中々聞かない話だが、百回のプロポーズや勝手に計った指輪、普通に職場を知っているなど、通報ものだ。
「ストーカーって被害者との恋実るんですね」
「何言ってる、実らなかった奴がストーカーだ」
そう得意気な表情で言うと、雪風は俺に歩み寄り手を伸ばす。その手はゆっくりと俺の頬に触れ、次にその反対の頬に唇が触れた。
「真尋……」
「…………ポチですよ」
頬に触れた手が降り、ネクタイを緩めシャツのボタンを外す。二個ほど外すと今度は首に唇が触れた。
「慣れてますね」
「……隣の部屋に行こうか、ベッドがある」
「嫌ですよ、ヤリたくないって言ったでしょ」
もっと乱暴に、ボタンをちぎったり噛み付いてきたりしたなら、強く反抗できるのに。
「真尋、真尋……なぁ真尋、俺を見てくれよ、睨んでくれ、なぁ……」
どうしてそんな捨てられた仔犬のような目をするんだ。どうしてそんなに雪兎に似ているんだ。どうして俺の名前を呼ぶんだ。
「……隣の部屋、でしたね。何もしませんからね。ずっと立ってるのも疲れるので、座るだけですから」
そう、少し休むだけ。少し構うだけ。最愛の人を失う悲しみは分かるから、慰めてやるだけ。
誰に言うでもなく自分に言い訳をして、俺は雪風に引っ張られるままに隣の部屋に進んだ。
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