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のぞまないあした

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初の散歩を終えた後、俺は浴場で気絶した。その日から雪兎は俺に対して少し優しくなっていて、俺はあの日の激しさが恋しくて、日々を悶々と過ごしていた。

「そういえば、そろそろバレンタインでしたっけ?」

「……気が早いね」

宿題をしている雪兎は少々不機嫌だ。とは言っても、以前のように俺を踏みつけてはくれない。
失神なんて俺にはよくある事なのだから、そんなに気にしなくてもいいのに。

「ユキ様は学校とかでチョコ貰えるんじゃないですか?  モテるでしょ」

「そういうの持ってきちゃいけないからね、門出たら車だし、貰ったことないよ」

「律儀に校則守る奴ばっかりなんですか?  流石、頭の出来と財産が違います」

門の前まで車が来ているというのも中々無い話だ。

「……そうそう、ポチ。ポチは明日お出かけだよ」

「あ、庭ですね?  今度はワニ居ないところでお願いします」

「そうじゃなくて、ポチだけ車でお出かけ」

俺だけで車に?  いや、運転手は居るだろうけれど。
呼吸を整えてくれる雪兎が居なければ、心身を癒してくれる雪兎が居なければ、車になんて乗れない。

「そんな……ユキ様は?」

「僕学校だし」

「そんなぁっ…………俺だけでどこに行くって言うんです」

「いや……僕だって嫌だけど、雪風が……」

雪兎はペンを放り、隣で正座をしていた俺の膝に飛び乗る。机の足に括りつけた首輪の紐を優しく引き、俺に下を向かせた。

「あのおっさんがどうかしたんですか?」

「僕の父親をおっさん呼ばわりしないで欲しいなぁ」

「すいません。で、あのおっさんは何のたまってんですか?」

雪兎は俺の胸に頭を寄せて、甘えるように服を掴んだ。庇護欲を煽られた俺は雪兎を抱き締め、別の欲も果たす為に服の中に手を入れた。

「休憩時間長めに取るから学校行ってる間貸せって……」

「俺をなんだと思ってるんでしょう」

「…………ごめんね。僕じゃ、雪風のワガママ止められないんだ。その……変なとこ触られないように、頑張って逃げ回って?」

本気で殴れば一撃で沈められるはずだ。雪風は雪兎程ではないが細身だし、格闘技の心得なんてないだろう。俺もないけれど。

「じゃあ、帰ってきたらご褒美くださいよ。苦手な車に乗って、苦手な奴に会うんですから。何か……くれますよね?」

「何か欲しいものあるの?」

「……ユキ様最近優し過ぎるんですよ、俺はもっと虐められたいんです。こうやってイチャイチャするのも最高なんですけど、やっぱり踏まれたいんですよ」

ぽかんと開いた雪兎の唇を指でなぞる。

「流石に何もされないで帰ってくるってのも無理でしょうし……ねぇ?  旅館の時みたいにしてくださいよ。失神するまで、乱暴に……」

言い切る前に唇を重ね、舌を中にねじ込む。不意打ちのキスは上手くいって、俺が主導権を握っている。舌を絡めながら服の中に入れた手を背に回し、珍しく大人しい雪兎を味わい尽くす──が、いつまでも雪兎がやられっぱなしで居るはずもない。雪兎は指に絡めていた首輪の紐を思い切り引っ張り、俺を床に転ばせた。
立ち上がった雪兎は俺の下腹を踏みつけ、蕩けた顔のまま勝ち誇る。

「僕、ちょっと乱暴だったのかなって反省してたんだけど……要らなかったみたいだね?  乱暴に、かぁ……」

「そう、そうですユキ様。ユキ様はそうでないと……」

「僕に指図しないの」

軽く蹴りつけられ、俺は甘い声を漏らす。雪兎はその様を見て更に笑みを深くした。

「……そうだね、明日帰ってきたら…………まぁ、何時になるかまだ分かんないから、明後日かな?  明後日、虐めてあげる」

「…………ありがとうございますっ!」

「……ごめん、ちょっと引いた」

「それはそれで」

「…………ドン引きだよ」

「それは……流石に」

「なら良かった。まだ理解出来るよ、あんまり変態にならないでね?」

誰のせいでなっていると思っているんだろう。
そんな疑問は生まれたが、楽しみも約束された。
俺は明後日を希望に明日を乗り切ることを決意した。
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