俺の名前は今日からポチです

ムーン

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まひろ

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今はもう戸籍にすらない本名を呼ばれて、俺の頭と身体は動きを止める。

「ユキは真尋を捨てさせようとしているな?  完全に自分のペットにする為に……横暴だよなぁ?  だーいじな名前だろう?  両親からの最初の贈り物だ、気に入っていたか?  ま、ひ、ろ、ちゃん?」

そんな俺の頭を抱いて、耳元で囁く。甘く低い声は鼓膜どころか身体の奥まで響いて、芯を熱く高ぶらせる。

「……女みたいな名前だってからかわれて、それが原因で喧嘩して中学の頃から何回も停学くらって……そんな乱暴者だったから恋人はおろか友人も居らず、お前は高校生にもなって両親との買い物や旅行を楽しみにしていた」

「やめて……ください。それ以上、思い出させないで……お願い、やめて……」

「あぁ、悪いとは言っていないぞ?  お前は問題児だったが、両親には一切反抗しない、可愛らしい子供だった。鉄バットを振り回して、ぶっ倒れた奴の頭にサッカーボールキックを決めるような奴だったが、家では家事を手伝ったりパーティゲームを家族で楽しむような奴だった。そう青い顔をするな、俺はお前の全てを調べ尽くしている。俺はお前を完全に理解しているんだ」

頬に添えられていた手はいつの間にか俺の口の中に侵入して、俺の言葉を奪っていた。

「なぁ真尋、お前は十余年を捨てるのか?  こんなガキの為に……飽きたら見向きもしなくなるような奴に全てを捧げるのか?  勿体ないなぁ、そう思うだろう」

雪風が囁く度に耳に息がかかる。低い声が思考を蕩けさせる。
俺は口内を蹂躙する指に舌を絡めた。雪風の指はすぐに俺の舌を捕らえて、弄んだ。

「俺はお前の全てを理解して、お前を愛している。けれどユキはお前を新しく作り直して、それを愛そうとしている。どちらがいいかはその足りない頭でも分かるだろう?」

「ゆ……んっ、ぅう……」

「口の中も性感帯か?  全く、恐れ入るな」

雪風の言葉通り、俺は口内を弄ばれて感じている。膨らみ始めた性器は貞操帯に締め付けられて、その窮屈さを快感としてより大きく勃ち上がる。

「ふ……あの女ほど強情ではなかったか。まぁ、息子という最大のライバルが居る以上、その方が都合がいいがな」

車が急カーブを曲がり、俺達は遠心力に引っ張られる。雪兎の頭が俺の肩にぶつかって、微かに目を覚ました。

「ポチー……?  えへへ……手、ぎゅってしててね。はなしちゃ、やだ……から、ね……」

雪兎は俺の手を握り直して再び眠りにつく。俺は雪兎の手を握り返し、雪風の指に噛み付いた。傷が付かないようすぐに離して、傾きかけた心を立て直す為にも言葉を紡いだ。

「前にも言いましたけど、俺はお前が大っ嫌いです。それはどう呼ばれようと何をされようと変わりません。大っ嫌いです。俺の名前はポチです、真尋はもういません、俺は雪兎様のペットで、お前のオモチャじゃありません」

「…………ふんっ、いいだろう。必ず陥落させてやる……覚悟しろよ、真尋」

雪風は拒絶されるほどに燃え上がり、その執着を増していく。それを終わらせるには従順になるしかないが、従順になるのは雪風のものになったという事で、それは雪風の勝利になる。
突っ撥ねようと雪風を悦ばせ、受け入れようと雪風を悦ばせる。
俺に出来るのは雪風を嫌いでいることだけで、俺に勝利は用意されていない。けれど、俺はこの戦いに臨む。
全てはご主人様の為に──なんて、格好をつけながら。
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