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いやし

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朝起きると雪兎は既に布団の中には居らず、見覚えのあるロゴが入ったシャツを着て勉強机に向かっていた。

「おはようございまーす」

今日は土曜日、学校は休み。だから今日明日は雪兎とたっぷり遊べる日……のはずだった。
雪兎はノートとにらめっこをするばかりで、俺の声なんて聞こえていない様子だった。ベッドの上で出来る暇つぶしなんて俺には筋トレくらいしか思いつかないし、その筋トレも犬の耳と尻尾を付けられている今では集中出来ない。仰向けに寝たり、座ったり、そういう体勢になると中への刺激が増してしまうから。

「何やってるんです?」

ベッドから降り、首輪の紐の限界まで進んでノートを覗く。そこには見たことのない文字が並んでいた。
雪兎はノートに伸びた俺の影でようやく俺に気が付き、こちらを向いた。雪兎は机を蹴り、車輪付きの椅子に乗ったまま俺にぶつかる。

「おっと、大丈夫ですか?」

「……かがんで」

言われた通りにすると、首輪の紐が外れる。首輪そのものはそのままだ。
雪兎は机に戻り、俺はその背後に立った。

「何語ですかコレ」

「辞典あるだろ」

「……独?  ひとり……いや、ドク?  ドク……ドク、ド…………えっと……ドミニカ共和国語?」

「ドミニカ共和国の公用語はスペイン語!  独はドイツだよドイツ!  独逸!  なんで変な豆知識ある癖に常識がないのかな」

「馬鹿高なもんで」

もう行ってないし、と付け加える。

「それにしても独り逸するってとんでもない当て字ですね、一人だけ逃げるって方だと格好悪いけど一人だけ逸脱した才能がって方なら格好良い。俺も当て字欲しい。惚痴、とかどうです?」

筆箱を漁ってシャーペンを取り出し、ノートの橋にポチの当て字を書く。雪兎に迷惑そうな目で睨まれたが、わざと気が付かないふりをした。

「……何この字」

「俺に惚れるとみんな痴人になる」

「…………痴人って露出狂って意味じゃないからね?」

「痴って何かエロくないですか。じゃあ……恥、とかどうです?」

「あのさ、それ名前にしたい?」

「……嫌ですね。カタカナひらがなでお願いします」

苛立っているようだし、宿題の邪魔をするのはやめておこう。そう決めて数分後、俺はどうしても解決したい疑問をぶつけた。

「なんでドイツ語やってんですか?  英語とかじゃないんですか?」

「第二外国語ってあるだろ。英語もやってるよ、その宿題は休み時間に終わらせたけど」

「……それ普通大学からじゃありません?」

「うるさいなぁ、学校に聞いてよ。僕知らないよ」

そろそろ邪魔をするのはやめた方が良さそうだ。息抜きになれば……なんて思いは全くなく、暇つぶしにやっていただけなので未練は全くない。

「…………ねぇユキ様、机の下に潜らせてフェラさせるっていい感じに支配欲満たせると思いません?  ユキ様好きでしょそういうの。俺も好きです。やりません?」

「ポチ!  うるっさい!  今宿題中なの見て分からないの!?  黙ってて!」

「邪魔されたくなきゃ紐取らなきゃ良かったんですよ」

俺は雪兎が座っている椅子を引き、机の下に膝を折って座り、また椅子を引っ張って元の位置に戻した。

「やりたくなったらいつでもどうぞ」

机の下は狭い。犬耳の飾りがコツコツと机の裏にぶつかる。無理矢理入ったせいで尻尾飾りも机の足にぶつかる。
俺は後ろに向かって尻を突き出し、机の足に飾りを擦り付ける。中に入っている細い張形が不規則に肉壁を打つ。途中からは意識せずとも勝手に腰が揺れた。

「……あと三ページで終わるんだから、それまで我慢しなよ」

自分で慰めてしまおうとズボンの留め具に伸びた手が雪兎の足に踏まれる。強行出来ないこともないが、我慢すれば雪兎が何かしらしてくれる、それを待った方が得だ。
分厚いジーンズなんて履いていなければ、雪兎の足の刺激は自分の手を通してでも伝わったのに。
期待と僅かな後悔を持って、俺は橋から落ちる食事を待つ犬のように、雪兎が宿題を終えるのを待っていた。
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