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第四十章 希少鉱石の国で学ぶ人と神の習性

基本は温厚

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ハスターに案内され入国管理局に。案内されている最中の道は見覚えがあったので、僕は道を覚えていたと認識していいだろう。
こちらも黒豹と同様倍額の返金でクリーム色の垂れ耳犬を返してもらった。先程は目がおかしく見えたが、今は何ともない。嬉しそうに僕に擦り寄っている。

『……ハスター、魔獣と話せる?』

『羊なら何となく~、かな? うん、後は眷属くらいしか』

羊好きだなこの人……いや、神。

『そっか……じゃあ次、鳥の寝床に』

強くなっていた風が弱まってきた。台風が直撃することはなく通り過ぎていった、そんな風だった。

「ちょうどみんな帰ってきてたんですよ、風キツくなってまして。おさまってきたからまた飛ばそうとしてたんです」

良いタイミングだったと笑う職員に金を握らせ、返品に応じさせる。足輪の魔石を全て外すのには時間を食ったが、これで全員回収した。鳥は酷い目に遭っていた気配はなかったけれど、四足歩行の魔獣達が残らず虐待されていたような国だ、魔獣に対する知識が浅いのだ。監視の役割を果たしていたそうだし、飛び回る鳥達を撃ち落とそうと考える奴が出る未来は近かっただろう。

『ごめんね、みんな。ちゃんと元の棲み家に返してあげるからね』

腕を広げても全員の止まり木にはなれないので、鳥達には飛んでついてきてもらうことにした。上を飛ばれるとフンを落とされないかと気が気でないが、鳥達を見上げて謝る。フンをぶつけるならそれは復讐として甘んじて受け入れよう……復讐するなら啄む方にして欲しいな、やっぱりフンまみれは嫌だ。

『次どこ行く~?』

『えー……っと、もうみんな集まったので、後は兄さんと合流しようかなと』

会談まではまだかなり時間がある。今からでも会議に出席すべきなのかもしれないが、大勢の魔獣に囲まれて愛されているこの状況を捨てたくない。

『ふ~ん? ね~、彼さぁ~、にゃる君じゃないの~?』

『うーん……ちょっと、違う。ナイ君を呼び出す用の石の廉価版の試作品……? を使って、僕が僕の魔力で作り出した僕の理想の兄さん……って感じ』

『…………ふ~ん?』

伝わらなかったかな、僕は説明が下手だ。仕方ない。

『カニとカニカマみたいな感じだね~』

『あー……すごく、分かりやすい……』

伝わっていたし良い例えで返された。今度からライアーについて説明する時はカニカマを使わせてもらおう。あまり多くの国で食べられているものではないけれど。

『高級カニカマはカニと変わらないからね~、じゃあにゃる君でいいや~』

よくない。ライアーは僕の兄だ。カニと変わらないのは味だけで成分は全く違う。

『……なんかカニカマ食べたくなってきた』

『僕かにみそ好き~』

模造品の話をしているんだ、本物から派生するな。ゆるいし軽いし適当だし……本当に邪神ではないのかもしれない。

『ハスター……って、どういう神様なの?』

『ん~、ちょっと遠いんだけど~、向こうの方の羊見てるんだよ~』

黄色い布が持ち上がって指したのは空。空の上に羊が居るのか? まぁ魔獣なら不思議ではないな。

『で~、この星にも羊居たから出張中~。だからそんなに必死に信者集める気はないんだよ~、うん、どこかで寝惚けてる誰かさんとは違ってさ~? 早くアイツ潰したいなぁ~』

誰のことかは分からないが、好意的な感情を抱いてはいないようだ。

『……羊の神様なんですか?』

『ん~、どっちかって言うと羊飼いかな~? 何か最近風も操れるようになったよ~』

最近? 神性に属性が追加されるものなのか? 僕やベルゼブブのように取り込んだ訳でもなさそうなのに。

『…………アイツも最近海水の使い方上手くなってきてるんだよね~、早く潰さないと』

『……仲悪いんですね?』

『君はお兄さん優しそうでいいな~』

ライアーは優しいけれど実兄は……まぁ、暴力さえなければ優しい。何故突然兄の話題を出してきたのかは、彼のことだ、何かパッと思いついたとかその辺りだろう。
合流を滞りなく済ませるために会議が行われている施設の裏手に回り、魔獣達に囲まれて腰を下ろす。

『よしよし……仲良くしてね』

僕の右肩に頭を置く妹の黒豹に、その妹を枕にする兄の黒豹。左肩に顎を置くのは黒犬、足に乗ってきたのはクリーム色の犬だ。中型の鳥達は僕の腕と頭に、小型の鳥達はその他僕の空いている部位や犬達や豹達の体、地面などに止まっている。

『すごい囲まれてるね~、暑そう~』

『かなり暑いし臭いですよ……でも、それが幸せです』

ハスターは僕の眼前でゆらゆらと揺れている。しかし魔獣達が彼を気にする様子はない、全く知覚できていないのだ。

「……やっぱりな」

会議が終わるまで一眠りしようと目を閉じてしばらく、若い男の声が聞こえた。目を開けても鳥の尾羽しか見えない。

「セツナが会議に来てたお前の顔舐めて土っぽいとか言ってたんだよ。俺もビミョーに話し方と思考パターン違う気がしてさ」

声と内容からしてそこに立っているのはメイラのようだ。
続けて彼は会議室の窓から大通りの上を飛ぶ鳥の群れが見えて、もしかしてと思ってトイレを装って会議を抜け出してきたと話した。

「……なんで魔獣集めてんだ?」

『…………売ったところで虐待されてた』

「あ、お前が売ったヤツらなんだこいつら。ブリーダーやるならちゃんと下調べしたり基準決めたりしろよな」

全くその通りだ。何も言えない。

「こいつらの回収のために会議に土人形置いてんのか。ならよかった」

頭の上に乗っていた鳥が向きを変え、メイラの顔が見える。僕と目が合ったことに気付いたメイラはニッと笑い、クリーム色の犬の隣に屈んだ。

「何かスメラギも居なくてさ、お前と一緒かと思って心配してたんだよ」

『……心配?』

「…………スメラギな、最近様子変になったんだよ。えっと……そうだ、山側、細々と畜産業やってる奴らに関わり出してからだな。隣いいか? ちょっと話しておきたい」

スメラギの様子が変わったのはメイラの目には映っていない僕の目の前の神が取り憑いていたからだろう。本人を目の前にして話すのはまずいのではないだろうか。

『えっと……今は、ちょっと、まずい……?』

『なになに何の話~? 聞きたいな~、うん、ター君聞いてよ~』

断ろうとしたがメイラには不可視なハスターが話をせがんだ。

『え……で、でも』

『ダメ? なんで~? 時間まだあるよ~? 僕聞きたいな~』

自分の話だぞ? しかもおそらく良くない話だ。自分の陰口を聞く趣味は僕には分からない。しかし、無理に断るとメイラにもハスターにも不審がられるだろう。

『…………時間大丈夫なら、聞きたいです』

「おぅ、じゃあちょっと……犬、どいて」

黒犬は唸りながらも身体の向きを変え、僕の肩に頭を置いたままメイラが隣に座るスペースを作った。

「……まず、この国は大きく海側と山側に分かれてる。住むとこもそうだが思想もだ。海側はどんどん鉱山を掘って魔石を採掘したい、山側は自然破壊反対で畜産で生きていきたい。でも畜産業は前まで国内すら賄えてなかったようなもので、魔石を輸出しなきゃ国として成り立たない」

豊かな国だと思っていたが案外と問題があるものなんだな。

「で、スメラギってのは俺の友達だったんだよ。セツナの身体関係で世話になっててさ」

セツナは眼球を始めとして身体を一部魔石で作っている。その魔石を提供していたのがスメラギだったのか。あんな姿になっていると知ったらどう思うだろう。

「スメラギは魔石研究者……まぁ、魔石製品の開発担当だな。真面目な奴でさ、山側の連中に採掘の重要性や植物と動物への影響について話したいっていつも言っててさ」

真面目な奴……それは今のスメラギに不信感を抱いて当然だ。メイラが妙に睨んでいると思っていたがそういう訳だったのか。

「……でも、俺はずっと止めてたんだ。山側の連中は……その、やばいんだよ」

『……やばい?』

「この国はめちゃくちゃ薄まってるけど悪魔に呪われてるんだ。国連加盟国でもない。魔石と錬金術が万能過ぎて、神なんざいらねぇって奴らが多い」

悪魔ではなく堕天使だが、まぁそんな差異は住んでいる者には分からないし関係ない。神が必要ないという考えは流石『傲慢の呪』と言えるだろう。

「山側も海側も昔はそうだった。昔はこんなに対立してなかった。畜産をやるスペース取っとけよ、うちの製品欲しいだろ? って笑ってる感じだった。でも、山側である劇が開かれてからそれが変わった」

『……劇、ですか? あの……歌ったり演技したりの? 役者さんがやる……』

「そう。劇だ。黄衣の王……戯曲も売られてる」

『あ、僕僕~、それ僕が書いてもらったやつ~』

メイラの目を見て話を聞いていたのに、白い仮面が割り込んだ。黄衣……なるほど、この姿を見せたのか。

『面白かった~? ねぇねぇ面白かった~?』

『……面白かったんですか? その劇』

ハスターのためにも質問しておこう、放っておいたら「聞いてみてよター君」とか言ってくるだろうし。

「いや、俺は見てねぇ」

『…………なんで』

白い仮面が消えたかと思えば、メイラの背後にぴったりとくっついていた。何だろう、嫌な予感がする。

『ど、どうして見てないんですか?』

「見るとやばいからだよ、山側の連中が変わったって言ったろ? 原因は劇だ……と俺は思ってる」

『え……?』

メイラの瞳から視線を外し、彼の背後のハスターを見る。
白い仮面、黄色い布……それに隠れた、彼の本当の──
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