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第三十三章 神々の全面戦争
半神
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特に武器は使わないらしく、バアルは僕の胸や頭、喉を狙って腕を振るう。その全てがすり抜けるが、冷静さを失った彼は更に憤って腕を振り回す速度を増すだけだ。しかし、馬鹿には出来ない。その素早さはベルゼブブに勝るとも劣らない、僕の目には捉えきれないものだ。
『豊穣の神様とか言ってたっけ?』
頭の両側に感じる重みに、少しでもバランスを崩せばよろけてしまいそうなそれを城壁に預け、舗装された地面を突き破る木を生やす。
『てめぇも似たような感じですかぁ? クソ鬱陶しい……』
兄や王に流れ弾……流れ腕? を当てさせないため、外からの侵入と視線を塞ぐ木のドームを作り出す。兄はそれでも中に入ってくることは出来るが、僕が攻撃を透過する様を見て長い夢を思い出しているだろうから、もうしばらくはそれについて考えるだろうから、まだ考慮は必要無い。
『……タイマンをご所望ですかぁ?』
『うん、お願い』
『…………ま、いいですけどぉ』
木を生やすことに集中して煽り文句を僅かな間中断しただけでバアルは冷静さを取り戻す。その変わりようには恐怖さえ覚えた。
『それより当たってくださいよ!』
バアルの右腕が僕の腹を貫く。すり抜けると分かっていたからか狙いは適当だ、しかし、彼はそれをすぐに後悔した。僕は実体化していたから。
『……すり抜けられる限界とかあったりします? それ自分で分からないんですか? かわいそー……ふふ』
『限界はあるかもしれないけど今じゃないよ、これは……策だ。ね、兄さん』
僕を痛めつけるためかバアルは腕を抜かずにぐりぐりと掻き回していた。そう、動きを止めていた。木で囲ったことによって今の敵は僕だけだと思い込んだ、入ってくれば音で分かると油断した。だから木で作られた影から現れた巨大な鉤爪を生やした腕に捕まった。警戒心を薄れさせ動きを止めた素早い敵ほど簡単に捕えられる者はいない。
『…………嘘吐き! タイマンって言ったじゃないですか!』
『人間って嘘吐きなものだからね』
『クソっ……離しなさいっ! 何なんですかこの腕はぁっ!』
『あ、知らないんだ……ベルゼブブはこれ嫌いなんだよ』
鉤爪の隙間から彼の胸に刀をゆっくりと刺し込む。
『ライアー兄さん、僕の大好きな兄弟だよ』
胸を念入りに切り裂き、刀を抜く。すると彼はかくんと首を垂らして動きを止めた。
『…………死んだ?』
神性と戦って殺した経験なんてない、ナイは例外として。こんなに簡単に死ぬものなのか? いや、人間ならともかく神性が胸を貫いただけで死ぬ訳がない。
『騙し討ちとかいいから、僕は油断しないからね』
とは言っても本当に殺す方法なんて分からない。
『……兄さん、握り潰して』
小柄な肉体が巨大な手の中に隠れ、嫌な音を立てて隙間から赤い液体が漏れ出した。呻き声すらなく、手の中から滑り落ちた肉塊はピクリとも動かない。
『ねぇ、兄さん、神性が死んだかどうかの確認って──』
木のドームの一部が焼かれ、人一人が通れるほどの穴が開く。僕はライアーを帰らせ、刀を振るって血を払った。
『ヘル! ヘル……あぁ、無事だね、倒したの?』
入って来たのは予想通り兄だ。安堵を表情と脱力感で示し、倒れ込むように僕を抱き締める。
『…………随分、変わっちゃったね』
翼や角に兄の手が触れる。
『でも、僕の大事なおとーとってことには何の変わりもないからね』
長い夢について考えたりはしたのだろうか。アレが実際にあった別の世界で──なんて説明は僕に果たせるとは思えないし、アルに漏れた時のことを考えると秘密を共有するリスクは負えない。
『……綺麗な羽、それにこの光輪……天使? でも角は魔物っぽいね。それにこの腕……いや、鹿の角かな? この木とかは神性に何か教えてもらったんだよね? その使い方の副作用みたい。後は…………あ、また髪伸びたね』
ちぎれたヘアゴムを拾い、兄はまるで僕の成長を喜んでいるかのような笑顔を浮かべた。
『…………大丈夫だよ、ヘル。大丈夫……お兄ちゃんも化け物だから』
異形の姿を見られたくないと思っていたのが察されてしまった。何を思われるだろうと怯えていたのが気付かれてしまった。
泣き叫びたくなって、兄の背に腕を回そうとした瞬間、突風が巻き起こって木のドームが砕け散った。僕は兄の腕をすり抜け、バアルの死体を確認する。
『……まーだそんなの見てるんですかぁ?』
肉塊は変化を見せていなかったが、その声を追った目には雲に乗った無傷のバアルが居た。
『神性にとって肉の体なんて大した意味ないんですよねー。さ、て、クソ威力の電撃に消されちゃった雲も戻りましたし……そろそろ本気出しますか! 豊穣の神、嵐の神、慈雨の神、崇高なる男神様の粛清を受けなさい』
空に再び黒雲が呼び戻される。滝のような雨は結界に弾かれるが、バアルが巻き起こす暴風は結界内に起こる。
どうする?
バアルをどうやって止める? 僕は干渉を遮断しているから暴風を気にすることなく自由に飛べる、だが、僕だけではバアルを止められるかどうか分からないし、誰なら止められるのかの予想もつかない。
皆の安全確保が先か? 兄に更に結界を張ってもらい、そこに住民を押し込んで──いや、無理だ。この暴風の中住民の誘導なんて出来ない。
「うわぁあぁああっ!」
叫び声が降ってくる。それはだんだんと近付き、側まで来たらパァンと破裂音を立てて途切れた。兵士が城壁から落ちてきたのだ。
『……に、にいさまっ! 治癒、いや、蘇生魔法を──』
悲鳴と破裂音は四方八方から鳴り響く、この暴風の中しがみついていられる人間なんていない、城壁は国を囲っている、兵士が落ちているのはこの周辺だけではない。
『にいさま! 結界全体に治癒とか蘇生とかかけまくって! 僕をいくら食べてもいいから!』
風の音で兄の声が聞こえない、やってくれているのかどうかも分からない。
『くっ……バアルっ!』
とにかく、この暴風を止めなければ。殺せはしなくても風の操作を中断させるくらいは僕でも出来るはずだ。
雲に乗って余裕の笑みを浮かべるバアルに向かって飛び立ち、暴風の影響を受けない翼をはためかせ、刀を突き刺す。
『……あはっ、ざぁんねん。貴方と違ってぇー、貴方のお兄様は風に飛ばされちゃうんです』
刀が貫いたのはバアルではなく、兄だ。地上のどこかに居た兄を吹き上げ、盾にしたのだ。
『ぁ、あっ……にいさっ、にいさまっ……』
兄が刀が刺さった程度でどうにかなるはずはない。実際に兄はバアルに向かって魔法を放っているし、僕に向かって何かを言っている。
けれど、兄を刺してしまったというショックで僕は一瞬思考を止めた。
『隙っ、ありぃっ! っとぉ……ふふ、当たりましたよ!』
バアルは僕の頭を掴み、兄を振り切って飛び回る、僕の後頭部や背を城壁に擦り付けながら。焼けるような痛みと身体が削れていく不気味な感覚に更に思考が奪われる。
『このままダメージ与え続けりゃ貴方はもうすり抜けとか出来ないんじゃないですかぁ?』
きっとバアルの予想は当たっている、だが、抵抗は出来ないし彼の速さに追い付ける者はいない。
『無駄に抵抗するから苦しむんですよ、ほら、死になさい』
その不規則な動きを予想することなど出来ない。
音に迫る速さの彼を捉えるにはそれ以上の速さと動体視力が必要だ。
『ヘルっ……ねぇ、王様! 君の神具とかいうの雷なんだろ! あれ使えよ!』
「無茶を言うな、まず狙いが……」
『うるさいいいから使え! 使わなかったら僕に殺されるだけだ!』
「分かった分かった……全能神の雷霆…………本領発揮!」
バアルが呼んだ黒雲に紫電が走る。城壁を僅かに削りながら無数の雷が落ちる。
『……ふんっ、豊穣の神が何なのかを理解してないようですねぇ』
壁に押し付けられた僕は城壁を狙って落ちる雷に感電する。僕を助けるためなのか知らないが、それは僕に苦痛を味合わせるだけだった。
何度も雷が命中しているものの、少しも効いた様子のないバアルを見てそう確信した。
『豊穣の神様とか言ってたっけ?』
頭の両側に感じる重みに、少しでもバランスを崩せばよろけてしまいそうなそれを城壁に預け、舗装された地面を突き破る木を生やす。
『てめぇも似たような感じですかぁ? クソ鬱陶しい……』
兄や王に流れ弾……流れ腕? を当てさせないため、外からの侵入と視線を塞ぐ木のドームを作り出す。兄はそれでも中に入ってくることは出来るが、僕が攻撃を透過する様を見て長い夢を思い出しているだろうから、もうしばらくはそれについて考えるだろうから、まだ考慮は必要無い。
『……タイマンをご所望ですかぁ?』
『うん、お願い』
『…………ま、いいですけどぉ』
木を生やすことに集中して煽り文句を僅かな間中断しただけでバアルは冷静さを取り戻す。その変わりようには恐怖さえ覚えた。
『それより当たってくださいよ!』
バアルの右腕が僕の腹を貫く。すり抜けると分かっていたからか狙いは適当だ、しかし、彼はそれをすぐに後悔した。僕は実体化していたから。
『……すり抜けられる限界とかあったりします? それ自分で分からないんですか? かわいそー……ふふ』
『限界はあるかもしれないけど今じゃないよ、これは……策だ。ね、兄さん』
僕を痛めつけるためかバアルは腕を抜かずにぐりぐりと掻き回していた。そう、動きを止めていた。木で囲ったことによって今の敵は僕だけだと思い込んだ、入ってくれば音で分かると油断した。だから木で作られた影から現れた巨大な鉤爪を生やした腕に捕まった。警戒心を薄れさせ動きを止めた素早い敵ほど簡単に捕えられる者はいない。
『…………嘘吐き! タイマンって言ったじゃないですか!』
『人間って嘘吐きなものだからね』
『クソっ……離しなさいっ! 何なんですかこの腕はぁっ!』
『あ、知らないんだ……ベルゼブブはこれ嫌いなんだよ』
鉤爪の隙間から彼の胸に刀をゆっくりと刺し込む。
『ライアー兄さん、僕の大好きな兄弟だよ』
胸を念入りに切り裂き、刀を抜く。すると彼はかくんと首を垂らして動きを止めた。
『…………死んだ?』
神性と戦って殺した経験なんてない、ナイは例外として。こんなに簡単に死ぬものなのか? いや、人間ならともかく神性が胸を貫いただけで死ぬ訳がない。
『騙し討ちとかいいから、僕は油断しないからね』
とは言っても本当に殺す方法なんて分からない。
『……兄さん、握り潰して』
小柄な肉体が巨大な手の中に隠れ、嫌な音を立てて隙間から赤い液体が漏れ出した。呻き声すらなく、手の中から滑り落ちた肉塊はピクリとも動かない。
『ねぇ、兄さん、神性が死んだかどうかの確認って──』
木のドームの一部が焼かれ、人一人が通れるほどの穴が開く。僕はライアーを帰らせ、刀を振るって血を払った。
『ヘル! ヘル……あぁ、無事だね、倒したの?』
入って来たのは予想通り兄だ。安堵を表情と脱力感で示し、倒れ込むように僕を抱き締める。
『…………随分、変わっちゃったね』
翼や角に兄の手が触れる。
『でも、僕の大事なおとーとってことには何の変わりもないからね』
長い夢について考えたりはしたのだろうか。アレが実際にあった別の世界で──なんて説明は僕に果たせるとは思えないし、アルに漏れた時のことを考えると秘密を共有するリスクは負えない。
『……綺麗な羽、それにこの光輪……天使? でも角は魔物っぽいね。それにこの腕……いや、鹿の角かな? この木とかは神性に何か教えてもらったんだよね? その使い方の副作用みたい。後は…………あ、また髪伸びたね』
ちぎれたヘアゴムを拾い、兄はまるで僕の成長を喜んでいるかのような笑顔を浮かべた。
『…………大丈夫だよ、ヘル。大丈夫……お兄ちゃんも化け物だから』
異形の姿を見られたくないと思っていたのが察されてしまった。何を思われるだろうと怯えていたのが気付かれてしまった。
泣き叫びたくなって、兄の背に腕を回そうとした瞬間、突風が巻き起こって木のドームが砕け散った。僕は兄の腕をすり抜け、バアルの死体を確認する。
『……まーだそんなの見てるんですかぁ?』
肉塊は変化を見せていなかったが、その声を追った目には雲に乗った無傷のバアルが居た。
『神性にとって肉の体なんて大した意味ないんですよねー。さ、て、クソ威力の電撃に消されちゃった雲も戻りましたし……そろそろ本気出しますか! 豊穣の神、嵐の神、慈雨の神、崇高なる男神様の粛清を受けなさい』
空に再び黒雲が呼び戻される。滝のような雨は結界に弾かれるが、バアルが巻き起こす暴風は結界内に起こる。
どうする?
バアルをどうやって止める? 僕は干渉を遮断しているから暴風を気にすることなく自由に飛べる、だが、僕だけではバアルを止められるかどうか分からないし、誰なら止められるのかの予想もつかない。
皆の安全確保が先か? 兄に更に結界を張ってもらい、そこに住民を押し込んで──いや、無理だ。この暴風の中住民の誘導なんて出来ない。
「うわぁあぁああっ!」
叫び声が降ってくる。それはだんだんと近付き、側まで来たらパァンと破裂音を立てて途切れた。兵士が城壁から落ちてきたのだ。
『……に、にいさまっ! 治癒、いや、蘇生魔法を──』
悲鳴と破裂音は四方八方から鳴り響く、この暴風の中しがみついていられる人間なんていない、城壁は国を囲っている、兵士が落ちているのはこの周辺だけではない。
『にいさま! 結界全体に治癒とか蘇生とかかけまくって! 僕をいくら食べてもいいから!』
風の音で兄の声が聞こえない、やってくれているのかどうかも分からない。
『くっ……バアルっ!』
とにかく、この暴風を止めなければ。殺せはしなくても風の操作を中断させるくらいは僕でも出来るはずだ。
雲に乗って余裕の笑みを浮かべるバアルに向かって飛び立ち、暴風の影響を受けない翼をはためかせ、刀を突き刺す。
『……あはっ、ざぁんねん。貴方と違ってぇー、貴方のお兄様は風に飛ばされちゃうんです』
刀が貫いたのはバアルではなく、兄だ。地上のどこかに居た兄を吹き上げ、盾にしたのだ。
『ぁ、あっ……にいさっ、にいさまっ……』
兄が刀が刺さった程度でどうにかなるはずはない。実際に兄はバアルに向かって魔法を放っているし、僕に向かって何かを言っている。
けれど、兄を刺してしまったというショックで僕は一瞬思考を止めた。
『隙っ、ありぃっ! っとぉ……ふふ、当たりましたよ!』
バアルは僕の頭を掴み、兄を振り切って飛び回る、僕の後頭部や背を城壁に擦り付けながら。焼けるような痛みと身体が削れていく不気味な感覚に更に思考が奪われる。
『このままダメージ与え続けりゃ貴方はもうすり抜けとか出来ないんじゃないですかぁ?』
きっとバアルの予想は当たっている、だが、抵抗は出来ないし彼の速さに追い付ける者はいない。
『無駄に抵抗するから苦しむんですよ、ほら、死になさい』
その不規則な動きを予想することなど出来ない。
音に迫る速さの彼を捉えるにはそれ以上の速さと動体視力が必要だ。
『ヘルっ……ねぇ、王様! 君の神具とかいうの雷なんだろ! あれ使えよ!』
「無茶を言うな、まず狙いが……」
『うるさいいいから使え! 使わなかったら僕に殺されるだけだ!』
「分かった分かった……全能神の雷霆…………本領発揮!」
バアルが呼んだ黒雲に紫電が走る。城壁を僅かに削りながら無数の雷が落ちる。
『……ふんっ、豊穣の神が何なのかを理解してないようですねぇ』
壁に押し付けられた僕は城壁を狙って落ちる雷に感電する。僕を助けるためなのか知らないが、それは僕に苦痛を味合わせるだけだった。
何度も雷が命中しているものの、少しも効いた様子のないバアルを見てそう確信した。
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