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第二十一章 神が降りし国にて神具を探せ

懐かしい顔

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宿の壁に背を預け、アルを抱き締めながらヘルメスに尋ねる。

「それでヘルさん、何しにきたんでしたっけ」

「手伝い頼みにだよ、成功すれば報酬いっぱい貰えるから山分けね。で、まず王城に行きたいんだよね。他の神具回収したいし……」

ヘルメスはそう言いながら遠くに見える大きな城を指差す。この街道を真っ直ぐ行けばいつかは辿り着くだろう。

「それって他の仕事と兼業できますか?」

「捜し物だから時間合わせれば……まぁ。今何かやってるの?」

「まともな仕事探してるんです、そんな博打みたいな仕事じゃなくて堅実なやつ」

「探せば見つかるってー」

「僕は明日の宿にも困ってるんですよ」

何を探すのかはまだ聞いていないが、王からの頼みなら辛い仕事になるだろうと予想はつく。長期化するようならその間に宿無しになってしまう。

「そっか……じゃあ下準備は俺だけでしようかな」

「下準備って?」

「路地裏を棲家にしてる連中への聞き込み。真実からは遠いだろうけど噂はいっぱい手に入るからね」

それは僕には出来ない仕事だ。路地裏は怖いし聞き込みも苦手だ。
僕は快くヘルメスを見送り、手伝えそうなことがあったら声をかけてと伝えて手を振った。

「…………バイト探そうか」

ヘルメスの姿が路地裏に消えて、僕はアルに視線を戻す。

『そうだな、何にする?』

「楽に稼げるやつ」

正直に言えば怒らない、そんな言葉をよく聞くだろう。あれは嘘だ、僕は今正直に希望を言ったら怒られた。尾で足を優しく殴られた。

『全く……貴方は、本っ当に……』

「なんでそんなに怒るのさ。正直に言っただけなのに」

アルの怒りがイマイチ理解出来ないまま、僕はいつの間にか飲食店の通りを歩いていた。そして繁盛したカフェのテラス席に見覚えのある顔を見つけ、思わず声をかけた。

「あの、すいません、アルテミスさん……ですか?」

「ん?  あ、久しぶり。えっと……アタシの神具渡されて失くした奴ね」

生え際から美しい金色のグラデーションになった長い髪を頭の上で二つに分けて結んで、白い清楚なワンピースを着て、彼女は以前会った時よりも明るく見えた。

「ヘルシャフト・ルーラーですよ。希少鉱石の国ではお世話になりました」

「何よ、あの時とは違って礼儀正しいわね……そういえばアンタにお兄さん紹介してって言ってたと思うんだけど」

「すいません……兄とはちょっと、今は離れていて」

もう人間ではなくなってしまったし、そもそも人間だったとしても紹介したくない。
兄が恋愛事に興味があるとは思えないし、万が一兄がアルテミスを気に入ったとしても、あの愛され方をアルテミスが受け入れられるとは思えない。

「はぁ?  何それ、相変わらず約立たずね」

「……相変わらずってなんですか。それに……僕の兄はまともな人間じゃありませんよ、やめておいた方がいいです」

「多少おかしくてもいいのよ、このままじゃ婚期逃しちゃう!」

「アルテミスさんまだ若いですし、綺麗ですし、そんなに焦らなくても」

政略結婚が決まっていてその前に恋愛をしたいと言うならまだしも、王族なら結婚の心配など必要ないだろうに。

「き、綺麗ってアンタねぇ……ま、まぁ?  そりゃ私は美人だけど?」

少し顔を赤らめながら前髪を弄る。
僕の財布にはコーヒー一杯分の金もない、このまま褒めれば「一杯奢る」と言ってもらえるのではないだろうか。僕がそんな邪な考えで褒め言葉を探していると、強い力で肩を掴まれた。

「……誰だ、お前。妹に何の用だ」

「……っ!  離してくださいよ……」

「何の用だ、と聞いている。このまま肩の骨を砕かれたいのか?」

「…………首、切られたいんですか?」

僕の肩を掴んだのは燃えるような赤い髪の男、彼の髪もアルテミスやヘルメスと同じようにグラデーションになっている。そして彼の首元には口を水平に開いた黒蛇が揺れていた。

『その薄汚い手を離せ』

「……魔獣?  喋った……だと?」

男はあっさりと手を離し、アルを観察する為に道端に座り込む。

「凄い、本物だ。人造か?  となると科学の国か、凄いな。この蛇は尻尾なのか、付け根はどうなってるんだ?  ちょっと見てもいいか?  さ、触ってもいいか?」

『…………貴様も変態か』

「語彙も豊富なのか?  汚い言葉を覚えさせているのはどうかとも思うが、ボディガードとしては完璧だな。ふむ……知能はどの程度なんだ?  計算は出来るか?  芸術は?  歴史学は?  宗教観は?」

『……助けてくれヘル』

アルは僕を見上げて情けなく耳を垂らす。男もアルの視線を追って僕を見た。

「君のペットかい?  旅行者だね、どこから来たんだ?  年は?  保護者は?」

「……あ、あの」

「あぁ、すまない。私はアポロン。アポロン・ハイリッヒだ。この国の王の息子で、王位継承権第一位。その立場として今後の魔物との関わりや科学技術の発展について、君と話がしたい」

「…………た、助けて」

そんな政治問題を話されても困る、そういった知識には疎い。僕はアルテミスに助けを求めた。アルテミスは面倒臭そうにため息を吐き、アポロンの腕を掴む。

「やめなさいよ馬鹿にぃ、困ってんでしょ」

「あぁ我が妹、日を重ねるごとに美しくなっていくね。まさに女神だ」

「気持ち悪いからやめてくれる?」

「……そうだ。君は…………妹に声をかけていんだったな。貴重な意見を貰おうと思ったが、その前に少しそれについて話をしておかなければな」

希少鉱石の国での一件を思い出す、アルテミスの兄は度が過ぎた妹思いだったと。

「声かけてたって……別に、その、やましい気はありませんよ。前に他の国で会ったことがあって、それで久しぶりだなって話しかけただけで」

「美人だとか綺麗だとか言ってたのは私の聞き間違いか」

綺麗だとは言ったが、美人だと言ったのは彼女自身だ。なんて言い訳には意味が無いと分かっている。

「前に会った時に、アルテミスさんは僕の兄が気に入ったみたいで……紹介しろってうるさくて。アルテミスさんは結婚したいみたいですけど、綺麗なんだからそんなに焦らなくてもって言っただけで……僕が口説いてたわけじゃないんです」

効果的なのは貴方の大好きな妹が男漁りしてますよ、という報告。
妹思いな彼ならショックを受けるはずだ。僕の話を信用するなら、まずアルテミスを問い詰めるだろう。
そう、僕はアルテミスとこの場にいない兄に彼の怒りを誘導する事にしたのだ。この機転はなかなか出来るものではない、僕は誇らしくなって、アルに勝者の笑みを送った。
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