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第十九章 植物の国と奴隷商
堕落した契約
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ベルフェゴールは体を折り曲げたまま眠りこけている。何かを食べさせないとと言ったはいいが、その食べ物が思いつかない。
「……ねぇ、アル。僕の手ちょっと噛んでよ」
『嫌だ。貴方も酷い事を言うな、私がどう思うか分かっているだろう』
「僕の血ってかなり美味しいんでしょ? 絶対起きると思うけど、ダメ? アルだって飲んだり食べたりしていいよ」
兄のおかげと言うのも癪だが、痛みに耐えるのは特技と言える。アルになら全身食べられたって構わないし、どうせなら喰い殺して欲しい。
『私も反対ですよ、私もまだ髪しか食べてないのに……ベルフェゴールが血を飲むなんて』
ベルゼブブの半分冗談の幼稚な理由は聞き流そう。
あまり痛くない場所はないだろうかと傷をつける場所に迷っていると、ウェナトリアの背から降りた姫子がベルフェゴールの前に座った。
祈るように瞼を閉じ、ベルフェゴールの頬に手をかざす。姫子の内側から溢れる光が強く輝いた。
『…………んん、ん?』
『おや、起きましたか。流石は主食ですね』
ベルフェゴールはゆっくりと起き上がり、目を擦る。
「前に奪った歴代の御白様の力、少しあげた」
「姫子は大丈夫なのか?」
「……平気」
「ならいい、無理はするなよ」
姫子は表情があまり変わらず、そのうえ口数も少ない。疲労が外から見ても分からないのだ。
ウェナトリアは姫子の頭を撫でて、再びおぶった。
『ぁー、あ? あー! ベルゼブブ様じゃないっすか! 珍しいっすねー』
『お久しぶりですベルフェゴールさん、目は覚めました?』
『いやー、まだ寝たいっすね。寝ていいっすか? いいっすよね、おやす……みっ!?』
身体を倒しかけたベルフェゴールの腹に爪先をめり込ませ、ベルゼブブは振り返って社交的な笑みを作る。
『バッチリ目が覚めたそうです。とっとと申し付けてください』
『ひ、ひどいっすよ……腹は、なしっしょ……』
『今度「おやすみ」と言ってみなさい、腕もらいますから』
『はぁー……仕方ないっすね、なんすか?』
ベルフェゴールは大木を背に足を組み、時折に欠伸をしながら応対する。はだけた寝巻きは目のやり場に困る。露出した肌からは蔦模様の刺青らしきものが見て取れた。
「こんにちは、美しいお嬢さん。お願いがあるんだ。構わないかな?」
『構うー……眠い』
ウェナトリアはいつもの調子で話しかける。よく悪魔に対して態度を変えずにいられるものだ、それも過去に戦った事もある相手に。僕のような力がある訳でもないのに。僕にとって彼は数少ない本当に尊敬できる大人だ。
「そう言わないでくれ。君の力を借りないと私達は滅んでしまう」
『あのさー? あたしさぁ……あんたみたいな優男って嫌いなんだよねー。しかもあんたプレイボーイって感じだし、好みじゃなーい。帰れー』
「やさっ……ぷれ…………ご、誤解だよ、私はそんな男じゃない」
『あたしの好みは年下ー、生まれ変わってやり直せー』
ベルフェゴールは草の上にごろんと寝転がり、腹を見せる。その警戒心の無さは慢心ゆえなのか、何も考えていないだけなのか。過去に戦った記憶が蘇る、あの強さなら慢心していてもおかしくはないと。
『この人年下ですよ、貴女何歳ですか』
『……ってかあんた、前戦ったよな』
ベルフェゴールの目が見開かれる。突然の鋭い紫の眼光はその場にいたベルゼブブ以外の者を萎縮させた。
『あー、思い出してきた。腹減って、外出たら天使共とお前がいて……シャイセ。あー嫌なこと思い出した、もうあたし寝る、決めた、寝る』
『待ちなさい、そのまま寝たら貴女消えますよ?』
『…………もー息するのもめんどくさいんすよ、消えるならそれでもいいっす』
『ベルフェゴールに頼るのは諦めた方が賢明なようですよ? 国王さん』
僕が前にかけたあの暗示はもう効いていないのだろうか、なら、もう一度かければいいのか?
『あー、そぉーそー、蜘蛛男。あんたに聞きたいことあんのよね』
「私に? 何かな」
『あん時さ、子供いたでしょ? キレーな目ぇしたかぁいい男の子、あの子連れてきたら、お願いきくかどうか考えてやってもいいよん』
「子供……? 子供か。姫子、ではない……よな?」
ウェナトリアは後ろを向いて、背負った姫子をベルフェゴールに見せる。
『男ってんでしょぉ? ドゥム、あたしの話聞いてたぁ?』
『どんな子か言いなさい、この小児性愛者』
『なんすか、かぁーいい子可愛がって何が悪いんすか』
『悪いとは言ってませんよ? 悪魔が悪かったからって何だって話ですしね。攫うでも犯すでも喰らうでもお好きにどうぞ』
ベルゼブブの言い草には流石にベルフェゴールもたじろいで、頭を振って話を戻した。
『可愛い男の子サイコー、ベルゼブブ様と違ってあたしは愛でるだけで乱暴しねぇーっすよ。えっと……何だったかな、ほんっとキレーな目してた。虹色みたいな……あぁいや虹より沢山の色あって、アレ見てたらなんか、ふわっときて……そう、麻薬やった時みたいな感じで…………あー、そうだ、気がついたら穴の底。んで、どうでもよくなって、寝た』
『虹色? そんな虫いますよね、この島には』
「翅なら虹色に光る者もいるが、目はいないぞ。そもそもあの場にいたのは私と姫子とロージーに、天使が二人とヘルシャフト君だけだ。男の子ならヘルシャフト君かとも思ったが、黒目だしな」
『ふぅん……』
ベルゼブブは僕の髪をかきあげ、右眼を露出させる。もう片方の手は僕の首を掴み、ベルフェゴールの前に突き出した。
その乱暴なやり方に意義を唱えるも無視された。
『コレですよね』
『うっお……これこれ、流石っすねベルゼブブ様。あー、この子この子。キレーな目……あー……いいなぁ、これ』
「やっぱりヘルシャフト君だったのか? そうか、右眼を隠していたのは……それが理由か」
ベルフェゴールは両手で僕の顔を挟み、恍惚とした目で見つめる。
目が綺麗、なんて普通なら喜ぶ言葉だ。だが僕は過去に目を抉り取られた経験がある、その言葉も表情も、恐怖の対象でしかない。
「やっ……やめてくださいよ」
『いやぁイイ、イイなぁ、かぁーいい。この子くれるならお願い聞いてあげてもいいよ?』
『ダメです、私の食事を盗る気なら貴女を前菜にしますよ』
『この子喰う気すか? 冗談じゃないっすよ、こーんな可愛いのに勿体ない。この子はあたしと一生ダラダラ過ごすんですぅー』
『ダメに決まって……ダラダラ? ふむ、ストレスのない環境なら肉は上質に……いえ、それでは魔力が鍛えられませんね。ううん、どうしましょう』
強力な悪魔二人に挟まれるなど生きた心地がしない。僕はアルに視線を送って助けを求めた。
『……あの、ベルゼブブ様、ベルフェゴール様。ヘルは物ではありませんよ……その、もう少し、丁重に扱って頂けませんか』
アルもこの二人には下手に出るしかない、辛い役を任せてしまった。
『てーねーにしてるって。ねー、少年』
『……それ以上ベルフェゴールの横にいたら、だらけ癖が伝染りますよ』
「えっ……」
『うーつぅーりーまーせぇーんー』
「あの、とりあえず離してください」
『だめー、君はあたしの』
ベルフェゴールは僕を抱き締めて起き上がる。丁度僕の顔の位置に胸が来て、恥ずかしさと息苦しさで顔が熱くなる。
『で? 蜘蛛男。あたしに何してほしーの?』
「……『堕落の呪』をもう一度お願いしたい。できれば国民は影響外に、侵略者だけに。可能だろうか?」
『国民と侵略者見分けんのはメンドー、けど外から来るのにかけるのならヨユー。あんたらは海外旅行できねーよ』
「する気もないさ」
『んじゃ、交渉成立。悪魔との契約……破ったら、死ぬより怖いよ?』
ベルフェゴールはウェナトリアと指を絡め、上下に振ってニヤリと笑った。ウェナトリアの右腕に紫の炎がまとわりつき、彼の皮膚に焼き付く。その火傷はベルフェゴールの刺青と同じ蔦模様だった。
「……死ぬより怖い、か。上等だ、国を守るにはそれぐらいの気概が必要だ」
『ふーん? 強がるじゃん、いいんじゃない? 優男の割には点数高いよ、おっさん』
「おっさ……!? いや、私はまだ、そんな」
おっさんと呼ばれたことにショックを受けているようだが、ウェナトリアは忘れているのか、それとも気がついていないのか。
この契約の代償は僕で、僕がこの島に留まることは出来ないのだからこの契約は反故になるという事に。
「……ねぇ、アル。僕の手ちょっと噛んでよ」
『嫌だ。貴方も酷い事を言うな、私がどう思うか分かっているだろう』
「僕の血ってかなり美味しいんでしょ? 絶対起きると思うけど、ダメ? アルだって飲んだり食べたりしていいよ」
兄のおかげと言うのも癪だが、痛みに耐えるのは特技と言える。アルになら全身食べられたって構わないし、どうせなら喰い殺して欲しい。
『私も反対ですよ、私もまだ髪しか食べてないのに……ベルフェゴールが血を飲むなんて』
ベルゼブブの半分冗談の幼稚な理由は聞き流そう。
あまり痛くない場所はないだろうかと傷をつける場所に迷っていると、ウェナトリアの背から降りた姫子がベルフェゴールの前に座った。
祈るように瞼を閉じ、ベルフェゴールの頬に手をかざす。姫子の内側から溢れる光が強く輝いた。
『…………んん、ん?』
『おや、起きましたか。流石は主食ですね』
ベルフェゴールはゆっくりと起き上がり、目を擦る。
「前に奪った歴代の御白様の力、少しあげた」
「姫子は大丈夫なのか?」
「……平気」
「ならいい、無理はするなよ」
姫子は表情があまり変わらず、そのうえ口数も少ない。疲労が外から見ても分からないのだ。
ウェナトリアは姫子の頭を撫でて、再びおぶった。
『ぁー、あ? あー! ベルゼブブ様じゃないっすか! 珍しいっすねー』
『お久しぶりですベルフェゴールさん、目は覚めました?』
『いやー、まだ寝たいっすね。寝ていいっすか? いいっすよね、おやす……みっ!?』
身体を倒しかけたベルフェゴールの腹に爪先をめり込ませ、ベルゼブブは振り返って社交的な笑みを作る。
『バッチリ目が覚めたそうです。とっとと申し付けてください』
『ひ、ひどいっすよ……腹は、なしっしょ……』
『今度「おやすみ」と言ってみなさい、腕もらいますから』
『はぁー……仕方ないっすね、なんすか?』
ベルフェゴールは大木を背に足を組み、時折に欠伸をしながら応対する。はだけた寝巻きは目のやり場に困る。露出した肌からは蔦模様の刺青らしきものが見て取れた。
「こんにちは、美しいお嬢さん。お願いがあるんだ。構わないかな?」
『構うー……眠い』
ウェナトリアはいつもの調子で話しかける。よく悪魔に対して態度を変えずにいられるものだ、それも過去に戦った事もある相手に。僕のような力がある訳でもないのに。僕にとって彼は数少ない本当に尊敬できる大人だ。
「そう言わないでくれ。君の力を借りないと私達は滅んでしまう」
『あのさー? あたしさぁ……あんたみたいな優男って嫌いなんだよねー。しかもあんたプレイボーイって感じだし、好みじゃなーい。帰れー』
「やさっ……ぷれ…………ご、誤解だよ、私はそんな男じゃない」
『あたしの好みは年下ー、生まれ変わってやり直せー』
ベルフェゴールは草の上にごろんと寝転がり、腹を見せる。その警戒心の無さは慢心ゆえなのか、何も考えていないだけなのか。過去に戦った記憶が蘇る、あの強さなら慢心していてもおかしくはないと。
『この人年下ですよ、貴女何歳ですか』
『……ってかあんた、前戦ったよな』
ベルフェゴールの目が見開かれる。突然の鋭い紫の眼光はその場にいたベルゼブブ以外の者を萎縮させた。
『あー、思い出してきた。腹減って、外出たら天使共とお前がいて……シャイセ。あー嫌なこと思い出した、もうあたし寝る、決めた、寝る』
『待ちなさい、そのまま寝たら貴女消えますよ?』
『…………もー息するのもめんどくさいんすよ、消えるならそれでもいいっす』
『ベルフェゴールに頼るのは諦めた方が賢明なようですよ? 国王さん』
僕が前にかけたあの暗示はもう効いていないのだろうか、なら、もう一度かければいいのか?
『あー、そぉーそー、蜘蛛男。あんたに聞きたいことあんのよね』
「私に? 何かな」
『あん時さ、子供いたでしょ? キレーな目ぇしたかぁいい男の子、あの子連れてきたら、お願いきくかどうか考えてやってもいいよん』
「子供……? 子供か。姫子、ではない……よな?」
ウェナトリアは後ろを向いて、背負った姫子をベルフェゴールに見せる。
『男ってんでしょぉ? ドゥム、あたしの話聞いてたぁ?』
『どんな子か言いなさい、この小児性愛者』
『なんすか、かぁーいい子可愛がって何が悪いんすか』
『悪いとは言ってませんよ? 悪魔が悪かったからって何だって話ですしね。攫うでも犯すでも喰らうでもお好きにどうぞ』
ベルゼブブの言い草には流石にベルフェゴールもたじろいで、頭を振って話を戻した。
『可愛い男の子サイコー、ベルゼブブ様と違ってあたしは愛でるだけで乱暴しねぇーっすよ。えっと……何だったかな、ほんっとキレーな目してた。虹色みたいな……あぁいや虹より沢山の色あって、アレ見てたらなんか、ふわっときて……そう、麻薬やった時みたいな感じで…………あー、そうだ、気がついたら穴の底。んで、どうでもよくなって、寝た』
『虹色? そんな虫いますよね、この島には』
「翅なら虹色に光る者もいるが、目はいないぞ。そもそもあの場にいたのは私と姫子とロージーに、天使が二人とヘルシャフト君だけだ。男の子ならヘルシャフト君かとも思ったが、黒目だしな」
『ふぅん……』
ベルゼブブは僕の髪をかきあげ、右眼を露出させる。もう片方の手は僕の首を掴み、ベルフェゴールの前に突き出した。
その乱暴なやり方に意義を唱えるも無視された。
『コレですよね』
『うっお……これこれ、流石っすねベルゼブブ様。あー、この子この子。キレーな目……あー……いいなぁ、これ』
「やっぱりヘルシャフト君だったのか? そうか、右眼を隠していたのは……それが理由か」
ベルフェゴールは両手で僕の顔を挟み、恍惚とした目で見つめる。
目が綺麗、なんて普通なら喜ぶ言葉だ。だが僕は過去に目を抉り取られた経験がある、その言葉も表情も、恐怖の対象でしかない。
「やっ……やめてくださいよ」
『いやぁイイ、イイなぁ、かぁーいい。この子くれるならお願い聞いてあげてもいいよ?』
『ダメです、私の食事を盗る気なら貴女を前菜にしますよ』
『この子喰う気すか? 冗談じゃないっすよ、こーんな可愛いのに勿体ない。この子はあたしと一生ダラダラ過ごすんですぅー』
『ダメに決まって……ダラダラ? ふむ、ストレスのない環境なら肉は上質に……いえ、それでは魔力が鍛えられませんね。ううん、どうしましょう』
強力な悪魔二人に挟まれるなど生きた心地がしない。僕はアルに視線を送って助けを求めた。
『……あの、ベルゼブブ様、ベルフェゴール様。ヘルは物ではありませんよ……その、もう少し、丁重に扱って頂けませんか』
アルもこの二人には下手に出るしかない、辛い役を任せてしまった。
『てーねーにしてるって。ねー、少年』
『……それ以上ベルフェゴールの横にいたら、だらけ癖が伝染りますよ』
「えっ……」
『うーつぅーりーまーせぇーんー』
「あの、とりあえず離してください」
『だめー、君はあたしの』
ベルフェゴールは僕を抱き締めて起き上がる。丁度僕の顔の位置に胸が来て、恥ずかしさと息苦しさで顔が熱くなる。
『で? 蜘蛛男。あたしに何してほしーの?』
「……『堕落の呪』をもう一度お願いしたい。できれば国民は影響外に、侵略者だけに。可能だろうか?」
『国民と侵略者見分けんのはメンドー、けど外から来るのにかけるのならヨユー。あんたらは海外旅行できねーよ』
「する気もないさ」
『んじゃ、交渉成立。悪魔との契約……破ったら、死ぬより怖いよ?』
ベルフェゴールはウェナトリアと指を絡め、上下に振ってニヤリと笑った。ウェナトリアの右腕に紫の炎がまとわりつき、彼の皮膚に焼き付く。その火傷はベルフェゴールの刺青と同じ蔦模様だった。
「……死ぬより怖い、か。上等だ、国を守るにはそれぐらいの気概が必要だ」
『ふーん? 強がるじゃん、いいんじゃない? 優男の割には点数高いよ、おっさん』
「おっさ……!? いや、私はまだ、そんな」
おっさんと呼ばれたことにショックを受けているようだが、ウェナトリアは忘れているのか、それとも気がついていないのか。
この契約の代償は僕で、僕がこの島に留まることは出来ないのだからこの契約は反故になるという事に。
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さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。
やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。
一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。
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