46 / 51
episode3☆ぬいと、歌ってみた
3-p13 音楽室とぬい
しおりを挟む
高島学園中学部。昼休みの音楽室は最近やたら賑わっている。
毎年この時期、多少はバッキングが弾けるようになった2年生にギターブームが巻き起こる。秋の風物詩である。
コーイチローに連れられてヒデアキも音楽室にいた。ギターを1台ずつ抱えて、2人で窓の近くの席に陣取った。
女子の華やかなグループが動画を撮っている。SNSにアップするのだろう。ギターの巧い子がいて、そのキレイな伴奏で踊りながら歌っている。
ヒデアキは気後れしてしまったが、コーイチローは、
「おおお。なんか、良いな」
と素直に興味を示していた。
「テスト、何歌う?」
ヒデアキが尋ねると、
「きんぐぬー」
とサラリと答えが返ってきた。
「弾き語りで!?」
「おう!」
コーイチローがギターをじゃかじゃかと掻き鳴らし、誰でも知ってる有名な曲のサビを大声で歌った。なかなかアジのある歌い方だ。
だがすぐにやめた。2種類のコードを交互に押さえていただけの、適当すぎる伴奏の手も止まった。
「難しいな。別のにしよ」
すみっこの棚にあった歌の本をめくって、コウイチローは、
「あ。これにしよ」
ともう一度ギターを構えて歌い始めた。
「♪あ~る~はれた ひ~る~さがり い~ち~ば~へつづ~くみち~」
伴奏は適当だが、歌は無駄に巧かった。
ヒデアキは微妙な顔をした。
「なんで、わざわざそんな……子牛を売る歌を……」
少し離れた場所で女子たちがクスクスと笑っている。
コーイチローは急にキリッとしてヒデアキを見た。
「難しいの弾けないから。テストは別のアプローチで、アピールしていきたい」
「痛いって言われそう」
「痛みを恐れていては、可もなく不可もない人生しか送れないのだ」
タレントのオーディションでも受けるような意気込みだ。
「ヒデはどーすんだよ? バンドやってる人の弟だろ」
コーイチローが催促するようにギターを掻き鳴らした。
「うーん……じゃあ僕もドナドナでいいかな」
「あ。パクった。オレの前に歌うなよ!」
「順番って、クジ引きだっけ? ……あ。『星に願いを』って、職員室のオルゴール時計の曲だ」
歌の本を見てワイワイ言ってるところへ、高瀬先生が「音楽準備室」と呼ばれる隣室の扉から出てきた。
「お。野球部も、今日はギターだ」
彼女は吹奏楽部の副顧問を担当しているから、よく音楽室に出入りしている。
「センセ―、ギター弾けるの?」
「人並みにね」
「人並みって、どれぐらい?」
コーイチローが無邪気に尋ねている隣で、ヒデアキは習ったコードを爪弾いて首を傾げた。
「これ、音、ずれてない?」
家でよく聞く高さと、違う感じがする。
1番上と1番下の弦を何度も弾いているヒデアキの姿を、高瀬先生が微笑ましげに見ていた。
「なんか、懐かしいな。紫藤君のお兄さんがさ、中2の頃、放課後よく来てたのよ。ギターのチューニングに。こんないっぱいあるのを、時間かけて全部直してた。音ズレてると自分が気持ち悪いからって。
そのうちバンド組んで、何人かで来るようになったけどね」
***
碧生が廊下をトコトコ歩いてシンタローの部屋の前に来た。
「シンタロー。メシ食わないなら、冷蔵庫入れとくか?」
「ん-」
扉の向こうから聞こえるのは、気の抜けた返事だ。出てくる気配がない。
「どうした。具合でも悪いのか」
碧生は空飛ぶタオルをフワフワ操って扉を開けた。
シンタローはラグに座って、服を畳んでトランクに入れていた。
碧生が不安そうな顔をした。
「もしかして……出て行くのか」
毎年この時期、多少はバッキングが弾けるようになった2年生にギターブームが巻き起こる。秋の風物詩である。
コーイチローに連れられてヒデアキも音楽室にいた。ギターを1台ずつ抱えて、2人で窓の近くの席に陣取った。
女子の華やかなグループが動画を撮っている。SNSにアップするのだろう。ギターの巧い子がいて、そのキレイな伴奏で踊りながら歌っている。
ヒデアキは気後れしてしまったが、コーイチローは、
「おおお。なんか、良いな」
と素直に興味を示していた。
「テスト、何歌う?」
ヒデアキが尋ねると、
「きんぐぬー」
とサラリと答えが返ってきた。
「弾き語りで!?」
「おう!」
コーイチローがギターをじゃかじゃかと掻き鳴らし、誰でも知ってる有名な曲のサビを大声で歌った。なかなかアジのある歌い方だ。
だがすぐにやめた。2種類のコードを交互に押さえていただけの、適当すぎる伴奏の手も止まった。
「難しいな。別のにしよ」
すみっこの棚にあった歌の本をめくって、コウイチローは、
「あ。これにしよ」
ともう一度ギターを構えて歌い始めた。
「♪あ~る~はれた ひ~る~さがり い~ち~ば~へつづ~くみち~」
伴奏は適当だが、歌は無駄に巧かった。
ヒデアキは微妙な顔をした。
「なんで、わざわざそんな……子牛を売る歌を……」
少し離れた場所で女子たちがクスクスと笑っている。
コーイチローは急にキリッとしてヒデアキを見た。
「難しいの弾けないから。テストは別のアプローチで、アピールしていきたい」
「痛いって言われそう」
「痛みを恐れていては、可もなく不可もない人生しか送れないのだ」
タレントのオーディションでも受けるような意気込みだ。
「ヒデはどーすんだよ? バンドやってる人の弟だろ」
コーイチローが催促するようにギターを掻き鳴らした。
「うーん……じゃあ僕もドナドナでいいかな」
「あ。パクった。オレの前に歌うなよ!」
「順番って、クジ引きだっけ? ……あ。『星に願いを』って、職員室のオルゴール時計の曲だ」
歌の本を見てワイワイ言ってるところへ、高瀬先生が「音楽準備室」と呼ばれる隣室の扉から出てきた。
「お。野球部も、今日はギターだ」
彼女は吹奏楽部の副顧問を担当しているから、よく音楽室に出入りしている。
「センセ―、ギター弾けるの?」
「人並みにね」
「人並みって、どれぐらい?」
コーイチローが無邪気に尋ねている隣で、ヒデアキは習ったコードを爪弾いて首を傾げた。
「これ、音、ずれてない?」
家でよく聞く高さと、違う感じがする。
1番上と1番下の弦を何度も弾いているヒデアキの姿を、高瀬先生が微笑ましげに見ていた。
「なんか、懐かしいな。紫藤君のお兄さんがさ、中2の頃、放課後よく来てたのよ。ギターのチューニングに。こんないっぱいあるのを、時間かけて全部直してた。音ズレてると自分が気持ち悪いからって。
そのうちバンド組んで、何人かで来るようになったけどね」
***
碧生が廊下をトコトコ歩いてシンタローの部屋の前に来た。
「シンタロー。メシ食わないなら、冷蔵庫入れとくか?」
「ん-」
扉の向こうから聞こえるのは、気の抜けた返事だ。出てくる気配がない。
「どうした。具合でも悪いのか」
碧生は空飛ぶタオルをフワフワ操って扉を開けた。
シンタローはラグに座って、服を畳んでトランクに入れていた。
碧生が不安そうな顔をした。
「もしかして……出て行くのか」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
アーコレードへようこそ
松穂
ライト文芸
洋食レストラン『アーコレード(Accolade)』慧徳学園前店のひよっこ店長、水奈瀬葵。
楽しいスタッフや温かいお客様に囲まれて毎日大忙し。
やっと軌道に乗り始めたこの時期、突然のマネージャー交代?
異名サイボーグの新任上司とは?
葵の抱える過去の傷とは?
変化する日常と動き出す人間模様。
二人の間にめでたく恋情は芽生えるのか?
どこか懐かしくて最高に美味しい洋食料理とご一緒に、一読いかがですか。
※ 完結いたしました。ありがとうございました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
40歳を過ぎても女性の手を繋いだことのない男性を私が守るのですか!?
鈴木トモヒロ
ライト文芸
実際にTVに出た人を見て、小説を書こうと思いました。
60代の男性。
愛した人は、若く病で亡くなったそうだ。
それ以降、その1人の女性だけを愛して時を過ごす。
その姿に少し感動し、光を当てたかった。
純粋に1人の女性を愛し続ける男性を少なからず私は知っています。
また、結婚したくても出来なかった男性の話も聞いたことがあります。
フィクションとして
「40歳を過ぎても女性の手を繋いだことのない男性を私が守るのですか!?」を書いてみたいと思いました。
若い女性を主人公に、男性とは違う視点を想像しながら文章を書いてみたいと思います。
どんなストーリーになるかは...
わたしも楽しみなところです。
スカートとスラックスの境界線〜葉山瑞希がスカートを着る理由〜
さわな
ライト文芸
高等部の始業式当日、透矢は小学校の同級生だった瑞希と小五以来の再会を果たす。何故か瑞希はスカートを着用し、女の身なりをしていた。昔、いじめっ子から守ってもらった過去をきっかけに瑞希は透矢を慕うようになるが、透矢はなかなか瑞希を受け入れられない。
瑞希は男? 女? スカートを履く理由は……?
性別不明の高校生・葉山瑞希と、ごく普通の男子高校生・新井透矢が自分らしい生き方を模索するボーイミーツボーイ青春物語。
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる