76 / 112
空の王者と味惑の魔人
六
しおりを挟む
ドーン国のカルの街で育った青年、ゴンはドーン国が領主の独断でフェルトに併合されるのをただ黙って見ているしかなかった。ハクトウも共にフェルトになり、領主が何かを渡されてフェルトの要求を飲んだのは見え見えだった。
ゴンはフェルトに併合された後早くからドーン人だけで地下組織に所属し、さらに西からやって来たハンター達と親交を深め、ライフル銃も手に入れて使い方を教わった。射撃の腕も訓練を重ねるうちに上達した。
黄金が見つかってゴン達は当然のごとく動き出した。
(この土地はドーンの、俺達ドーン人の物だ。必ず取り返してやる)
ゴンは革の鎧を着て、他の者達と同じように腰にライフル銃を差し、馬の鞍を手でしっかりと点検して馬に跨った。内海の向こう側のキャンプにはドーン人の集団が武装して今まさに出発する所だった。
リーダーも馬に跨り、腕を上げて叫んだ。
「よし! 行くぞ! 野党達には先を越されたが、俺達も今準備が完了した! 俺達が黄金を手に入れ、フェルトからこの土地を取り返す!」
「おお!」
馬が一斉に走り出し、砂埃が舞い上がる。内海の向こうに広がる山の麓の戦場に向かって、晴天の下、樹木がまばらに生えている荒野をドーン人の一団が疾走し、馬の走る重い音が辺りに響き渡る。
(フェルトの奴等より俺達の方が武器も上だ。あいつらはまだ弓しか持っていない蛮族共だ。全員銃を持っているし本気になった俺達が負けるはずが無い)
しばらく馬で走り、木が途切れた開けた草原に出ると、やがて風を切るゴオオオという音が後ろから聞こえて来るのに気付いた。
「ん? 何だ?」
ゴンが後ろを見ると、大きな帆船が三隻、地上の樹木を揺らしながら空を飛んで来た。
「な……何だありゃあああ!?」
船が自分達の頭上まで来ると、ドーン人達のマントや草が勢いよく舞い上がった。鎖で繋がれた三隻の船が、風を受けて空を飛んでいる。その圧倒的な光景に船の陰に入ったゴンは開いた口が塞がらない。船の旗にはファルブル家の紋章が入り、若い男と髭の男が船の先頭で酒瓶を持ってはしゃいでいた。
「うわははは! どーだ俺のアイデアは!! これで黄金までひとっ飛びだぜ!!」
「こりゃあいいですねえ! つまみが転がっちまうのが難点ですが!!」
左後ろの船で両腕を組んで立っている黒髪の女性兵士が見えた。
「あ。あれは……リン・ファルブル!」
独特の戦術で頭角を現したリン・ファルブルは元ドーン国の人間にとって倒さなければならない相手である。リンはゴン達にちらりと一瞥をくれただけで視線を前方に戻し、風で揺れる髪などお構いなしに叫んだ。
「もうすぐ麓だ! あの戦場は無視し、このまま入口まで突っ込んで入口周辺を素早く確保する!総員戦闘準備!! 手筈通りにやれ!」
「はっ!!」
船が通過すると、風圧をくらったせいで馬達が興奮してまともに進めず、ドーン人達はその場に留まらざるを得なかった。
「何だあの技術は……あんなのに勝てる訳がねえ」
意気消沈する兵士達をリーダーが引き締めた。
「いや……諦めるのは早い。奴等は目立つ。周りの者全員を敵に回すだろう。俺達は最後に黄金を手に入れればそれでいいんだ。馬が落ち着いたら行くぞ。奴等に気を取られている敵を後ろから攻撃して突破する。奴等を利用するんだ」
ゴンはフェルトに併合された後早くからドーン人だけで地下組織に所属し、さらに西からやって来たハンター達と親交を深め、ライフル銃も手に入れて使い方を教わった。射撃の腕も訓練を重ねるうちに上達した。
黄金が見つかってゴン達は当然のごとく動き出した。
(この土地はドーンの、俺達ドーン人の物だ。必ず取り返してやる)
ゴンは革の鎧を着て、他の者達と同じように腰にライフル銃を差し、馬の鞍を手でしっかりと点検して馬に跨った。内海の向こう側のキャンプにはドーン人の集団が武装して今まさに出発する所だった。
リーダーも馬に跨り、腕を上げて叫んだ。
「よし! 行くぞ! 野党達には先を越されたが、俺達も今準備が完了した! 俺達が黄金を手に入れ、フェルトからこの土地を取り返す!」
「おお!」
馬が一斉に走り出し、砂埃が舞い上がる。内海の向こうに広がる山の麓の戦場に向かって、晴天の下、樹木がまばらに生えている荒野をドーン人の一団が疾走し、馬の走る重い音が辺りに響き渡る。
(フェルトの奴等より俺達の方が武器も上だ。あいつらはまだ弓しか持っていない蛮族共だ。全員銃を持っているし本気になった俺達が負けるはずが無い)
しばらく馬で走り、木が途切れた開けた草原に出ると、やがて風を切るゴオオオという音が後ろから聞こえて来るのに気付いた。
「ん? 何だ?」
ゴンが後ろを見ると、大きな帆船が三隻、地上の樹木を揺らしながら空を飛んで来た。
「な……何だありゃあああ!?」
船が自分達の頭上まで来ると、ドーン人達のマントや草が勢いよく舞い上がった。鎖で繋がれた三隻の船が、風を受けて空を飛んでいる。その圧倒的な光景に船の陰に入ったゴンは開いた口が塞がらない。船の旗にはファルブル家の紋章が入り、若い男と髭の男が船の先頭で酒瓶を持ってはしゃいでいた。
「うわははは! どーだ俺のアイデアは!! これで黄金までひとっ飛びだぜ!!」
「こりゃあいいですねえ! つまみが転がっちまうのが難点ですが!!」
左後ろの船で両腕を組んで立っている黒髪の女性兵士が見えた。
「あ。あれは……リン・ファルブル!」
独特の戦術で頭角を現したリン・ファルブルは元ドーン国の人間にとって倒さなければならない相手である。リンはゴン達にちらりと一瞥をくれただけで視線を前方に戻し、風で揺れる髪などお構いなしに叫んだ。
「もうすぐ麓だ! あの戦場は無視し、このまま入口まで突っ込んで入口周辺を素早く確保する!総員戦闘準備!! 手筈通りにやれ!」
「はっ!!」
船が通過すると、風圧をくらったせいで馬達が興奮してまともに進めず、ドーン人達はその場に留まらざるを得なかった。
「何だあの技術は……あんなのに勝てる訳がねえ」
意気消沈する兵士達をリーダーが引き締めた。
「いや……諦めるのは早い。奴等は目立つ。周りの者全員を敵に回すだろう。俺達は最後に黄金を手に入れればそれでいいんだ。馬が落ち着いたら行くぞ。奴等に気を取られている敵を後ろから攻撃して突破する。奴等を利用するんだ」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。
音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。
その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。
16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。
後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】「冤罪で処刑された公爵令嬢はタイムリープする〜二度目の人生は殺(や)られる前に殺(や)ってやりますわ!」
まほりろ
恋愛
【完結しました】
アリシア・フォスターは第一王子の婚約者だった。
だが卒業パーティで第一王子とその仲間たちに冤罪をかけられ、弁解することも許されず、その場で斬り殺されてしまう。
気がつけば、アリシアは十歳の誕生日までタイムリープしていた。
「二度目の人生は|殺《や》られる前に|殺《や》ってやりますわ!」
アリシアはやり直す前の人生で、自分を殺した者たちへの復讐を誓う。
敵は第一王子のスタン、男爵令嬢のゲレ、義弟(いとこ)のルーウィー、騎士団長の息子のジェイ、宰相の息子のカスパーの五人。
アリシアは父親と信頼のおけるメイドを仲間につけ、一人づつ確実に報復していく。
前回の人生では出会うことのなかった隣国の第三皇子に好意を持たれ……。
☆
※ざまぁ有り(死ネタ有り)
※虫を潰すように、さくさく敵を抹殺していきます。
※ヒロインのパパは味方です。
※他サイトにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
※本編1〜14話。タイムリープしたヒロインが、タイムリープする前の人生で自分を殺した相手を、ぷちぷちと潰していく話です。
※番外編15〜26話。タイムリープする前の時間軸で、娘を殺された公爵が、娘を殺した相手を捻り潰していく話です。
2022年3月8日HOTランキング7位! ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる