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空の王者と味惑の魔人
二
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二代目の王、ジン・ファルブルが繁栄させた折に出現した王都ビルギッタの繁華街では、夜になると酒と女を楽しむ者で溢れた。
シャロン・ファルブルはそんな所では楽しむつもりは毛頭無かったが、仕方なく護衛の兵士を伴って夜の繁華街を訪れた。ガス灯とランタンの明かりが街を照らし、下には影を強く落としている。派手な服装をした女達が店の前に立って煙草を吸いながら、場違いなシャロン達をじろじろと見ていた。
「久しぶりに来たけどやっぱり苦手ねこの雰囲気は」
シャロンが訪れた店の入り口の前で、スキンヘッドのいかつい男が腕を組んで立っていた。
「こんばんはシャロン様」
「ユリアンがここにいるって聞いたんだけど」
「はい。ご案内いたします」
「ありがとう」
「武器を預からせて頂きたいのですが」
「悪いけどすぐに帰るから」
「……分かりました」
シャロン達は店の中に入り、受付を通り過ぎて天井から垂れ下がったジャラジャラした暖簾を手で掻き分けて大きな部屋に入った。すぐに楽器を演奏している大きな音、そして若い男と女達の笑い声が聞こえて来た。カウンターで酒を楽しむ者達、ステージの前のテーブルで酒を楽しむ者達がチラリとシャロンと兵士達を見たが特に気にする者はいなかった。シャロンは辺りを見回しながら奥の方へと進んで行き、目当ての男を見つけて声をかけた。
「ユリアン! ユリアン……あら」
「よォシャロン! こっちだこっち!! あははは! いいぞリンダ!」
側頭部を刈り、中央の黒髪をオールバックにした男が酒瓶を持って奥のソファに足を広げて座り、シャロンに向かってグラスを持った手を上げていた。白いシャツを胸元まで開き、白のストライプが入った黒いスーツを着ている。店の中では、水槽で泳ぐ魚のように空中をスイスイと泳ぐ女達がユリアンの近くを飛び回っていた。
「相変わらずチャラいわねあんたは」
「あんたがお堅いだけだろ! ほら一杯飲みなよ」
ユリアンはそう言うと酒をグラスに注ぎ手を離した。すると酒の入ったグラスはひとりでにふわふわとシャロンのほうに飛んで来た。
「どうも」
シャロンがグラスをキャッチして少し酒を飲むと、黒い革の服を着た女がユリアンの方に歩いて来た。
「ユリアン!」
「ようアナーキー!」
アナーキーと呼ばれた女はユリアンの隣にドサッと座ってユリアンの首に腕を回した。
「今日も素敵ねぇ」
「よく言われる。お前も飛ぶか?」
「うん!」
ユリアンはアナーキーの肩に手を回すとにっこり笑い、もう片方の腕を膝の裏にもぐらせ、アナーキーをお姫様抱っこすると上へ押し上げた。するとアナーキーはふわふわと浮き始め、自由に店内を飛び始めた。空中で振り返るとユリアンとシャロンに向かって手を振っている。二人は手を振り返した。
「楽しい魔法ね」
「そらどうも」
ユリアン・ファルブルが二十歳になった時、ファルブル家とその他一部のものにしか知られていない秘伝の儀式を行った。彼は城の離れの塔で魔女に出会い、触れた物を浮かせる魔法を手に入れた。そしてそれ以来ユリアンは夜の街でまさに文字通り飛び回っていたのだった。
「ジンが呼んでたわよ」
「オヤジ殿が?」
「仕事よ」
「はっ! ウソだろ!? オヤジ殿が俺に仕事を頼む訳ねえだろ!」
「本当よ。あたしもあんたが適任だと思ったから呼びに来たの」
ユリアンは肩をすくめた。
「マジ? そんな仕事あるか? ……ナンパとか?」
「仕事じゃないでしょそんなの」
「ふーん。ま、いいや。話だけでも聞いてみっか」
ユリアンは酒を飲むと指を鳴らした。すると空中で平泳ぎをしていた女達の高度が下がって来て、やがて全員が地面に着地したのを見るとユリアンはポケットに入れていた札束をスキンヘッドの男に渡した。
「じゃあまたな」
「ご利用ありがとうございました」
店に出るとユリアンは手を出した。
「ほら」
「ん?」
「手、出して。兵士のあんた達も」
兵士達は見合わせてから手を出した。ユリアンが皆の手をまとめて掴むと笑った。
「スカート押さえてなよシャロン」
「え?」
次の瞬間王宮へ向かって夜の空を飛び上がった。
「うひゃああああ!!」
「ぎゃあああ!!」
シャロンと兵士達の悲鳴が地上に響き、街の者が空を見上げてシャロン達を指差したりしている。
「あははははは! 楽しいだろ!!」
そしてユリアンは夜空の中で皆の手を離した。
「ちょっと嘘! 落ちるぅー! 死ぬ! 死ぬって!!」
「大丈夫だよ落ちねーから!!」
シャロン達はユリアンの魔力に引っ張られるように夜の空を飛んで行った。
シャロン・ファルブルはそんな所では楽しむつもりは毛頭無かったが、仕方なく護衛の兵士を伴って夜の繁華街を訪れた。ガス灯とランタンの明かりが街を照らし、下には影を強く落としている。派手な服装をした女達が店の前に立って煙草を吸いながら、場違いなシャロン達をじろじろと見ていた。
「久しぶりに来たけどやっぱり苦手ねこの雰囲気は」
シャロンが訪れた店の入り口の前で、スキンヘッドのいかつい男が腕を組んで立っていた。
「こんばんはシャロン様」
「ユリアンがここにいるって聞いたんだけど」
「はい。ご案内いたします」
「ありがとう」
「武器を預からせて頂きたいのですが」
「悪いけどすぐに帰るから」
「……分かりました」
シャロン達は店の中に入り、受付を通り過ぎて天井から垂れ下がったジャラジャラした暖簾を手で掻き分けて大きな部屋に入った。すぐに楽器を演奏している大きな音、そして若い男と女達の笑い声が聞こえて来た。カウンターで酒を楽しむ者達、ステージの前のテーブルで酒を楽しむ者達がチラリとシャロンと兵士達を見たが特に気にする者はいなかった。シャロンは辺りを見回しながら奥の方へと進んで行き、目当ての男を見つけて声をかけた。
「ユリアン! ユリアン……あら」
「よォシャロン! こっちだこっち!! あははは! いいぞリンダ!」
側頭部を刈り、中央の黒髪をオールバックにした男が酒瓶を持って奥のソファに足を広げて座り、シャロンに向かってグラスを持った手を上げていた。白いシャツを胸元まで開き、白のストライプが入った黒いスーツを着ている。店の中では、水槽で泳ぐ魚のように空中をスイスイと泳ぐ女達がユリアンの近くを飛び回っていた。
「相変わらずチャラいわねあんたは」
「あんたがお堅いだけだろ! ほら一杯飲みなよ」
ユリアンはそう言うと酒をグラスに注ぎ手を離した。すると酒の入ったグラスはひとりでにふわふわとシャロンのほうに飛んで来た。
「どうも」
シャロンがグラスをキャッチして少し酒を飲むと、黒い革の服を着た女がユリアンの方に歩いて来た。
「ユリアン!」
「ようアナーキー!」
アナーキーと呼ばれた女はユリアンの隣にドサッと座ってユリアンの首に腕を回した。
「今日も素敵ねぇ」
「よく言われる。お前も飛ぶか?」
「うん!」
ユリアンはアナーキーの肩に手を回すとにっこり笑い、もう片方の腕を膝の裏にもぐらせ、アナーキーをお姫様抱っこすると上へ押し上げた。するとアナーキーはふわふわと浮き始め、自由に店内を飛び始めた。空中で振り返るとユリアンとシャロンに向かって手を振っている。二人は手を振り返した。
「楽しい魔法ね」
「そらどうも」
ユリアン・ファルブルが二十歳になった時、ファルブル家とその他一部のものにしか知られていない秘伝の儀式を行った。彼は城の離れの塔で魔女に出会い、触れた物を浮かせる魔法を手に入れた。そしてそれ以来ユリアンは夜の街でまさに文字通り飛び回っていたのだった。
「ジンが呼んでたわよ」
「オヤジ殿が?」
「仕事よ」
「はっ! ウソだろ!? オヤジ殿が俺に仕事を頼む訳ねえだろ!」
「本当よ。あたしもあんたが適任だと思ったから呼びに来たの」
ユリアンは肩をすくめた。
「マジ? そんな仕事あるか? ……ナンパとか?」
「仕事じゃないでしょそんなの」
「ふーん。ま、いいや。話だけでも聞いてみっか」
ユリアンは酒を飲むと指を鳴らした。すると空中で平泳ぎをしていた女達の高度が下がって来て、やがて全員が地面に着地したのを見るとユリアンはポケットに入れていた札束をスキンヘッドの男に渡した。
「じゃあまたな」
「ご利用ありがとうございました」
店に出るとユリアンは手を出した。
「ほら」
「ん?」
「手、出して。兵士のあんた達も」
兵士達は見合わせてから手を出した。ユリアンが皆の手をまとめて掴むと笑った。
「スカート押さえてなよシャロン」
「え?」
次の瞬間王宮へ向かって夜の空を飛び上がった。
「うひゃああああ!!」
「ぎゃあああ!!」
シャロンと兵士達の悲鳴が地上に響き、街の者が空を見上げてシャロン達を指差したりしている。
「あははははは! 楽しいだろ!!」
そしてユリアンは夜空の中で皆の手を離した。
「ちょっと嘘! 落ちるぅー! 死ぬ! 死ぬって!!」
「大丈夫だよ落ちねーから!!」
シャロン達はユリアンの魔力に引っ張られるように夜の空を飛んで行った。
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