上 下
2 / 112
大根王子Ⅰ

しおりを挟む
 某日未明。

「仕事が入ったって?」
 薄暗い部屋に黒いフード付きのマントを羽織った男が静かに入ってきた。中にはひとり事務机で仕事をしている男がいる。事務をしている男の腕にはサソリの入れ墨が入っている。サソリの男は、仕入れた情報が書かれている書類をフードの男に渡した。
「やあアサヒ。今度はデカい仕事だぞ。ファルブル家のゴタゴタから始まった話なんだが、王の暗殺を企ててる連中がわかったんだ」
「王の暗殺?」
 アサヒの表情はフードに隠れて伺い知ることはできない。
「ああ。話はこうだ。ファルブル家の長男アルベルトは降魔の儀式で役に立たない魔法を継承し、失望した王に追放された。その後王は跡継ぎを得るため昔作った隠し子グレイを探し出して連れて来たんだが、こいつもまた王家には相応しくない魔法をもらっちまったんだ。そして王はこいつも追放しちまったんだがこれが悪手だったんだな」
「グレイの魔法か?」
「その通り。グレイの魔法は当時バカにされていたんだが実は凶悪な魔法だったらしい。グレイは自分の才能に気付いていて、暗殺や強盗で生計を立てるようになった。そして大きくなったグレイがいよいよ王と感動のご対面ってわけだ。決行は三日後の夜だ」
「ふうん。で、それがどうした? 捨てたガキに暗殺されようが王の因果応報ってやつだろ。放っておけばいいんじゃないのか?」
「ところが首謀者はグレイじゃない。裏で手を引いているのはウォーケンだ」
「確かか?」
「間違いないだろう。証拠もある。奴とグレイのやり取りが書かれた手紙だ。王がヘルデ奪還の功績をねぎらうために王宮にウォーケンを招くんだが、それに乗じてグレイを使って王を暗殺するつもりらしい。そしてそのまま領土を乗っ取るつもりでいる。
 アサヒ、あんたの仕事は王の暗殺の阻止だ。もう間に合わないかもしれない。アルベルト王子ももう王都に向かっている。もし間に合えば王にウォーケンの企みを伝え、ウォーケンを失脚させてほしいんだ。奴には政治の舞台から消えてもらう。これを王に渡せば話を聞いてくれるはずだ」
 アサヒはサソリの形をしたバッジを受け取った。
「あんた王とも繋がってたのか」
「正義の味方かどうかは目下考え中だ」
 アサヒは少し笑みをこぼし、しばし考えてから口を開いた。
「ヘルデの件については何か分かっているのか?」
「ヘルデを襲ったのはグレイ、そして手を引いていたのはやはりウォーケンだ」
「なんだと?」
「ヘルデは王都に最も近く、石塀でマス目状に区切られた自由都市だった。正攻法では落とすのは難しい。何をしたかはわからんがグレイの魔法で都市を破壊し、その後海賊に占領されたヘルデをウォーケンが奪還した。そしてそのままウォーケンは治安維持を名目としてヘルデの領主となったんだ」
「王都を狙って自分の都合で野盗と海賊を襲わせたってのか」
「もはやウォーケンには迷いはない。グレイに王を暗殺させ、奴の手下がゴロツキを雇って街を破壊させる、自分は王宮に兵を待機させて高みの見物をしてから英雄様が出陣て手筈になっている。とんでもねえ悪党だよ奴は」
 アサヒはサソリをまっすぐ見つめた。
「王が無事ならウォーケンも大人しく引き下がるだろう。グレイさえ止めれば良さそうだな」
「そうだ。王の雨雲を操る力はこの国の発展にはまだまだ必要だ。王さえ生きてりゃいい」
「わかった」
「今回は王宮なんだ。あまり無茶はするなよ」
「グレイを仕留めるのは俺だ。報酬たんまり用意しとけよ」
 サソリは立ち去ろうとしたアサヒに声をかけた。
「ああそれから今回はアルベルト王子が味方だ。うまくやってくれ。書類に王子の魔法についても書いてある」
 書類に目を通しながらアサヒが答えた。
「ああ、顔も知ってるし何とかなるだろう。ん、なんだこりゃ? 大根?」
「ああ。大根を刃に変える魔法なんだそうだ」
 アサヒは何かを思い出したように一人でうなずいた。
「ああそういうことか。なるほどね。こいつはすげえ魔法だな」

 そして時は遡る……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「嫌よ、触れないで!!」  大金で買われた花嫁ローザリンデは、初夜の花婿レオナルドを拒んだ。  彼女には前世の記憶があり、その人生で夫レオナルドにより殺されている。生まれた我が子を抱くことも許されず、離れで一人寂しく死んだ。その過去を覚えたまま、私は結婚式の最中に戻っていた。  愛していないなら、私に触れないで。あなたは私を殺したのよ。この世に神様なんていなかったのだわ。こんな過酷な過去に私を戻したんだもの。嘆く私は知らなかった。記憶を持って戻ったのは、私だけではなかったのだと――。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう ※2022/05/13  第10回ネット小説大賞、一次選考通過 ※2022/01/20  小説家になろう、恋愛日間22位 ※2022/01/21  カクヨム、恋愛週間18位 ※2022/01/20  アルファポリス、HOT10位 ※2022/01/16  エブリスタ、恋愛トレンド43位

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

処理中です...