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第二章 バスケ部からの逃亡者

2-6 初対面ですけどお慕いしてます

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【鳴海千尋 視点】
 姫川さんは村雨さんに事情を説明した。いま天文部の部室には姫川さん、折笠さん、村雨さん、そしてわたしこと鳴海千尋がいる。

 天文部に所属しながら格闘ゲームの練習をして、一一月の大会GEBOゲボに出場して実績をつくることがわたしたちの目標だ。すべてはeスポーツ部発足のために。

「そうだったのですね。わたくしはお姉さまへのご恩をかえすため三千世界のどこまでもついていきます!」

「それはあたしへの愛の言葉と受け取っていいのかしら。いやだわ。積極的ね。まだ知り合って日が浅いのに」

 デジャヴ……わたしのときと同じこといってる。
「はい! 受け取ってください」

 村雨さんのこの対応は姫川さんにとっても望外の驚きだったようだ。

「お互いコンプライアンスに留意しましょうね」姫川さんは村雨さんの瞳を直視した。

「はい! お姉さま」

「大丈夫かしら。このコたちの思考回路は」
 折笠さんが髪の房をもてあそびながら感想をいう。わたしは折笠さんの思考回路も心配なのだが……。


「おれだ。入るぞ」
 そのタイミングで護国寺先生が扉を開けて室内に入ってきた。護国寺先生は折笠さんから話を聞いてだいたい事情を把握しているらしい。村雨さんに簡単な挨拶を済ませた。

「バスケ部の顧問はこの学校出身で強引な指導が問題視されている。だけど古株だから誰も口だしできないんだ。教師としておれがきみを全力で守ります。村雨さん、安心して学校生活を送ってくださいね」

 背の高いハンサムな護国寺先生に見下ろされて村雨さんは戸惑っている。この子、男子に免疫ないんだろうな。

「その言葉は愛の告白と受け取ってよろしいのですか。わたくしにはお姉さまがいるのですが……。なんて積極的な殿方。護国寺先生、初対面ですけどお慕いしています」

 その発言にはその場にいる全員が驚愕した。村雨さんは惚れっぽい女の子なようだ。
Господинゴースパジ!(ロシア語でなんてことだ)あたしが好きなんじゃねーんかい!」
 姫川さんのお口からロリポップキャンディが零れる。

「わたくしは、背が高くて眼鏡をかけた男性が好きなんです。先生はわたしの理想を体現しています」
 村雨さんの印象が変わった。おとなしそうに見えるけど相当思い込みが激しい。

「いやいやいや」
 護国寺先生は振り子人形のように頭を振った。

「よかったじゃん。うっしー。女子高生と結婚できるよ」
 姫川さんは意地悪そうに新しいロリポップキャンディを咥えた。

「いやいやいやいや。村雨さん、だったね。気持ちは嬉しいが先生は生徒と付き合えません。わかるね」

「わたくしが成人したら付き合えますか?」

「いや、そういうことではなくてね」

「やめたほうがいいわよ。うっしー童貞だし」
 折笠さんが腕組みしながら脚を組んだ。

「誰が童貞だ。性的逸脱セクシャル・ハラスメントだぞ」
 童貞が図星なのかわたしには測りかねたが、護国寺先生は絶句するほど怒っている。


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