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87.風間祥太

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それは正直に言うと、完全に予想外の事態だった。
三浦和希がまだここいら近郊を彷徨いているのは、幾つかの情報や直接遠坂が巻き込まれたから幾分掴めていたのだ。だが進藤隆平に関してはパッタリ途切れたようなものだった。倉橋の最後の血筋・嫁に出た娘の身辺で、見ず知らずの男が出没したという話が噂で流れたくらい。しかもそれが進藤かどうかまでは、まだ確認できていなかった。この街に戻るかもしれないとも思われたが、進藤が以前から動向の掴みにくい男なのだから、こちらからも手の出しようがない。様々な犯罪の手引きやブローカー、この街の裏側には大概進藤がいるなんて言っている奴が実は警察の内部にもいるし、大体にして恐らく一課の中にも進藤の情報源になっている人間はいる。総合病院にも恐らくいただろうし、実際に普段普通に接していると思っていても、裏で誰が何をしているかなんて分かりはしないのだと今では俺も思う。

大体にして署長自体が、進藤の目論みに知ってか知らずか荷担している。

調べた限りでは署長の妻君が、随分長く都立総合病院に通院しているのは分かった。表立っては公表していないが、病名は『若年性アルツハイマー』だという。

脳細胞の再生………是非とも欲しい薬だよな、確かに。

愛妻が次第に人格すら崩れていく。それを見ている人間には飛び付きたくなるような薬だったろう。それを死んだも同然の犯罪者で治験紛いに違法投薬する、しかも製薬会社自体がダミーで三浦が逃げ出した途端にその薬が一体なんだったのか、誰がどこで作っていたのか追えなくなっている。実は麻薬の類いなんじゃないかなんて話も出始めているのは、倉橋健吾が投薬を開始してからのカルテに残された投薬量がただただ増量していくだけで何の検査も行われないままだったからだ。
だとすれば三浦は実際には子供に退行していなかった。そんな可能性もあるのかもしれないと俺は思う。隔離された空間で男に虐げられながら、密かに産まれる隙を狙っていたのだとしたら、俺が遠坂に連れられてあの場所で三浦を見た時あいつは何を感じただろう。そんなことまでつい考えてしまう。

病院を出て、あいつは進藤に保護されたんだろうか?

ハッキリしない、三浦和希の潜伏場所。時折様々な様相で密かに姿を見せるが、カラオケボックス以降三浦の起こしたと思われる事件はまだ起こらない。それは進藤が三浦を保護しているからなのだろうか?
そんな最中、この街の一番の闇の底にいるような進藤隆平が予期せず逮捕されたのは、四月の初めの暖かな霧雨が夜半に降りだした夜のことだった。

遠坂はその日何故か帰宅せずに署に泊まり込んでいて、他の奴には雨が降りそうだからギプスが濡れるのが嫌だから泊まるなんて訳の分からない事を言っていた。その話の時には全く雨など降っていなくて、殆どの奴は遠坂が自宅まで歩いて帰るのが本当は面倒臭かったんだろうと思ったようだ。実際そうかもしれないし、俺にも本音で言えばなんで遠坂が残っていたのかは分からない。俺の方は如月栞の調書を纏めるのや書類の整理を手伝っていて、翌日が休みだったこともあってその時間まで偶然だが残っていた。
その最初の一報は、外崎宏太の家族だという若い男からの遠坂への電話だった。

「あ?宏太の………ああ、どうした?こんな時間に。」

電話の相手を知っているのか遠坂の声が訝しげにそう問いかけるのを、俺も少し離れてだが背後に聞いている。ところが次第に電話をしている遠坂の声の雲行きがおかしくなって、遠坂喜一に全ての事情を話したその電話のお陰で関係各所が叩き起こされ一気に慌ただしい状況になった。
何しろ今まで存在は噂はあっても音声すら殆ど表に出ていない進藤隆平が、ハッキリ特定の人物の殺人を自白したのだというのだ。しかもその音声がしっかりとデータとしてテープが存在していて、中に入っている別な音声も誰か分かっていて証言もするという。その上、進藤の現在位置も分かっているというのだ。

「それで?なんでお前が……………ああ?!」

その家族という若い男は、遠坂との電話の時点で実はかなり焦っていたらしい。何しろ件の音声はほぼリアルタイムで今さっき録ったばかりだというし、しかもたった今外崎宏太が一人で進藤と直接対決しているから大至急助けて欲しいと言うのだ。流石の俺もそれを聞いて唖然とするしかない。何しろ外崎宏太は盲目の足の不自由な障害のある男で、異様な程に耳はよくても杖がないと自由に外も出歩けない。方や進藤隆平は、長身の痩駆とはいえ一瞬で俺を一回転させ投げ飛ばす技術の持ち主だ。

「あの野郎!全く何を馬鹿なことしてんだ!」

そう遠坂が呻くのはタイミングよく真横にいたから聞こえていたが、俺自身も激しく同意だ。進藤隆平なんて何をするか分からないような人間の目の前に、何をどう考えてワザワザ障害者が立ち塞がるなんて事をしてるんだ。
ところが実際には俺達や他の奴等が現場に辿り着いた時には、その直接対決は全てが終わっていたのだった。
辿り着いた目の前には盲目の外崎宏太がグッタリ道端に座り込み、進藤隆平の方は道に倒れこんで何が可笑しいのか延々と乾いた声で笑い続け雨に濡れているという世にも奇妙で不思議な状況。てっきり外崎はそのまま死んでるんじゃないかと思ったが、足音に反応して顔をあげたのに俺は思わず安堵の吐息を溢れさせた。

「……風間、遅かったな。」

シトシトと音を立て始める暖かな雨の中でも、俺の足音を聞き付けたらしい外崎宏太が暢気に片手をあげた。動けない様子で未だに何でか笑い続けている進藤の右足は、どうみても異様な方向を向いていて骨折しているのは人目で分かる状況だ。

これで進藤が動けなかったのか……。

しかし誰もが余りにも異様な状況にポカーンとしている。それはそうだ、ここにはどうみても健常者の足をへし折れるような存在が何処にもいない。いるのは目の見えない盲人専用の杖を片手に、座り込んだままの男一人だけ。

もしかして、助けた奴は立ち去ったとか?

誰しもがそう思ったのだが、進藤と言えば笑いながら骨折は外崎の杖にやられたとしか言わないし、外崎は外崎で進藤が蹴りかかってきたから盲人用の杖で応戦したら偶然杖の先端が当たったなんて事をいう。つまり目の前の二人はお互いに、結論として外崎の奇跡の会心の一撃なんていう夢のような物語を話す始末なのだ。
(ちなみに後日警察が来るまでの間の二人の会話テープ、一応障害もある外崎宏太が進藤隆平側から蹴りかかられたから自己防衛した、という証拠として提出された。そんな訳なのだが、そのテープを聞いてみて、外崎宏太が本当に進藤に応戦しているというのに誰もが呆気にとられた。何しろ盲目対悪人、ちょっと待て・お前は座頭市かよ!と言いたくなるような状況なのだ。しかし俺としては何でか外崎という腹黒に絶妙に挑発されて、しかも実は既に警察を呼ばれているという罠に進藤がまんまと嵌められたとしか思えなかったのはさておく。それにしても、誰もが外崎が目が見えないのは本当の話なのかと、疑問に首を傾げたのはやむを得ない。)

「義眼だよな?あの外崎って人。」

現場検証を始めた他の課の奴等が訝しげにコッソリと俺に聞くが、雨粒か汗が何処かに染みるのか外崎が外したサングラスの下があんな酷い傷だとは実は俺も知らなかった。顔の上半分が醜いひきつれと傷に横断されている上に瞼も抉られているせいか義眼の収まりが悪いらしく、完全に義眼が傾いでしまっていている。それでもそこがマトモならまだ傷のある男前で通りそうだと眺める最中、雨に濡れるのが嫌だったんじゃなかったっけかと思われる松葉杖の遠坂がツカツカと歩み寄り外崎を怒鳴り付ける。

「お前、あっちが飛び道具だったらどうすんだ?!馬鹿か?!」
「あー、悪かった。」

松葉杖の怪我人の癖に外崎は知人だからと現場まで乗り込んできた遠坂に頭っから外崎はガンガンと怒鳴られているが、ちょっと待て・飛び道具でなければなんとかできるってことかと逆に周囲がとんでもなく微妙な空気になってしまう。

「しかも、なんでへたりこんでんだよ!紛らわしい!!」
「あーうるせぇうるせぇ、久々に動いて疲れたんだよ。」
「本気で馬鹿かお前は!何を考えてんだ!」

やがて外崎は深い溜め息をついて、どっこいしょと言いながら平然と立ち上がる。どうやら座り込んでいたのは本気で疲労のためらしく、当の外崎宏太には目立った怪我もないようだ。しかも立ち上がった外崎が思い出したように、そういえば進藤のナイフをどっかに弾き飛ばしたと言い出したものだから、夜半過ぎの雨の降る暮明でその場に残った一同が這いつくばり一騒ぎする有り様だ。
まあ刑事課としては全ての課に跨がるような犯罪の大元の大物逮捕が、盲人の夢のような会心の一撃だろうが偶然の産物だろうが正直どちらでも構わない。進藤隆平が逮捕されたというのが重要で、取り調べは全てこれからの話なのだから。とは言え先ずは足が逆に向くような粉砕骨折の治療が優先になりそうなのは、社会的人道的配慮と言うものだ。そんなわけで可笑しくなったんじゃないかと思うくらい、乾いた声で笑い続けながら救急車で運ばれた進藤を見送る。そんな最中外崎が明日署にいくから今日は帰る等と言い出した時には、流石に全員が愕然としていた。

いや、本気でなんで健常者の方が骨折で、お前は無傷だ。

そう言いたかったが、ここでいうのも馬鹿らしい。一先ず署で事情を簡単に説明するまで返せないというのを完全にヤル気がもうないのかノラリクラリと外崎がかわしている矢先に、その現場に若い見たことのない男が息せき切って駆けつけたのだ。遠坂はその青年を知っていた様子だったし、相変わらず足音で誰かを聞き付けたらしい外崎が初めて顔色を変える。

「了。」
「宏太!」
「何で来た?家で待ってろっていったろうが。」

外崎の声音が今までのものと、全く変わったのには驚いた。まるで大事な恋人にでも話しかけるような柔らかな声音に、青年は固い顔をしたままだ。実はその栗毛の若い男が外崎の家族だと電話をかけてきた男らしく、しかもその男が盲目の外崎に駆け寄る。

「怪我は?宏太。」
「打撲くらいだな、筋肉痛にはなるだろうけどよ。」

暢気に答えた外崎の様子に青年は一瞬の安堵の表情を浮かべた後、何でか容赦なく外崎の脛を蹴りつけていたのだ。



※※※



なんで外崎宏太がそんな危険なことをしたのか。
外崎に言わせると確かに行為は危険性があると考えたが、自分なら対応できると判断したのだという。
いや、お前は盲目だろうがと突っ込みたいのは我慢して、先ずは話を続ける。
外崎は事前に進藤が身に付けているのは、合気道だけではないだろうと既に踏んでいたという。何故なら合気道は基本的に対外攻撃的ではないから、それだけを身に付けても進藤のような腕っぷしも必要な裏家業には向かない。基本的には合気道は柔術なんかにも通じる部分があるというし、合気道を習うのと同時に空手や柔道を一緒に嗜む者も多いのだという。だが進藤隆平の身なりを聞くと、それほど筋肉質ではなさそうだし身軽そうだ。それに間近で聞いた足運びの音から、基本的に足を使う格闘技を身に付けていると判断していたらしい。手を中心に使う格闘技だと少し聞き取りが難しくなるが、足を使う技だと踏み込みや振り切りの音で外崎には尚更動きの判断がしやすいという。後はここいら近郊で進藤が合気道を身に付けたと同時期に昔から習得が出来る格闘技を絞ると、空手とカポエラ、テコンドーの三つ。

いや、何を身に付けているか調べようとしたわけじゃない。対応策として絞っただけだ。

だなんて言われても、踏み込みの音を聞き取れるその耳はなんなんだと馬鹿馬鹿しくなってしまう。ついでに言えば進藤が俺を恐らく合気道の技で投げて逃げたということから、恐らくカポエラだろう思っていたという。

手を使わない格闘技を選んだのは多分筋力に自信がないんだ。多分殴りあうような至近距離でやりあいたくねぇんだよ。だから、カポエラなら蹴りの軌道が掴みにくいから、あいつが好みそうだろ?

好みそうなのは理解できたが、それを理解して対処できる能力ってのは何なんだ。しかもそれが分かったからといって、なんで直接お前が出てきたと突っ込みたい。そこでやっと外崎がこんな行動に出た理由。実際には自白を録るために協力した宇野智雪が、もしもの時のために近くに待機したというのが本音だったらしい。ただ進藤が予想外に自分側に向かってきたのと、思ったより警察の動きが緩慢だったので足止めする気になったのだ。

だから、盲目がなんで最前線なんだよ……?

そう思うが合気道三年にカポエラなら、なんとか出来ると外崎は平然というのだ。しかも遠坂もそこには迷わず同意するものだから、外崎宏太は一体何を身に付けてるんだと事情を聞いている人間の方が呆れてしまう。
聞けば外崎宏太は合気道は十何年も道場に通っていて、しかも何だかよく分からない他の特殊な武術も心得があるという。その結果が目が見えなくて手加減ができないから、進藤の足の骨をへし折ったというのだ。
当の進藤の方は骨折の手術のため直ぐには事情聴取とはいかななくなったが、進藤の性格で何処まで自白が本当かと突き詰められるかが問題になりそうだ。
そうして後日再度呼び出した外崎宏太と宇野智雪のそれぞれから話を聞いたが、俺としてはなんでお前ら警察に相談しないんだとつくづく呆れるしかない。

十一年前、宮井夫妻を殺したのは金子寛二ではなく進藤隆平。
宮井夫妻の殺人に関しては、実は金子寛二は実行の証明が全くできず罪に問われていない。しかも金子寛二は全く知らなかった宮井夫妻の殺害方法を、進藤はハッキリと口にした。
拘束を解いてやって背後から殴ったが、顔をみて殴ってやりたかった、残念だと。

悪意。

殺した夫妻の息子にワザワザ恩を売りに近づいた進藤を、あの時の雪は問いかけていたのだと気がつく。厚意だと思ったのは、最悪の悪意。何もかもがゲームとしか思えないという男が、振り撒こうとした悪意。そして、まだその最後に産み出された悪意の塊が、街を真名かおるという女を探して彷徨いている。

真名かおる

再び俺の脳裏に浮かぶ疑問。そして、外崎の提出した音声から、気がついたこと。進藤はあの時、こう外崎に言っていたんだ。

和希に殺させてやろうとしたのに

外崎宏太は三浦和希が狂う発端になった場所《random face》を提供したから襲われたとなっている。だけど、店の奥で起きた違法な行為を外崎だけが、全て見ることも記録することも出来た。そして先日成田哲の性的暴行の証明の時に、如月栞が一枚だけ持っていた自分自身が暴行を受けた映像記録。そんなものをどうやって手に入れたか?彼女は幾ら問われても画像をくれた人間に記録をとるよう教えられたとは答えたが、それ以上は詳しくは言えないと答えた。

悪意はそれを飲み込むほどの悪意には勝てないんです。だから、私は成田の悪意を飲み込んで自分が巨大な悪意になるしかなかった。

そう如月栞は何処か薄ら笑いに見える悲しげな表情で言う。ここでも悪意。何かしらの悪意の存在を告げた彼女が、暴行を受けた場所を俺は別な調書の資料写真で見たことがあった。奇妙なステージのような台は形が違うが、カーテンのようなもので四方を囲まれた《random face》の奥にあったパーティールームと、そこが似たような作り方だと言えばそうだ。杉浦陽太郎のオークション詐欺で使われた画像と同じ壁と床の倉橋亜希子のマンションの部屋のようにか?だが何度も何度も色々なことが、こんな風に結び付くのを偶然と切り捨てるべきなのか。

善意の裏側には、大概悪意がある。

如月栞を飲み込んだ悪意の傍に、彼女が飲み込まれた悪意をはねのけて生きる糧になるような知恵を与えたもの。店の経営という当然の善意の裏にある、意図された監視という悪意。進藤の悪意から産まれた三浦が、今も真名かおるに求めている善意。全てが入りくんで絡み合っていて、本当の事が霞んでしまう。上原杏奈が真名かおるを名乗ったのは悪意なのか、善意なのか。

「外崎。」

何故か突然マンションを引き払った目の前の男は、リビングらしい空間のソファーに腰かけて俺の言葉に顔を向けた。今までは四六時中サングラスを外す事もなかった男が、何故か今はサングラスを外していて人工の瞳が俺を歪んだ方向で見つめ返してくる。

「これは………誓って他には言わない。ただ確認したい。」
「なんだ?」

リビングいた了という青年は、外崎に言われて席を外した。もしこれを外崎が家族だというあの青年にも内密にしているとしたら、そう俺が考えたからだ。

「あんた……あの時三浦和希に何かしたんじゃないのか?」

俺の問いかけに、外崎は暫く無言に変わる。このまま話をすり替えるだろうか?今では証明できるものは何一つないし、俺の想像でしかないことに外崎が答える義理もないのは事実だ。それでもこれが想像通りだと、もう一つハッキリすることもある。

「俺ぁな………。」

静かな掠れた外崎の声は今までの飄々と煙に巻くような声とは、何処かが違っていて俺は微かに眉を潜めた。何故か最初の何処か人間味のない悪く言えば進藤にも似た印象が、いつの間にか目の前の外崎宏太から消えているのに気がついたのだ。

「あの店をやる前はな、金を貰って調教してたんだよ。」
「調教?……動物のか?」
「マトモな人間にゃ想像もできないだろうが、人間を調教してたんだ。SMってやつだ、顧客にゃ政治家や警察や……まぁそんな奴が呆れる程世の中にはいる。」

人間を調教?SM?それはアダルトビデオの世界だろと言いたいが、外崎が冗談を言っているようには全く感じない。つまり政治家なんかに依頼されて、人間を奴隷のように動物のように調教した?それは違法じゃないのか?

「勿論違法な部分がなかったとは言わねぇよ。だけど言ったろ?顧客が政治家や警察だ……。」

世の中の悪意、俺は思わず心の中でそう呟く。恐らく如月栞もその被害者で、如月栞に知恵を与えたのは目の前の外崎だと俺は何故か感じる。だが店をやる前と言ったということは、三浦には何もしていないということなのか?

「あの店は調教師を辞めて始めた。色々あって調教師を続ける気分じゃなくなってな。だけどあの時丁度………弟が死んで、俺も少し自暴自棄になってたんだろうな。………真名かおるに三浦を落とすのを手伝わないかと、誘われたんだよ。」

俺はその言葉に息を飲む。
証拠は何一つ残っていない。他の女には散々酷い行為をした画像が残っていて、同時に自分自身が酷い目にあわされた画像が残っていた三浦和希。だが真名かおるの顔が確認できる画像が一つもなかった。それはつまり

「ああ、真名かおるは、本気で殆ど画像には残ってねぇ。悪いが顔は全く映ってねぇし、体も消したのは少しだけだ。」
「何故映らない?」
「俺が画面に映らない場所を先に教えたからな。」

ああと納得の声が溢れる。店のカメラの配置を熟知している外崎は、事前に真名かおるに映らない角度と位置を教えていたのだ。しかも更に僅かにに映った体や特徴的なものは、外崎が画像自体を消してしまったのだという。何でそんなことをしたか、もう答えは一つしかない。

「そういう時は一緒にあんたも映ったからか?」
「そういうことだな。」
「金は?受け取ったのか?真名かおるから。」
「いいや。………言ったろ、その時の俺は自暴自棄になっててな、………死んでもいいと考えてたんだ。まあ、本当に死にかけたら、そんなこと吹っ飛んだけどな。」

外崎宏太が三浦和希にあの時襲われたのは、他の男達と全く同じ理由。つまり三浦和希を性的に虐げたから。それは俺にとっては、疑問を解く大きな答えの一つだった。
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