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15.外崎宏太

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秋奈に言われるまで確かにその点を突き詰めて考えてみる気になっていなかったのは盲点だった。流石にそこはブランド物に、目端の効く女特有の視点と言うことなのだろう。ブランド物の偽物をオークションで転売して利益を得た詐欺で、その販売するための物は何処から杉浦陽太郎の手元に届くのか。まさか業者から買い付けてるわけじゃないだろうし手渡しではないだろうが、親の月の収入を上回る利益を得るには商品は大量に必要な筈だ。そんな商品を仕入れる先は何処にあるのか。話の流れからすれば三浦和希かもしくはそれを名乗る人間がいるとして、少なくとも幾ばくかの商品を渡したのだろう。それは何処から来ていて、どうやって集められたのか。その点について、警察はどこまでつかんでいるのか。
それを直接聞くには実はうってつけの人間がいて、かけた電話は直ぐ様受話になり、電話口から呑気な対応が聞こえた。

『こちら遠坂ー。』
「喜一、よぉ俺だ。」
『俺さんに知り合いはいねぇなぁー。』

相変わらずの反応にアホかと思わず口にするが、実は電話の相手は俺の幼馴染みと言うやつで遠坂喜一と言う。
遠坂喜一とはガキの頃からの付き合いで、お互いに何でか気が合う腐れ縁を細く長く続けている。しかも、色々あって俺は後からアンダーグラウンドの人間になったが、遠坂の方は何でか最初からアンダーグラウンドに片足を突っ込んだような人間だった。しかも表だっては、先日杉浦陽太郎を逮捕した二課の刑事と来ている。外崎宏太の友人と言える人間は健在では数える程しかいないから、そういう意味でも稀有な人間の一人だ。
秋奈はリビングの発掘で元妻の服やら何やらを見つけたらしく、目下物色中の様子で一先ずこっちの話を優先しておく。

「なぁ、オークション詐欺挙げたろ?」
『何だよ、事前情報あるなら回せよ。』
「回そうとしたら、お前が有能すぎて先に挙げたんだよ。」

宏太の言葉に相手は気にする風でもなく可笑しそうに笑いながら、それで何かようか?と問いかけてくる。最初は既に故人になった友人の手助け程度に始めた情報屋擬きが、宏太にとっては案外向いていたのもあったのだろう。ここだけの話宏太の情報は喜一にも有益なことが多いので、以前から時々情報のやり取りをしている間柄なのだ。

「商品の出所は?」
『まだ、決まんなくてなぁ。』
「家に持ち込みか?」
『間借りだっていってんだろ。あートランクルームでもかりっかな。』

噛み合ってないように聞こえるが、どうやら向こうは話すには相応しくない相手といるか目下職場の中なのだろう。
結果として纏めれば、杉浦の手にしたオークションの商品の出所はまだ不明。その商品は月極めのトランクルームに保管されていたと言うことだ。トランクルームに溜め込んで置くんなら一度に購入しなくてもいいのか。だが、そこに搬入するにはやはり人の手間がある。

「物はどれくらいあったんだ?」
『五十近いんだぞ?あと残りすこしだろ?』
「……月極めの期間は?」
『月旅行?あり得ねぇだろ、二億?すげえな、何処の金持ちだよ。』

何の会話だって?電話を聞かれても向こうは、同級生と近況を雑談している節を決め込んでいるだけのことだ。
トランクルームに保管されていた商品は最大で五十点。トランクルームを借りた期間が今のところ二ヶ月となると、それ以前の期間で五十以上の商品を買い込んで準備したか。月極めのトランクルームにも防犯カメラ位はある筈だから、喜一達がその画像を見ても違和感のない運び込みに一ヶ月前後。更に詳しく聞きたいところだが喜一が場所も変えず口が重そうな所を見ると、やっぱり何かあった風だ。

「っていうか、お前よ?あいつ、どうなってんだよ?ん?」

勿論この言葉の意味はそのままの意味じゃない。

『あー、……うん……また、連絡するわ。』

それに慣れている喜一の方は電話口でそう答えると、一旦そのまま電話を切る。
さて、ここから少し考えてみないと五十点の商品を粗悪品としても購入にかかるのは、一点約二万程度として百万円。コピーブランドなら販売側も足がつかないようにしているだろうから、一度に購入したのでなければあとを追うのは流石に難しい。となるとトランクルームの契約者がポイントだろうが、警察も間抜けではないから上手く抜け穴を使って借りているか又借りか名義借りしているか。まあ、やり方は幾つでもあるが、結局金任せで相手が分からなかったらしいのはさっきの喜一の話で理解できた。
杉浦への餌の投資がどれくらいかは兎も角、トランクルームの代金なども考えると少なくとも百三十万は使うだろう。そこに杉浦との連絡手段。しかし、杉浦を巻き込む必要性に関しては、自分にはまだ思い浮かばない。

「……秋奈。」
「なあにぃ?」
「お前だったら手足に使うのに、杉浦を選ぶか?」

自分だったら、正直なところあんな馬鹿は選ばない。どうせなら自分の一番若い友人の青年のように頭が切れて、ズル賢い位の人間を手足に使いたい。でも、この誰かは詐欺の手足に、杉浦を選んだ。

「目的によるかなぁ。」
「目的?」

秋奈がリビングから予想外の返答をするのに、思わず自分は反応してしまう。どちらかといえば秋奈も選ばないと言うかと思ったが、やっぱり女の視点は違うようだ。

「お金が目的なら選びたくないけどぉ。あいつ馬鹿だしさ。」

一晩食事をしただけで馬鹿呼ばわりされてしまうのは正直なところ男としては可哀想でもあるが、実際杉浦は金持ちのボンクラで馬鹿なんだから仕方がない。それでも選ぶ理由として上げられるのはなんだ?と問いかけると秋奈は事も無げに口を開いた。

「例えばぁ杉浦が大袈裟に泡銭使うのは分かりきってるから、それを隠れ蓑にして杉浦が持ってる何かを使いたいとかぁ。」

秋奈はこっちを見るわけでもなく、発掘した何かを何の気なしにパラパラと捲りながらそんな事を呟く。

「杉浦が目立ってる間に、何かしたいことがあるとかぁ。」

杉浦陽太郎の性格は熟知していて、杉浦のとる行動も予想しておいての計画。確かにそれなら納得が出来るかもしれない。元々杉浦を知っていて杉浦がどういう行動をとるかとか、どういう思考するならと分かっていれば、それを逆手にとるのはありだ。
とすれば杉浦が金銭を得たら迷わず豪遊すると知っているのは、大学時代の友人や自分のような飲食店の経営者。実際に杉浦の異様な豪遊を連絡してきたのは、駅前のワインバーの経営者だ。ならそこで酔った杉浦が、三浦の事を口にしたのは本当に偶然なのだろうか。そこで口にすれば何処からか自分に伝わると知っていたら?それに意味があるか分からないのに、そう思うと何故か背筋が冷たくなる。

「後はそうだなぁ、杉浦が絶対断れない・反抗できないって知ってたら使うかなぁ。」

秋奈の何気ない言葉に、頭の中でカチリと何かが嵌まる音がした。
一番最初に三浦和希がどんな顔で自分の店に来たのか、宏太は実は記憶がない。三浦和希は通う途中で頭角を表し王様として変化したのであって、最初からあの姿で店に来ていたのではないのだと思う。きっとその他と大勢の大人しい客として来店したに違いない。方や杉浦陽太郎の方は何度か他の友人と《random face》と名付けた自分の店に我が物顔で来ていたのは記憶している。

もしかして、杉浦が最初あいつを店に連れてきたのか?

その可能性は高い。
あの男が王様として君臨し始めたばかりの時は、杉浦も取り巻きでいた記憶がある。それに王様の取り巻きの他の奴等は、元々は杉浦の友人だった筈。それに奥のパーティールームで複数で行われていた乱交パーティーの方向性が変わったのは、三浦が王様として君臨してからの話。そこら辺迄は杉浦は取り巻きの中にいたような気がする。悪化の一途を辿る三浦の暴君としての振る舞いを、自分は経営者として止められたが止めようとしなかった。

どうでもよかったんだ、………あの時は。

丁度身近な友人の訃報に、宏太は全てにおいて投げやりになっていた。しかも自分はタイミングよく現れた・得体の知れない真名かおると名乗る女の誘いに乗った。誘いに乗って女の注文通りに、暴君の鼻をへし折り奴隷に貶めてやったのだ。しかし宏太が手を出し始める前に、あの女は既に三浦と交流を得ていたのは事実。その間を取り持ったのは誰だ?暴君は自分からかおるに寄ったんだったか?店では確かに絡んでいたが、奥の部屋にあの女が三浦を逆に誘い込んだ時には三浦は既に真名かおるに心酔仕切っていた。

間を繋いだのは、それも杉浦か?

その可能性は高い。杉浦が取り巻きから抜けて暫く来なくなったのは、真名かおるに三浦がいいなりになってからだ。最初あの女は頻回に独りで店に来ていたし、他の男にも声をかけられていた。だが、事件の間近にはあの女は三浦を狙い撃ちしていると、薄々感じていた記憶がある。
あの女。
真名かおる。
得体の知れない名前すらも偽ったあの女。
この程度の詐欺の計画ならあの女は、愉しげに笑顔のまま意図も容易く考えそうだ。何しろあの女は《random face》のパーティールームがどんな場所なのか誰にも聞かず奥に入りもしない内から、どんな部屋で何が起きているのか的確に察するくらいわけない女だった。並外れた洞察力を持った狡賢い残忍で、強かで妖艶な得体の知れない女。秋奈の方がコピー商品の出所に目が行ったように、女特有の視点での狙いがあるのだとしたら宏太には想像できない。

しかも、三浦を狂気に引き込んだ全ての切っ掛けが杉浦だと仮定すればだ。

場所を提供し三浦に狂喜を教え込んだ宏太がこの有り様なら、杉浦だって何かしら三浦にされてもおかしくはない。もし仮定通りなら、そう杉浦陽太郎だって考える筈だ。なら三浦だと名乗った者が本物だと杉浦が認めてしまったら、杉浦は相手の言うことを聞くしかなくなる。そんなことくらいあの女なら考え付きそうだが

だけど本当にあの女か?あれから一年、誰も探し出せなかったんだぞ。

実は三浦事件の関係者は、余りマトモな証言を残せなかった。あの事件の関係者・当事者でマトモに証言が出来たのは、自分ともう一人位だと遠坂からは聞いている。何しろ当の犯人ですら何一つ証言ができず、罪を償うこともできない状態で治療中なのだ。その中で元凶の可能性を秘めたまま全く霞のように姿を消してしまった女が、真名かおると名乗った女だったが。真名かおるは三浦を狂気に落としたのに、その後の三浦を飼うわけでもなく放棄した。まあ三浦自身もそこまでに随分女性に非道な事をしていて、自業自得と言われればその通り。何しろ真名かおるの正体は、三浦が乱暴して狂わせた女の身内だというのが最近の通説らしい位なのだから。ただ、当事者として言わせてもらえば、それはお門違いだと宏太は思っている。真名かおるは誰かの復讐のために、三浦を狂わせたのではないと宏太は考えている。あの女は宏太ともって生まれた性癖と似て、君臨する三浦をただ引きずり落とし這いつくばる姿を眺めたかっただけなのだ。それが彼女の自分の目的に丁度都合が良かっただけで、偶々三浦は選ばれて手駒にされただけ。そんな残忍な事がありうる筈がないと世の中の人間は考えているから、真名かおる女性親族説にたどり着いているのだろう。だが宏太は当事者で、真名かおるに接しているからよく分かる。
事実、三浦が自分の目的に障害になったか邪魔をしたかで、真名かおるは三浦を意図も容易く放棄する。三浦が完全に狂った原因は、あの女が実は意図して三浦を男達に襲わせた事だ。先に男達を呼び込み興奮剤入りの酒を振る舞い室温をジリジリと上げながら、そこに暴君だった筈の三浦が膝まづき蹂躙され喜ぶように躾たことを見せつける。男達は暴君が這いつくばり喘ぐ姿に揃って豹変し三浦を蹂躙し尽くすのを、あの女は笑いながら眺めただけだなく最後まで見ることも最後に手を差し伸べもしなかった。

あれで最後にあの女が三浦に手を差し伸べていたら、三浦はあの女の言うことなら何でもきく従順な奴隷になったろうな。

だがあの女はそうするつもりは微塵もなく、三浦を放棄したその日を最後にここいらからフッツリと姿を消してしまった。実は最後に襲われた被害者の女は、三浦に真名かおると勘違いされたんじゃないかなんて噂まである位だ。残念ながら本当に似ているのかどうなのか、知りうる方法は宏太にはもうないのだが。
姿を消してていた真名かおるが再び姿を見せたのだとしたら。
あの女が裏で手を引いているのだとしたら、三浦を再び表舞台に引き出そうとするだろうか。真名かおるに心酔仕切って狂わされた三浦は、何処まで真名かおるに従うのだろうか。

あの女ならやりかねない。悪意の塊みたいな面があるからな。

完全に悪意だけではない。ないだろうが、あの女は自分の周りの全てに憎悪を向けているような面が何処かある。それが更に悪い方向に向かえば三浦を操り手足に使って、世間全てに悪意を向ける可能性がないとは正直なところ言い切れない。何せ三浦和希はあの後稀代のモンスターに変わり、今では都市伝説にすら成り始めている存在だ。数日前に何か起きたと言う四倉梨央の情報が、例えば三浦が何かを取り戻したのだとしたら。そう考えるだけで背筋が凍って、動機がする。

「コータぁ?」

発掘に飽きたのだろう声をかける秋奈に、自分は息を詰めながら考え込んだままだ。あの女には正直なところ関わりたくはない。だが、三浦和希に何かが起こっているとしたら、一番影響力がありそうなあの女の存在は脅威的だ。そう分かっているから冷や汗が滲むのが分かっている。

「コータってば、どしたの?大丈夫?」

いつの間にか歩み寄っていた秋奈に気がつくが、起こり始めたパニックの発作が収まるわけではなかった。血の気がひいて動機が耳の中で爆音のように響くのを聞き付けながら、これは不味いなとチラリと頭の中で考えが過った時には手遅れだったのだ。



※※※



正直なところ三浦和希の現在の目的は不明。
脱走して何を目的にしているどころか、脱走に意図があったかすらもまだ分からないのに可能性として、事件の生存者を襲いに歩く可能性がないとは言い切れない。三浦が怪我をさせた生存者三人ともが、実は近郊にいる状況で内一人は三浦の入院中だった院内にいる。そして、別な一人が自分の幼馴染みの外崎宏太で、障害持ちになった癖に相変わらずアンダーグラウンドから這い上がろうとする気もない。

希和の事が、まだトラウマかね。ありゃ。

元妻が当て付けのように宏太の前で自殺してから、幼馴染みはそれが自分のせいだと信じきってしまった。元は至って普通でマトモな会社員だったのに仕事一筋の姿に嫉妬した妻が寂しいと自殺したお陰で、幼馴染みはスッカリ道を踏み外してしまったのだ。

新しい恋人でも作りゃいいんだが、あいつ、意固地だし変なとこで理想高いんだよなぁ

そんなことを考えながらタイミングよく抜け出してマンションのインターホンを押した時、泡を食ったような女の声が向こうから助けを求めたのに遠坂喜一は顔色を変えた。まさかとは思うがあいつが先に宏太の居場所を掴んで、やり残しを襲いに来たのかと思ったのだ。
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