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11.槙山忠志

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昼間に出会った胡散臭い容貌だが人懐っこい気配のするおっさんと、何だか小悪魔みたいな四つ年上のねーちゃんに絡まれたのは偶然なんだか何なんだか。予想外に出会った外崎宏太に聞かされたのは、ガキの時の同級生の杉浦陽太郎の話。しかも、杉浦の話はほんのおまけみたいなもんで、実際にあの二人が知りたかったのは忠志の元親友の三浦和希の事だった。



※※※



槙山忠志と三浦和希は小学校に入る前からの幼馴染みで、ずっと同じ学校で過ごして高校までは一緒。別な大学に進学しても、暫くはよくつるんでいた。
向こうは大手不動産会社の社長の御曹司で品行方正な良いとこのお坊っちゃん。で、こっちはまあ別段特別な訳ではない一般家庭の息子。確かに金髪と目付きの悪さで、見た目はヤンキー紛いだが別にヤンキーというわけではない。大体にして目付きは母親そっくりだし。まあこの髪色なものだから、って言っておくがこの髪は染めてる訳じゃない、完全な地毛で妹もほぼこの色だ。確か両親のどっちか黒髪だったら大概黒髪になる筈なのに、家は兄妹揃って茶色ってよりも明るい金髪なものだから、まあ学生時代は色々言われたもんだ。これって家の爺が外人なんだってだけ。父親もこれに近い髪の色だし、父親はなんか目の色まで俺達と違うんだから爺の遺伝子の摩訶不思議。因みに爺はアウトドアな爺というか、トレジャーハンター紛いの人間だから遺伝子の自己主張が激しく強いに違いない。
それはさておき小学校くらいには、和希は忠志の双子の妹の利津とも戯れて三人で遊んでいた仲だった。
その和希が唐突に、何でかとち狂ったのは二年ほど前のこと。それまで黒髪の優男のお坊ちゃんだった筈のあいつは、久々に再会したらギラギラの金髪のチンピラに完全に成り下がっていたのだ。染めただけで大袈裟なと言うかも知れないが、突然公園なんぞで女の人に乱暴するのはチンピラとしか言いようがない。しかも、その相手の女性は忠志のマンションの住人で、顔見知りで、そしてまあちょっと不思議な存在でもあったのだ。



※※※



その話は詳しくここですることでもないが、今でも俺と彼女・瀬戸遥は親しい友人だ。おっと今は結婚したから菊池遥だった。勿論彼女の旦那・菊池直人も友人で。その子供の奏多は忠志の友人の鳥飼信哉が一番・忠志は二番とこまっしゃくれたことを言うようになったが、相変わらず可愛いのは確かだ。しかも、彼女は二人目を妊娠中で、この話を優先して耳にいれたい状況でもない。

あれ?四つ年上……って信哉と同い年じゃねえか?

外崎が話した生まれも育ちもここら辺と言う言葉が頭を過って、それと自分より四つ年上と言う事が不意に繋がるのが分かる。俺もだが友人の鳥飼信哉はここ近郊で生まれ育っていて、丁度俺より四つ年上だ。もしかしてここら辺で生まれ育ってるという小悪魔なねーちゃんの事も知っているかもしれない。ふとそれに気がついて、早速信哉に聞いてみようと足を向ける。

あれ?……杉浦って確か信哉のマンションに住んでいたんじゃなかっただろうか。

確か信哉の家でダラダラしていたら、彼の大量の郵便物の中に杉浦宛の手紙が間違って入っていたのだ。杉浦陽太郎なんて古めかしい独特な名前で気がついて、信哉に聞いたら反対側の角部屋の建設会社の息子らしいと答えたから人違いではない。それにしても何で他の住人の、しかも家庭まで知ってんだと問い返した気がする。それに信哉は自分は親の残した遺産で住んでいるが、たいして歳の変わらない杉浦が同じ最上階に住んでたら気になるだろうと言われ納得した記憶があった。
信哉にあの小悪魔なおねーちゃんの話をするついでに、杉浦の顔をみてみるのも一つの手かもしれない。そんな風に俺は呑気に考えた訳なのだが……

一体何がどうなってこうなったんだ?

正直なところ、俺にも何が起きたのか理解はできない。理解はできないのだが、目下俺は何故か制服警官二人に取り押さえられマンションの通路で職務質問中だ。

しくじった……。

何時もの癖で鳥飼家を訪ねる方法でオートロックを擦り付けて、杉浦の家のドア前のインターホンを押したのが宜しくなかったのか。完全オートロックのこのマンション一ヶ所だけ擦り付けて入る方法があるのだが、それは普通の人間にはこなせない方法だった。それ以外にオートロックを通らないで入るには、タイミング良く他の誰かについて入る程度だ。電気もついてたし中にいるのは確かなんだが、何も通報して警察を呼ぶ事はないのではないだろうか。インターホン画像をみりゃ、何せこの髪の毛と顔立ちだ。いくら中学から付き合いが殆どなくても俺だと分かりそうなもんだけど、警察を呼ばれるような事は何もしていない。しかも、制服警官だけですまなくて続いてスーツ姿の刑事まで姿を見せたものだから、俺はポカーンとしながらその二人を眺める始末だ。やって来た途端スーツの若い方が、眉を潜めて俺に向かって口を開く。

「君の名前は?」
「さっきから俺、何回も答えてるけど、槙山忠志。ここの住人の同級生!」

そう言ったらスーツの二人の若い方は何かに気がついたようで、制服の方の二人に声をかけた。そうして何処かに電話をし始めた若スーツを苛立ちながら眺めていると、電話の先に完全にパニックになっているらしい杉浦陽太郎の声がしている。何であいつは、こんなにパニックなんだ?

「何なんだよ?俺はただ同級生に会いに来ただけじゃん。」
「こんな夜に随分仲がいいんだな?槙山君だったかな。俺は遠坂、あっちは風間。」
「あんたらの名前はいいよ。俺はバイト帰りで、他の友達があっちの部屋に住んでんだ。ついでに杉浦がここに住んでるって知ったから顔みようと思っただけ!」

そうこっちが答えれば答えたで、スーツの年をとった方・遠坂という男は随分豪勢な友達だなと笑っている。通報のせいでマンションのドヤドヤと通路で騒いでいる訳だが、何しろパニックになっている杉浦がドアを開けないものだから話が全く進まない。しかも、時間が時間だから制服がかけても管理会社にも話が伝わらないらしく、俺は何時までも引き留められ警察の訝しげな視線に曝されているのだ。

「このマンションのオーナーと連絡とってくれるそうです、管理会社以外でマスターキー持ってるそうで。」
「………何処に住んでんだよ、オーナーって。」

その忌々しげな遠坂の口振りから、俺はどう考えても杉浦の確認がとれないと解放されそうにないのに気がつく。管理会社は既に閉店して当然の時間だが、マスターキーを持っているオーナーに連絡をとってくれているらしい。って、こんなデカいマンションのオーナーって、どんな年寄りの金持ちだよと俺も考えてしまう。それにしても杉浦が我に帰ってドアを開けて俺を確認するか、そのオーナーとやらが駆けつけてくれないと話が進まないのは分かった。俺としては壊してもいいならドアを蹴破ってやりたいところだが、それをして今度は自分が逮捕じゃ割りに合わない。こんなことなら会おうなんて思い付かなきゃよかったと、心の中で呟きイライラしながら立ち尽くす。

「勘弁してくれよ……ただ、顔見に来ただけなんだよ。」

そう俺がウンザリした声で言ったと殆ど同時に、同じ階の反対の突き当たりのドアが開く。言った通りその部屋の主は、俺の友人の鳥飼信哉で、隣の棟の友人のところにでも行くのだろう。何気なく通路の端の軽装の信哉に思わず手を振ると、向こうが俺を見てギョッとしたのが分かった。確かに何気なく家から出たら、マンションの通路に警察官とスーツの刑事に囲まれた友人がいたら驚く。信哉が何やってんだ?と言いたくなるのは当然だろう。

「鳥飼……?」

ところが俺の横でスーツ姿のもう一人・風間とか言う方が、ポカーンとした顔で信哉の事を呼んだのが聞こえていた。そう言えばこの若い方、信哉と同じ年くらいだから知り合い?そうこうしている内に、エレベーターホールには向かわず信哉は俺達に歩み寄った。

「風間?何でここに?っていうか……何やってんだ?忠志。」
「なんか分かんねぇけど、巻き込まれてる。」
「それは見たら分かるが……」

ところが刑事と信哉が知り合いと言うより、それから先が尚更驚きだった。信じられないことにこのマンションのオーナーとか言うのが、なんと鳥飼信哉の事だったのだ。
信哉が何でかその事をひた隠しにしてたのに、俺は不貞腐れてしまう。二年程度の関係じゃその話は、話すに値しないとでも言うのだろうか。そう目で訴えると話は後と言われ、一応管理マスターキーで警察官立ち会いで杉浦の家の戸を開けてもらう。まあ、話の流れ的にあり得るかと思ったけど、ドアガードががっちりかかっている訳で。あいつはパニックのあまり電気を消したみたいだけど、暗がりでパニックなんかになったら解消できなくないか?お陰で隙間から中に声をかけるけど、まあ予想通りパニックの杉浦には理解できてない。

「どうしますか?鍵屋呼びます?」

困惑顔でそういう制服警官に、溜め息交じりに信哉は開けれますよと呟く。たまにこう言うことが有るんで開け方なら知ってますという信哉に期待の視線が集まって、再び溜め息をついた信哉は家からビニール紐を持ってくるとアッサリ十秒もしない内にドアガードを外してしまった。

「随分簡単に開くもんだなぁ?」
「簡単すぎるから嫌なんですよ、今はキーがカードだからまだいいですけどね。」

防犯上マスターキーを持っているオーナーが、ここに住んで居ると知られたくないのだと言う。どこの部屋も入れる鍵を持った男がここにいてドアガードも十秒で外すと知っていたら、確かに嫌かもしれない。
風間という男が先に入るのに何気なく続く信哉を警官が止めようとするが、それより先に叫んで飛びかかってくる杉浦の奇声に警察官が立ち尽くした。

いや、いかんだろ?そこで固まっちゃ。

廊下の奥の暗がりから杉浦の手に握られたナイフが、通路の蛍光灯の光を反射してギラギラと光る。それを見た瞬間、忠志の頭の中にあの時が甦っていた。

三浦和希が瀬戸遥かを襲い刺した後。
自分の手に深々と傷を残して、自身の喉に向かって血塗れのナイフが光ながらめり込んでいく刹那。

その時誰よりも真っ先に反応したのは一番前にいた風間ではなく、その次に室内に入っていた信哉だった。グイと風間を後ろに引き戻したかと思うと、突き出されようとするナイフを持った手にスッと手が撫でるように回した。次の瞬間、手首を捻られた杉浦は悲鳴をあげ始める。
失念していたが鳥飼信哉は綺麗な顔の見た目とは違い、合気道やら空手やらカポエラやらを身に付けている武闘派でちょっとやそっとじゃ怯みもしない。しかも、それ以外にも古武術なんて秘伝みたいなものまで身につけた、人間凶器みたいなヤツなのだ。あ、その男がマスターキー持ってるって怖いな。曲がったことが嫌いな奴だからいいけど、悪用するタイプだったら確かに嫌だ。

「いててぇ!いてぇ!いたいいいっ!」
「お見事だなぁ、なんかやってんの?オーナーさん。」
「そんなこといいから、早くその包丁どっかにやってくださいよ!」

パニック状態の杉浦を苦もなく確保した信哉の声に、慌てて警察官が動く。暴れなければ痛みが少ないと信哉に言われてやっと大人しくなった杉浦は、ここで初めての俺の顔を見上げポカーンと口を開けた。

「あ、ま、槙山?」
「誰だと思って騒いでんだ?杉陽。」

思わず小中の時の呼び方で呼んでしまうと、予想外の言葉がその口から飛び出す。

「和希、…………じゃない?」

その言葉に昔の和希や最近の和希しか頭になかった俺は呆れたように、杉浦を見下ろし口を開いた。

「なんで和希だよ?似てねぇだろ?」

そこまで言ってから俺は違うことに気がつく。杉浦は小中は一緒で、高校から俺や和希とは違う学校だった。大学になって酒が飲めるようになった辺りで、杉浦とあったと言う話は聞いたことがある。だけど、その辺りは和希は特に変化がなかった。だから、もし知っているなら黒髪の和希だけな筈なのだが、杉浦はあのチンピラ紛いに落ちぶれた金髪の和希を知っている。
あの当時金髪な上に和希が俺に髪型が似ていて、俺は和希の起こした事件の協力者か共犯者じゃないかと疑われたのだ。幸い俺の事を以前から知っている刑事が何人かいて、この髪は地毛でそんな人間ではないと証明してもらえたのはありがたかった。兎も角杉浦は金髪の和希迄知っていて、今の和希が黒髪で入院しているとは知らないと言うことだ。しかも、何でかここに来ると考えてもいる。

「あ、ああ、よかったぁ!」

安堵のあまりオイオイと泣き出した杉浦に、俺も刑事の二人も押さえ込んでいる信哉ですら呆気にとられていた。結局杉浦は黒髪だった和希が金髪に頭を染めた辺りを知っていて、そのせいで俺の頭をインターホンで見てパニックになったのだと言う。だけど、俺が何でそんなに和希に怯えなきゃなんないんだと問いかけた途端、杉浦は再び青ざめて口をつぐんでしまったのだった。
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