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悪化
110.★
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あれから何度誘っても三人は、自分と顔をあわせようともしなくなった。しかもだ、ハルカワシンゴはあんなにヤネオシュンイチを慕っていた筈なのに、さっさとシュンイチの着信を拒否してメールアドレスまで変えた。それに気がついてどういうわけ?とコバヤカワにメールしたら、自分の胸に聞いてみなよと言うばかりで、シュンイチにはちっとも理解が出来ない。
ハルカワはアキコがほしかったんだ……
射干玉の闇の中で天井を見つめながらそう考えると、ここにアキコがいないのだからシュンイチに媚を売る必要がないのかと理解する。シュンイチの性奴隷。あいつと来たらシュンイチだけに媚を売ればいいのに、何故か周りの男どもにも人気で誰もが欲しがる有り様だ。コイズミは誘っても彼女が出来たからとまるで乗ってこなくなったし、コバヤカワも電話は無視してメールにもたまにしか返事を寄越さない。
あんなに俺に集って来たくせに、アキコがいないのがそんなに嫌か
容姿もいいし性器の具合も極上、しかも性的には無垢、その上金は稼げるし家事も完璧にこなせる、従順で大人しく妻としても奴隷としても役割をこなせる特殊な女。それがどんなに特別なのは、もう充分すぎる程によく分かっていた。分かっているが彼女が居ないからと三人が、あからさまに自分を避けるのは腹立たしい。
同じような女を見つけたら
そう考えてシュンイチはアキコがいない内にと何人も新しい奴隷を躾ようとしたが、どいつもこいつも文句ばかり。調教はまるで上手くいかないし、待ち合わせにすらやってこない無作法な雌まで出てきている。SMのパートナーの出会いをサポートするという趣旨からできたチャットなのに、ここに来て随分M嬢の質が下がったものだと呆れてしまう。何しろSM前提で会っているというのに、最初はSMはしたくないなんて言う女までいるのだ。
アキは最初からスパンキングで絶頂したのに
そう考えてしまうと、闇の中で喘ぐアキコの艶かしい声が脳裏に浮かぶ。他の女とは違う白く滑らかな肌に、四つん這いにした真っ白な尻。柔らかく打ちすえると適度に押し返す弾力に、直ぐ赤く色を変える尻肉。捩じ込み掻き回す膣の滑り、卑猥なグチョグチョという濡れた愛液の音。何もかもが射干玉の闇の中では鮮明で、アキコが暗がりでないと眠れない理由が分かる気がする。
前戯をもっとして欲しいだの、優しくして欲しいだの、縄や鞭は嫌だの、痛いのは嫌だの、言葉責めだけして欲しいだの
奴隷の方からご主人様であるシュンイチに要求するなんて、おこがましいにも程がある。奴隷からの要求はアキコのように、もっと苛めてください、もっと打ってください、もっとお好きにお使いくださいくらいが丁度いい。闇の中でアキコの泣き喘ぐ姿を思い浮かべながら、自分の逸物を握りしめ扱き始める。
アキだってきっと今頃俺に虐められるのを妄想しながら、オナニーしてるに違いない
何故かこの闇の中では、それが目で見た真実のように感じられた。自分の掌の感触ではアキコのうねる膣や腸の快感にはまるで叶わないが、妄想の中で喘ぐ姿はあの土蔵の中の花嫁姿に変わる。着崩れた銀糸の刺繍の施された打掛を捲りあげて、帯で梁に吊るされ竹竿で打たれたりする憐れな生け贄。
※※※
シズシズと土蔵の前に進む花嫁行列。
地方の豪農らしい豪華な白無垢に、一際美しい娘。実際には他に好きな男が居たのは分かっているが、彼女が嫁がないと家が廃れると説き伏せられ白粉で隠されはしたもののその瞳は泣き張らした紅さを敷く。
たった七日間神様の嫁になるだけ。
そう説き伏せたのは、何が起こるか正直なところ誰も知らないからだ。花嫁は血筋の娘でないとならないし、その後に神様の嫁になった女が産んだ子供は誰の子供でも本家の跡継ぎになる。それが約束ごとだと聞いたが、それだって前回が二百年も前のことでは真実は老婆ですら知らない。だからどこまでが本当なのか分かったものではないと誰もが呑気に考えて、だから花嫁御寮は七日間ただ土蔵に籠るだけだと誰しもが考えていた。
土蔵に閉じ込め、七日間は決して扉を開けても覗いてもいけない。食事は昼の内に格子戸の下に作った穴から差し入れるだけで花嫁とも口を利いてはいけないとされていて、何を聞いても請われても答えてはならないとされている。
助けて!誰か!!助けてぇ!開けて!!出してぇ!
何もない筈の土蔵の中娘の悲鳴が上がったのは、一夜目の夜だった。闇を切り裂く悲鳴で助けを求める声に、母屋にいた者達は凍りつき何が起こったのかと顔を見合わせる。何もいないし入れもしない扉の向こうで、娘は何かに襲われていた。だが祖父母は断固として近寄ることを禁じていて、家の中には誰も祖父母に逆らえる力がないのだ。
いやぁ!!誰かぁ!!!いやぁああ!!
誰もいないし忍び込むことも出来ない筈の土蔵の中で、独りきりで花嫁姿で置かれただけの娘が何者かに襲われ助けを求める。土蔵はまるで座敷牢のように堅固で忍び込むことも出来ないなら、娘が逃げ出すことも出来ないのだ。格子戸をガタガタと揺すり助けてと叫ぶ娘の声に、母屋の人間は誰もがきこえないふりをして耳を塞ぐ。
ひいぃ!!ひいぃい!!あああっ!!いやっ!いやぁああぁあ!
尾を引く娘の声が一時遠退き、土蔵の奥に娘が引きずり込まれたのを知る。翌日の昼に握り飯を扉の隙間から押し込んだ時に、てっきり奥から娘が駆け寄ってきて開けろと怒鳴ると思ったのに聞こえたのは掠れて苦悩に満ちた微かな悲鳴。しかも奥の暮明から土間の湿った地を這ってにじりよるような、淫靡な閨の声だった。
うっ……うぅ…………うっ、…………うひぃっ…………ひっ……
リズミカルに響く濡れ音に紛れるその声に心底ゾッとするのは、そこにいるのは花嫁姿をして仮の花嫁にさせられるだけだった本家の一人娘だけだった。相手なんか誰もいない筈なのに、耳をすますとニチョニチョグチョグチョと卑猥な淫液の掻き回される音が漏れる。男を引き込む事も出来ない暗闇で日の光にも負けず土蔵の奥で延々と睦みあう音がしているのに、背筋が凍るのはそれが何と睦あっているかその家の者は知っているからだ。
んんっ……はうぅ……うっ……ううん、はぅん……ああっ……いやっあん……
その悲鳴が次第に甘やかな悩ましい矯声にかわり、次第にあからさまな喘ぎ声に塗り替えられる。おぞましいことだと知りながら、花嫁を差し出した者達は凍りついたまま土蔵に近寄ることもなくそれを聞いていた。それはその日だけでなくその後も続く、七日間続くと知っているのだ。
ああっあああっ!あーっ!いくぅ!!いっちゃううう!いいっ!
そしてやがては最初の助けを求める悲鳴と同じ位の音量で、激しく歓喜を訴える声に変わっていった。再三に喘ぎ掠れても強い歓喜を叫ぶ声は、ある者にはおぞましく、ある者には情欲をそそる。近隣の若い男が土蔵の中の矯声に引かれて夜毎に射干玉の闇に紛れて、こっそりと土蔵の中の音を扉の穴から聞き取ろうと息を詰めるのを家の者だけでなく土蔵の中の者達も知っていた。
あうぅん、そこぉ!おくぅ奥まで刺さってるぅ!ううん!くひぃんっ!太いぃ!いいっ!いぃいっ!
わざと聞かせようとでも言うように、激しく睦合う卑猥な声。決して相手の男の声は聞こえないが、女の声は何かを問いかけられたように喘ぎ叫び答える。
あああっ!いいですぅ!すごく気持ちいいですぅ!おチンポ気持ちいいぃ!!
近隣の男は、清楚でソソとした娘の事をよく知っている。生娘で性にも疎いその娘が土蔵の奥でそれを叫ぶ女性を想像し、興奮して股間を硬くして生唾を飲み込んだ。
もっと、してっ!もっと!もっとぉぉ!ズボズボしてっ!奥まで捩じ込んでぇ!!
強請り叫ぶその声に、聞き耳をたてているだけでは満足できる筈もない。扉に小さく開けられた穴に顔を押し当てるようにして、中の暗闇に目を凝らす男は自分が既にそれに見つめ返されているのにはまるで気がつかない。
そうして覗こうとしていた男は、土蔵の中のものに魅いられ朝になると扉の前で放心した状態で発見されるのだ。夜の内に何が起きていたのかは分からないし、扉を開くわけにもいかない。しかも、だらしなく放心した男達は、大概が歓喜に惚けてしまって会話すらままならないでいる。何とかその場から引き摺り引き離しても何度止めても土蔵の傍に足を向け、そのまま放心して飯も食わずやがて死ぬ者もいれば一旦は我に帰っても以前とはまるで人が変わってしまって何時の間にか朝靄に姿を消す者もいるのだ。
ヒョウ……ヒョーウ……
その哭き声が聞こえると一族の者は耳を塞ぐ。哭き声を聞いてはいけないと昔から伝えられているから、聞こえても聞いたことにしてはいけない。聞いてしまうと不幸や災いや、病が起きる魔性の哭き声に魅いられてしまう人間もいるのを昔からしっているのだ。
やがて七日間続いた歓喜の声が唐突に終わり、土蔵の周辺は水を打ったような静けさに包まれる。静まり返った空気の中で恐る恐る家の者達が土蔵の扉が開くと、中には湿った土の臭いと畳の臭いだけが漂う。扉の隙間から射し込む光に次第に照らされていくと目の色の変わった娘がポツンと残され、娘は凍った目で射し込んでくる光を見つめ返していた。
※※※
夢の中で土蔵に関したモノをみたような気がした。
射干玉の闇の中で瞬くが、見えるのは闇だけで何も見える筈がないのに、何故か視界の中に土蔵の闇が広がっている。そして同時に何故か強い渇望が腹の底にあって、それを解消するにはアキコの存在が必要なのだと確信していた。
あれは俺のモノだ。あれは、俺だけのモノ
そう闇の中で呟くと、それに重なるように何故か湿地のように湿った空気が肌に触れる。アキコの昔暮らしていた土地で見て経験した、あの乳白色の濃い靄の中に紛れ込んだような湿った空気を闇の中で一人感じたのだ。その湿り気が何故かアキコの肌を思い起こさせて、緩く握りしめた逸物が脈打つ。
貫いて……犯して…………あの靄の中で…………
そう思い出して考えると何故かシュンイチの意識は、深く広大な湿地の中に取り残されたような気分に塗り変わる。湿地だなんて何故思ったのか、今までの人生で湿地なんて経験もしていないのに。社会科を教える時位しか言葉でも接しないもので、今の頭の中には北国の最果ての湿地帯がうっすら頭に浮かぶ程度なのだ。そう言えばアキコの両親のどちらかがそっちの出身だとか言った筈だと不意に思うが、それが何の意味があるのかも分からない。
そう言えば…………
自分の両親は元々は南の生まれで、同じく海を隔てた土地からここに移り住んできていた。だけどそれが何故いまここで頭に浮かび上がるのか、自分は闇の中で下半身を曝して逸物を手に握る不様な姿でこんなことを考え続けているのだ。
何でだ?何で、俺は…………
闇の中で不意に落ち着かない気分になって瞬きを繰り返すが、闇は変わらず射干玉の闇のまま。これでは自分の顔を覗き込まれても見えないなんて思った瞬間、何故かそれは現実のような気がした。闇を見つめる目を何かが覆い被さり覗き込んでいて、相手は自分を見ているのに自分はそれを見ることが出来ない。そうだとしたら、もし覗き込まれているのだとしたら、それは何なのだろうか。
…………って………………んの…………
不意に頭の中に浮かんだ言葉に、闇の中でシュンイチは目を見開く。何故か頭の中で様々なことが繰り返されて、奇妙な考えに支配されるようになってきている気がするのは、アキコの事を面倒みてきた弊害なのだろうかと思う。良く言うじゃないか、病人の看病をしている人間がそれに引き摺られ病気になると。
よって件の如し……
そうだ、言った通りシュンイチはアキコという病人の世話をしていたから、少し疲れて病気になりかけているのだ。そう考えると気が楽で尚更早く治して帰ってこいと、シュンイチは苦々しく逸物を握りしめながら考える。奥歯を噛みしめ闇の中で歯を剥き出しているのにも気がつかず、シュンイチは不意に自分の逸物を擦り出し始めた。
…………アキは俺のもので、俺が幸せに暮らすためには必要なモノなんだ
それを頭の中で繰り返し、同時にあの靄の中で犯した蜜壺のような膣を思い浮かべる。狭くて熱くて滑った蜜壺と頭で繰り返して考えながら必死に逸物を扱き立てて絶頂感を得ようとするが、奇妙なほどガチガチに固くなっている逸物はどんなにキツく握り扱いても快感に昇り詰められない。グチグチゴシゴシと音を立てても、どうしても射精まで至れないまま闇の中で歯を剥き出し続ける。
アキが必要だ…………取り返して、元通りここで囲って…………
そうだ、土蔵のようにここに閉じ込めておけばいいのだ。そう頭の中で繰り返し奇妙に割れた声が言う。アキコを取り戻さないと何も自分には得られないという確信だけが膨らんでいくのに、シュンイチは堪えきれなくなってアキコに行くとメールをしていた。
ハルカワはアキコがほしかったんだ……
射干玉の闇の中で天井を見つめながらそう考えると、ここにアキコがいないのだからシュンイチに媚を売る必要がないのかと理解する。シュンイチの性奴隷。あいつと来たらシュンイチだけに媚を売ればいいのに、何故か周りの男どもにも人気で誰もが欲しがる有り様だ。コイズミは誘っても彼女が出来たからとまるで乗ってこなくなったし、コバヤカワも電話は無視してメールにもたまにしか返事を寄越さない。
あんなに俺に集って来たくせに、アキコがいないのがそんなに嫌か
容姿もいいし性器の具合も極上、しかも性的には無垢、その上金は稼げるし家事も完璧にこなせる、従順で大人しく妻としても奴隷としても役割をこなせる特殊な女。それがどんなに特別なのは、もう充分すぎる程によく分かっていた。分かっているが彼女が居ないからと三人が、あからさまに自分を避けるのは腹立たしい。
同じような女を見つけたら
そう考えてシュンイチはアキコがいない内にと何人も新しい奴隷を躾ようとしたが、どいつもこいつも文句ばかり。調教はまるで上手くいかないし、待ち合わせにすらやってこない無作法な雌まで出てきている。SMのパートナーの出会いをサポートするという趣旨からできたチャットなのに、ここに来て随分M嬢の質が下がったものだと呆れてしまう。何しろSM前提で会っているというのに、最初はSMはしたくないなんて言う女までいるのだ。
アキは最初からスパンキングで絶頂したのに
そう考えてしまうと、闇の中で喘ぐアキコの艶かしい声が脳裏に浮かぶ。他の女とは違う白く滑らかな肌に、四つん這いにした真っ白な尻。柔らかく打ちすえると適度に押し返す弾力に、直ぐ赤く色を変える尻肉。捩じ込み掻き回す膣の滑り、卑猥なグチョグチョという濡れた愛液の音。何もかもが射干玉の闇の中では鮮明で、アキコが暗がりでないと眠れない理由が分かる気がする。
前戯をもっとして欲しいだの、優しくして欲しいだの、縄や鞭は嫌だの、痛いのは嫌だの、言葉責めだけして欲しいだの
奴隷の方からご主人様であるシュンイチに要求するなんて、おこがましいにも程がある。奴隷からの要求はアキコのように、もっと苛めてください、もっと打ってください、もっとお好きにお使いくださいくらいが丁度いい。闇の中でアキコの泣き喘ぐ姿を思い浮かべながら、自分の逸物を握りしめ扱き始める。
アキだってきっと今頃俺に虐められるのを妄想しながら、オナニーしてるに違いない
何故かこの闇の中では、それが目で見た真実のように感じられた。自分の掌の感触ではアキコのうねる膣や腸の快感にはまるで叶わないが、妄想の中で喘ぐ姿はあの土蔵の中の花嫁姿に変わる。着崩れた銀糸の刺繍の施された打掛を捲りあげて、帯で梁に吊るされ竹竿で打たれたりする憐れな生け贄。
※※※
シズシズと土蔵の前に進む花嫁行列。
地方の豪農らしい豪華な白無垢に、一際美しい娘。実際には他に好きな男が居たのは分かっているが、彼女が嫁がないと家が廃れると説き伏せられ白粉で隠されはしたもののその瞳は泣き張らした紅さを敷く。
たった七日間神様の嫁になるだけ。
そう説き伏せたのは、何が起こるか正直なところ誰も知らないからだ。花嫁は血筋の娘でないとならないし、その後に神様の嫁になった女が産んだ子供は誰の子供でも本家の跡継ぎになる。それが約束ごとだと聞いたが、それだって前回が二百年も前のことでは真実は老婆ですら知らない。だからどこまでが本当なのか分かったものではないと誰もが呑気に考えて、だから花嫁御寮は七日間ただ土蔵に籠るだけだと誰しもが考えていた。
土蔵に閉じ込め、七日間は決して扉を開けても覗いてもいけない。食事は昼の内に格子戸の下に作った穴から差し入れるだけで花嫁とも口を利いてはいけないとされていて、何を聞いても請われても答えてはならないとされている。
助けて!誰か!!助けてぇ!開けて!!出してぇ!
何もない筈の土蔵の中娘の悲鳴が上がったのは、一夜目の夜だった。闇を切り裂く悲鳴で助けを求める声に、母屋にいた者達は凍りつき何が起こったのかと顔を見合わせる。何もいないし入れもしない扉の向こうで、娘は何かに襲われていた。だが祖父母は断固として近寄ることを禁じていて、家の中には誰も祖父母に逆らえる力がないのだ。
いやぁ!!誰かぁ!!!いやぁああ!!
誰もいないし忍び込むことも出来ない筈の土蔵の中で、独りきりで花嫁姿で置かれただけの娘が何者かに襲われ助けを求める。土蔵はまるで座敷牢のように堅固で忍び込むことも出来ないなら、娘が逃げ出すことも出来ないのだ。格子戸をガタガタと揺すり助けてと叫ぶ娘の声に、母屋の人間は誰もがきこえないふりをして耳を塞ぐ。
ひいぃ!!ひいぃい!!あああっ!!いやっ!いやぁああぁあ!
尾を引く娘の声が一時遠退き、土蔵の奥に娘が引きずり込まれたのを知る。翌日の昼に握り飯を扉の隙間から押し込んだ時に、てっきり奥から娘が駆け寄ってきて開けろと怒鳴ると思ったのに聞こえたのは掠れて苦悩に満ちた微かな悲鳴。しかも奥の暮明から土間の湿った地を這ってにじりよるような、淫靡な閨の声だった。
うっ……うぅ…………うっ、…………うひぃっ…………ひっ……
リズミカルに響く濡れ音に紛れるその声に心底ゾッとするのは、そこにいるのは花嫁姿をして仮の花嫁にさせられるだけだった本家の一人娘だけだった。相手なんか誰もいない筈なのに、耳をすますとニチョニチョグチョグチョと卑猥な淫液の掻き回される音が漏れる。男を引き込む事も出来ない暗闇で日の光にも負けず土蔵の奥で延々と睦みあう音がしているのに、背筋が凍るのはそれが何と睦あっているかその家の者は知っているからだ。
んんっ……はうぅ……うっ……ううん、はぅん……ああっ……いやっあん……
その悲鳴が次第に甘やかな悩ましい矯声にかわり、次第にあからさまな喘ぎ声に塗り替えられる。おぞましいことだと知りながら、花嫁を差し出した者達は凍りついたまま土蔵に近寄ることもなくそれを聞いていた。それはその日だけでなくその後も続く、七日間続くと知っているのだ。
ああっあああっ!あーっ!いくぅ!!いっちゃううう!いいっ!
そしてやがては最初の助けを求める悲鳴と同じ位の音量で、激しく歓喜を訴える声に変わっていった。再三に喘ぎ掠れても強い歓喜を叫ぶ声は、ある者にはおぞましく、ある者には情欲をそそる。近隣の若い男が土蔵の中の矯声に引かれて夜毎に射干玉の闇に紛れて、こっそりと土蔵の中の音を扉の穴から聞き取ろうと息を詰めるのを家の者だけでなく土蔵の中の者達も知っていた。
あうぅん、そこぉ!おくぅ奥まで刺さってるぅ!ううん!くひぃんっ!太いぃ!いいっ!いぃいっ!
わざと聞かせようとでも言うように、激しく睦合う卑猥な声。決して相手の男の声は聞こえないが、女の声は何かを問いかけられたように喘ぎ叫び答える。
あああっ!いいですぅ!すごく気持ちいいですぅ!おチンポ気持ちいいぃ!!
近隣の男は、清楚でソソとした娘の事をよく知っている。生娘で性にも疎いその娘が土蔵の奥でそれを叫ぶ女性を想像し、興奮して股間を硬くして生唾を飲み込んだ。
もっと、してっ!もっと!もっとぉぉ!ズボズボしてっ!奥まで捩じ込んでぇ!!
強請り叫ぶその声に、聞き耳をたてているだけでは満足できる筈もない。扉に小さく開けられた穴に顔を押し当てるようにして、中の暗闇に目を凝らす男は自分が既にそれに見つめ返されているのにはまるで気がつかない。
そうして覗こうとしていた男は、土蔵の中のものに魅いられ朝になると扉の前で放心した状態で発見されるのだ。夜の内に何が起きていたのかは分からないし、扉を開くわけにもいかない。しかも、だらしなく放心した男達は、大概が歓喜に惚けてしまって会話すらままならないでいる。何とかその場から引き摺り引き離しても何度止めても土蔵の傍に足を向け、そのまま放心して飯も食わずやがて死ぬ者もいれば一旦は我に帰っても以前とはまるで人が変わってしまって何時の間にか朝靄に姿を消す者もいるのだ。
ヒョウ……ヒョーウ……
その哭き声が聞こえると一族の者は耳を塞ぐ。哭き声を聞いてはいけないと昔から伝えられているから、聞こえても聞いたことにしてはいけない。聞いてしまうと不幸や災いや、病が起きる魔性の哭き声に魅いられてしまう人間もいるのを昔からしっているのだ。
やがて七日間続いた歓喜の声が唐突に終わり、土蔵の周辺は水を打ったような静けさに包まれる。静まり返った空気の中で恐る恐る家の者達が土蔵の扉が開くと、中には湿った土の臭いと畳の臭いだけが漂う。扉の隙間から射し込む光に次第に照らされていくと目の色の変わった娘がポツンと残され、娘は凍った目で射し込んでくる光を見つめ返していた。
※※※
夢の中で土蔵に関したモノをみたような気がした。
射干玉の闇の中で瞬くが、見えるのは闇だけで何も見える筈がないのに、何故か視界の中に土蔵の闇が広がっている。そして同時に何故か強い渇望が腹の底にあって、それを解消するにはアキコの存在が必要なのだと確信していた。
あれは俺のモノだ。あれは、俺だけのモノ
そう闇の中で呟くと、それに重なるように何故か湿地のように湿った空気が肌に触れる。アキコの昔暮らしていた土地で見て経験した、あの乳白色の濃い靄の中に紛れ込んだような湿った空気を闇の中で一人感じたのだ。その湿り気が何故かアキコの肌を思い起こさせて、緩く握りしめた逸物が脈打つ。
貫いて……犯して…………あの靄の中で…………
そう思い出して考えると何故かシュンイチの意識は、深く広大な湿地の中に取り残されたような気分に塗り変わる。湿地だなんて何故思ったのか、今までの人生で湿地なんて経験もしていないのに。社会科を教える時位しか言葉でも接しないもので、今の頭の中には北国の最果ての湿地帯がうっすら頭に浮かぶ程度なのだ。そう言えばアキコの両親のどちらかがそっちの出身だとか言った筈だと不意に思うが、それが何の意味があるのかも分からない。
そう言えば…………
自分の両親は元々は南の生まれで、同じく海を隔てた土地からここに移り住んできていた。だけどそれが何故いまここで頭に浮かび上がるのか、自分は闇の中で下半身を曝して逸物を手に握る不様な姿でこんなことを考え続けているのだ。
何でだ?何で、俺は…………
闇の中で不意に落ち着かない気分になって瞬きを繰り返すが、闇は変わらず射干玉の闇のまま。これでは自分の顔を覗き込まれても見えないなんて思った瞬間、何故かそれは現実のような気がした。闇を見つめる目を何かが覆い被さり覗き込んでいて、相手は自分を見ているのに自分はそれを見ることが出来ない。そうだとしたら、もし覗き込まれているのだとしたら、それは何なのだろうか。
…………って………………んの…………
不意に頭の中に浮かんだ言葉に、闇の中でシュンイチは目を見開く。何故か頭の中で様々なことが繰り返されて、奇妙な考えに支配されるようになってきている気がするのは、アキコの事を面倒みてきた弊害なのだろうかと思う。良く言うじゃないか、病人の看病をしている人間がそれに引き摺られ病気になると。
よって件の如し……
そうだ、言った通りシュンイチはアキコという病人の世話をしていたから、少し疲れて病気になりかけているのだ。そう考えると気が楽で尚更早く治して帰ってこいと、シュンイチは苦々しく逸物を握りしめながら考える。奥歯を噛みしめ闇の中で歯を剥き出しているのにも気がつかず、シュンイチは不意に自分の逸物を擦り出し始めた。
…………アキは俺のもので、俺が幸せに暮らすためには必要なモノなんだ
それを頭の中で繰り返し、同時にあの靄の中で犯した蜜壺のような膣を思い浮かべる。狭くて熱くて滑った蜜壺と頭で繰り返して考えながら必死に逸物を扱き立てて絶頂感を得ようとするが、奇妙なほどガチガチに固くなっている逸物はどんなにキツく握り扱いても快感に昇り詰められない。グチグチゴシゴシと音を立てても、どうしても射精まで至れないまま闇の中で歯を剥き出し続ける。
アキが必要だ…………取り返して、元通りここで囲って…………
そうだ、土蔵のようにここに閉じ込めておけばいいのだ。そう頭の中で繰り返し奇妙に割れた声が言う。アキコを取り戻さないと何も自分には得られないという確信だけが膨らんでいくのに、シュンイチは堪えきれなくなってアキコに行くとメールをしていた。
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