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間章 ソノサキの合間の話
間話138.びーえるの話2
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BLなんて発言を、まさか小学生からされるなんて………
狭山明良の甥っ子と姪っ子・高城光輝と狭山優羽の小学生2人組をお買い物目的の母親達から押し付けられ、結城晴は2人からなんとも衝撃の一撃を食らっていた。お洒落なカフェテリアに可愛らしい姉弟に見える小学生2人を連れたフワフワ栗毛の晴は、姿形は似てはいないが年の離れた兄に見えなくもない。仲好さげな3人を遠巻きに周囲がほほえましく眺めている最中、テーブルを囲む晴に投げつけられたのはまさかの一言だ。
昨今の小学生という年代の片寄った情報過多については、流石にいかがなものかと思う。でもそれが家の両親なんかの家業となってくると、やむを得ないといわざるをえなくもない。そんなわけでそういう類いの書籍が仕事柄のせいで元々家にあるんなら、子供が目にしても仕方がないのかと晴は納得するしかない部分はある。
「リラちゃんのママがBL漫画描いてるんだって。」
「へ、……へー……。」
晴には漫画家の家族なんて持ったことがないから分からないが、家にはそういう資料の本が幾つも折り重なっていたりするのだろうか。そう言えばN◯Kかなんかの特集番組で、有名漫画家の自宅兼書斎を放送しているのをチラッと見た記憶が朧気だがなくもない。自分の描いた漫画書籍だけでなく、図書館のような本棚をギッシリと漫画や写真集、小説が埋め尽くしていた記憶がある。そう言えば晴と明良の自宅はそんなに紙面書籍はないけれど、実は仕事としても通う外崎邸には書架が2階の廊下にキッチリと作りつけられていた。その書架に収まっている書籍のジャンルは広範囲過ぎるし、冊数も多いから正直数も数えたことがない。とは言え外崎宏太は目が見えないからまさか外崎了の蔵書?と思って、余りにも冊数が多いからと了に聞いたら
あ、あれは宏太のが殆んど。
とサラリと了には返答された。2人で暮らすために外崎邸を購入した際に、以前外崎宏太が暮らしていたマンションに置かれていた書籍を持ち込んだそうだ。中身は読んで覚えているから棄ててもよかったと宏太は言うらしいが、中には一寸宏太がメモを挟んでいたりする書籍や何か書き込みのある書籍があったりして了の判断でそのまま移送したらしい。廊下だけで収まらずゲストルームにも書架はあって、そこは了が丁寧に書籍管理をしながら整理を続けている。中には了が興味を持ち少しずつ読んでいるものもある模様。という話はさておき漫画家の知り合いなんて流石にそうそういない………あ、でも考えてみると文筆業なんて職種を持つ人は何人か居た。久保田松理とか鳥飼信哉とか、榊恭平だってその1人だ。
………そう言えば榊家にも本棚に沢山本があるっけなぁ……
全部読んだの?と恭平の書斎の本の山を見上げたことがあるが、参考資料として集めたものもあるし、読書が趣味の部分もあるからと笑っていたのを思い出す。晴自身は気になる本はスマホでダウンロードしてしまう方だから余り紙媒体の書籍は購入する事がないけれど、考えたら書店に行かなくてもスマホひとつあれば山ほどそういう書籍を読むことが可能な世の中なのだ。そう考えたら誰がどんな風にどんなジャンルの本を読んでいても可笑しくないし、別に入手方法だって難しくはない。
大体にして巷で有名な『奈落』のサスペンス物は流石の晴だって読んだことがあるし、恋愛物としてヒットした『鳥飼澪』の本は元カノから薦められた事があってチラッと流し読みしたことがある。そんな作品を書いたのが久保田松理と鳥飼信哉だと聞いたのは、知り合って大分たってからの話だ。つまりはそうは見えなくとも、そんじょそこらに有名な書籍の作者が直ぐ傍にいても可笑しくない。ということはジャンルが違えどBLな、ちょっと晴が読むにも恥ずかしくなっちゃうような作品を、身の回りで描いて過ごしている人がいたって全然可笑しくはない訳なのだ。それにそういう書籍を作成していても、本人の性別はさておき、同性愛者でなく普通に結婚して子供がいる可能性は高い。
というか、実際にいるわけだ。
つまりは優羽の言うように、親御さんが仕事としてそういうことを取り扱ってて、それがまぁ家の中に有るんだから一緒に暮らす子供さんの目に入る。そしてそういうことに興味津々の年代でもある上に、少しおませな女の子達の中で本が取り交わされるのは、あり得ない話ではない筈だ。そこんところはある意味中学とかに男子が女性の裸の写真が載った兄や父親の買った雑誌を、コッソリと回覧していたのと何も変わらない。
………でも、一応子供の目に届かないとこに置いて欲しかったなぁー。
あ、でも親としては日々の仕事に使うための物だから、完全にはしまい込めないのか。それとも商業誌とか販売書籍だったとしたら、あのテレビ特集や榊家の書斎のように棚に壮観に立ててあるから子供達もフリーに読めるのか…………じゃない、兎も角こんなことからも分かる通り昨今の知識の流出って言うのは、かなり緩い、いやもうここ迄来るとザルと言えるのではないか。
「晴ちゃんと明にいは純愛だからいいんだよ。」
「ふぁ?」
当然みたいに優羽がパフェを頬張りながら、光輝に言ったのに思わず晴は珍妙な声をあげてしまう。いや、間違ってはいないのだけれど、小学生にそんなことを言われてなんと答えたものなのか。一応はそういう点では率先してマイノリティを推し進めたい訳ではなく、同時に自分達の関係性が社会的にはまだまだ認知されているものでもないのは理解している。だからこそ外崎家でも榊家でも結婚ではなく養子縁組という形をとったわけであって、自分と明良が今後どういう形を選ぶかは社会の変容次第の面もあるのだ。
「でもさぁ、明良にぃは晴ちゃんに毎回無理させるからダメだよね。」
トドメとばかりに訳知り顔で光輝が放った言葉に、晴が盛大なグフッっと変な音を立ててムセ込んでしまったのは言うまでもない。
※※※
そんな話を発端に自分がどうだったか思い出そうとしてみるが、晴自身も何歳頃に同性愛という知識があったか問われると正直思い出せない。というか同性愛という表現はある程度昔から知ってはいたが、それがどういう行為に結び付くかをいつから知っていたかと問われると首を捻る。確かに小学生には性的な事を含めて保健体育の授業は受けたような記憶があるのだが、男女の関係に関しては兎も角同性の知識が昔からあったかと問われると………どうなんだろうか?というか、保健体育の授業なんて男女の性器の大まかな知識くらいの話で、性行為という話は触れてない。そういうのは何となく周囲の同級生との会話の中で、そういう行為をするらしいっていう程度の話から始まった気がする。
まぁ、そんなことを発端にして、外崎宏太に何歳頃から知ってたの?どうやって知ったの?と問いかけた訳なのだが。
「仕事中にしないとならん話しか………。」
呆れ返った声で言う宏太の顔は、言葉にせずとも『お前は馬鹿か』と言っているのは言うまでもない。確かにこんな仕事中にしなくても良い話ではあるが、晴としては気になったものは仕方がない。それに正直一番聞きやすいし、一番明瞭返答が出来そうなのは宏太だと思う。
「あ?何だと?」
「だって、そうじゃん。しゃちょー。」
と言うのも晴の恋人の狭山明良は十中八九、というかほぼ100%高橋至との一件でそういう行為が現実にあることを知っただろう。以前からそういう行為を好む人が世の中にいるということくらいは知っていただろうけど、自分がその対象になるとは想定もしていなかった筈だ。そういう衝撃の中でそういう行為を常識の中にいれている晴がモーションをかけた訳であって、明良自身はそういう方面に聡かった訳じゃない。まぁ受け入れて貰ってなんだが狭山家の他の面々は女系家族でもあるから、そういうところには以前から耳聡いような気がする。佐久良・吉良・由良は同性愛については寛容な風で問題なく晴を受け入れてくれているが、普通だったらこうはいかないだろう。
そして晴自身に関しても言うまでもないが知識はうっすらあったが、現実として行為に気が向いたのは成田了との事が発端である。その了は以前から宏太との交流はあったのは了の話を聞いて分かったし、相手の宏太は以前から了のことを密かに監視する程好きだったのは知っている。とはいえ了と宏太が交際し始めたのは実はそれほど期間が経っていないから、もしかして了が同性愛に目覚めたのは自分が酔って襲ったからなのかも?と思うと了にこの話を追求するのにも躊躇いがある。
「………変なとこに、お前気配りしてんな………。」
「いや、そりゃしゃちょーにも悪いかなぁって…。」
高校時代の成田了を片倉右京と美味しく頂いている宏太としては、微妙な勘違いの上に意味のわからない晴の配慮ではあるが、晴なりに一応は気を遣った上での宏太への質問なのだ。因みに宏太への配慮の一部は、了が傍にいない時に聞くというポイントも含まれている。
それにしても確かに小学生で同性愛の書籍を読むとは流石に恐れ入ったが、実際のところ性的な問題は年々低年齢化していて最近では小学生の売買春が問題化しているのだという。自分が若い頃には大学生やら女子高生の売買春がニュースになったことが無くもないが、既に性的に小学生を相手にするような恐るべき世界になりつつあるわけだ。
「…………子供に欲情ねぇ。」
全く理解できんと一言で片付けるのは容易いが、実は宏太は了が過去にその性的な被害者の1人であることも知っている訳で。当然犯人だった矢根尾俊一には痛い目を見て貰ったが、結果的にあの男は痛い目を見せてもまるで効果を示さなかった。何処までも屑のまま、何一つ被害者へ共感することも出来ないまま、矢根尾は狂って血深泥になって死んだ。
監視されている筈なのに誰も見ていない
そんな不可思議な状況の中全身を傷だらけにして、一見すると破裂したようにすら見える死に様。そう苦々しい説明を風間祥太は呟くようにして、宏太にせめて音声から何か分からないかと僅かにノイズの向こうに漏れる音声を預けた。他殺としか思えない自殺。まるで何かを体内から引きずり出したかのような遺体。そして、残された音声。結果として矢根尾の死に関しては、実はかなり経つが何も答えが出ていない。そして検視が終わった男の遺体は引き取りが可能になっても両親が一向に引き取らず、近郊に住む弟も断固として引き取りを拒み続けた。
憐れだな……もっとマトモに幸せになる道は幾つもあった………
結果的に無縁仏になる寸前に弟が渋々引き取ったと風間に聞いたが、その弟自身それ以降音沙汰がプツリとキレたという。まぁこちら側としても矢根尾俊一の弟がどうしているかなんて、追跡調査をする必要性もないのは言うまでもない。進藤隆平みたいな多種多様な置き土産を残す悪の権化みたいな男と違い、矢根尾は自尊心の塊みたいなどうにも出来ない屑男で社会人としても人間としても能力としてはほぼ皆無に近い。無駄に子供や女子高生なんかに盛ることは出来ても、社会に何らかの……善くも悪くもだ……影響を残す程の能力は何一つなかった。そういう意味では矢根尾に殺されたとされる元妻・倉橋亜希子の方が遥かに社会的影響力があったのは言うまでもない。有能な看護師としてだけでなく妻として倉橋家に入り込んだ彼女は、進藤隆平と三浦和希とも密接に繋がっていた。それでも最後には録でもなく屑でしかない元夫に雨の中追い回され、竹林で殺されたというのだからそれも憐れだ。
「いや、子供にって話じゃなくさぁ。」
晴が不貞腐れたように声をあげたのに、宏太も我に返る。というか他人の性事情なんて理解したところで何にもならないし、ホモセクシャルの人間というものは周囲との恋愛感の相違に自分で気がつくものだ。幼い頃から違和感に苛まれてなんて話はよく聞くことで、それを比較してもどうしようもない。
「でも、しゃちょーはヘテロで了が好きでしょ?」
「そりゃ、了は可愛いからな。」
「うわ、平然と惚気た。」
結果論として好きになったから、やりたいわけで、愛でたい訳で。そのための方法をそこから知った訳ではなく、それ以前に知識はあっただけのことだと宏太が言うと、その知識は何処から?という元の話になる。そして前にも言ったが、性行為に関してはそれ以前の結婚生活辺りまでの男女の交際で身に付いていたが、アブノーマルな行為に関しては久保田惣一の店で働いた時に身に付けたものが殆んどだ。
「それが分かって何かお前、変わることでもあるのか?あ?」
「えー、純粋な興味。」
晴のあっけらかんとした呑気な答えに、思わず宏太の口から深い溜め息が出る。興味本位でこういうことを聞くような晴なので、恋人・狭山明良の不安が募っている訳で。そういうところは………
「……興味ねぇ。俺も少しあるかな。」
何でだろうか。背後からかけられた冷え冷えとした声に、僅かな怒りが含まれている気がするのは。不機嫌になるようなことは何一つ言っていない筈なのだが、最近了の怒りの琴線が少しだけ変わった気がしなくもない。
理不尽だ。
思わずそういいたくなる宏太は、何が了の怒りの琴線に触れたんだと一人頭を捻るのだった。
狭山明良の甥っ子と姪っ子・高城光輝と狭山優羽の小学生2人組をお買い物目的の母親達から押し付けられ、結城晴は2人からなんとも衝撃の一撃を食らっていた。お洒落なカフェテリアに可愛らしい姉弟に見える小学生2人を連れたフワフワ栗毛の晴は、姿形は似てはいないが年の離れた兄に見えなくもない。仲好さげな3人を遠巻きに周囲がほほえましく眺めている最中、テーブルを囲む晴に投げつけられたのはまさかの一言だ。
昨今の小学生という年代の片寄った情報過多については、流石にいかがなものかと思う。でもそれが家の両親なんかの家業となってくると、やむを得ないといわざるをえなくもない。そんなわけでそういう類いの書籍が仕事柄のせいで元々家にあるんなら、子供が目にしても仕方がないのかと晴は納得するしかない部分はある。
「リラちゃんのママがBL漫画描いてるんだって。」
「へ、……へー……。」
晴には漫画家の家族なんて持ったことがないから分からないが、家にはそういう資料の本が幾つも折り重なっていたりするのだろうか。そう言えばN◯Kかなんかの特集番組で、有名漫画家の自宅兼書斎を放送しているのをチラッと見た記憶が朧気だがなくもない。自分の描いた漫画書籍だけでなく、図書館のような本棚をギッシリと漫画や写真集、小説が埋め尽くしていた記憶がある。そう言えば晴と明良の自宅はそんなに紙面書籍はないけれど、実は仕事としても通う外崎邸には書架が2階の廊下にキッチリと作りつけられていた。その書架に収まっている書籍のジャンルは広範囲過ぎるし、冊数も多いから正直数も数えたことがない。とは言え外崎宏太は目が見えないからまさか外崎了の蔵書?と思って、余りにも冊数が多いからと了に聞いたら
あ、あれは宏太のが殆んど。
とサラリと了には返答された。2人で暮らすために外崎邸を購入した際に、以前外崎宏太が暮らしていたマンションに置かれていた書籍を持ち込んだそうだ。中身は読んで覚えているから棄ててもよかったと宏太は言うらしいが、中には一寸宏太がメモを挟んでいたりする書籍や何か書き込みのある書籍があったりして了の判断でそのまま移送したらしい。廊下だけで収まらずゲストルームにも書架はあって、そこは了が丁寧に書籍管理をしながら整理を続けている。中には了が興味を持ち少しずつ読んでいるものもある模様。という話はさておき漫画家の知り合いなんて流石にそうそういない………あ、でも考えてみると文筆業なんて職種を持つ人は何人か居た。久保田松理とか鳥飼信哉とか、榊恭平だってその1人だ。
………そう言えば榊家にも本棚に沢山本があるっけなぁ……
全部読んだの?と恭平の書斎の本の山を見上げたことがあるが、参考資料として集めたものもあるし、読書が趣味の部分もあるからと笑っていたのを思い出す。晴自身は気になる本はスマホでダウンロードしてしまう方だから余り紙媒体の書籍は購入する事がないけれど、考えたら書店に行かなくてもスマホひとつあれば山ほどそういう書籍を読むことが可能な世の中なのだ。そう考えたら誰がどんな風にどんなジャンルの本を読んでいても可笑しくないし、別に入手方法だって難しくはない。
大体にして巷で有名な『奈落』のサスペンス物は流石の晴だって読んだことがあるし、恋愛物としてヒットした『鳥飼澪』の本は元カノから薦められた事があってチラッと流し読みしたことがある。そんな作品を書いたのが久保田松理と鳥飼信哉だと聞いたのは、知り合って大分たってからの話だ。つまりはそうは見えなくとも、そんじょそこらに有名な書籍の作者が直ぐ傍にいても可笑しくない。ということはジャンルが違えどBLな、ちょっと晴が読むにも恥ずかしくなっちゃうような作品を、身の回りで描いて過ごしている人がいたって全然可笑しくはない訳なのだ。それにそういう書籍を作成していても、本人の性別はさておき、同性愛者でなく普通に結婚して子供がいる可能性は高い。
というか、実際にいるわけだ。
つまりは優羽の言うように、親御さんが仕事としてそういうことを取り扱ってて、それがまぁ家の中に有るんだから一緒に暮らす子供さんの目に入る。そしてそういうことに興味津々の年代でもある上に、少しおませな女の子達の中で本が取り交わされるのは、あり得ない話ではない筈だ。そこんところはある意味中学とかに男子が女性の裸の写真が載った兄や父親の買った雑誌を、コッソリと回覧していたのと何も変わらない。
………でも、一応子供の目に届かないとこに置いて欲しかったなぁー。
あ、でも親としては日々の仕事に使うための物だから、完全にはしまい込めないのか。それとも商業誌とか販売書籍だったとしたら、あのテレビ特集や榊家の書斎のように棚に壮観に立ててあるから子供達もフリーに読めるのか…………じゃない、兎も角こんなことからも分かる通り昨今の知識の流出って言うのは、かなり緩い、いやもうここ迄来るとザルと言えるのではないか。
「晴ちゃんと明にいは純愛だからいいんだよ。」
「ふぁ?」
当然みたいに優羽がパフェを頬張りながら、光輝に言ったのに思わず晴は珍妙な声をあげてしまう。いや、間違ってはいないのだけれど、小学生にそんなことを言われてなんと答えたものなのか。一応はそういう点では率先してマイノリティを推し進めたい訳ではなく、同時に自分達の関係性が社会的にはまだまだ認知されているものでもないのは理解している。だからこそ外崎家でも榊家でも結婚ではなく養子縁組という形をとったわけであって、自分と明良が今後どういう形を選ぶかは社会の変容次第の面もあるのだ。
「でもさぁ、明良にぃは晴ちゃんに毎回無理させるからダメだよね。」
トドメとばかりに訳知り顔で光輝が放った言葉に、晴が盛大なグフッっと変な音を立ててムセ込んでしまったのは言うまでもない。
※※※
そんな話を発端に自分がどうだったか思い出そうとしてみるが、晴自身も何歳頃に同性愛という知識があったか問われると正直思い出せない。というか同性愛という表現はある程度昔から知ってはいたが、それがどういう行為に結び付くかをいつから知っていたかと問われると首を捻る。確かに小学生には性的な事を含めて保健体育の授業は受けたような記憶があるのだが、男女の関係に関しては兎も角同性の知識が昔からあったかと問われると………どうなんだろうか?というか、保健体育の授業なんて男女の性器の大まかな知識くらいの話で、性行為という話は触れてない。そういうのは何となく周囲の同級生との会話の中で、そういう行為をするらしいっていう程度の話から始まった気がする。
まぁ、そんなことを発端にして、外崎宏太に何歳頃から知ってたの?どうやって知ったの?と問いかけた訳なのだが。
「仕事中にしないとならん話しか………。」
呆れ返った声で言う宏太の顔は、言葉にせずとも『お前は馬鹿か』と言っているのは言うまでもない。確かにこんな仕事中にしなくても良い話ではあるが、晴としては気になったものは仕方がない。それに正直一番聞きやすいし、一番明瞭返答が出来そうなのは宏太だと思う。
「あ?何だと?」
「だって、そうじゃん。しゃちょー。」
と言うのも晴の恋人の狭山明良は十中八九、というかほぼ100%高橋至との一件でそういう行為が現実にあることを知っただろう。以前からそういう行為を好む人が世の中にいるということくらいは知っていただろうけど、自分がその対象になるとは想定もしていなかった筈だ。そういう衝撃の中でそういう行為を常識の中にいれている晴がモーションをかけた訳であって、明良自身はそういう方面に聡かった訳じゃない。まぁ受け入れて貰ってなんだが狭山家の他の面々は女系家族でもあるから、そういうところには以前から耳聡いような気がする。佐久良・吉良・由良は同性愛については寛容な風で問題なく晴を受け入れてくれているが、普通だったらこうはいかないだろう。
そして晴自身に関しても言うまでもないが知識はうっすらあったが、現実として行為に気が向いたのは成田了との事が発端である。その了は以前から宏太との交流はあったのは了の話を聞いて分かったし、相手の宏太は以前から了のことを密かに監視する程好きだったのは知っている。とはいえ了と宏太が交際し始めたのは実はそれほど期間が経っていないから、もしかして了が同性愛に目覚めたのは自分が酔って襲ったからなのかも?と思うと了にこの話を追求するのにも躊躇いがある。
「………変なとこに、お前気配りしてんな………。」
「いや、そりゃしゃちょーにも悪いかなぁって…。」
高校時代の成田了を片倉右京と美味しく頂いている宏太としては、微妙な勘違いの上に意味のわからない晴の配慮ではあるが、晴なりに一応は気を遣った上での宏太への質問なのだ。因みに宏太への配慮の一部は、了が傍にいない時に聞くというポイントも含まれている。
それにしても確かに小学生で同性愛の書籍を読むとは流石に恐れ入ったが、実際のところ性的な問題は年々低年齢化していて最近では小学生の売買春が問題化しているのだという。自分が若い頃には大学生やら女子高生の売買春がニュースになったことが無くもないが、既に性的に小学生を相手にするような恐るべき世界になりつつあるわけだ。
「…………子供に欲情ねぇ。」
全く理解できんと一言で片付けるのは容易いが、実は宏太は了が過去にその性的な被害者の1人であることも知っている訳で。当然犯人だった矢根尾俊一には痛い目を見て貰ったが、結果的にあの男は痛い目を見せてもまるで効果を示さなかった。何処までも屑のまま、何一つ被害者へ共感することも出来ないまま、矢根尾は狂って血深泥になって死んだ。
監視されている筈なのに誰も見ていない
そんな不可思議な状況の中全身を傷だらけにして、一見すると破裂したようにすら見える死に様。そう苦々しい説明を風間祥太は呟くようにして、宏太にせめて音声から何か分からないかと僅かにノイズの向こうに漏れる音声を預けた。他殺としか思えない自殺。まるで何かを体内から引きずり出したかのような遺体。そして、残された音声。結果として矢根尾の死に関しては、実はかなり経つが何も答えが出ていない。そして検視が終わった男の遺体は引き取りが可能になっても両親が一向に引き取らず、近郊に住む弟も断固として引き取りを拒み続けた。
憐れだな……もっとマトモに幸せになる道は幾つもあった………
結果的に無縁仏になる寸前に弟が渋々引き取ったと風間に聞いたが、その弟自身それ以降音沙汰がプツリとキレたという。まぁこちら側としても矢根尾俊一の弟がどうしているかなんて、追跡調査をする必要性もないのは言うまでもない。進藤隆平みたいな多種多様な置き土産を残す悪の権化みたいな男と違い、矢根尾は自尊心の塊みたいなどうにも出来ない屑男で社会人としても人間としても能力としてはほぼ皆無に近い。無駄に子供や女子高生なんかに盛ることは出来ても、社会に何らかの……善くも悪くもだ……影響を残す程の能力は何一つなかった。そういう意味では矢根尾に殺されたとされる元妻・倉橋亜希子の方が遥かに社会的影響力があったのは言うまでもない。有能な看護師としてだけでなく妻として倉橋家に入り込んだ彼女は、進藤隆平と三浦和希とも密接に繋がっていた。それでも最後には録でもなく屑でしかない元夫に雨の中追い回され、竹林で殺されたというのだからそれも憐れだ。
「いや、子供にって話じゃなくさぁ。」
晴が不貞腐れたように声をあげたのに、宏太も我に返る。というか他人の性事情なんて理解したところで何にもならないし、ホモセクシャルの人間というものは周囲との恋愛感の相違に自分で気がつくものだ。幼い頃から違和感に苛まれてなんて話はよく聞くことで、それを比較してもどうしようもない。
「でも、しゃちょーはヘテロで了が好きでしょ?」
「そりゃ、了は可愛いからな。」
「うわ、平然と惚気た。」
結果論として好きになったから、やりたいわけで、愛でたい訳で。そのための方法をそこから知った訳ではなく、それ以前に知識はあっただけのことだと宏太が言うと、その知識は何処から?という元の話になる。そして前にも言ったが、性行為に関してはそれ以前の結婚生活辺りまでの男女の交際で身に付いていたが、アブノーマルな行為に関しては久保田惣一の店で働いた時に身に付けたものが殆んどだ。
「それが分かって何かお前、変わることでもあるのか?あ?」
「えー、純粋な興味。」
晴のあっけらかんとした呑気な答えに、思わず宏太の口から深い溜め息が出る。興味本位でこういうことを聞くような晴なので、恋人・狭山明良の不安が募っている訳で。そういうところは………
「……興味ねぇ。俺も少しあるかな。」
何でだろうか。背後からかけられた冷え冷えとした声に、僅かな怒りが含まれている気がするのは。不機嫌になるようなことは何一つ言っていない筈なのだが、最近了の怒りの琴線が少しだけ変わった気がしなくもない。
理不尽だ。
思わずそういいたくなる宏太は、何が了の怒りの琴線に触れたんだと一人頭を捻るのだった。
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