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間章 ソノサキの合間の話
間話120.正しいおくすりのススメ2
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何度も言うが塗ったり飲んだりしただけで、性的にメロメロになるような薬なんて物はこの世には存在しない。単体でそんな効果をもつ薬を調合したり発見できたら、その人間は世界を支配できる。何しろその気もないのに無理矢理そうさせる薬なんて、下手したら廃人になってもおかしくない代物だからだ。勿論自分の知識としては、それに近い効果を僅かなりとはいえ引き起こす物は現実としては存在するのは分かっている。例えば媚薬香水なんて物は確かに現実的に販売されているし、世の中には性的に刺激があるとされる香水もちゃんと存在しているのだ。
有名なところで言えば、イランイランなんてものが配合されたフェロモン香水とか言うやつだ。
それには性的なホルモンを活性化させる効果のあるとされる匂いが、様々に調合されている。でもそれは微々たる効果に過ぎず、依存性があるようなものではない。それに人間にはそれぞれ反応を示す範囲が異なり、反応する種類も異なるものだから、一定の効果はないと言える。
つまりそれだけ……単体で『媚薬』となるものはない。
世に言う媚薬と言うやつは様々なもので上手くブレーキとなる理性を麻痺させ、興奮を煽る状況やシチュエーションを組み合わせ箍を外してやると言うことなのだ。こんなことを邑上誠が知識として知っているのは、恐らく自分が失ってしまった記憶。そういうことに特化した環境で、自分自身が過ごしていたからなのだろう。そんなのが当たり前の世界にいたのが過去の自分の暮らしだったのだから、別段こんな知識くらいは分かっていても不思議な話ではない。何しろ義父に滅茶苦茶なことをされた記憶はボンヤリと残っているが、その中にはその後どうする気なんだろうと思うような行動もあった筈だ。
まぁ、思い出したくもないから別に思い出そうとは思わないけど
恐らくは自分が自滅することになった件の薬というやつも、同じような性的な興奮を煽る香料や理性を鈍磨させる類いの薬を併用した違法ドラッグというものなのだろう。まぁ他の違法ドラッグより悪質なものなのだろうというのは、風間祥太という刑事の態度を見ればいわれなくてもわかる。
とはいえ今の自分はそんな過去とは正反対。日常的に寄り添って邑上悠生と暮らすように変わって、これ迄地を這うようにして生きていたとは思えない程に宝物のように大切に大切に扱われている。しかも常にグズグズのドロドロに甘やかされつくして、ベットの中ではこれ迄されたことがない愛撫に身体の芯まで蕩けるほど日々愛されまくっていて。
「ふぁ…………。」
その相手である悠生が誠に差し出したのは、悠生の仕事であるモデル業で最近撮ったのだという『multilayered.E』というブランドのメンズキッチンウェアのポスター。それを悠生は誠が保管するため用にと、ワザワザ一枚貰っておいたのだと言う。というのも、これ迄誠が密かに悠生の仕事の成果としてポスターや写真の載った書籍を保管用にケース迄特注して保管してきたのを、誠が意識不明の最中に邑上家の専属弁護士でもあった山那邦正から聞いて知っていたからである。誠は自分が警察の保護下で病院にいる内に(恐らく自分は死ぬ筈だから)それらは全て処分しろと命令しておいた筈なのだけれど、山那は保管を継続していて当の悠生に全て渡してしまっていたという。誠にしてみたらまるで思春期の若造が隠し持っていた性的なおかずを見つかったような、何とも言葉にしがたい恥ずかしい有り様だ。そこを先ずは怒るべきなのかもしれないけれど、『見たい?』と柔らかな笑顔で悠生から問いかけられた。
みたい…………それ。
今では上手く感情のコントロールができなくなった誠としては、悠生から他の人に好評だった新しいポスター見る?と聞かれたら恥ずかしい事実より『見たい』の方が勝ってしまう。何しろそれまでの仕事の成果はお世辞にも目を惹くとはいえず、残念ながら仕事が増えなかったのも仕方ないかなと親心では思っていた。何度となく向いてないんじゃないかと思い、少し遠回しにそれを言葉にしようとしたが、結局悠生には嫌味としか取られていなかったのも知っている。誠から上手く出来ないなんて情けないと鼻で笑われたのだと思い、何度悠生が嫌な顔で自分を睨んできたことか。
ほんと…………言葉の選択が下手で…………
やり方も言葉も下手くそすぎて、誠が伝えたいことは何一つ悠生に伝わらない。初めて交際しようとした女の子が尻軽の遊び人だと伝えようとしても上手く出来ず、それにしたことがスナッフビデオ紛いの映像を見せるなんて有り様なのだから、誠の常識のなさも筋金入りなのだ。こうして金では何も出来なくなってしまったら、出来るのは自分の身体と言葉だけしかなくなった。それでやっと常識の範疇の行動に嵌まるなんて、皮肉にも程がある。それなのにここにきて悠生は自分が見たことがない最新のポスターでは盗難なんて事態が発生して、これ迄はなかった程ファンレターなんてものが届いたと言うのだ。
悠生も…………自分が邪魔しなきゃもっとずっと人気者になってたのか?
そう染々考えてしまう。悠生に誠がこんなことを考えていると全て話したら、そんなことないと言ってくれるのは分かっていても、少なからず思ってしまうのは仕方がない。
そうして、差し出されたポスターの中の悠生は魅惑的に誘いかけるような微笑みを浮かべ、それぞれの手にワインボトルとワイングラスを持ってワインセラーの前に立っていた。
それに誠が声を溢して見いってしまうのは、これまでと全く違う男の色気を漂わせた悠生の微笑みに一瞬で魅いられてしまったから。酷く大人びて柔らかな甘い空気を全身から漂わせ、優しく緩む肉感的に見える唇が笑みを形作る。そうして真っ直ぐに自分を見る時みたいに、一緒に飲む?と誘ってくる視線から誠は目が離せない。
「どう?カッコいい?誠の悠生。」
誠の悠生。そう、この悠生に誠はベットの中で毎晩のように芯まで蕩けさせられ、歓喜に泣かされ喘がされている。自分が知っていたと思っていた筈の子供のような我の強い悠生だけではなく、自分を愛してると繰り返して甘やかして……何とも甘やかしすぎる愛しい男。これ迄みたいに取り繕ったすました顔で、作り笑いをしているのではない。全身から自然と色気が滲み出すようになった悠生は、仕事上でも格段に変化しつつあるのだろう。父親だった邑上祐市がただ一人の女のために、それまでの様々なことを捨てて変わろうとしたみたいに一途で真っ直ぐで、その癖頑固な固執とすら思える愛。それが色気になって写真から溢れてくるみたいに、自分の視線を惹き付けてしまう。
「誠?」
「…………かっこ、い。」
潤んだ瞳で見上げるようにして素直に同意を呟く誠に、何故か当然と笑って言うのだろうと思っていた悠生がフワッと頬を染めて真っ赤になる。誠に言われたのが嬉しくて、しかも素直にそういって貰えるとは思ってなかったみたいなのだ。そんな悠生の可愛い一面。ポスターに写された男らしい色気を醸すだけでなく、こんな風に子供みたいに喜ぶ悠生を誠だけが知っている。そう思った自分の中にチリチリとした妬けつく熱い感情を感じたのは、自分だけの悠生だと誠自身が心の底で思っているからかもしれない。
「ゆ、……き。」
何度も言うが、媚薬なんて物は現実には存在はしない。でも、それとおぼしき効果を表すものが世の中には幾つかあるのは事実だ。そしてその効果を最も高めるのは人間の心。どんなに砂糖の塊にすぎないものだとしても、名医から『これは最高の鎮痛剤で、必ず効果がある』と勧められて服用したら効果を示すことが現実にある。これは痛みが患者の気の迷いなのではなく、本当に効果を示しているのだ。所謂偽薬効果と呼ばれるもので、薬効が入っていない筈の薬で薬効が……これはその薬が全く含まれていないのに、期待する作用だけでなく副作用すら含んで示す……現れることをいい、服用した安心感が身体の眠っている自然治癒力を引き出す等の理由があげられているが正確なことは分からない。そして何度も言うが単体で媚薬の効果を示すものは現実には存在しないが、様々なものが組み合わされることでその効果を示すことがある。
匂いや状況や、そして相手の存在や、自分の感情…………
そうなるのが当然の環境や状況。そういう薬を使われているのだという当人の需要の意識、周囲がそういう状況だから仕方がないのだという諦めとか。そんなもので『自分が淫らに狂ってもおかしくない』と自分で思わせる。そこに理性的な思考が出来なくなるような空気感や興奮状態を維持するような気分を高める薬を使う。例えば麻薬なんかは、酩酊して理性的な思考を分断するには最適なのだ。そして人工的な薬剤ではなくても、同じような高揚感や酩酊感を引き起こす酒という手もある。そして同じ効果を引き起こすもう一つ。
「ゆ、……きぃ」
甘えきった自分の声が潤んで塗れていく。言葉にしなくても誠の手からポスターを受け取った悠生に、誠は当然みたいに手を伸ばして縋りついていた。耳元に甘い吐息を吹き掛けるようにして誠が名前を繰り返すのに、悠生が擽ったそうに低い声で囁く。
「ね、使ってみていい?媚薬。」
あぁ、もうそんなもの存在しないんだって。でも悠生がやってみたいなら何をしてもいいから、早く抱き上げて連れていって欲しい。言葉に出来ないのがもどかしいけれど、それでも悠生がしたいなら何でもしていいと誠は素直に首を縦に振る。そうしてジェルを纏った指で、淫らに蠢く穴をヌチュヌチュと音を立てて弄られてしまう。
「ん、はっ……あんっ……んぅう。」
「可愛い…………グチュグチュ音たててるよ?誠。」
キスとベットの上で服を引き剥がされ肌に唇が這うだけで、頭の中が熱く煮えて世界の回るようなグルグルする酩酊感に襲われる。薬なんか関係なくこんな風に自分が溺れてしまうのは、誠自身が悠生に溺れるほどに愛されて愛してしまっていると感じているからだ。説明なんか出来ないくらい、誠が悠生の事を『好き』で大事にしていて、その相手が自分に溺れる程愛してくる。それが酒や薬に匹敵する程の高揚感や酩酊感を引き出すモノ。
『愛とか恋とか、そういう説明できない感情』
それが何の変哲もないそこらのドラッグストアで簡単に買えるような、ワセリンやメントール成分が少し混じった程度の物を世にも珍しい媚薬に変える。ワセリンで滑りメントールで僅かに敏感になる程度。ほんのそれだけの効果しかない皮膚感覚に、感情が更に一段階強い快感を上乗せしてしまう。相手に向ける感情が最も効果的な媚薬という存在なのであって、薬なんてものは何の効果もない。脚を大きく開き愛しい悠生に向けて穴を差し出しているという事実だけで、誠は深い快感に押し上げられていく。グイッと両足を高く上げられ股間を自ら覗くように掲げられて、誠を見下ろす悠生の視線が更に狂暴に熱を含む。
「はぅん!!あ、あぁ!や、ゆぅきぃ!!」
目の前でジュプジュプと激しく音を立てて、体内を掻き回す淫らな指の動き。敏感になった身体でそれを何時もにも増して感じてしまう誠に、悠生は覆い被さりキスをして更に酔わせてしまう。卑猥で淫らなその動きにヒクヒクと痙攣しながら涙目になり、もっと強い快感を腰をくねらせて強請る誠を悠生の熱のこもる瞳が見つめ続けている。
「媚薬気持ち、いい?中、グチョグチョにして。」
安物のメントール入りのジェルが誠をこんな風にしている訳じゃなく、相手が誰でもない誠の大事な悠生だから気持ち良くなっているのだ。そう教えてやりたいけれど、目の前の悠生が興奮に飲まれている姿がなおのこと誠を煽り立ててしまう。誠の媚薬になっているのは、他でもない目の前の愛しい誠の悠生なのだ。
「ゆ、ぅき、ゆ、……き。い、く、ぅ。」
プルプルの震えながら必死に絶頂を訴えかける誠に、悠生は無造作に滑る指を穴から抜き取り意地悪に微笑む。あと少し身体に触れて貰えれば絶頂に容易く達してしまえるのに、手を離されて見下ろされ見つめられ焦らされてる。それが分かっていて誠は泣き出しそうになるのに、悠生はやわらかに微笑むだけ。
「ゅ…………ぅき、ゆぅきぃ。」
そんな声を上げる自分の姿に悠生が興奮して、加虐心を煽られているのはいわれなくても瞳を見れば分かる。その瞳の獣じみた欲望は他の人間の目に何度も何とも見てきたものだから、自分のこの姿に何を思うかは理解できているのだ。ただ違うのは自分の相手が悠生で、そう思われていることに誠自身も興奮していて、何よりも誠にそう思われることに誠は歓喜している。
「ふふ、凄いエッチなのに、……超可愛い…………ヤバいなぁ…………これ。」
口元を抑えながらも笑いが抑えきれない悠生の瞳が、何時もより一際強くギラギラと輝いている。悠生も媚薬に飲まれているみたいだと、支配されてしまう歓喜に溺れ涙で潤んだ視界で思う。多分それは誠の思い込みではなくて、悠生にとっては誰でもない誠が媚薬になり変わっているのに違いない。それが分かっているから誠は震えながら、悠生に手を伸ばして縋りつく。自分でも分かっているが、甘えるためにダッコを強請る時みたいに縋り、更にこども甘えた声を上げている。
有名なところで言えば、イランイランなんてものが配合されたフェロモン香水とか言うやつだ。
それには性的なホルモンを活性化させる効果のあるとされる匂いが、様々に調合されている。でもそれは微々たる効果に過ぎず、依存性があるようなものではない。それに人間にはそれぞれ反応を示す範囲が異なり、反応する種類も異なるものだから、一定の効果はないと言える。
つまりそれだけ……単体で『媚薬』となるものはない。
世に言う媚薬と言うやつは様々なもので上手くブレーキとなる理性を麻痺させ、興奮を煽る状況やシチュエーションを組み合わせ箍を外してやると言うことなのだ。こんなことを邑上誠が知識として知っているのは、恐らく自分が失ってしまった記憶。そういうことに特化した環境で、自分自身が過ごしていたからなのだろう。そんなのが当たり前の世界にいたのが過去の自分の暮らしだったのだから、別段こんな知識くらいは分かっていても不思議な話ではない。何しろ義父に滅茶苦茶なことをされた記憶はボンヤリと残っているが、その中にはその後どうする気なんだろうと思うような行動もあった筈だ。
まぁ、思い出したくもないから別に思い出そうとは思わないけど
恐らくは自分が自滅することになった件の薬というやつも、同じような性的な興奮を煽る香料や理性を鈍磨させる類いの薬を併用した違法ドラッグというものなのだろう。まぁ他の違法ドラッグより悪質なものなのだろうというのは、風間祥太という刑事の態度を見ればいわれなくてもわかる。
とはいえ今の自分はそんな過去とは正反対。日常的に寄り添って邑上悠生と暮らすように変わって、これ迄地を這うようにして生きていたとは思えない程に宝物のように大切に大切に扱われている。しかも常にグズグズのドロドロに甘やかされつくして、ベットの中ではこれ迄されたことがない愛撫に身体の芯まで蕩けるほど日々愛されまくっていて。
「ふぁ…………。」
その相手である悠生が誠に差し出したのは、悠生の仕事であるモデル業で最近撮ったのだという『multilayered.E』というブランドのメンズキッチンウェアのポスター。それを悠生は誠が保管するため用にと、ワザワザ一枚貰っておいたのだと言う。というのも、これ迄誠が密かに悠生の仕事の成果としてポスターや写真の載った書籍を保管用にケース迄特注して保管してきたのを、誠が意識不明の最中に邑上家の専属弁護士でもあった山那邦正から聞いて知っていたからである。誠は自分が警察の保護下で病院にいる内に(恐らく自分は死ぬ筈だから)それらは全て処分しろと命令しておいた筈なのだけれど、山那は保管を継続していて当の悠生に全て渡してしまっていたという。誠にしてみたらまるで思春期の若造が隠し持っていた性的なおかずを見つかったような、何とも言葉にしがたい恥ずかしい有り様だ。そこを先ずは怒るべきなのかもしれないけれど、『見たい?』と柔らかな笑顔で悠生から問いかけられた。
みたい…………それ。
今では上手く感情のコントロールができなくなった誠としては、悠生から他の人に好評だった新しいポスター見る?と聞かれたら恥ずかしい事実より『見たい』の方が勝ってしまう。何しろそれまでの仕事の成果はお世辞にも目を惹くとはいえず、残念ながら仕事が増えなかったのも仕方ないかなと親心では思っていた。何度となく向いてないんじゃないかと思い、少し遠回しにそれを言葉にしようとしたが、結局悠生には嫌味としか取られていなかったのも知っている。誠から上手く出来ないなんて情けないと鼻で笑われたのだと思い、何度悠生が嫌な顔で自分を睨んできたことか。
ほんと…………言葉の選択が下手で…………
やり方も言葉も下手くそすぎて、誠が伝えたいことは何一つ悠生に伝わらない。初めて交際しようとした女の子が尻軽の遊び人だと伝えようとしても上手く出来ず、それにしたことがスナッフビデオ紛いの映像を見せるなんて有り様なのだから、誠の常識のなさも筋金入りなのだ。こうして金では何も出来なくなってしまったら、出来るのは自分の身体と言葉だけしかなくなった。それでやっと常識の範疇の行動に嵌まるなんて、皮肉にも程がある。それなのにここにきて悠生は自分が見たことがない最新のポスターでは盗難なんて事態が発生して、これ迄はなかった程ファンレターなんてものが届いたと言うのだ。
悠生も…………自分が邪魔しなきゃもっとずっと人気者になってたのか?
そう染々考えてしまう。悠生に誠がこんなことを考えていると全て話したら、そんなことないと言ってくれるのは分かっていても、少なからず思ってしまうのは仕方がない。
そうして、差し出されたポスターの中の悠生は魅惑的に誘いかけるような微笑みを浮かべ、それぞれの手にワインボトルとワイングラスを持ってワインセラーの前に立っていた。
それに誠が声を溢して見いってしまうのは、これまでと全く違う男の色気を漂わせた悠生の微笑みに一瞬で魅いられてしまったから。酷く大人びて柔らかな甘い空気を全身から漂わせ、優しく緩む肉感的に見える唇が笑みを形作る。そうして真っ直ぐに自分を見る時みたいに、一緒に飲む?と誘ってくる視線から誠は目が離せない。
「どう?カッコいい?誠の悠生。」
誠の悠生。そう、この悠生に誠はベットの中で毎晩のように芯まで蕩けさせられ、歓喜に泣かされ喘がされている。自分が知っていたと思っていた筈の子供のような我の強い悠生だけではなく、自分を愛してると繰り返して甘やかして……何とも甘やかしすぎる愛しい男。これ迄みたいに取り繕ったすました顔で、作り笑いをしているのではない。全身から自然と色気が滲み出すようになった悠生は、仕事上でも格段に変化しつつあるのだろう。父親だった邑上祐市がただ一人の女のために、それまでの様々なことを捨てて変わろうとしたみたいに一途で真っ直ぐで、その癖頑固な固執とすら思える愛。それが色気になって写真から溢れてくるみたいに、自分の視線を惹き付けてしまう。
「誠?」
「…………かっこ、い。」
潤んだ瞳で見上げるようにして素直に同意を呟く誠に、何故か当然と笑って言うのだろうと思っていた悠生がフワッと頬を染めて真っ赤になる。誠に言われたのが嬉しくて、しかも素直にそういって貰えるとは思ってなかったみたいなのだ。そんな悠生の可愛い一面。ポスターに写された男らしい色気を醸すだけでなく、こんな風に子供みたいに喜ぶ悠生を誠だけが知っている。そう思った自分の中にチリチリとした妬けつく熱い感情を感じたのは、自分だけの悠生だと誠自身が心の底で思っているからかもしれない。
「ゆ、……き。」
何度も言うが、媚薬なんて物は現実には存在はしない。でも、それとおぼしき効果を表すものが世の中には幾つかあるのは事実だ。そしてその効果を最も高めるのは人間の心。どんなに砂糖の塊にすぎないものだとしても、名医から『これは最高の鎮痛剤で、必ず効果がある』と勧められて服用したら効果を示すことが現実にある。これは痛みが患者の気の迷いなのではなく、本当に効果を示しているのだ。所謂偽薬効果と呼ばれるもので、薬効が入っていない筈の薬で薬効が……これはその薬が全く含まれていないのに、期待する作用だけでなく副作用すら含んで示す……現れることをいい、服用した安心感が身体の眠っている自然治癒力を引き出す等の理由があげられているが正確なことは分からない。そして何度も言うが単体で媚薬の効果を示すものは現実には存在しないが、様々なものが組み合わされることでその効果を示すことがある。
匂いや状況や、そして相手の存在や、自分の感情…………
そうなるのが当然の環境や状況。そういう薬を使われているのだという当人の需要の意識、周囲がそういう状況だから仕方がないのだという諦めとか。そんなもので『自分が淫らに狂ってもおかしくない』と自分で思わせる。そこに理性的な思考が出来なくなるような空気感や興奮状態を維持するような気分を高める薬を使う。例えば麻薬なんかは、酩酊して理性的な思考を分断するには最適なのだ。そして人工的な薬剤ではなくても、同じような高揚感や酩酊感を引き起こす酒という手もある。そして同じ効果を引き起こすもう一つ。
「ゆ、……きぃ」
甘えきった自分の声が潤んで塗れていく。言葉にしなくても誠の手からポスターを受け取った悠生に、誠は当然みたいに手を伸ばして縋りついていた。耳元に甘い吐息を吹き掛けるようにして誠が名前を繰り返すのに、悠生が擽ったそうに低い声で囁く。
「ね、使ってみていい?媚薬。」
あぁ、もうそんなもの存在しないんだって。でも悠生がやってみたいなら何をしてもいいから、早く抱き上げて連れていって欲しい。言葉に出来ないのがもどかしいけれど、それでも悠生がしたいなら何でもしていいと誠は素直に首を縦に振る。そうしてジェルを纏った指で、淫らに蠢く穴をヌチュヌチュと音を立てて弄られてしまう。
「ん、はっ……あんっ……んぅう。」
「可愛い…………グチュグチュ音たててるよ?誠。」
キスとベットの上で服を引き剥がされ肌に唇が這うだけで、頭の中が熱く煮えて世界の回るようなグルグルする酩酊感に襲われる。薬なんか関係なくこんな風に自分が溺れてしまうのは、誠自身が悠生に溺れるほどに愛されて愛してしまっていると感じているからだ。説明なんか出来ないくらい、誠が悠生の事を『好き』で大事にしていて、その相手が自分に溺れる程愛してくる。それが酒や薬に匹敵する程の高揚感や酩酊感を引き出すモノ。
『愛とか恋とか、そういう説明できない感情』
それが何の変哲もないそこらのドラッグストアで簡単に買えるような、ワセリンやメントール成分が少し混じった程度の物を世にも珍しい媚薬に変える。ワセリンで滑りメントールで僅かに敏感になる程度。ほんのそれだけの効果しかない皮膚感覚に、感情が更に一段階強い快感を上乗せしてしまう。相手に向ける感情が最も効果的な媚薬という存在なのであって、薬なんてものは何の効果もない。脚を大きく開き愛しい悠生に向けて穴を差し出しているという事実だけで、誠は深い快感に押し上げられていく。グイッと両足を高く上げられ股間を自ら覗くように掲げられて、誠を見下ろす悠生の視線が更に狂暴に熱を含む。
「はぅん!!あ、あぁ!や、ゆぅきぃ!!」
目の前でジュプジュプと激しく音を立てて、体内を掻き回す淫らな指の動き。敏感になった身体でそれを何時もにも増して感じてしまう誠に、悠生は覆い被さりキスをして更に酔わせてしまう。卑猥で淫らなその動きにヒクヒクと痙攣しながら涙目になり、もっと強い快感を腰をくねらせて強請る誠を悠生の熱のこもる瞳が見つめ続けている。
「媚薬気持ち、いい?中、グチョグチョにして。」
安物のメントール入りのジェルが誠をこんな風にしている訳じゃなく、相手が誰でもない誠の大事な悠生だから気持ち良くなっているのだ。そう教えてやりたいけれど、目の前の悠生が興奮に飲まれている姿がなおのこと誠を煽り立ててしまう。誠の媚薬になっているのは、他でもない目の前の愛しい誠の悠生なのだ。
「ゆ、ぅき、ゆ、……き。い、く、ぅ。」
プルプルの震えながら必死に絶頂を訴えかける誠に、悠生は無造作に滑る指を穴から抜き取り意地悪に微笑む。あと少し身体に触れて貰えれば絶頂に容易く達してしまえるのに、手を離されて見下ろされ見つめられ焦らされてる。それが分かっていて誠は泣き出しそうになるのに、悠生はやわらかに微笑むだけ。
「ゅ…………ぅき、ゆぅきぃ。」
そんな声を上げる自分の姿に悠生が興奮して、加虐心を煽られているのはいわれなくても瞳を見れば分かる。その瞳の獣じみた欲望は他の人間の目に何度も何とも見てきたものだから、自分のこの姿に何を思うかは理解できているのだ。ただ違うのは自分の相手が悠生で、そう思われていることに誠自身も興奮していて、何よりも誠にそう思われることに誠は歓喜している。
「ふふ、凄いエッチなのに、……超可愛い…………ヤバいなぁ…………これ。」
口元を抑えながらも笑いが抑えきれない悠生の瞳が、何時もより一際強くギラギラと輝いている。悠生も媚薬に飲まれているみたいだと、支配されてしまう歓喜に溺れ涙で潤んだ視界で思う。多分それは誠の思い込みではなくて、悠生にとっては誰でもない誠が媚薬になり変わっているのに違いない。それが分かっているから誠は震えながら、悠生に手を伸ばして縋りつく。自分でも分かっているが、甘えるためにダッコを強請る時みたいに縋り、更にこども甘えた声を上げている。
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