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間章 ソノサキの合間の話
間話60.件4
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相手は男だ
何度も頭の中で警鐘のように理性が言うのが聞こえている。
だからどうした?奴隷のアナル調教の話にお前も興味津々だったろ?
そしてそれは間違いなく矢根尾俊一の声だった。確かにその通りで、矢根尾が雌奴隷のアナルを調教したと言う話しに、過去の茂木公太は羨望の言葉を何度も口にしていたのだ。でもそれは相手も雌奴隷という名前の女性であって、男が良い訳じゃない。それに茂木としては、ただそこまで服従する女を飼育していると言う矢根尾の話しに羨望しただけなのだ。矢根尾の元妻でもある雌奴隷は、矢根尾曰く日常では看護師をしていて矢根尾が働かなくてもいいと納得しているという。これに関しては矢根尾がずっと誓約書を書かせる予定だと繰り返していたが、誓約書は結局書かれなかったから納得はしていなかったのではないかと思う。それでも何年か矢根尾は無職で遊び暮らしていた時期が本当にあったから、それを支える経済力をもった女を妻として奴隷として飼っていた訳で。それを羨ましいと思ってしまうのは、仕方がないことだ。その看護師雌奴隷がアナルも仕込んであるときいたから興味があっただけで、大体にして実は自分の彼女にはアナルセックスどころかアナルとすら言ったことはない。
でも突っ込む穴なら、おんなじだろ?茂木
どうせ捩じ込むのは穴1つで、お前の逸物一本しかないのだしと貞友晴一の声がイヤらしく笑う。何故こんな風に頭の中で他人の声を聞いているのか、自分はもしかしておかしくなっているのだろうか。それでも現実の興奮はただ只管に腹の下に高まるばかりで、相手のクチュクチュと指が音を立てているのに大きく喉を鳴らす。
「あ、ふ、ぅ……んふ、あん……。」
前から手を回して指で掻き回しているから、尚更青年の陰茎が手で隠れて男同士だという意識を削いでいる。それでのその白い尻の揺れる様や甘く低く響く喘ぎ声を聞いていると、男がどうこうなんてどうでもいいことのように思えてしまう。
遂に自らの筋を浮き立たせていきり立つ怒張を露にすると、茂木は息も荒くベットに向かってにじり寄っていく。それに気が付いたみたいに青年は淫らな音を立てていた穴から、チュポッとなんともフシダラな音をさせて指を引き抜いた。それでもそのしなやかな手は股間を軽く覆うようにしていて、やはりこういう行為に慣れているのだと茂木は思いながらグルリと辺りを見渡す。そして意中のものを見つけると、ギシギシと軋む音を立てて青年の背後にのし掛かっていた。
それにしてもこうして組み敷かれて四つん這いにさせられ後ろから一気に逸物を捩じ込まれようとしてるのが、実は女ではなく男だと言う事がやはり信じられない。欲望を誘う柔らかく丸みを帯びた珠のような尻の合間に、まるで女性器のようにトロリと濡れてひくつきながら埋め込まれるのを待ち構える菊華のようなすぼまり。
こんなイヤらしくて、エロい…………
その穴を見ているだけでゴクリと喉が音を立てていて、服から抜き出し空気にさらした逸物はまるで鋼のように固く張り詰め先端から涎のように先走りを滲ませる。そして足を進めて滑るソコに先端を押し付けようとすると、頭の中でまた理性が警鐘をならす。
何でだ…………
こんな自体になるなんて、茂木だって全く思っていなかったのだ。何しろ自分は決して同性愛者ではないしこれまで交際したのも全て女性で、しかもこれから結婚を前提に交際を考えてやろうと言う恋人候補だっている。それなのに何故こうして男の尻を前に興奮し、男とやろうなんて思っているのか。それでも目の前の穴に興奮して怒張を捩じ込もうとしているのは確かで、しかも目の前の青年はそれを拒絶するどころか望んで尻を差し出していた。
「あ、はぁぁあ!」
歓喜の声を上げるのを耳にしながら、押し付けた先端が柔らかな肉の中にユルユルと飲み込まれていく。その感触は極上で思わず腰を振り立ててしまいたくなるような、快感を茂木の怒張に絡み付かせる。
「はぁあぁん!あぁ!!いいぃ!」
捩じ込まれる痛みなんかないのを示すように、青年は背を仰け反らせて歓喜の悲鳴を上げる。ラブホテルを選んでおいてよかったと思うのは、こういう風に迷わず大声で歓喜を叫べることだろう。まぁ自宅が防音完備で豪邸ならどれだけ騒いでもいいだろうが…………そういえば帰宅の途中にある巨大豪邸で先日通りかかりにバーベキューなんだろうが、何かなんかやっていて高級そうな肉を取り合う若い声が中の見えない生け垣の向こうで響いていた。あぁ言うところに住めるようなら世の中何にも苦労なんかないだろうけれど、自分はスタートすら他の奴らより10年も遅い無能な平社員に過ぎないのだ。
「ね、ぇ、もっと、奥、して。」
一瞬の思考の寸断に動きも止まっていたのか、肩越しに喘ぎながら青年が腰をくねらせる。それにガツガツと奥に向かって捩じ込み腰を激しく前後に振り立てて、容赦なく青年の熱くて狭い体内を怒張で突き破らんばかりに掻き回していく。グチャグチャジュポジュポと女と寸分違わない淫らな水音が室内に響き渡り、怒張に絡み付く淫らな肉の感触に茂木は息を荒げていく。
「はぁ!あ!す、すげぇ、あぁ!いい!」
「んぁ、あ!あぁ!い、いい、はぅう!」
甘ったるい喘ぎ声に押されるように、茂木は更に激しく腰を獣のように前後に振り立てる。そしてやがてそれぞれがあっという間に絶頂に達するまで、その獣めいた咆哮が室内に響き渡っていた。
※※※
「ごめん、初めてのことで加減が分からなくて。身体は平気?」
柄にもなく神妙な顔をしてそんな殊勝な口調で問いかてくる茂木に、先にシャワーを浴びて茂木がドライヤーで乾かしてくれていた服を身に付け始めた青年が不思議そうに首をげて見せた。
「別に。」
尚更出逢った時より掠れ気味の声に聞こえるのは、散々に茂木が突き上げたのに喘がせたからだろうか。それとも最初からこんな声だったのだろうか。
青年が茂木の突き上げに絶頂に達するのと同時に、茂木自身も絶頂を向かえ青年の体内でゴムの中に大量に射精してしまった。
え?ゴムしてたの?
そう驚いたように青年が言い何とも説明のしようのない絶妙な表情を見せたのに、茂木は恐らく最初に考えたように青年は恋人と別れたとかそんな理由で妬けになって自分を誘ったのだろうと察した。知らない相手に滅茶苦茶にされたかったとか言うやつだったのだろうが、こちらが案外紳士的にコンドームをつけるとは微塵も思っていなかったと言うわけだ。まぁこのまま2回戦があったとしたら、コンドームなしもあり得た。何しろホテルの準備してくれるコンドームは枚数が少ない。何なら最近じゃこういうサービスはないところだってある。ところが以前なら一晩に2度や3度は余裕で出来た筈なのに、今回に限っては相手が訳ありだろうと自分が冷静になってしまったせいなのか、茂木の逸物はもうピクリとも反応しなくなってしまったのだ。別段茂木としては相手が男だから萎えたという訳ではなく、可能ならもう一度とは事実思ってはいた筈なのに。でも全くもって起たない上に、まぁ一回にしてはかなりの量の精液の溜まったコンドームをみた青年の方も一気にその気が削がれてしまったようだった。
もういいや
お陰で青年は呆れたように言うと先にシャワーを使い始めて、手持ち無沙汰になった茂木の方は何故か青年の半乾きだった服を親切にドライヤーで乾かすなんて間抜けな行動をしたわけだ。そして身体を労る茂木の言葉にまた少しだけ戸惑いを浮かばせた青年は、先にさっさと身支度を整えつつある。
「あの、さ?」
「何?」
青年もきっと内心では今更だが我に返って、何でこんなことをしたのかと思っているに違いない。だからあまりこちらを見ようとしないし、茂木の方も無理矢理意識をこちらに向けようとはしていないのだ。恐らくお互いに何か偶々そんな気分になったのだろうが、本来はこんな行きずりみたいな行動はするつもりがなかったとかいうことなのだろう。とは思うが茂木としては、少しだけ気にかかる事もある。
「名前、聞いていい?」
最初から最後までなんだが、青年の名前を聞きもしていなかった。勿論茂木の方も名前を言ったわけではないから同じようなものなのだが、何となく名前を呼ぶにも知らないというのが情けない気もする。
「俺、茂木……茂木公太。」
「聞いても忘れるから。」
素っ気なくそう言う青年に、やはりそうだろうなとは思う。ここでの事は今だけにしてしまいたいのだろうし、間違ったとか後悔もしているのかも。でも別に名前を聞いて悪さをしようとか考えているわけでもないからと茂木は呟く。
「…………なら……聞いて、どうするの?」
確かにそうだろう。連絡先も知らないのに名前だけ聞かれても、とは茂木も多祥なりとは思う。それでもせめて名前くらい知っていたら偶然でも今度会えたら名前で声をかけられると思うからと茂木が言うと、青年は少しだけ意味ありげに目を細めて見せた。そしてまるで何事もなかったみたいに身支度を整え、茂木のことなんか忘れたみたいに置き去りにして立ち上がる。
きっと名前も教えるつもりはないのだろう。
青年は何も言わずスタスタとドアに向かい歩きだす。やはり答えてももらえないかと一瞬考えた茂木に向かって青年は、ふっと肩越しに僅かに振り返ると低い声でまるで嫌なものでも投げつけるように呟いていた。
「倉橋……和希。」
何処と無く苗字も名前も聞き覚えがあるような気はするけれど、どこにでもあるような名前でもあると茂木は青年の立ち去ってしまったドアを眺めて思うのだった。
※※※
想定外だったな…………
そう一人で先にホテルを抜け出した三浦和希は一人考えていた。
あの和希の勘に触るようなシトシト降り続ける雨の中で出逢った男は、別段何か引っ掛かりが感じるような存在ではなかった。ただ雨の中ボンヤリと自動販売機を眺めて立ち尽くしていたから、何気なくココアを買って手渡してみたのだ。そうしたらあっという間に欲望にまみれた視線で自分の身体を舐めるように見ていたから、何だこの男も何時もの獣になり下がるとばかり思っていた。そうしていつもと同じように誘い掛けるまでもなく向こうから腕をとられ、手近なホテルに引きずり込まれた訳で。だから、そこさてどうしてやろうかとは思っていた。射精されてしまえば、後は何時もの事だ。
腕からにするか足からにするか?それとも逸物からか?
そんな風に快楽に喘ぎながら、何時もの感覚にリミッターが外れるのを待つ。中に汚泥を注ぎ込まれた刹那、振り返りながら肉に指が食い込む瞬間。それを待っていた筈なのに、想定と違っていたのは中に注ぎ込まれなかったということだった。
え?ゴムしてたの?
獣になる奴らは大概こちらの事を考える気がないから、そのまま捩じ込むしそのまま射精する。全くもって自分本意でしかセックスをしない件の輩ばかりなのだ。こいつもそうなんだろうと思っていたのに、この男は想定外に律儀にコンドームをつけてセックスして、しかも射精も漏れなくゴムの中に溜め込んでいた。
え?だって……始めて会った男に直に入れられたら、君気持ち悪いだろ?
何だ案外マトモなことを言うんだと逆に思ったが、そうなると和希の方も予定が狂ってしまうとは言えなかった。何しろ自分の中のルールでは中に直に射精されたわけでないと、その先の行動には繋がらない。以前もこういうことが何度かあったが、自分のシリアルキラーなルールはこういう少しだけでもルールを外れたことには作用しないらしいのだ。つまりは件の獣のように虐げてくる相手には和希は無敵の行動をとれるのだけれど、こんな風に普通の対応をされてしまうと行動が制限されてしまう。
名前、聞いていい?
しかも一度セックスを終えたら相手は尚更我に返っていて、もう雨の中で熱に浮かされた時のような欲望は消え去ってしまっていた。このままここにいても自分の危険が増すばかりだしと、さっさと立ち去る支度を始めた和希に相手がそう問いかけてきたのには改めて驚いてしまう。行きずりのセックスの相手の名前なんか聞いてどうすると思うし、大体にして普通の男にしか見えない相手の名前を自分が後何時間なら記憶できているのかは疑問だ。それなのに相手の
偶然でも今度会えたら名前で声をかけれるから
そんな言葉に心の奥が少しだけ揺れる。自分の本当の名前を知っていて、街中で声をかけてくる人間なんてもう数えるほどしかいない。しかも探し続けている人は未だに街の中で気配すら感じなくて、ここではないところを探してみたらいいのだろうかと迷いもしていた最中。
倉橋和希
それは本当の名前ではないけれど、和希が今度彼女に再会できたらその名前にしてもらおうと思っている名前。それが何故か自然と口をついて出ていたのだった。
何度も頭の中で警鐘のように理性が言うのが聞こえている。
だからどうした?奴隷のアナル調教の話にお前も興味津々だったろ?
そしてそれは間違いなく矢根尾俊一の声だった。確かにその通りで、矢根尾が雌奴隷のアナルを調教したと言う話しに、過去の茂木公太は羨望の言葉を何度も口にしていたのだ。でもそれは相手も雌奴隷という名前の女性であって、男が良い訳じゃない。それに茂木としては、ただそこまで服従する女を飼育していると言う矢根尾の話しに羨望しただけなのだ。矢根尾の元妻でもある雌奴隷は、矢根尾曰く日常では看護師をしていて矢根尾が働かなくてもいいと納得しているという。これに関しては矢根尾がずっと誓約書を書かせる予定だと繰り返していたが、誓約書は結局書かれなかったから納得はしていなかったのではないかと思う。それでも何年か矢根尾は無職で遊び暮らしていた時期が本当にあったから、それを支える経済力をもった女を妻として奴隷として飼っていた訳で。それを羨ましいと思ってしまうのは、仕方がないことだ。その看護師雌奴隷がアナルも仕込んであるときいたから興味があっただけで、大体にして実は自分の彼女にはアナルセックスどころかアナルとすら言ったことはない。
でも突っ込む穴なら、おんなじだろ?茂木
どうせ捩じ込むのは穴1つで、お前の逸物一本しかないのだしと貞友晴一の声がイヤらしく笑う。何故こんな風に頭の中で他人の声を聞いているのか、自分はもしかしておかしくなっているのだろうか。それでも現実の興奮はただ只管に腹の下に高まるばかりで、相手のクチュクチュと指が音を立てているのに大きく喉を鳴らす。
「あ、ふ、ぅ……んふ、あん……。」
前から手を回して指で掻き回しているから、尚更青年の陰茎が手で隠れて男同士だという意識を削いでいる。それでのその白い尻の揺れる様や甘く低く響く喘ぎ声を聞いていると、男がどうこうなんてどうでもいいことのように思えてしまう。
遂に自らの筋を浮き立たせていきり立つ怒張を露にすると、茂木は息も荒くベットに向かってにじり寄っていく。それに気が付いたみたいに青年は淫らな音を立てていた穴から、チュポッとなんともフシダラな音をさせて指を引き抜いた。それでもそのしなやかな手は股間を軽く覆うようにしていて、やはりこういう行為に慣れているのだと茂木は思いながらグルリと辺りを見渡す。そして意中のものを見つけると、ギシギシと軋む音を立てて青年の背後にのし掛かっていた。
それにしてもこうして組み敷かれて四つん這いにさせられ後ろから一気に逸物を捩じ込まれようとしてるのが、実は女ではなく男だと言う事がやはり信じられない。欲望を誘う柔らかく丸みを帯びた珠のような尻の合間に、まるで女性器のようにトロリと濡れてひくつきながら埋め込まれるのを待ち構える菊華のようなすぼまり。
こんなイヤらしくて、エロい…………
その穴を見ているだけでゴクリと喉が音を立てていて、服から抜き出し空気にさらした逸物はまるで鋼のように固く張り詰め先端から涎のように先走りを滲ませる。そして足を進めて滑るソコに先端を押し付けようとすると、頭の中でまた理性が警鐘をならす。
何でだ…………
こんな自体になるなんて、茂木だって全く思っていなかったのだ。何しろ自分は決して同性愛者ではないしこれまで交際したのも全て女性で、しかもこれから結婚を前提に交際を考えてやろうと言う恋人候補だっている。それなのに何故こうして男の尻を前に興奮し、男とやろうなんて思っているのか。それでも目の前の穴に興奮して怒張を捩じ込もうとしているのは確かで、しかも目の前の青年はそれを拒絶するどころか望んで尻を差し出していた。
「あ、はぁぁあ!」
歓喜の声を上げるのを耳にしながら、押し付けた先端が柔らかな肉の中にユルユルと飲み込まれていく。その感触は極上で思わず腰を振り立ててしまいたくなるような、快感を茂木の怒張に絡み付かせる。
「はぁあぁん!あぁ!!いいぃ!」
捩じ込まれる痛みなんかないのを示すように、青年は背を仰け反らせて歓喜の悲鳴を上げる。ラブホテルを選んでおいてよかったと思うのは、こういう風に迷わず大声で歓喜を叫べることだろう。まぁ自宅が防音完備で豪邸ならどれだけ騒いでもいいだろうが…………そういえば帰宅の途中にある巨大豪邸で先日通りかかりにバーベキューなんだろうが、何かなんかやっていて高級そうな肉を取り合う若い声が中の見えない生け垣の向こうで響いていた。あぁ言うところに住めるようなら世の中何にも苦労なんかないだろうけれど、自分はスタートすら他の奴らより10年も遅い無能な平社員に過ぎないのだ。
「ね、ぇ、もっと、奥、して。」
一瞬の思考の寸断に動きも止まっていたのか、肩越しに喘ぎながら青年が腰をくねらせる。それにガツガツと奥に向かって捩じ込み腰を激しく前後に振り立てて、容赦なく青年の熱くて狭い体内を怒張で突き破らんばかりに掻き回していく。グチャグチャジュポジュポと女と寸分違わない淫らな水音が室内に響き渡り、怒張に絡み付く淫らな肉の感触に茂木は息を荒げていく。
「はぁ!あ!す、すげぇ、あぁ!いい!」
「んぁ、あ!あぁ!い、いい、はぅう!」
甘ったるい喘ぎ声に押されるように、茂木は更に激しく腰を獣のように前後に振り立てる。そしてやがてそれぞれがあっという間に絶頂に達するまで、その獣めいた咆哮が室内に響き渡っていた。
※※※
「ごめん、初めてのことで加減が分からなくて。身体は平気?」
柄にもなく神妙な顔をしてそんな殊勝な口調で問いかてくる茂木に、先にシャワーを浴びて茂木がドライヤーで乾かしてくれていた服を身に付け始めた青年が不思議そうに首をげて見せた。
「別に。」
尚更出逢った時より掠れ気味の声に聞こえるのは、散々に茂木が突き上げたのに喘がせたからだろうか。それとも最初からこんな声だったのだろうか。
青年が茂木の突き上げに絶頂に達するのと同時に、茂木自身も絶頂を向かえ青年の体内でゴムの中に大量に射精してしまった。
え?ゴムしてたの?
そう驚いたように青年が言い何とも説明のしようのない絶妙な表情を見せたのに、茂木は恐らく最初に考えたように青年は恋人と別れたとかそんな理由で妬けになって自分を誘ったのだろうと察した。知らない相手に滅茶苦茶にされたかったとか言うやつだったのだろうが、こちらが案外紳士的にコンドームをつけるとは微塵も思っていなかったと言うわけだ。まぁこのまま2回戦があったとしたら、コンドームなしもあり得た。何しろホテルの準備してくれるコンドームは枚数が少ない。何なら最近じゃこういうサービスはないところだってある。ところが以前なら一晩に2度や3度は余裕で出来た筈なのに、今回に限っては相手が訳ありだろうと自分が冷静になってしまったせいなのか、茂木の逸物はもうピクリとも反応しなくなってしまったのだ。別段茂木としては相手が男だから萎えたという訳ではなく、可能ならもう一度とは事実思ってはいた筈なのに。でも全くもって起たない上に、まぁ一回にしてはかなりの量の精液の溜まったコンドームをみた青年の方も一気にその気が削がれてしまったようだった。
もういいや
お陰で青年は呆れたように言うと先にシャワーを使い始めて、手持ち無沙汰になった茂木の方は何故か青年の半乾きだった服を親切にドライヤーで乾かすなんて間抜けな行動をしたわけだ。そして身体を労る茂木の言葉にまた少しだけ戸惑いを浮かばせた青年は、先にさっさと身支度を整えつつある。
「あの、さ?」
「何?」
青年もきっと内心では今更だが我に返って、何でこんなことをしたのかと思っているに違いない。だからあまりこちらを見ようとしないし、茂木の方も無理矢理意識をこちらに向けようとはしていないのだ。恐らくお互いに何か偶々そんな気分になったのだろうが、本来はこんな行きずりみたいな行動はするつもりがなかったとかいうことなのだろう。とは思うが茂木としては、少しだけ気にかかる事もある。
「名前、聞いていい?」
最初から最後までなんだが、青年の名前を聞きもしていなかった。勿論茂木の方も名前を言ったわけではないから同じようなものなのだが、何となく名前を呼ぶにも知らないというのが情けない気もする。
「俺、茂木……茂木公太。」
「聞いても忘れるから。」
素っ気なくそう言う青年に、やはりそうだろうなとは思う。ここでの事は今だけにしてしまいたいのだろうし、間違ったとか後悔もしているのかも。でも別に名前を聞いて悪さをしようとか考えているわけでもないからと茂木は呟く。
「…………なら……聞いて、どうするの?」
確かにそうだろう。連絡先も知らないのに名前だけ聞かれても、とは茂木も多祥なりとは思う。それでもせめて名前くらい知っていたら偶然でも今度会えたら名前で声をかけられると思うからと茂木が言うと、青年は少しだけ意味ありげに目を細めて見せた。そしてまるで何事もなかったみたいに身支度を整え、茂木のことなんか忘れたみたいに置き去りにして立ち上がる。
きっと名前も教えるつもりはないのだろう。
青年は何も言わずスタスタとドアに向かい歩きだす。やはり答えてももらえないかと一瞬考えた茂木に向かって青年は、ふっと肩越しに僅かに振り返ると低い声でまるで嫌なものでも投げつけるように呟いていた。
「倉橋……和希。」
何処と無く苗字も名前も聞き覚えがあるような気はするけれど、どこにでもあるような名前でもあると茂木は青年の立ち去ってしまったドアを眺めて思うのだった。
※※※
想定外だったな…………
そう一人で先にホテルを抜け出した三浦和希は一人考えていた。
あの和希の勘に触るようなシトシト降り続ける雨の中で出逢った男は、別段何か引っ掛かりが感じるような存在ではなかった。ただ雨の中ボンヤリと自動販売機を眺めて立ち尽くしていたから、何気なくココアを買って手渡してみたのだ。そうしたらあっという間に欲望にまみれた視線で自分の身体を舐めるように見ていたから、何だこの男も何時もの獣になり下がるとばかり思っていた。そうしていつもと同じように誘い掛けるまでもなく向こうから腕をとられ、手近なホテルに引きずり込まれた訳で。だから、そこさてどうしてやろうかとは思っていた。射精されてしまえば、後は何時もの事だ。
腕からにするか足からにするか?それとも逸物からか?
そんな風に快楽に喘ぎながら、何時もの感覚にリミッターが外れるのを待つ。中に汚泥を注ぎ込まれた刹那、振り返りながら肉に指が食い込む瞬間。それを待っていた筈なのに、想定と違っていたのは中に注ぎ込まれなかったということだった。
え?ゴムしてたの?
獣になる奴らは大概こちらの事を考える気がないから、そのまま捩じ込むしそのまま射精する。全くもって自分本意でしかセックスをしない件の輩ばかりなのだ。こいつもそうなんだろうと思っていたのに、この男は想定外に律儀にコンドームをつけてセックスして、しかも射精も漏れなくゴムの中に溜め込んでいた。
え?だって……始めて会った男に直に入れられたら、君気持ち悪いだろ?
何だ案外マトモなことを言うんだと逆に思ったが、そうなると和希の方も予定が狂ってしまうとは言えなかった。何しろ自分の中のルールでは中に直に射精されたわけでないと、その先の行動には繋がらない。以前もこういうことが何度かあったが、自分のシリアルキラーなルールはこういう少しだけでもルールを外れたことには作用しないらしいのだ。つまりは件の獣のように虐げてくる相手には和希は無敵の行動をとれるのだけれど、こんな風に普通の対応をされてしまうと行動が制限されてしまう。
名前、聞いていい?
しかも一度セックスを終えたら相手は尚更我に返っていて、もう雨の中で熱に浮かされた時のような欲望は消え去ってしまっていた。このままここにいても自分の危険が増すばかりだしと、さっさと立ち去る支度を始めた和希に相手がそう問いかけてきたのには改めて驚いてしまう。行きずりのセックスの相手の名前なんか聞いてどうすると思うし、大体にして普通の男にしか見えない相手の名前を自分が後何時間なら記憶できているのかは疑問だ。それなのに相手の
偶然でも今度会えたら名前で声をかけれるから
そんな言葉に心の奥が少しだけ揺れる。自分の本当の名前を知っていて、街中で声をかけてくる人間なんてもう数えるほどしかいない。しかも探し続けている人は未だに街の中で気配すら感じなくて、ここではないところを探してみたらいいのだろうかと迷いもしていた最中。
倉橋和希
それは本当の名前ではないけれど、和希が今度彼女に再会できたらその名前にしてもらおうと思っている名前。それが何故か自然と口をついて出ていたのだった。
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