鮮明な月

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第十七章 鮮明な月

242.

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帰宅した源川仁聖から勅使河原叡の捜索に来日したリリアーヌ・オフェリア・フラウンフォーファーの話を聞いた榊恭平は、勅使河原教授の連絡先?と首を傾げる。というのも恭平も仁聖の大学の文学部卒で勅使河原教授の教え子でもあるし、卒業後も時折論文翻訳に招聘されることがあるからだ。同じ様に呼び出しを食らうことがある鳥飼信哉も、勅使河原の個人的な連絡先を知っていると言う。試しにかけてみようか?と言いながら恭平も早速電話をかけてみてくれる。

「………………でないな。」

暫くの着信音の後で留守電にはなるのだが、本人は電話に出る気配がない。それにしても講義を休講なんて、年間に一回二回なら兎も角こんな休み方は聞いたことがないと恭平も言う。とは言えまだ休講になってからは、それ程の期間でもなく何か騒ぎになっているわけでもない。

「明日またかけてみる。」

恭平の言葉に仁聖も素直にうんと頷いて、お願いと頭を下げる。実際には仁聖は学部も違う…………建築学部の教授・平岡正顕も失踪中なのは、この話しと絡めて良いものかどうか仁聖にも分からないところだし…………文学部の教授のことでバタバタする必要はないのだろう。それでも彼が自分の父親の幼馴染みと言うこともあって、勅使河原叡のことを親密に感じてしまうのだ。それにこうして卒業した後も交流があったり海外の人間まで探しにやって来るのは、変わり者と有名ではあるけれど勅使河原自身の人柄もあるに違いない。

「仁聖。」

仁聖の頭を恭平が優しく撫でるのにビクと体が跳ねるのに、その体の震えを見た恭平が息を飲む。触れられて気がついてしまった自分の中の怯えに、仁聖は恭平の顔を探る様に見あげる。

「………昨日、俺…………我が儘言ってゴメンなさい…………。」
「我が儘………?」

その言葉で境界が曖昧ではあるものの、目の前の恭平の中にある思いが仁聖にも透けて見える。自分が投げ掛けた養子縁組の話を恭平は本当に受け入れてくれていて、ただ何かステップを踏まないと駄目だと思っているだけのようなのだ。仁聖は思わず甘く柔らかい声で恭平の名前を呼んで、手を伸ばして体をなぞる様に触れていく。もうその勢いは彼自身抑えようがないほどに強い流れに変容しようとしていた。

「俺、……こんな風に傍にいられるので、幸せ…………。」

すいと何気ない仕草で無造作に顎を持ち上げられて仁聖の唇が重ねられる。やんわりとなぞる様にゆっくりと舌で唇を抉じ開けられ、まるで中身まで味わう舌の動きに緩々と恭平の息が上がっていく。腕の中は次第にその舌の動きに息を上げて擽られる舌の動きに濡れた音を立てて甘い吐息を溢すのを感じながら、仁聖はゆっくりと唇を離す。

「大好き…………恭平…………。」
「……ん、…………こら、……ダメ…………。」

甘い声で恭平がダメと制止てしてもまるで効果がなくて、もう一度仁聖はその耳元に唇を寄せる。

「ダメって、身体が言ってない…………。」

仁聖の腕の中で恭平がビクッと震える反応を一瞬みせて、目を伏せたままの恭平の頬がポォッと薔薇色に染まっていく。ふっとその姿に仁聖は溜め息に似た吐息で、そっと耳元に囁きかける。

「昨日みたいなのは、我慢するよ?…………恭平。」

再び言葉もなく腕の中で身を震わせて息を飲み更に頬を染めた艶やかな恭平の姿に、仁聖は心の中に湧き上がった欲情も含めた甘い声で囁く。

「それとも、昨日みたいなの、もう一回する?」

真っ赤になってしまった恭平に、昨夜の淫らで甘い泣き声が脳裏を掠める。昨夜は素っ裸で肌を擦り寄らせた仁聖の硬くなり始めた怒張に、突然初心な反応でジタバタし始めた恭平にジャレあうようにして風呂場で事に及んだのだ。煌々と風呂場の電気に照らされた薔薇色の肌を、散々仁聖がその後舐めたり吸ったりして恥ずかしがる恭平と戯れたわけで。

「も、馬鹿。…………毎日あんなの、無理。」

可愛すぎる。頬を染めてそんなことを言う恭平の体を、唐突にしっかりと抱き直す様に抱え込み恭平の表情を見つめる。不意に起きた変化を滲ませたその視線に気がついた恭平が、少し濡れて光る瞳を困惑したように揺らめかせた。

「………我慢できない、もぉ。」

唐突に耐え切れない様にその体を撫でる様に手を滑らせて腰の辺りから手を差し込むと、驚いた恭平の手がもがく様に身を捩り腕を掴む。それすらも無視して片手を腰から太腿に滑らせながら熱くなっているその肌の感触を確かめて仁聖は熱い吐息を溢した。突然の衝動的な手の動きに混乱した恭平の声が微かに跳ねる。

「や………やぁ………ダメって…………。」
「……………無茶しない、けど、無理、我慢できない。」

その言葉に恭平の動きが凍りつき、恭平が更に頬を染めたのを真っ直ぐに見つめる。その体を探りなれた手際の良さで仁聖が、スルリと腰から彼の腰から衣類をずり落とす。パサリという乾いた布の音を耳にしながら肌に張り付くような下着のラインに手を滑らせると、その指の動きに身を震わせた恭平の肌がスッと微かに朱を引いた。

「あっ…………ダメっ…………て。」
「……愛してる、恭平。」

恭平の体の反応に、不安から欲情に変容してしまった強い思いに流されるままに指を這わせていく。指先で微かに腕の中の恭平が吐息を上げるのを感じながら、仁聖は押し付けた体を探る様に撫でている。首筋に埋めた顔の先で甘く跳ね上がるような吐息を零す恭平の顔を陶然と眺めながら、その首筋に甘く噛みつくキスをして真っ白に浮き上がる肌に花弁の様な痕を刻む。

「はぅっ…………!」
「俺に触られるの気持ちいい?…………恭平、ホントにヤダ?」

仁聖の耳を擽る柔らかいあやす様な声音に、腕の中の身体が熱を持って強張る。滑らかな動きで探る指が潜り込んで腰から背筋をなぞるのと同時にしなやかなウエストのラインから下着の中に滑り込んでいくのに、快感に揺れ始めている恭平の声が跳ね上がる。

「…ぁ……こんな、とこで……………じんせ……。」

喘ぎめいたその言葉にふっと仁聖は微笑みながら鎖骨の上を唇でなぞりながら、上目使いに艶やかに欲情に揺れる恭平の瞳を真っ直ぐに見やる。そして不意にもう一度その唇を合わせ貪るように執拗な愛撫めいたキスをしていた。仁聖の時間をかけた丁寧な長いキスに、恭平の甘く吐息が上がっていく。やがて喘ぐように息をついても続けていくうちにフワリと甘い香りが立ち昇ったかと思うと、腕の中の恭平の体が腕に微かに重みを感じさせる。力の抜けていく恭平の身体を見越した様に、仁聖は身を屈めたかと思うと腰から下を抱き掬い上げた。

「じんせ…………」
「ここじゃやなんだよね?ベットに行こ?ね?」

サラリと言ってのけて軽々と恭平を抱き上げたまま、仁聖は微笑みながらスタスタと寝室に向かって歩きだす。仁聖に何なく抱きあげられ、混乱し身を固くした恭平が言葉を失ってその身体に腕を回していた。意図も簡単にベットの上に投げ出され仁聖の顔を見上げる恭平に、闇の中に白く浮き上がる体にのしかかる様にして膝をついた仁聖が微笑みかけてくる。引き剥がす様にTシャツを剥ぎ取られ声を跳ね上げるその体を弄り指で撫でながら、白磁の肌の触り心地を楽しむ。

「や、んんっ…………あっ。」

サラリと撫でる素肌に触る白いシャツの滑る感覚に思わず体を震わせた恭平を、じっと見つめながら仁聖はその体に唇を這わせていく。

「恭平……、ここすき?」
「え……ぁ……、はぅっんん……っ、あぁっ。」

甘く蕩けていく恭平の声に、仁聖はどこか安堵している自分を感じてしまう。恭平がこうして自分に許してくれる何もかもが、不安になっていた自分を引き寄せ包み込んでくれるのが分かる。

叡センセが連絡が取れないと皆が言うのが、怖い。

自分の身近な存在が何処かに消えてしまうのが、仁聖は本当はとても怖い。自分の両親がそんな感じで消え去ってしまって、仁聖は身の回りにそれほど身近と自分が感じる存在を作らないまま過ごしてきた。それなのに大切な恭平がこうして傍に居てくれるようになった途端に、仁聖の身の回りは大切な人が溢れだしている。勅使河原叡もその一人で、仁聖にとっては父親と母親を知る大切な存在なのだ。

「じんせ…………?」

柔らかな恭平の声が響くのと同時に、柔らかく耳を擽るような吐息を溢しながら恭平の手が延びてくる。そして自分を宝物のように抱き寄せたかと思うと、その手は慈しむように仁聖の頭を撫でていた。

「大丈夫だ、心配しなくても…………、勅使河原先生の事だ、都市伝説探しの最中で携帯の充電が切れたとか、そんなのだ。絶対。」

思わぬ恭平の言葉に目を丸くした仁聖は、その情景が容易く頭に浮かんで思わず笑いだしてしまう。確かに勅使河原のあの性格だと、そんな間の抜けた事は良くありそうだし、直接の教え子のこの意見はどんなものなのか。それでも笑いだした仁聖の様子に、恭平も少しだけ安堵したように微笑み仁聖の頭を更に撫でてくれる。

「大丈夫、な?大丈夫だから。そんなに不安そうな顔するな。」

うんと頷きながらスルリと滑らかにすべる指先が腰骨をなぞり、下着を絡めるように引き下げた感触に恭平は我に返ったようにその腕を掴む。

「こら…………。」

それでも自分よりも遥に高い温度の手が、緩々と太腿を撫でて下着をずりおろしてしまう。それに一つも抵抗すらできないまま、恭平は思わず再び縋りつきながら身を震わせていた。

「恭平?……………足……………開いて?」

探るような囁く声に横に頭を振るとクスリと可笑しそうに笑みを溢して、仁聖の唇が耳元を撫でるように柔らかく触れ甘く耳朶を噛む。背筋に走った悪寒めいたゾクリとする感覚に、思わず恭平は身を竦ませてしまう。そんな途端一瞬の隙を突いたようにスルンと恭平の足の間を仁聖の指が滑る。

「んぅっ!!!」

予期しないほどの甘い痺れるような衝撃に、思わず跳ね上がった甘い息を楽しむように仁聖は眼を細めていた。そっとその頬に唇を寄せて、緩々と顎のラインに沿って唇でなぞりあげる様に身をずらす。

「やだ……っあ、んんっ。」
「嘘つき…………、恭平のココ、嫌がってないよ?」

やんわりと嗜める様なそれでいて甘く熱を持った声が耳元に吹き込まれて、恭平は闇の中に浮かぶ仁聖のしなやかな肢体に眩暈を覚えてしまう。思わずその胸元を掴みながら、恭平が堪えきれずに甘い息を溢す。
自分の腕の中で快感に身悶える恭平のほの白い肌が、上気していくのを眺めながら仁聖は陶然とする。恭平を抱き締めながら柔らかい手つきで、恭平の立ち上がりつつあった肉茎をゆっくりと音を立てて扱き上げていく。

凄く綺麗…………。

喘ぐような吐息も上気していく肌も、恭平の何もかもが眼に鮮やかで綺麗なのは変わらない。大切で愛しい、綺麗な月のような人。もう今は不安ではなくそれだけの思いが激しく仁聖の中を満たして、彼自身にも滾る熱を注ぎ込んでいく。唐突に身を滑らせた仁聖の髪が恭平の胸元を撫でていくのを、弾ける呼気の中で恭平が眼で追った瞬間その体がふいと足を割っていた。

「ふぁ!…やっ!!あうっんんっ!!」

音を立ててユルリと中心を熱く濡れた口腔に呑み込まれてしまう強烈な感覚に、恭平は背を逸らして甲高く悲鳴に似た声を上げる。その動作を留めようと今まで仁聖の体を縋りついていた手が、宙を迷うように踊り仁聖の髪に触れていた。濡れた卑猥な音と甘美な快感が腰に響く感覚に喘ぎながら、フワリと探った指先が自身の太腿を割っている仁聖の柔らかい栗色の髪に絡み付く。

「はぅ…じんせぇ…………あ………あっ…あぁっ。」

躊躇いのないその奉仕に似た激しい口淫に、思わず快感に目じりに涙が滲むのを感じながら恭平の指がまるで救いを求めているかのようにクシャリと仁聖の髪を探る。その恭平の指の感触すら楽しんで、仁聖の舌が熱く絡みジュプジュプと音を立てて恭平の肉茎を撫で回した。

「う…んっ!!ああ………あぁっや、ぁだめ、いっ!!」
「ひもち………い?もっ、ろ?」

身を硬くして僅かに顎を反らすようにして恭平が、声にならない声で激しく首を横に振る。それを眺めクスッと皮肉な笑みを零しながら仁聖は、綺麗に色づいて濡れ始めた歪む表情を見上げた。

「じゃぁ、もっろ、よく…なるまでしてあげる……………。」
「やっ…やだ!!やめっ……んんっ!だ、めぇっ、あぁ!!」

優しい残酷な言葉に吐息を弾ませながら、硬く閉じていた瞳を見開いた。強い快感に翻弄される恭平の表情が、仁聖に自分の分身を口に含みながら見上げられるという倒錯的な情景に世界ごと揺れる。震えるその表情をうっとりと見つめながら唾液に濡れた肉茎にキスを繰り返す。淫らな音を立てて唇と一緒に指を走らせると、まるで痙攣するように恭平の体が一際大きく跳ねていた。そうして、もう一度やんわりと彼自身を口に含みながら舌でなぞる様に舐め回すと、ビクビクと痙攣するような恭平の肉茎から離れ、二種類の露にぬらぬらと光る指先に仁聖は唇を舐めていた。
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