鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話112.余波の落としドコロ。

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「あ、恭平。」

久々に駅前の大通りを歩きながら見つけていたその背中に、外崎了は足を早めて軽やかに駆け寄る。トンッと背後から肩を叩くスーツ姿の了に、出版社で打ち合わせでもしてきたのか大きなブリーフケースを片手にした榊恭平が眼を丸くして振り返った。

「了。珍しいな、…………スーツ姿。」
「ちょっと仕事先の書類だすのになー。流石に私服はないだろ?」

ある意味今はお互いに自営業みたいな立場になっているので、早々日常ではスーツにネクタイは身に付けなくなってしまっている。以前は会社の営業職ではあったが、了もすっかり今の仕事の方が板についているからカッチリとしたスーツ姿は久々。それでも外崎宏太経営のコンサルティング業では、仕事相手が会社だと稀にこうしてスーツ姿で書類の受け渡しがあったりプレゼンもしたりするのだという。そう言うわけで宏太も時々スーツを着ることがあって、見た目がヤバいと結城晴が常に言っている。ヤバいって何?と思うが、晴曰く『マフィアのボスみたい』だとか。(友人で仕事相手の1人の相園良臣が普段着だと『ヤクザの若頭』みたいに見えるというし、久保田惣一が気合いをいれてスーツを着込むと完全に『ヤクザの親分』にしか見えないとか言う噂もある。)

「久々だから、もーネクタイがヤバい。」

6月間近の今はそろそろ季節も初夏の気配だから、キッチリした格好は少し暑いのだろう。襟元を開けネクタイを緩める了に誘われ、二人は連れだって毎回の事ながら『茶樹』に向かっていた。

「そうだ、この間さ?」

了が『茶樹』の快適空間で暑さを凌ぎながら何気なく口にしたのは言うまでもない、先日の外崎宏太の断捨離の事だ。了が以前に面白がって一枚選んで恋人の源川仁聖に下着を譲ったことはあるのだけれど、今回のはそれと違って複数というか、大量に譲り受けている模様。しかも、それ以外にも手枷やら足枷やらSM嗜好なら兎も角、宏太の昔のお仕事関連の代物まで渡していると聞いた。もう一人同じ時に加わった狭山明良は早速だが結城晴に使ったらしく、晴が宏太にあんなの渡すなんて馬鹿なの?!変態!!と噛みついてきたのは言うまでもない。

仁聖はそういうの率先して使いそうではないけど…………

何となくだが了からみると仁聖は下着は兎も角、玩具類に関しては余り積極的ではない印象なのだ。と言うのも1度恭平を手中にしようとしていた時、源川仁聖の交際に関して了は調べたことがあったのだが相手から聞いた仁聖の共通認識は大概イケメン王子様?だった。確かに性的には長けていただろうしテクニックも抜群のようだが、自分の身体以外にお道具関連を使うと言う話がなかったのはここだけの話。まぁ今のベットの中でまでそうかどうかは、恋人である恭平しか分からないだろうが。

「いや、その………外崎さんから……貰ったとは聞いた。」

申し訳ないなとは一応恭平も言うものの、貰ったものに礼を告げられる訳でもなくそれ以上の言葉に詰まる。そんな恭平の様子で、仁聖が受け取った物が何なのか承知しているのは言われなくても分かってしまう。と言うのももしかしたら仁聖が貰ったこと自体をまだ隠していて、ここでこんなことを言ったら新たに喧嘩勃発になるかなと思いもしていたりする。まぁその点はヤッパリ仁聖も男だったわけで持って帰って眺めていたら、偶々恭平に見付かってしまい素直に白状したらしい。

「悪かったな。宏太が持たせたヤツだから、とんでもないのばっかだったろ?」

その言葉に目の前でポッと恭平がホンノリ頬を染めたのに、眺めていた了の方も驚いて眼を丸くする。あれ?これは?と了が身を乗り出して眼を細めてみせたのに、恭平は少し恥じらうように視線をそらす。

「もう使った?下着?それともお道具?」

更にポポッとホンノリ頬を染めて、それでも視線をそらしたままの恭平の様子。前回の了が持たせた下着の時みたいに恥ずかしがって怒鳴る訳でもなくて、しかも目の前の恭平はいつになく妙な色気を漂わせているのは何でだろうか。

「どんなの使った?Gストレングス?Tバック?」
「そ、そういうの、は、…………聞くな。」
「履き心地どうだった?」

そう問いかけたのに、何故か恭平が更にポッと赤く頬を染めた。ん?何でこれこんな風に反応するんだ?何時もと違う?と眉を潜めた了に、恭平は今日は暑いなとか何とか訳の分からない事を言い出して必死に話をそらそうとし始めている。その様子が何故か察した了は、改めて眼を細めて溜め息をつく。

「恭平も男だもんな…………。」
「は?」
「エロ下着、履かせたんだ?仁聖に。」

その指摘に一気に完全に真っ赤になった恭平が、ワタワタと慌ててアイス珈琲を啜って盛大に噎せている。うん、これでもう否定しようが無いし、仁聖もついに恭平に捧げたのかと染々してしまう。ところがそう了に染々されたのに恭平の方は、更に慌ててしまっている。

「え?だって、エロ下着着せたんだろ?お道具使った方?」
「そ、それは…………その。」
「履かせたんなら、ムラッときたろ?」

好きな相手の扇情的な下着姿に男だったら欲情するのは当然で、性的な目的のその姿を見ていて男が何も起こさないなんてあり得ない。そう了から言いきられてしまった恭平は、頬を染めて俯き、『何も……ないわけじゃないけど……。』と何故か歯切れ悪くコニョコニョしている。

「欲情しなかった?ハズレ?」
「いや、した…………けど…………。」
「なら、貰っちゃったろ?美味しく貰うだろ?あ、もしかして初めてだったから、流石にいれるのまでは出来なかったとか?それともお道具で満足しちゃったとか?」

余りにも露骨な直球の了の問いかけにら尚更真っ赤になってしまった恭平は『何でもそっちに繋げるな』と不貞腐れたように呟く。
確かに仁聖がエッチな下着姿で拘束される姿に恭平はとっても興奮して襲いかかってはいるのだけれど、結果としては頂いたには頂いたが仁聖の処女を頂いたわけではなく。

「いや、さぁ?きょうへぇ…………そこは、美味しく頂くとこだろぉ?何でそこ逃すんだよ?!何でそこで乗っかる?!」
「い、いや、そういう…………ことは…………。」

何でそこでそうなったと了にガンガンと責められているけれど、そこは恭平もそうしたかったとしか全く言いようがない。色っぽい顔でホンノリ頬を染めてそう必死に言い訳を口にしているけれど、もう仁聖との関係では完璧に恭平が仁聖を雄として受け入れていると言うことなのだ。

「恭平がそれで幸せならいいけどさぁ…………まぁなぁ……。」

了だって宏太との関係は同じような状況なので、それ以上文句のつけ用はなかったりもする。それにしても自分ではなく、相手に履かせるというのは中々想定外だった。見えない宏太に見えない癖に自分に履かせてどうするとこれまで再三噛みつきはしたものの、宏太自身に履かせると言う話はまだ1度も出ていない。

「な?ちなみにどうだった?履かせてみて。ヤッパリ、エロい?」
「何でそこ掘り返すんだ…………。」
「いや、欲情したのは聞いたけど、どんなの履かせたの?する時脱がすので時間あるから萎えない?」

そんな問いかけに普段なら外方を向きそうな筈の恭平が、今回ばかりはその時の事を思いだしてしまうのかホンノリと艶めき更に色っぽい顔をする。それによくよく聞けばなんと!手枷足枷で拘束までして、しかもローターの類いまで使ったとか!!まさかそう言う面では淡白で興味自体が薄そうな恭平がそんなものを使いこなすなんて!!と、了の方が呆気にとられていたのはここだけの話なのだった。



※※※



「ほーら、タマちゃん。だっこだー。」

キャッキャッと笑うようになった久保田家のお姫様・久保田碧希を抱きながら、了は何気なく母の久保田松理を見やる。松理は既に20年近く久保田惣一と交際していて、その初期から宏太とも知り合いだったという。それに惣一の所有する不動産の半分を過去に受け取ったかなりの資産家な上に、実は惣一や宏太以上の天才的なハッカーでもあるというのだ。そして今宏太と了が暮らしている仁聖の父親設計の邸宅、実は1つ前の持ち主でもある。
元々は他の人物が源川春仁設計士に依頼して建築した邸宅なのだが、持ち主が海外に移住するのを機に知人だった惣一に声がかかり不動産資産として持ち主が変わったのだ。そして何人かの手を経て、ここ数年は松理が隠れ家の1つとして所有していたのだという。そして宏太が新居にと紹介されて購入したのだが、内部は一部の段差の調整程度で大きなリフォームはされていないのだと言う。

ちょっと、気になってんだよなぁ…………

仁聖の父親・源川春仁がちょっと秘密基地マニアだったのは、仁聖から密かに聞いていた。と言うのも仁聖が『茶樹』でキョロキョロしている理由は、父親が建築物を見ているだけにしてはおかしいなぁと前から思っていたのだ。聞いたら自分の建てた建物に、秘密の仕掛けを作るなんてマニアックな趣味があったらしくて『茶樹』にもそれがあるのではないかと思っているらしい。
流石に持ち主の惣一が話したのなら兎も角、一緒に入った事のある恭平も蓄音機の後ろの壁がドアになっている秘密の部屋のことを仁聖にも話していないのに気が付く。これはまだ秘密らしいから、了も今のところは仁聖には黙っているのだ。それにしてもその父親の趣味を聞いて、了はふと気になった。

あれ?うちも仁聖の親父さんの設計だよな?

そう、1年も2人が一緒に暮らした邸宅。1人であれを掃除する了だからもう家の中は全て理解している筈なんだけれども、1つ最近気になってしまっている。

断捨離するくらいの道具って、どこにあったんだ?

前から気にはなっていたのだけど宏太の隠し持っている道具が一体何処に仕舞われているのか、了は実は全く知らない。何処に隠し持ってんだと怒鳴ったこともあれば、探してみたこともあるけど家の中にそれをしまう場所は見たことがなかった。勿論たまに使われてきた枷とか幾つかの道具はベットの下の引き出しの1つにも引き出しを占領して入っていたけれど、それ以外に明良と仁聖に気前よく大量に渡して相園良臣に物販に使わせられる程の量。

おかしくね?多すぎだろ。

かといって外に宏太がトランクルームやら何やらを持っている訳ではなさそうなのは、金銭面の管理は宏太が見ても言いと言うから了は全て見ている(まぁ、宏太が驚くほどの資産家なのは理解したし、出入金にかんしては元が金融関係なので宏太は驚くほど明確・確実の完璧管理だった。)し、家の断捨離だからと宏太が仁聖と明良を家に呼んだのは分かっている。
2人に聞けばいいんじゃないかって?そこら辺は口裏を合わせているのか、明良も仁聖も下着の段ボールと一緒においてあったと言うのだ。だけど何気なく見に行ったら相園のところに運ばれた段ボールは下着だけでも3箱で、お道具はその倍以上もあったのだ。仁聖達に別けた分も考えれば10箱相当の10キロサイズの段ボール、そんな数の段ボールは地下のクローゼットだけでなく家の中の何処にも置いていなかった。

怪しい…………絶対怪しい…………。

宏太はその点の質問を今回は完璧無視のスルーを決め込んでいて、どう考えても了に話したくない何かを腹に持っているのは了には分かっている。しかも今回は断捨離なだけで自分は悪いことは何もしていないから、普段の了の『一緒に寝ない』の切り札も『今回は俺は悪いことはしてないから無効!』の一点張りで頑張られてしまった。

「了ちゃんってば、碧希あやすの上手ねー。タマってば惣一君より了ちゃんが好きみたい。」
「あぶー。」
「タマちゃんかわいいもんなー?なー?」
「あぶぶー!」

まだ3ヶ月半なので会話が成立しているかは何とも言いがたいが、確かに了の抱っこでとっても楽しそうにキャッキャッしている碧希だったりもする。そんな喜ぶ碧希を抱き上げて膝にのせ何気なく了は、松理に向かって問いかけてみた。

「ねー、松理姐さん、あの家ってさ?『茶樹』みたいな秘密の部屋がホントにあんの?」
「あら、聞いてないのー?地下のクローゼットの奥は私好みのお部屋にしてあるのに。」

地下?!クローゼット?!しかも、松理好み?!!!何とも衝撃的な松理の一言に、了は思わずポカーンとしてしまう。しかも了も何度も出入りしている地下のウォークインクローゼットの奥って何なんだ?!奥?!確かに地上じゃ秘密基地なんか建築外観で分かるから、当然地下室の可能性は考えてたけれど、まさかのあのクローゼットの奥?!
その反応を眺めて松理はあらやだ、トノってば開け方は教えてないの?ときた。開け方……確かに『茶樹』の秘密基地の壁だって、開け方を知らないとただの壁にしか見えない。

「姐さん…………開け方……教えてくんない?」

そう告げた了の顔がいつになく怖い笑顔だったのに、抱っこされている碧希が面白げにアブアブと何かを話し、松理の方はあらまーと暢気な声上げたのだった。
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