鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話123.幕間2

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建築学部2年になった佐久間翔悟は、昨年の春に大学進学ために北東北からこの街にやって来た男だ。改めて言うまでもないが翔悟の実家の周りは夜10時には商店1つないという典型的な田舎で、時には家の周囲で熊が出るとか狐が出るとか狸が出るとか、時には天然記念物のカモシカだって出ちゃうような野趣溢れる場所だったりする。そういう意味では産まれて初めて出てきた関東の24時間眠らないネオンサイン瞬く街には、全くもって翔悟は免疫というものがなかった。
最初は何なんだこの何時までも絶えない人混みと真面目に思っていたし、そこかしこにある深夜営業や24時間営業の店の多さにも呆れたものだ。何しろコンビニなんて5分街を歩けば、3件や4件くらい簡単に見つかる有り様なのだ。それにこの街では未成年の高校生なんかが当然みたいな顔で夜の街を歩き回ったり、ラブホテルなんかにスーツの野郎と入っていったりするのに頭をかきむしりたくなる。

何なんだ?!未成年だぞ?! 

そう言ってやろうかと思ったら、大学になってから目下一番の親友の立ち位置にいる源川仁聖が、自分もそうだったからな~なんて呑気に笑う。流石にそれにはおかしいだろと言ってやったが、基盤がこの街だと大して驚くことでもないと言うのは理解できてきた。そんなわけで去年の今ごろ暫し翔悟が、都会の子供って何なんだと悶々と思っていたのはさておき。

でもなぁ1年もすっとなぁ…………

1年ここで暮らす。慣れてしまうと別にこの世界は24時間眠らないままでいても、問題なく回っていると知ってしまった自分がいる。しかも24時間何かが営業してくれている世界は、案外とっても便利で暮らしやすい。実家じゃ夜に突然牛丼が食べたいなんて思っても買いに行くことも出来ないし、眠れないからカラオケでも行こうなんてことも出来ない。

慣れって怖いなぁ。

そんなことをスーツ姿でボンヤリ思うが、このバイト先の塾は実は正式には2件目になる。最初のバイト先の方が今の塾の経営母体・星光ゼミナールに統廃合されて、所謂花街と呼ばれる通りのど真ん中にある塾に翔悟が勤めることにったのはこの4月からだ。

目がチカチカしそうなんだけどなぁ、慣れるもんだよな、うん。

花街は大きな通りには、賑やかな色事めいた飲食店も多い街だ。なのに同時に昔の商店街っぽく、こんな塾とか小さなお茶や青果なんかの商店も割りとあって何時でも年代の違う人が溢れている。
そういう意味では昼間と夜の印象がガラリと変わる街。
実家の周囲にはこんな規模も内容もあり得なかった街並みだが、1年もここいら近郊で暮らしていれば、最初の軽薄な印象は薄れて暮らしていくにも楽だったりする。そう、この花街は駅と線路の北側から東に向かって広がっているこだが、翔悟の住居はその駅を挟んだ南西側にある。家から通うにも楽チンな位置具合だし、バイト先の環境もとても良い。

自炊を頑張らなくても割合、暮らせちゃうんだよなぁ…………

勿論金銭の問題も出てくるから全く自炊しないわけではないし、バイト先の誰もがある程度自分のことはできるのようにしてないと行く行く落ちぶれるぞと釘を指してくる。どうやら過去に自炊もしない、自分の事は何1つマトモに出来ないという男がここいらにいたらしい。その男は随分昔にここでのバイト講師から仕事を始めて、1度は正社員にまでなったのだという。その男は1度は結婚したらしいが、やがては離婚し、しかも職場を転々としていった。そして結局40歳を過ぎても、塾のバイト講師のままだったとか。

そんなのヤバすぎ………………

だからバイトの大学生とはいえ最低限自分の生活に関する事は自立して出来るように!!が、隣の駅にある同じ系列教室の室長・小早川圭の口癖。そしてそれは花街塾の室長でもあり地区総括でもある八幡征爾も同じで、社員だけでなくバイトの生活態度まで豆に心配してくれている。

その男、コバさんの同期だったんだってさ。

そう同じ塾のバイト仲間となった久世博久が教えてくれたが、どうもその永久バイトの男は最近死んだらしいと他のスタッフが噂しているらしい。しかも、他の塾の生徒に手を出したとか勤めてた塾に放火したとか他の悪事も暴露されているらしい。

ヤバすぎるよね、そんなのさぁ。だって……

生徒に手を出すって辺り40過ぎが10代ってことだから、半分以下の歳の子供に悪戯するわけだ。相手が成人していて両思いって前提でもあれば兎も角、未成年に手を出すってのは頂けない。何しろ翔悟の親父は目下47歳なわけで、年代的にいったら妹と父親って年の差。あり得ない、って言うか自分の親父が高校生に手を出したら、先ずは殴る。あり得ないと思うけれど、そんなことをしたら実家の土地では家に悪いことが起きる代名詞の宵闇に鵺がなく声を聞きそうだ。そんなことをツラツラと考えているが、まぁ自分にはそれは関係のないことだし、先ずは自分の書類整理を終えるだけ。

「八幡さぁん……終わりましたー!」

事務室で提出用の書類を整えてから奥のデスクにいる八幡にそれを差し出すと、八幡はデスクの上のミニ籠にいれている棒付き飴をおつかれさんと差し出してくる。そう言えば八幡は翔悟の父親よりは少し年上の筈だが、ある意味では高校生の生徒と大差のない年代の翔悟は、大学生になったばかりの娘と高校生になったばかりの息子がいる八幡にしてみたら子供と大差がないのだろう。
娘が良く食べるらしい棒付き飴を手渡されお疲れ様と言い渡された翔悟は、それをクルクルしながら階段を軽やかに降りて賑やかな街中を早速帰途につく。
実はこのまま駅に向かう方向と逆に北側に向かえば、友人・源川仁聖のバイト先である芸能事務所がある。当人は随分隠しているつもりだったようだが、仁聖のモデルバイトはキャンパスでは既に周知のことだ。とは言えバイト先に行ったからと言って仁聖は常駐している訳ではないし、今夜は仁聖と約束があるわけではないからそちらに向かうわけではないが。
花街の人混みは夜遅くなっても人の種類を変えるだけで、殆ど変わらないままだ。それでもその時ふとその合間に見えたモノに、翔悟の脚が思わず止まる。

それをなんと表現したらいいか、本音を言うと分からない。

その人波の合間に見えているモノは、一見すればきっと人なんだろうなとは思う。慣れてくると分かるが都会の中にはそういうものが結構紛れていて、でもそれを相手に指摘しても駄目だしそれを下手に追求してもいけない。それは実家にいた時に祖父母から教えられて、野性動物を見たらしていたのと変わらないとも思う。

あれは動物ってことだよな、うん、熊とか猪と同じ。

先ずは視線を合わせない、そして絶対近寄らない。後はなるべく、音を立てずにソッと気がつかれないように離れていくこと。常々そう思って対処していたのに、それは何故か翔悟に視線を向けてこちらに確りと気がついてしまっていた。

ヤバい…………逃げなきゃ…………

知らんぷりで視線をそらして通りすぎながらサッサと足を早めるけれど、それがジリジリ背後から近寄ってくるのを背中に感じてしまう。見ていないとも思ったけれど、向こうに見ていたのを感づかれてしまうくらいの時間は見てしまったらしい。しかも翔悟が眼をそらしてそれの横をすり抜けてしまったから、向こうはこちらの背を追いかけて追いすがってくる。ジリジリと距離が縮み背中にそれの気配を感じて、ジワリと嫌な冷や汗が滲む。世の中にはこういうものに出くわしてしまうことがあるのだが、普通なら命の危険性までは感じないだろう。

「翔悟!?」

迫る危険性に震え上がっていた翔悟に、唐突に目の前に現れたその声は暢気に声を上げていた。翔悟の危機感には何も気がついていないのに一瞬でその声の主は背後の気配を、まるで雲間から陽光が射し込み照らしあげるような感覚で背後のあの影を消し飛ばしている。勿論この声の主は言うまでもない、友人の源川仁聖だ。
翔悟は偶々バイト帰りで前を歩いていた仁聖に向かって脚を早めていたらしくて、何となく切羽詰まって近寄ってくる気配に振り返った仁聖が翔悟に気が付き声をかけてくれていた。そしてこの偶然は背後から迫っていたモノにも、翔悟が仁聖を見つけて駆け寄ったように見えたに違いない。

「や、……っぱ仁聖だった……かぁ!」

それを肯定するような事を口にすれば尚の事それは肯定されるから、翔悟のことを伺っていた気配はスゥッと離れていく。
モデルバイトの帰りらしい仁聖は、珍しく片手に大きなディバックをかけている姿。仁聖は全く翔悟が感じている気配には気がついていないようだから、普段と変わりなく普通に話しかけてくれる。

「なんだ、今日バイト終わるの早くない?翔悟。」
「そっちは遅いんじゃないか?」
「あー、今日は衣装下ろしてくれるっていうから、少しかかったんだ。」

助かったと心の中で仁聖には感謝しつつ、二人は並んで花街から遠ざかり始めていた。



※※※



…………自分の事を見たと思ったんだけどな。

これは別に自惚れで言っているわけではない。大概人混みの中で自分を見つけ視線をハッキリ向ける輩には、自分に何かを感じとる輩が多いのだ。そして本来ならそういう輩は花街の主要である大きな通りよりは、如何わしい性的な店舗の近くに多い。だからこんな普通の通りでは、少しあの青年には驚いた。完全に人混みに紛れていた筈の自分に向かって、一直線に迷わず向けられた視線。確かに自分のことを人混みの中から、見つめられたのだと思った。でも視線を合わせたと思ったのに、瞬時にパッと顔を背けて足早に進みだしたから思わず追いかけてしまったのだ。

…………見たのかもしれないと思ったけど、…………見間違いだったかも?

それでも一応は確認しておこうと、足早に進むスーツ姿の青年に試しに声をかけようかと思ったら。その青年の歩み寄っていく先で、栗色の髪をした綺麗な顔をした同じ歳ぐらいの別な青年が気配に振り返って目を丸くしたのだ。これはどうやら自分を見て自分を避けるように脚を早めたのではなくて、その別な青年を見つけて急いで追いかけただけだったらしい。

なぁんだ………………

そして二人は顔見知りのようで連れだって歩き始め、バイトが早いとかどうこうと語り出す。そこで一先ずは追いかけるのをやめて、色を変えたばかりの髪をクシャクシャと掻き回した。自分の元の髪色は黒で時々明るい金髪だが、今は栗色にしていたのだった。そうか夜目ではあの歩み寄った青年と、自分の髪は同じ色に見えたのかもしれないと気が付く。あの自分をみた方の青年は、もしかしたから最初から栗色の髪の青年を探していたから栗色の髪の自分に一瞬眼を向けたのかもしれない。そう考え直すことにした。

それにしても、夜になって更に人が増えてる。

花街と呼ばれるこの界隈には夜の飲食店も多いし、酒類を提供する類いのバーなんかも集まっているから仕事帰りの飲食目的の人間は自然と多くなる。逃げ回っているくせにどうして繁華街をふらつくのかと言われれば、下手に隠れるよりこっちの方がずっと見つからないからだ。
木を隠すなら林。
人を隠すなら人混みというやつで、下手に人気の無いところで隠れるよりこの方がずっと見付からない。それに自分は人をずっと探しているのだから、人がいないところで探しても無駄と言うものだろう。
 
それにしても、だ。

やはり今夜は人が多い気がする。何があっただろうかと考えるけれど、それが思い付くわけでもないから諦めてスルスルと人混みを縫うようにして歩き出す。それにしてもさっきの青年は、少しまだ心の中に引っ掛かりを感じていて、珍しく記憶の彼方に消え去らないでいる。

真っ直ぐに見てきた視線が…………ちょっと似てたかも?

そんな風に思って、ヤッパリ話しかけてみるべきだったなと自分は思ったのだった。



※※※



駅までたどり着き、構内をこす。その辺りには背後から追いすがるあの気配は完全に消え去っていて、翔悟は思わず深々と溜め息をついていた。その姿に仁聖が少し驚いた様子で、どうかしたの?と問いかけてくる。

「いや、なんか妙な気配がしてさぁ。背筋が寒くなっちゃったね。」

苦笑いで適当なことを言って誤魔化すけれど、スピリチュアルを匂わせると仁聖は余りこの手の話が得意ではないから変な追求はしてこない。それにしても、こんな街でもヤッパリ野性動物はいるんだと染々してしまう。

「ヤッパリさぁ?こういう街でも、いるんだよな?動物。」
「はぁ?なに?そっち?猫でもいた?」
「んー、どっちかってーと肉食系?」

暢気にそう答えると猫も肉食系じゃない?なんて仁聖が、至極真っ当な意見を述べてくる。確かに猫もそうかと納得してみたけど、あれはどっちかって言うと猫よりは虎とか……?なんて思わず笑ってしまうのだった。
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