鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話57.馬鹿

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夜の闇の中に浮かぶ、過ごし慣れてきた二人のためのベットの上。
そこで外崎了は淫らに左右に脚を大きく開かされていて、その脚の間に嵌まり込んだしなやかで逞しい男の身体。再三相手の腹の上で突き上げられて何度か射精もなく絶頂に押し上げられたばかりで、力の入らない了の身体を横たえ腹の上に外崎宏太の黒髪がサラリと柔らかく触れる。

「ぁ……っんんっ!そ、ん、っな……舐める、なぁあんっ!」

しなやかな指で淫靡に音を立てて扱かれて、ヌルヌルと肉茎の浮いた血管を肉感的で色っぽい唇から覗く舌が這う。それだけで射精したばかりだというのに、再び固くなりだした了の鈴口からは新たな蜜が溢れて滴り落ちていく。その溢れだした蜜を更に淫靡な仕草で宏太の舌先が舐めとっていくのに、了の視線は反らそうにも反らせず釘付けになってしまっている。

「んんっ!あんっ!あぁっ!あぁあっ」

熱くて滑る口腔の中にクポッと音をさせて飲み込まれ、舌や口腔の粘膜に刺激されるだけでも凄まじい快感が走る。目を反らせばもう少し堪えようもありそうなものなのに、宏太がそれをしているのがどうしても了の目には入ってしまう。以前にはそんなことは一度も相手にはしたことがないと話した男の肉感的な唇が、濡れながら同性の自分の陰茎を丹念に愛撫している。喘ぎ声を堪えるために手で口を覆いながらも目が離せない了は、自分のドクドクと激しく脈打つ心臓の音をきく。

「あぅっんん!」
「ふっ…………、相変わらず慣れねぇな?ん?」

チュプと淫らな音を立てて口から了の怒張を抜き取り、まだこんなものでは休ませないと指で擦りながら淫らに微笑み宏太が言う。あの宏太が自分からこんな甘々な言葉を紡いで、しかもこんな愛撫をしてくる。それに慣れるなんて、力一杯絶対に無理だと言いたいけれど喘ぎと同様に息は荒くなっていて言葉にすることも出来ない。しかも宏太が妙に嬉しそうに愛撫するからどうにも抵抗も出来ないまま、宏太がしたいようにされていたりするのも分かっている。

「了…………。」

指先や舌の動きに踊らされて甲高い甘い声が自分の口から溢れ続けるのに、頬を染めるだけではすまなくて必死で口元を押さえ続けていた了に覆い被さる宏太の体温が一際高い。了の反応に興奮して股間を熱く昂らせているのを押し付けられれば、それは乙女じゃないけど恥ずかしくて身悶えてしまうくらいだ。

「何だよ?たりねぇか?ん?」
「馬鹿ッ、そ、……なこと。」

冬の外気温をよそにベットの上のその肌は微かに汗ばんでいて、自分の身体にのし掛かってくる重みが生々しいのに了は思わず喉をならしていた。見えないから宏太が様々なことを心配したり不安になるのだと理解出きるようになったけれど、同時に本当に見えてなくて良かったなんて思ってしまうこともある。何せ宏太はこうして見ると完璧なハイスペックなのに、全くもって自覚がなくてオマケに自己評価も基本的にポンコツだ。

「了?」

了が良いとも悪いとも言わないから、少し不安そうな様子で名前を呼んで首を傾げるしなやかな身体。経営者としたってマトモな方面だけでも十分収益をあげられる能力もあって投資家でもあって、本当に傷さえなかったら例え嫁が自殺してたって女は捕って棄てても飽きるほど群がって来た筈。しかもセックスに関したら元の仕事のせいか、途轍もない手練手管持ち。

「了…………、おい?どうした?ん?」

そんな男なのに傷痕程度で自分は醜いし不気味な存在なのだと、自分で卑下のレッテルを貼って剥がそうとしない。しかもここにきて了と再会したら了を愛してるなんて言い始めた歪な傷痕だらけの宏太。

「も、ぉ…………。」

戸惑ったり不安だったりしてるなんて言われなかったら知りもしなかったと、手を伸ばして首元に絡め引き寄せる。耳元で自分でも恥ずかしい位に甘い声で「早く」と強請ると宏太の口元があからさまに緩む。

「…………入れるぞ?」

柔らかな声と共に微かに指先が場所を確かめるように一瞬肌に触れて、濡れた後穴に宏太の硬い切っ先が押し当てられる。それに思わず引き寄せていた腕に力の入る了に宏太は改めて笑みを浮かべていて、そういえば随分とこんな風に良く笑うようになったなんてボンヤリと見上げて思う。

顔の傷がなかった時も…………こうして、笑っていたっけ…………?

実際に過去に宏太がこんな風に笑うのをみた記憶はなくて、普段の笑みがどうだったのかは余り記憶にない。何しろ宏太の口に何時も皮肉めいた笑みは浮かんでいたのは覚えているけれど、以前は満ち足りて幸せだと言いたげには笑っていなかったと了は思うからだ。それを思うと了も何だかこそばゆい気分になりながら、その先の快感を受け止める。

「了……っ。」
「んぅっ…………あっ!んんっ!」

音を立てて捩じ込まれていく感触に思わず喘ぐと、宏太の腕が了を甘やかすように優しく抱き寄せながら腰を突きだす。宝物のように抱き寄せられながら宏太の胸元に包み込まれて、緩く時に強く打ち付けられる腰の動きにあわせて奥まで深く掻き回される快感に酔わされていく。それに飲まれて必死に歓喜に喘ぎ続けている了に、宏太も登り詰めようと息を荒げ大きく音を立てて腰を突き動かしていた。

「はぅっ!んんっ!あっ!や、まっ、て!!あっ!い、くぅ!!うぅ!」

室内に響きわたる腰を激しく打ち付ける激しい破裂音の合間に、了の口からは突きに押し出されるように甘い声が止めどなく溢れている。ヒクヒクと締め付け痙攣する中を味わい何度も奥まで突き上げてくる宏太の怒張に貫かれ、了は仰け反りながら何度も絶頂に達して喘ぐ。

「了…………っ、……さとる……っ。」

既に登り詰めた絶頂から降りてくるどころか逃れることも出来ずにいる了の唇を、宏太は激しく腰を動かし名前を呼びながら甘い口付けで塞いでくる。そんな宏太に、必死に腕を回して縋りつくしか了にはもう出来ない。

「も、……やぁっあっ!む、り、こぉた!……あぅっ!!」

激しい絶頂に達して痙攣している体内を執拗に深々と抉られ擦られて、了が更に一際高く甘い悲鳴を上げる。それを聞きながら宏太は、了の頬を撫でて自身も熱く息を上げながら肌を擦り寄せていく。宏太にしてみれば愛しくて可愛くて、どうしようもない程に愛しているのだと、本当は何度も何度も言葉にして伝えたいのを動きと体温で伝えようと繰り返す。

「…………愛してる……了…………。」

その声が了だけに向けられていて普段なんか比べ物にならないくらいに滴るほど甘い声に変わっているなんて、宏太自身全く気がついてもいない。そんな風に甘く響く低い掠れ声で耳元に愛を囁かれながら、再び強くドツッと奥底に杭を突き立てられて奥を抉られてしまう。再び襲われる雷撃のような快感に、了はあっという間に深く飲まれてしまっていた。

「ふふ、いきっぱなしだな?……ん…………さとる……ふぅっ……。」

入り口を限界まで宏太の怒張で広げられた自分の後穴に、滑りながら何度も出入りする歪で太い杭の熱さと脈打つ感触。それに重なる愛の言葉が堪らなく気持ち良くて、抜き取られる感触だけで自分が射精してしまうほどに気持ちいい。

「い、くぅううっ!!んんっ!い、くっ!あぅんっ!!」
「了…………愛してる…………。」
「あんんんっ!や、こぉた!あっ!!」

執拗すぎる程に甘く蕩ける低い声で囁かれながら、脚を宏太の肩に高くかつがれ怒張を根本まで捩じ込まれグポグポと再び奥を突かれ堪えれる筈のない。了の喘ぎ声に満ち足りた笑みを敷き媚薬めいた色気を駄々漏れにする宏太の姿に、了は思わずその背中に爪を立てるようにして泣き続けるしか出来ない。

「こぉた……あぅっ!んんっ!こぉ、たぁ!!」
「了…………愛してる…………さとる……。」

宏太の甘い声に酔わされて更に深く奥まで繋がろうとしながら、了は奥深く注ぎ込まれる熱さを全て受け止めるように思い切り宏太の事を締め付けていた。



※※※



どんなに思っても変えようとしても、後悔は消えないし、やったこともやられたことも消えない。でも、あんな風に覚えていられることも幸せなのだと言われてしまうと、過去は否定することも出来ないし塗り替えることも出来ないのだと考えるしかないでいる。そしてそれを抱えたまま、仮初の嘘でそれを否定した不利をした。

…………優しくて…………最悪の嘘だけど、それ以外に選べる方法がなかった…………。

白鞘知佳があの時の事を酔って覚えてないなんて、同じくあの時の事を詳細までとは言わないが覚えている晴にだって嘘だと分かっている。晴は泥酔さても割合記憶は残すタイプで確かに店を出た後一時的に記憶がなくなっているけれど、ホテル以降の事は酔いが覚めた今も鮮明に記憶していた。同時に大学生で酒を飲み始める前からの関係は、白鞘知佳がどんな風に酔うタイプなのかも分かっている。白鞘知佳は基本的には酒類に強く特定のアルコールでなければ酔っても記憶は失わないし、その酒類を好まない知佳は飲む時はそれを完璧に口にしない。けれど、それでも『覚えていない』から無かったことにしようと知佳は願ったのだろう。

あの時とは違うな…………

以前酩酊して可笑しくなっていた了を結城晴がラブホテルで抱いた時、了はその後には完全にあの時の記憶がなかった。そして宏太は了を傷つけるのを許さなかったし、晴も了をこれ以上傷つけたくはなかったのだ。だから、晴は卑怯者の嘘で了には何もしていないと嘘をついたのだけど、今回の嘘は結城晴も白鞘知佳も分かっていて嘘をついたのだと思う。分かっていて嘘をついたのは、お互いがこれ以上自分が傷つきたくなかっただけなのだ。

「馬鹿だな…………。」

ハァと深い溜め息をつくと夜風に真っ白な吐息が散って、何やってるのかと自分でも呆れもする。それでも白鞘知佳との問題は何もなかったことにしようとお互いが決めたということで同時に知佳との関係はこれで終わりなのだと何となく思う。

一度…………了との関係がきれたのとおんなじ…………

何年かしてもしかしたらまた了みたいに知佳とも出逢う機会があれば何か起きるかもしれないだろうかとは思うけれど、多分そんなに世の中は運命ずくめで良い風に廻るとはいかないだろう。そしてこうなってみて改めて自分は、これからどうするべきかを真剣に考える段階なのかもしれない。

「明良…………どう思ってんのかな…………。」

あれから変わらず傍にいてはくれるけれど、以前のように晴に手を触れることのない狭山明良が、今どう感じているのか。付き合う前の出来事を晴が説明した話ではなく、目の前で他人とベットインしていた姿を見られてしまったのだ。

一週間…………か

二人が一緒に暮らすようになって、一週間も全く明良が晴に触れないなんて事は今まで一度もなかった。勿論連日なんてのは流石に晴だって無理だけれど、抱き締められて寝るのは変わらない筈なのに今の晴は前より明良との間に距離を感じてしまう。

「明良…………。」
「何?晴。」

唐突な柔らかで甘い明良の声に思わずピャッと飛び上がってしまった晴に、背後から声をかけてきた明良は仕事帰りの穏やかさで甘く微笑みかけてくる。晴の方はここいらにいるとは連絡してなかったのに、明良の探知センサーはこっちの方に晴の気配なんて察知して何気なくこちらに歩いてきたなんて言う。

「ちょっと晴、何時から外にいたの?冷えきってるよ?もう!」

手を伸ばした明良の暖かな手が頬に触れて、晴は自分の身体が夜風に冷えきっていたのにやっと気がついていた。どれくらいさ迷っていたのか自分でも気がつきもしないまま、あの名前の分からない青年と別れて白鞘知佳とも別れた後無意識に歩き回っていたらしい。晴がそれに答えあぐねているのを明良は微笑みながら、自分のマフラーを晴の首に巻き付けて手をとる。

「もー、手袋くらいしなよ?冷えきってるし。」

暖かな明良の手が晴の手を包み込んで、熱を移そうというように擦りながら暖かな吐息を吹き掛ける。当たり前のように大切に。明良からされることを晴は無言のまま見下ろしていて、明良は微笑みながら手から視線をあげ一緒に帰ろうとその手を繋ぐ。

「………………明良。」

何を言うつもりなのか分からないまま口を開いた晴は明良の姿を見つめて、あぁ明良は格好いいなぁなんて頭の中でボンヤリと考えていて。

「さっき……チカに会ったよ……。」

その言葉に目の前の明良が、綺麗な眉を歪めて明らかに表情を変えたのが見えた。多分白鞘知佳は、同じ職場にいる明良に何らかの声をかけている筈だと晴は思う。

あぁ、それ知佳に口止しとくべきだったかな………………
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