鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話31.○○はじめ

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長閑な空気の中で外崎了たっての願いでリビング横の和室に据え付けた炬燵でのこと。快適温度に調整された外崎邸では炬燵なんかは必要ではないのだけど、和室で炬燵はロマンでしょ!なんて訳の分からないことを断固として訴える了に外崎宏太は首を傾げてしまう。とは言え和室に据え付けてみた炬燵は確かに居心地が良くて、仕事納めの前の結城晴は寛ぎまくり、宏太の方もリビングのお気に入りのソファーと同じくらいの率で寛いで居たりする。

「炬燵…………さいこぉ。」

蕩けた声でそんなことを言う了に、宏太も否定はしない。そんな外崎家は仕事納めを28日に済ませて、30日には鈴徳良二特製のお節料理も受け取ったし正月は仕事は完全休暇。目下完全に正月モードに移行しようかという真っ只中だったりもする。そして大晦日当日のただいま既に夕飯は済ませたし、年越蕎麦も食べて後は長閑に年を越すばかりだったりする。
実は二人きりで仕事もしないでノンビリ一週間なんて、何をしたら良いものかなんてことを了としては内心思ったりもしていた。元から実家でも正月らしい正月なんてものを経験しことがない上に、その気になれば何時でも仕事も出来てしまう仕事内容と環境なものだから、逆に会社勤めの時よりこの線引きが難しいのだ。そう素直に言うと宏太が少し可笑しそうに笑う。何しろ了が居るからちゃんとメリハリをつけて休みを儲けたが、自分一人だった時は朝も夜もまるで関係なく下手するとパソコンの前で寝落ちなんてことが宏太にとっては当然の日常だったのはここだけの話し。

「…………自営のジレンマだな。ん?」
「って言うか、こんな長閑な年末なんて過ごしたことねーし。いっつもなんかバタバタしてたから。」

それは産まれてからこの方の了の実感であって、考えれば考える程正月の存在意義が分からなくなる。家族といたわけでもないし旅行に行くわけでもなかったし、自分って正月をどう過ごしていたのだろうかなんて炬燵の天板に顎をのせて唸ってしまう。

「正月ねぇ…………。」

そういう意味では同じく父親が政治関係者であった宏太の方も割合忙しくしていた筈だが、まあ自分にとって興味がないことなので宏太も大して記憶にも残していないわけで。しかも1人暮らしになってからの外崎宏太はなおのこと、盆暮れ正月なんて関係ない生活を送っていたりする。
因みに社員である結城晴は、狭山明良と両家に挨拶をして旅行に出てくると言う。晴は基本的に正月は遊び歩く傾向に有るらしく、会社勤めの時は友人と海外やら温泉やらに出かけるのが恒例だったそうだ。今回は急だったし近県の1泊旅行だから、それ以外の日は呼べば仕事に来るよーなんて呑気に笑っている晴の背後で、呼び出したら殺しますと言いたげなどす黒いオーラが満面の笑顔から放たれていたのは言うまでもない。

「ま、でも、良いよな?二人っきりでノンビリ。楽しみだ。」

ヘロと炬燵の天板の上で頬を緩ませ微笑みながら了がそう言うのに、突然ソロリと外崎宏太が動きを見せて二人の間にある炬燵の角を越えてきていた。手を伸ばし天板の上の了の顎を持ち上げた瞬間、チュと軽く唇が重ねられたのに了が目を丸くする。

「ちょっ……まっ…………んんっ!」

掠れた甘い制止の声を更に塞いだのは宏太の熱烈な口づけで、しかも言葉を繋ごうにもヌルリと淫らに舌を絡められては了だって言葉にならない。その上今度は完全に身を乗り出してグイと覆い被さられて、気がついたら意図も容易く畳の上に押し倒されていて、ガタッと引き寄せられる動きで炬燵の天板が跳ねるのを聞く。座布団があるとは言え畳にこんな風に押し倒されるなんて、なんかちょっと妙な気分…………いや、そうじゃない

「こ、ら…………待てって……っ!あ……んっ!」

肩を押し返そうにも覆い被さられて服を寛げられ滑る指先になぞられ、全身の肌が粟立ち震えが起きるのはあっという間。了が見ていた長閑すぎる正月特番の音が邪魔なのか、天板の上のリモコンを手探りで宏太はそれを消して了の唇だけでなく耳朶や頬や至るところに口づけを落としてくる。ただキスをされているだけなのに、執拗なのに優しくて甘くて、あっという間に心地よくされて蕩けてしまう。

「了…………。」

甘く低く囁く声に最近では宏太の感情の起伏も大体分かるようになったし、何が宏太の欲情の切り替えスイッチになる事が多いかも理解出来てきつつあるのだけれど、今晩ばかりは了にも何がスイッチになっていたか想定もつかなかった。
何せ二人きりで始めての年末を向かえて、長閑に夕食を済ませて蕎麦も食ったし二人で後は年越し番組でも見ながら年を越して。まぁ宏太の視力では初詣に行こうにも例年溢れんばかりの人混みだから、夜中には外に出ることはないかな程度にしか考えていなかったし。
今の会話の中で何が宏太の琴線だったのだろうと考えようにも、それを遮り執拗に口づけが襲ってくる。

「ま…………っ…………んぅんっ…………。」

口づけに反応して甘ったるい喘ぎを思わず了が溢したら、それを聞いてしまった宏太がこれを止めてくれる筈もない。ゾロリと喉元を舐め上げながら耳朶を甘い吐息で犯されて、のし掛かる体温が途轍もなく熱くなっていく。

「んん、待てって…………ば、こぉ……た。」
「待てない。」

何で即答なんだよと思わず怒鳴り付けたくなるが、見上げた先の熱っぽく頬を染めた宏太の顔に確かに待てないのは言われなくとも分かる。それにしたって何でこんな急にその気になったんだとジタバタする了に、宏太は更に熱を含む口づけで先を強請るように応戦してきて抵抗すら出来ない。

「ちょ、こんな…………、や、…………んっ!」

スルリと服を脚から引き抜かれ裸の脚を抱えられながら、胸元や腹や太股にまで丹念に口づけられて行くのが視界に入る。チロリと淫らな仕草で太腿を舌でねぶられるのを見せつけられるのに、了だって頭の奥が一瞬で煮えたように感じてしまう。自分には何も見えていない癖に自分がどんな仕草をしたら淫らで誘うように見えるのかを、宏太は無意識に知り尽くしている。ゴクリと喉を鳴らして了がその仕草に惹き付けられるのに、宏太は脚を抱えて離さないままに再び覆い被さる。

「ふぁ……あっ……。」

宏太の指先が未だに肌を隠す下着の上から硬くなり始めた陰茎の形をソッと厭らしくなぞってくるのに、思わず了の口から快感の声が溢れ出す。ジリジリと焦らされるようなほんの微かな刺激に腰が跳ねるのを宏太は覆い被さり抱えあげた脚から感じ取ったように、スルリと腰を撫でて了が弱いと知っている脚の付け根をなぞる。

「や、あ、そこ…………、だめ、あぅっ!」

ソッとなぞりグイと親指が強く押してくるその刺激に、ビリビリと腰に電気が走るような痺れる快感が走り背が仰け反る。それに気をよくした宏太が更に熱い吐息で腰を押し付けてくるのに、了は喘ぐようにもがいて肩に手を回していた。

「そこ、や、あ……あぁ!」

下着の縁をなぞりながら太腿の付け根を刺激され、その指がスルリと中に潜り込んでくる。完全に覆い被され脚を開かされ耳元で宏太の甘い吐息に犯されながら、指先の腹がクルクルと了のフックラと既に綻びつつある後穴をなぞりあげるのに思わず歓喜の声が溢れだす。そこをユックリとなぞり撫でられるだけで先の快楽に腰がヒクつき揺れるのを止められない。

「んんっ!んぅっ、ん。」

二人で過ごして何度も繰り返し抱かれ続けているせいで、もうこの身体ごとスッカリ宏太のものになっている。それをこんな風に簡単に宏太の淫らな指先が教えてくるのに、了は喘ぎ混じりに息を上げて喉を仰け反らせてしまう。確りとした宏太の身体に覆い被されて触れられる場所は了に直には見えないのに、下着の中を這い回る指の動きが艶かしく濡れたクチュクチュという音をたてていくのが確かに聞こえる。

「…………厭らしく誘ってくるな、了のここは?ん?」

了自身は何も意図していないのにヒクヒクと入り口が綻んで勝手に指先を受け入れ吸い付いてくると、耳元で低く響く声で囁きかけられるだけで達してしまいそうになる程ジンジンと腹の奥が疼く。縋りついたままの了に更に口づけながら、ツプ……と音をたてて宏太の指がユックリと体内に進んできて内壁をソロリとなぞる。

「ふぅっ!!んんんっ、んぅ!」

更に大きくクチュクチュと音をたてて掻き回し指を深々と出し入れされるだけで、了の下着の前が大きく張りつめジワリと濡れて染みを作っていく。二本に質量を増やした更に激しく指に掻き回されるのに堪えきれなくて喘ぎ続けるしか出来ない了に、宏太は幸せそうに笑みを敷きながら音をたてて指を引き抜いて濡れた下着を引きずり下ろす。

「了…………。愛してる………。」

熱っぽくそう囁かれながら入り口に押し当てられた先端は、異様なくらいに熱く硬く滾っていて思わず喉がなるほど。そうしてそれに勢いよくズプリと深々に貫かれて、更に甘い歓喜の悲鳴を了がこれから上げさせられるのは言うまでもないことなのだった。



※※※



「なんなんだよ…………もぉ……。」

気だるい掠れ声で非難されながらも満足するまで了のことを抱いた宏太は何処吹く風でケロリとした顔で、湯船に浸かりながら了を背後から抱きかかえて肩に頬をくっつけている。結局下の和室で昭和ポルノよろしく散々畳の上で抱き尽くしただけでは宏太は収まらず、風呂に連れていくと言いながら抱き上げて二階の寝室にまで連れ込まれたわけだ。ベットの上に移動してからは、更に容赦なく激しく突き上げられてタップリと奥に宏太の欲望の証を注ぎ込まれてしまったのだった。失神する迄抱き潰されるなんてことは流石に最近は減ったのだけど、今夜のは最後の辺りは朦朧として記憶にない部分も多い。

「絶倫…………。」
「気持ちよかったろうが?ん?」
「何処がスイッチなんだよ、もぉ。」

気持ちいいのは事実だけどとブチブチと腕の中で文句を言う了を愛おしそうに撫でて愛でながら、宏太は脇から手を回して了のことを確りと腕の中に納めて肩に頬を寄せたまま。ベッタリしているというのが一番適切なスキンシップに、了の方も少し頬を染めてしまう有り様。と言うか何処がスイッチになったか理解していないのが驚きだが、炬燵であんな可愛い様子で了から二人きりが楽しみなんて誘われてみろと宏太だって内心では言いたいところだ。自分と二人でいるのが楽しみなんて大事な相手に嬉しそうな声で言われて、直ぐ傍にホコホコと温もりを感じさせる肌がある。それで触れるな手を出すななんて、無理難題だと思う。

「もぉ………………、年越し……ちゃっただろ。」

年明けまであと数時間というところで始まった突然の激しい性行為に、事が終わって湯船で気がついたら年を越して既に1時間以上も経過していて。それを知って不満そうにそう言う了にそれが何か不満なのか?と宏太は不思議そうにしている。いや、別にずっとこの家に二人でいるわけだから、別に1時間くらい年始の挨拶がずれたからなんだと言う話ではない。話ではないけれど年を越した瞬間に、と内心考えていた了にしたら少しだけ不満だったりするだけの事だ。

「ん?」
「だからぁ………………もぉ、いいよ…………、明けましておめでとう。今年もよろしく!」

一緒に年を越した瞬間に言ってやろうとワクワクしてたなんてここで言いたくはないが、まぁ今年だけしかチャンスがない訳じゃないしと了がそれを言うと宏太の方は逆に今更だがそれに気がついたみたいに眉を上げる。年始の挨拶をしたかったなんて了のちょっと可愛い理由には思わず笑いだしそうだが、笑うときっと更に拗ねるに違いないから背後から抱き締め頬に口づけていく。可愛い宏太の了は腕の中でチャプチャプと湯を揺らしていて、

「………………明けましておめでとう、今年も頼むな。」

案外素直に宏太にそう返されて、宏太には見えないと知りつつ了は嬉しそうに頬を緩ませて仕方ないと不貞腐れたふりで答えておく。これからはずっとこうして傍にいて一緒に過ごして良い関係なのだからと思うと、なおのこと嬉しくなって抱き締める肌に背中を寄り掛からせる。

「もー、仕方ないから良いけどさぁ…………。」
「…………ふふ、姫はじめから始まるのも俺らしいだろ?違うか?ん?」

また、そんなこと言うかと了があきれ声を出すけれど、まぁ了だってそんなことを平然と言う宏太が好きなわけだから反論のしようもないわけで。

「物足りなきゃもう一回姫はじめするか?ん?」

前言撤回。ある程度節度を持ってもらわないと身体が持たない。そう言いはなってジタバタ腕の中でもがく了に、宏太は心底幸せそうに了のことを抱き締めて笑うのだった。
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