鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話20.誰かに対する劣等感

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古武術の一つである『組打術』というものには、決められた動きの型と呼ばれるものがある。幾つもの型をキチンと習得し全てを通して演武することができるというのが、その免許皆伝には必須なのだという。ただし、普通の現代武道とは違い元々が戦国時代からの武術であるから、基本的に人間の限界というものに限りなく挑戦している。教科書のようなものがあるわけでもなければ、体得するには生半可なことではないらしく、何しろそれを学ぶには前段階として現代武道の合気道を完璧に習得していないとならないそうだ。合気道の方が後年に生まれた派生なのだと言うが、そちらはちゃんと人体の科学や生理なんてものも加味して作られているし、それをこなす体力がないと『組打術』は動けない。しかも『組打術』が習得出来ないと、それ以外の古武術に進めないのだというのだ。と言うことは外崎宏太と言う人間は過去にとはいえ『組打術』を習得していて、それから派生した『抜刀術』も身に付けているのだと源川仁聖も改めて理解した。

凄い…………

そして目の前で続く演武は言うまでもなく型をキチンと身につけて相手の動作に合わせて技をかけられないと、榊恭平と鳥飼信哉のような完璧に対峙する神楽舞のような所作にはならない。二人のしなやかに優雅に袴を翻す動きは羽根のように軽やかに見えるが、実際には袴姿で裾を巻き込まずに互いが同じ動作を対になってすることは途轍もなく難しいのだ。それを何度も一分の狂いもなく繰り返すことすら、本来なら容易いことではないのは共に見ている真見塚孝や宮内慶太郎のあからさまに変わった顔色からもわかる。胸を打つほどに綺麗で鮮やかに対の舞を演じる恭平の姿に、端でただ見ているだけの何も知らない仁聖は正座の足の上で拳を握って息がつまりそうになっていた。

なんて…………綺麗なんだろう………………

互いの動きを互いが完璧に理解され、相手の次の踏み込みの場所と勢いを呼吸を合わせる。
タンッと同時に床を踏む強弱のある音すら等しい。横をすり抜けるように滑らかに背を合わせて互いの袖を掴む動きを手を返して、自身の袖を捌き半身を翻しながら時に大きく互いに踏み込む。その所作を一瞬も止めることなく五分も恭平が続けられるのが、どれだけ稀有なことなのか仁聖はその後ハッキリと教えられることになる。
他の二人…………言う迄もない道着姿の真見塚孝と宮内慶太郎も、恭平が通しを終えて動けなくなっている合間に『組打術』の通しをそれぞれ信哉としたのだ。

「遅い。」
「わぁあ!」

だが、少しでも捌きが遅くなると次の瞬間に相手の身体は一回転して転がされるし、型に焦ってタイミングがずれると逆に腹這いに転ばされることになる。もう十何年も合気道の鍛練をし続けて『組打術』を習得し始めている孝も慶太郎も、一人ずつでの通し演武を信哉と演じきることが出来ない。どちらも長くても三分ほどが耐えきれる限界で、終いに二人係りで相手をするといわれる始末なのだ。それでも二人で五分の演武をやりきることが出来ない。
当然まだ『組打術』習い始めていない槙山忠志には古武術演武は不可能なのだったが、淡々と合気道の型でと信哉に言われて、同じく通しで演武をすることになり結局道場の床を毬のように転がされ続ける羽目になった。結局一通りの動きを最後まで信哉と演武出来たのは、四人の内では榊恭平ただ一人だけ。

「くっそー!!!おにぃ!!!」
「文句言う余裕があるなら、もう一回通しだな。」
「がぁあっ!おにいいぃ!!」

一応は信哉だって相手の動きに合わせて加減はしている様子ではあるのだが、それでも三分を経過すると目に見えて疲労の蓄積で動きが悪くなるのだ。だから当然のこと孝と慶太郎が、五分まで続けることが出来ずに体捌きがもたない(因みに何故四人のうちと表現したかと言うと、後半この道場の物音を聞き付けたのだろう道場主の真見塚成孝が登場し、何故かそのまま一緒にホクホクとした顔で鍛練に参戦したからである。流石に道場主でもある成孝は信哉と対峙しても、通しで完璧に演武を終えたのは言うまでもないが)。それでも何故か体力では一番勝るのが若い孝と慶太郎ではなく初心者だという忠志で、回復が早い分文句も多くて、更に追加の鍛練を課せられ悲鳴を上げている。

「くっそぉ!信哉のおに!悪魔っ!!!」
「忠志さん、…………文句やめたら…………?」
「孝!これが言わないでやってられっか!信哉のおにーっ!!!」
「うん、もう一回な。頭からー、ほら行くぞ?」

ギャーと言う悲鳴が上がるのは、まるで独楽のようにグルンと回され転がった忠志の悲鳴。それでも跳ね起きた忠志がまた向かっていくのに孝も呆れているけれど、よくまぁあれだけ繰り返して動き続けて文句が言えると横で死屍累々の一人になっている慶太郎が呆れているのは言うまでもない。
恭平だって結局は信哉と三度同じ『組打術』の型を通して繰り返してやったのだが、流石に三度目が終わった時には膝をつくだけではすまなくて道場の床に倒れこんでしまっていた。ゼェゼェと肩で息をして全部で三度も組打術を通しでやりきった恭平は、終わった時には自力で立ち上がれないほどの疲労で言葉も出せない。

「平気か?」

それに対して何故恭平との三度だけでなく、合間に孝と慶太郎、それに忠志の相手までしていて、更に真見塚成孝の相手もしている筈の信哉はまるで汗一つかいていない。何なのこの人と正直仁聖が率直に感じるのは当然だが、異母弟である孝の方は慣れているのか流石ですと息も絶え絶えの状態で賛辞している。

「へ、いき…………じゃ……ない、です…………。」
「まぁ及第だな。」
「いやいや、たいしたもんだ。何年も鍛練してないんだろ?榊君。」

平然としている信哉と成孝にそう涼しげに言われて、鍛練から完全に何年も離れていた恭平が話の通り途轍もない才能を持っているのは仁聖にも理解できている。できるけれどここまで桁違いの能力の相手がいることに呆れるしかなくなってしまう仁聖に、信哉は最初からこれを全て想定していたように賑やかに笑うと仁聖の目の前に屈みこむ。

「どうだ?源川。」
「ど、う?」

目の前の男は恭平と同じ涼やかな白一色の袴姿。これからは恭平の師匠になるという男は長閑に仁聖に問いかけてきて、お前もやりたかったらやるか?と賑やかな声で言う。以前に仁聖が自分が恭平と同じ居場所にいれないことに苛立ちを感じていたのを意図も容易く見透かされ、しかも心臓の事もあって不安も抱えている仁聖に恭平はこれからこういうことをするからと実演もして見せた訳だ。本当に一見すると兄弟のようにも見える黒髪に黒曜石の瞳をした青年だというのに、こういうところは目に見える以上に計算高いしズル賢い。

「簡単なとこからやるか?」

何故かその言葉は仁聖が合気道をやる前提で、しかもそれも見越してここに仁聖が呼び出されていたのに身動きがまだ出来ないで立ち上がれていない恭平も気がついてしまっていた。



※※※



「大丈夫か?」

疲労困憊の様相の恭平に問いかけられて、同じく疲労困憊の仁聖は溜め息混じりに大丈夫だよと苦笑いを浮かべる。結局初心者向けと言われて合気道の簡単な所作を指導された仁聖が思った以上に勘が良くて反応が良かったが故に、信哉の指導に熱が入ってしまったのでヘトヘトになるまでしごかれる羽目になっていた。それでも鍛練を終えて二人で手を繋いで帰途についた恭平を横に、今の仁聖は言葉少なに俯き気味でいる。
自分のように以前鍛練を重ねたわけでもないのに、あっという間に幾つかの型を教え込まれてそれを使うことが出来てしまう仁聖には慶太郎だけでなく信哉の方も驚いた様子だ。元来勘がいい質で運動神経もかなりいいからとはいえ、こんなに簡単にスルスルと覚えてしまうのには成孝も目を丸くしていたくらいだった。けれど仁聖はやりたくてやったわけではなく無理矢理引き込まれてしまった訳だから、疲労は大きいだろうし戸惑いもあるのだろうと恭平は横から顔を覗き込む。

「仁聖?」
「え?あ?なに?ごめんね、ちょっと考え事してて……。」

少しボンヤリとしていたと微笑みを浮かべた仁聖に、恭平は薄く微笑みを敷いてソッとごめんなと囁く。仁聖を呼び出した信哉の意図は、恐らく自分の心臓の事なのだと恭平も気がついていた。仁聖がもし病気に関して誰かに相談したいとしたら幼馴染みで母親が看護師の村瀬真希か、鳥飼梨央位しか医学の知識がある知人はいない。村瀬真希に相談するよりも鳥飼梨央に相談しそうなのは、何しろ鳥飼信哉の妻の梨央は看護師で自分も入院中に世話にもなっていたし、いつの間にか信哉と交流ができている様子の仁聖が相談するのは理解できなくもない。

「心配かけてるんだな、ごめん。」
「え?いや、恭平が謝ること何もないよ?!何で謝るの?」

慌てた様子でそう答えた仁聖はマンションのエントランスを通り抜けながら、恭平が何に謝ったのか気がついた様子で謝らなくていいよと微笑む。お互いに大事にしているからこそ、こうやって互いが何を思うのかを労ろうとしている自分達に気がつくのは、二人で過ごすときが長くなれば長くなる程重ねられ幸せに満ちていく。恭平もこうして過ごす事に慣れてきた様子だけど、こうして寄り添ってあの部屋に戻ろうとすると仁聖は以前村瀬篠と飲んだ帰りでしなだれかかってきた恭平とのことを思い出してしまう。あの時甘えるように身を寄せてエレベーターの中で抱き締めた身体の熱さとか抱き上げた身体の重みや香りが過るのに、あの時がなかったらこうして過ごせていなかったのだと心の中で囁く。

あの時がなかったら…………

そんな風に感じることが幾つもの積み重なって今があるのだと思うと、仁聖は思わず恭平の身体を抱き寄せていた。抱き締めたくて仕方がなかったし口付けたかったし、触れたくて、傍にいたくて狂いそうなほどで。何度も何度も転た寝をしている恭平に密かに口付け、他の人間を代用にして必死に物分かりのいい弟のような存在であろうとしてきた過去の仁聖。それでも恭平が仁聖のことをこうして伴侶として受け入れてくれたから、仁聖はまるで違う今の自分を手にいれて満たして貰っている。

「仁聖?」

だから、あの時と今の二人の関係は全く違う。あの時はまだ互いに思いが通じることなんかあり得ないと思っていたし、こんな風に恭平を抱き締め触れることすら夢のようだった。そう考えながらエレベーターの中と分かっていて、恭平の事を引き寄せギュッと強く抱き締めている。でも今の恭平は腕の中に抱き締められても戸惑うこともなく大人しくされるがままで、仁聖が視線を向けると恭平が不思議そうで少し心配そうにも見える真っ直ぐな視線で見上げているのに気がつく。

「心配かけてごめんな?それで、今日呼び出されて……来てくれたんだろ?」

そうじゃない、本当は仁聖が不安でどうしようもなくなるのを知っているから、信哉はあえて仁聖をあの場に呼び出したのだ。鳥飼信哉と言う男は何も知らないような顔をしているのに、何故か仁聖の感じることを察していて、仁聖が恭平が傷ついたり居なくなってしまうのに酷く怯えているのに気がついている。まるで仁聖と同じくらい沢山のものを失っていて、それの大切さを鳥飼信哉という男もよく知っているとでも言うように。

だから、俺は…………あいつの事はあんまり好きじゃない…………

仁聖の抱えている不安をあっさりと理解して、それに対応できてしまう大人の存在感。今までそれ程感じなくて済んでいた他者に対する劣等感なんてしろものを、産まれて始めてここまで強く仁聖に感じさせたのは鳥飼信哉と言う男なのだ。今まではそれ程誰かに劣等感何て感じたことがない仁聖に何でどうしてと何時も感じさせる存在で、常にあいつは出来るのに自分が出来ないと言う現実を突きつけられてしまう。しかも相手はその感情すら見抜いていて、こんな風に仁聖のことを煽る。

不安なら一緒にきてやってみればいい。傍にいて見ていたら、何か起きたら対応できるだろ?

そう言われたわけでもないが、どうせあの男はそんなことを口にするに違いない。しかもそれは的確過ぎて、恭平の身体が今ここまでは対応できていると言う現状すら自分に理解させてしまう。それを自分では把握しきれなかったのを指摘されたような気がして、仁聖が余計に腹立たしく感じることだって信哉はきっと把握済みなのだ。

「でも、心配しなくても大丈夫だから。な?」

そっとそう腕の中から囁く恭平の澄んだ黒曜石の瞳に吸い込まれて、思わず抱き締めている腕に更に力がこもってしまっていた。
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