鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話3

間話8.五割増し

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実はそんなわけで密かに『五十嵐ハル』の騒動が、影でこんな風に起きていたなんて話しはさておきだ。何はともあれ、久世博久から結城晴が聞き出した金子美乃利に関する話と他の調査結果を、社長の外崎宏太が総合的にまとめて考えてみたわけである。結局宏太がそれらから導きだした答えとしては、金子美乃利には意図して花街と大学の一定区画だけで騒動を起こす理由を実は持っているということになるらしいのだ。それを満たす条件の駒になりうるから源川仁聖に絡んでくるし、目的があってその行動を引き起こしているのだと考えられたのだった。因みにあれ以降久世博久の方は完全に金子美乃利からは、八幡征爾の協力もあり取り巻きからは離れたようだ。しかも、その後に仁聖に仁聖のバイト先である藤咲の事務所の俳優のサインがほしいと、大学キャンパス内の学食で仁聖に頼み込んだらしい。というのも久世が花街を彷徨歩いていた理由の七割がたの理由は、その俳優に会いたかったというのもあったらしいのだ。そう金子美乃利の源川仁聖の情報を集めてこいという指令の方が、花街徘徊ではおまけだったという。
結果的には花街での騒動を原因の一端にして事態が動き、金子家の実権が美乃利の祖父から父親に委譲されたことで美乃利の目的は半分は達成されたことになったようだ。ところがそのお陰で今迄上手いこと組んでいた筈の徳田高徳という男との利害関係が崩壊して、徳田に脅迫される立場に金子美乃利が移り変わったことを久世の話しから掴んだのだった。そうして徳田高徳の事態があったから金子美乃利への懐柔作戦が遂行され、この話しは上手く裏側だけで無事終わり…………を告げなかったのは、源川仁聖が呆れ顔で新たな金子美乃利の騒動を伝えに来たからだ。

外崎さん、何やったんですか?!

金子美乃利は今迄のケバケバしいメイクや衣服はパッタリと止めて地味ーなお嬢様風に変わったそうだ。元々ミッション系の学校をエスカレーターで成長してきた金子は、実はそっちの方が本来の自分らしい姿なのかもしれない。そこはさておき、仁聖に向かって金子は外崎宏太に会わせろと言ってきたのだという。何だそれはと宏太は呆れているけれど、正直言うと今の結城晴には金子の気持ちが実は少し理解できるのだ。仁聖の金子情報に不貞腐れてしまった外崎了に、何にもしてないだろと大慌てで言い訳している外崎宏太には悪いが、怖い思いをしている最中に出現した王子様に関しては普段の魅力の五割増し位に考えた方がいいと思う。それが例えかなりの歳上だろうと、少しばっかり傷痕があろうと、五割の力には勝てないと結城晴は正直思うのだ。何しろ外崎宏太は確かに身体や顔に酷い傷痕があるのだけれど、それがあってもスタイルのよさとか能力とかトータル的に見たらかなりの男前でハイスペックな男だし。それが颯爽と現れてサッとヒロインを助けて去っていくなんて、そんなの馬鹿みたいに格好いいに違いない。まぁ普段の腹黒ストーカーな面を知っていたら格好いいかどうかなんか関係ないが、王子様な面しか見ていなかったらこうなるのも分からないでもないのだ。

それに…………この五割増し感…………何時になったら元に戻るのか………………

助けに来てくれた王子様は五割増しの格好良さと言ったが、大体にして晴の方もまだ明良の五割増しフィルターがとれずに実は困っていたりする。そう、あれからもう数日以上も経過しているのに晴には未だに狭山明良が通常の五割増し王子様に見えていて、当たり前のように一緒に暮らして顔を会わせるだけでもドキドキして落ち着かない。いや、元々明良は格好いいしイケメンだから、ドキドキするのは当然だけど、ここ最近は病気かと思うくらいの激しい動悸がしてしまう。朝起きて目の前に明良の寝顔がドアップにあるだけで、驚きの余りベットから落ちてしまうくらいにフィルター効果は凄いのだ。

「晴?」
「ひゃ、ひゃいっ!」

珍妙な返事をして飛び上がってしまった晴に、明良は少しだけおかしそうに微笑みながらどうしたの?と顔を寄せてくる。近い!近いよ!と頭の中では思うけれど、隣にいてこんな風にスキンシップ多めなのは実は晴も嬉しかったりもして、拒絶する気にもなれないのだ。それにしても顔を近づけてきた明良の睫毛の長さとか、瞳の綺麗さとかが半端ない。それに、一緒に住んでいて一緒の物を食べて、自分と同じシャンプーとかボディソープを使っている筈なのに、何故か明良は凄くいい匂いがするのだ。そしてこうして近づいて話すからその香りは、強く柔らかく晴のことを包み込んでくる。

な、んでかな…………こんな…………

そう感じてしまったら、なおのこと動悸は酷くなっていて晴は明良の顔を眺めることも出来ずに俯いてしまう有り様だ。その様子に不思議そうな顔でどうかした?何かしたの?と心配そうに問いかける明良に、この状況を説明することも出来なかったりする。

今迄どうやってたんだろ。俺…………。

自分がどんな風に明良に接してきたかすら理解できなくなりつつあるけれど、それでも思わず触れたくなって横から明良の手に手を伸ばしてソッと握ってしまったりしてしまう。それに明良の方は嬉しそうに微笑んでくれるから、一先ずこれはこれでいいのかなとは思うのだ。



※※※



暫く前。榊恭平に心臓の病気かあるのではのいうあの問題が起きてからというものの、源川仁聖の様子がずっとおかしいのに恭平も気がついている。おかしいと言っても一見しての様子が変な訳ではなく、仁聖は何時もと同じくニコニコしているし恭平に対する行動がおかしいわけでもない。それなのに恭平は仁聖の何かに何時もと違う・おかしいと、違和感を感じてしまうのだ。

「仁聖?」

仕事を一端終えて書斎からリビングに顔を出した恭平に、キッチンから賑やかに顔を出した仁聖がご飯直ぐにできるよと元気な声を張り上げてくる。家事は交代制と恭平が言ってもダメだし料理も恭平がやると言ってもダメと強硬に仁聖に押しきられてしまって、恭平は仕方なく大人しくそれに従うしかない。仁聖だけに負担をかけたくないと恭平も思うのに、仁聖は自分がやりたいことだし、お願い・やらせてとキラキラした瞳で上目遣いでお強請りする有り様なのだ。何しろただでさえ最近の仁聖の磨きのかかった男ぶりに恭平は弱いのに、こんな風に可愛く強請るなんて裏技に恭平に抵抗する術なんかあるわけがない。そんなわけで最近の家事は、いつの間にやら半分以上が仁聖の仕事になりつつある。何しろゴミ捨てに行こうとすれば駆けてきて自分がやるよと手からやんわりとゴミ袋をとりあげられるし、掃除をしようとすれば掃除機をかけている仁聖に鉢合わせるし、洗濯物を畳もうにもキチンと折り目をつけた洗濯物をクローゼットにいれている仁聖に今終わったよと微笑まれる。これではまるで甲斐甲斐しい…………新妻でも出来た気分になるとは流石に口に出しては言えないが。

「今日のご飯はねー。」

とは言えそこら辺に関しては以前からその傾向があったわけで、それが家事全体とジワジワ広範囲になりつつある。けれど、それほどそれがおかしいと言うわけではないし、甲斐甲斐しく世話をやく仁聖は前から何も変わりないとも言える。それでも何処かに違和感があるのは、何故だか分からない。それでも今の仁聖には、恭平に確かな違和感を感じさせてしまう何かがあるのだ。

「恭平?どうかした?」
「ん……?いや、なんでもないけど。」
「そう?……………あ、………あのね?今日のね。」

手際よく食器を食卓に運びながら仁聖が、夕飯に作った料理の話しとか今日の出来事とかをキラキラしたオーラを放ちつつ話してくるのを眺めながら、何が違和感なのかなと恭平は改めて戸惑う。こんな風に話している姿は別に目新しい訳ではないのに、何がこんなにも今の自分に引っ掛かっているのか分からないのだ。ニコニコしてキラキラしている仁聖は甲斐甲斐しく恭平の身の回りの世話をやきながら、不思議そうに首を傾げてどうかしたの?と問いかけてくる。

「恭平?何かしたの?」

隣に腰かけて顔を覗き込む仁聖の言葉に、思わず視線を真っ直ぐに向けて仁聖の瞳を見つめていた。青味がかった深みのある瞳に見つめられると、そのまま惹きこまれて吸い込まれてしまいそうで恭平は慌てて瞬きをしてしまう。それでも綺麗で澄んでいて純粋で、それなのにこの間みたいに淫らな程に激しい溶岩のような熱も奥底に秘めていて。頭の中を掠める恭平しか知らない熱を含む淫らな顔と、モデルとしての滴るような色気も含んだ憂いめいた顔、そしてこんな普段のあどけない笑顔。

………………この間…………

我慢が効かなくなって仁聖に襲いかかってしまった自分のことを思うと、正直今でも赤面してしまうのだけど。あの時の仁聖は淫らで可愛くて、恭平のなすがまま貪られて…………それを無意識に心の中に思うと何故か、思わずその肌に指をそっと触れさせてしまう。

「恭平…………?」

そのまま自分から奪うように唇を触れさせてしまってから、今自分が思わずしてしまったことに恭平の方もハッと我に帰る。目の前には突然の出来事にキョトンとしている仁聖の顔があって、自分が前置きもなく唐突に仁聖にキスしてしまっていたのに恭平はカァッと頬を染めてしまっていた。



※※※



ここのところの晴の様子がおかしいのは、晴の動きのぎこちなさで良く分かる。それを感じているのは久世博久の調査に『五十嵐ハル』が出動して、まんまと駅前で狭山明良に捕獲された後からなのは言うまでもない。勿論晴のぎこちなさで理由の大半が恋人・明良なのだろうとは言うまでもないことで、まぁぎこちないのは様子ではなくて動きだけだから外崎了は本人が何か言うまでは見守ることにしたわけだ。

何か言うのも野暮だしな、うん。

仕事の合間にキッチンに抜け出し昼の食事を作りながら、了は染々と考える。宏太と違って前は気がつかなかったけれど、最近は見ていれば確かにその状況がうっすらと見えてくるようになった。立ち上がる時の腰の屈伸の違和感や、身体を捻ろうとすると痛みでもあるのか身体の動きが一瞬鈍る様や、何気ない動作の最中に何かに痺れるように身体を震わせるのが分かるのは、了の方にも似たような経験があるからかもしれない。

明良って……宏太とそういうとこは似てるもんなぁ…………

晴の恋人・狭山明良は見た目と違って、恋人に対する接し方が宏太と似ているところがあると思う。例えば顔には出さないけどかなりヤキモチやきだったり、箍が外れたようにと言うより少し執拗に感じるくらい相手を抱いたり。つまりは自分が宏太と一緒に暮らすようになったばかりの、宏太の手加減のない愛撫地獄めいた連続絶頂を体験させられていた辺りに同じような様子をしていたに違いない。
余りにも繰り返し奥で感じさせられると奥が少し腫れてしまうから、腰を動かすとそれが身体に擬似的な陰茎の感覚を思い起こさせてしまう。それに身体を捻ろうとすると普段は使わない筋肉に妙な引き連れを感じるのは、相手を受け入れる体勢がマトモなら男がするものでもないからだ。それに何気なく身体を動かすのに、愛撫され続けて腫れて存在をアピールする乳首が布地に擦りたてられて電流が走るような快感を思い起こしてくる。

「さと…………っ…………。」

リビングに来て声をかけようとしたのに、何か電気刺激でも起こったみたいに動きがぎこちなく止まり黙り込んだ晴に了は苦笑いする。たぶん今のは動きながら声を出して胸郭が開き気味になったせいで、自分の着ている服に乳首が擦れたに違いない。ピリピリするような痺れを伴う感覚に言葉に詰まる辺り、どれだけ腫れ上がるくらい舐めたり吸ったりされているんだかと思う。

「…………っ…………ふっ…………。」

ギュッと胸元を掴んでも逆効果なのは了にもそんな時期があったわけで、それに一番効果的な対処法というと一つくらいしかアドバイス出来ない。

「絆創膏貼っとけば?晴。」
「ふぇ?!なに、なんで?絆創膏?」

慌てたように取り繕おうとする晴に分かってるから気にするなと思うわけで、フライパンを動かしながらパントリーの棚に救急箱があるからと言う。

「な、了?」
「腫れてる間、どうしようもないぞ?擦れないように貼っとくしかないわけ。」

しかも服で擦れる刺激が繰り返されると腫れ自体が長引くから、更にその刺激が走る期間が延びるのは実体験があるから分かることでもあるのだ。気にした風でもなくそんなことをサラリといわれ、目に見えるほど自分が周囲にそんな状況を駄々漏れにしているのに晴が唖然としたのは言うまでもない。
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