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間章 アンノウン
間話24.今更?
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記憶が戻ってから数日。今のところ別段体に異常はなし。頭痛もないし記憶は所々アヤフヤなところはあるような気はするのだが、じっくり順当に考えていくと大体のことは思い出せるようになった。結局後日に話を聞いた宇佐川義人に言わせると記憶が消去されたのではなくて、例えれば真珠のネックレスの糸が切れた状況なのだと言う。つまりは真珠という記憶が繋がっていないだけで記憶自体は頭の中に保持されているから、糸という回線さえ繋げば元通りと言うわけだ。ついでにいうと何故か後日状況を聞き付けたらしい鳥飼梨央には、そんな面白い状況で何故自分に教えないと言われる始末。記憶喪失を面白いがるような相手ではないのは言うまでもないのだが、
何がそんなに面白いって話だ?あ?
プチキレ気味の宏太が食って掛かったのは了の記憶喪失を面白がるなと言いたいのだが、当然看護師の彼女はそこが面白いわけではない。看護師だが彼女はいうまでもなく、宏太の幼馴染みなのだ。
決まってるだろ?凹んだ宏太なんて面白いの何者でもない!
口喧嘩の流れだと思ったのに爽快な声で幼馴染みに宣言されたのには、流石に心底宏太がその場で脱力したくなったのは言うまでもない。一体お前は幼馴染みをどういう捉え方をしてているのかと真剣に思うが、そうとられても仕方のない人間だったのは事実なのだ。金融関係のエリートコースで社長の娘を嫁に貰っておきながら、当の本人は情緒障害に味覚障害、しかも妻が自死した後は転落人生ときている。人間味もなきゃ人情も知らないと散々子供の頃から言われ続けてきた宏太が、今更子供のように人間臭い状況に陥ると周囲には面白がられると言うのは理解はした。理解はしたが、正直二度と宏太はこんなことが起きないようにと真剣に願っている。その為には三浦を見つけても追跡しない約束を、了を散々ベットで泣かせた上で繰り返して確約はさせている辺りが宏太だったり。
全く…………約束破っても破らなくても結局は散々やりまくる癖に
と了だって無茶苦茶に抱き尽くされて足腰どころか、全く動けない有り様にされてしまうと。何しろ実は下に恭平達がまだいたのに、あのまま朝まで散々にヤりまくった宏太に了だって何度ストップと懇願したことか。流石に朝になって久保田惣一がノックをして来た時には、了は喘ぎすぎてて声はガサガサに嗄れているし全身キスマークやら何やらで申し訳ない状態だった。流石に静止は聞けと内心は思うのだが、これがまた宏太の愛情表現と考えてしまうと拒絶もできないのが惚れた弱味。
というか、あれ以降宏太の過保護に磨きがかかってきた気がするのは、若干気のせいではない気がする。何故か久保田惣一に過保護の方法を、宏太が聞き出している気がしないでもないのだ。過保護な方法ってなんだそりゃと思うだろうが、これこそ過保護って言葉の典型では謀りきれないことをされている気がする。何しろ買い物に出ようとすると心配してついてくるのはまぁ可愛い面で、宏太が出掛けている最中に出掛けると了は出掛けた先で先回りされている自分に気がつく。
「いーまさらぁ。」
「は?」
あちっとミルクティの熱さに驚きの声をあげる晴の放った言葉に、一瞬了はどういう意味か分からず声をあげる。というか最近宏太が過保護な気がするという了の呟きに何故今更と晴に笑われたのかわからない了に、晴の方は気がついてないのと言いたげだ。
「シャチョーの過保護なんて前からだし?」
「そうなのか?」
「そりゃそうでしょ。俺了と二人きりになったら給料ダウン宣言されてるよ?」
二人きりになったら、給料ダウン?!なんだそりゃ。思わず唖然とするがそんなことをいつ話しているのかとも思う。案外晴と宏太は仲がいいのだと思ってたのにそんな密約が二人で交わされていたとは、正直予想外だと呆れ返りもする。その様子に晴は呑気に今のところ実際はダウンしたことないけどねと笑っているから、もしかしたら二人の冗談の会話の範疇なのかとホッと胸を撫で下ろすが。呑気な口調ではあるが、微妙に晴の目が笑ってないのに気がついてしまう。
「大体にしてさ?耳の設置場所見たら一目瞭然でしょ?」
『耳』は今後は少しずつ規模を縮小予定の宏太の仕事のもう一つの一面で、実のところをいうと盗聴機の事だ。宏太は経営コンサルタントという表向きの話なのだが、以前はこちらが主体の情報屋擬き。様々な場所に仕掛けられた盗聴機の情報を駆使して、例えば店側には迷惑な客を事前に店舗に情報をいれたり、警察と情報交換をしたり。何しろあの聴覚なのでほんの僅かな会話でも聞き取ってしまうし、壁一つくらいなら問題なく情報収集も可能と来れば有能な情報屋なのも頷ける。
とはいえ『耳』の設置場所は了も使ったことのあるカラオケボックス・エコーやブティックホテルのキャロル。後は居酒屋や料亭、幾つかのビジネスホテルやシティホテルにも設置してある。心持ち怪しい素振りの客や何らかの情報がほしい客を、あえて仕掛けてある部屋に通して音から情報収集を謀っているわけだ。違法?知らないだろうが、盗聴機を仕掛けだけでは違法ではない。盗撮と違って盗聴するだけは、ただ聞いているだけは違法行為ではないのだ。勿論それを音源として利益にしようとすれば法にさわる可能性はあるが……。
「どういうこと?」
『耳』の設置場所と了の過保護?確かにどこもかしこも了にも聞き慣れた店舗だし行ったことがない場所の方が少ないが、ここ近郊の話なのだから気にもしていなかった。大体にして《random face》を中心に設置場所があるのは中継局がないと、広域では音声がとれないからで別段おかしくもない。それに了の方だって《random face》に入り浸っていた時期もあるのだから。
「え?気がついてないの?マジで?」
何が?と思う了に、晴の方が完全に呆れ顔を浮かべて口を開く。
「あんなに生活圏…………。」
「余計なこといってるんじゃねぇ、クソガキ。本気で給料削るぞ、てめぇ。」
パコンと背後から頭を平手で叩かれて晴が不貞腐れた顔をしているが、生活圏という言葉に了はあれ?と今更ながらに首を傾げる。確かに言われれば中継局は元《random face》の店舗なのだが、聞いている宏太の元住居のマンションを中心に設置している訳ではない。しかも確かに殆ど行っていた店舗だし、中には今は行っていないが以前は行っていたなんて場所も幾つかあるのは事実。
「俺の…………生活圏?」
「気にすんな、クソガキの話は。『耳』はお前と暮らす前から方々に仕掛けてある。」
確かに宏太の言う通りで了がここで暮らす前に、キャロルやエコーの『耳』はとうに設置してあったようだ。と言うことは?とは思うが何となく引っ掛かりを感じている了に、宏太は気にすると頭痛になるぞとヤンワリ嗜めて頭を優しい手つきで撫でてくる。とはいうが了の今の生活圏はどちらかと言うと駅の南側に変わってて、キャロルやエコーや《random face》のある以前よく出歩いてもいた北側とは駅と線路で南北に隔てられてもいるのだ。
「んん?」
「了。気にしなくていい、それより珈琲貰えるか?ん?」
穏やかにそう言われて分かったとキッチンに了が素直に向かった途端、宏太の口元から今の穏やかな笑みが消えて苦い口調でクソガキと吐き捨てる。
「余計なこと言うんじゃねぇ。バラしやがったら、ただじゃ済まさねぇぞ。」
「シャチョーさぁ?普通に考えたら分かるよ?了が行くとこと行きそうな場所ばっかだもん。了、何で気かつかないのかって言うか、気かつかないふりしてんじゃないの?」
そうなのだ。基本盗聴機の設置された店舗は、以前の了が通っていたり了が好むような場所を中心とした駅の北側の繁華街。そこから次第に仕事になって手を広げて行ったから、今では了に関連しない場所もあるのだが、ビジネスホテルの中の一つは了が以前のマンションの解約後に暫く滞在していたホテルだったりもする。それじゃぁって?勿論了には話していないが、後日とはいえ了が某卒業したばかりの高校生を拉致して、その彼氏を脅迫紛いに犯そうとしたのも知っていたりするのだ。何故止めなかったのかって?その時のことを忘れたのか?外崎宏太はあの時三浦和希の事件で上原杏奈という女性が死んで、久々に意気消沈していたのだ。おまけにあの時はまだ了は成田了で、こんな風に抱き合えるようになるなんて思ってもいなかった。
「黙ってろよ。」
「俺は黙っててもいいけどさぁ?先に謝っといた方がいいんじゃないの?ストーカー。」
後から気がついたらショックでまた記憶なくすかもよ?と呑気に言われるのに、宏太の苦い顔が更に苦く変わる。その顔に宏太が内心悪いことをしている自覚はあった様子なのに気がついて、結局は了の尻に敷かれてるも同然だよねと晴が呑気に笑う。そこにタイミングよく(悪く?)了が不思議そうな顔をして戻ってくる。
「なに?何がおかしいんだよ?晴。」
珈琲を片手に歩み寄った了が宏太の手をとってマグカップに導くのをながめながら、晴は呆れ返ったように日常を取り戻した二人の様子を眺める。普段使いのお気に入りのマグカップは落として割ってしまったというが、同じメーカーの同じ型のマグカップを即時で準備している了の甲斐甲斐しさ。結局はちょっと嫌なことを思い出すのを休んだって程度で、了が宏太のことを忘れる訳もないのだ。それが分からなかったのは結局は
「分かんなかったのって、パニックになってた社長だけっしょ?」
「あ?なんだと?クソガキ。」
晴と榊恭平も同一の見解だったが、普段の了と違うのは発言位なもので見た限り行動は普段の了と大差がなかったのだという。記憶がないとはいうが日常使っているものや生活能力は支障がないし、室内の物の置き方や家の中のことなんか当然みたいに何時もと同じ行動をしてると言われると。自分では気がつかないが、そういうものだったらしいのは正直少し恥ずかしいような、少し嬉しいような。
大体にして記憶がない相手と大人しく帰ってきて一緒に寝れるわけないでしょと言われてしまうと、実際のところ了としては反論の言葉もない。確かに幾ら養子縁組したと教えられたからって男同士で寝るのも問題なしはおかしいし、子供の頃からの知り合いとかなんかなら兎も角としても普通なら一緒の布団なんて拒絶して当然だと思う。
「大体さぁ?シャチョー、例えば………………俺と一緒なんて断固拒否るでしょ?」
「当然。」
「即答だし。じゃ仁聖とか、マスターとか。」
「ゲストルームに押し込む。」
ほら見ろと言いたげな晴に了も苦笑して納得するしかない。つまりはそういうことなのだ、結局は了だって宏太だから、ついてきて一緒にいたわけで。それにしても確かに自分ならどうかなぁなどと、思わずそれぞれに考えてしまう。確かに男同士では雑魚寝なら全く構わないが、一緒のベットに二人で寝ると言われると。以前なら兎も角、今は少し考えてしまうのは了にしても晴にしても、心境の変化ということなのだろう。考え込んでいる了に気がついた宏太が、どこか不満そうに口を開く。
「了、恭平なら平気とか言うなよ?言ったら、承知しねぇからな。」
「ほら出た、な?了。こういうとこ執着心強いし、嫉妬深いんだよ、シャチョーは。」
「あ?お前、今月から給料半分な?」
横暴!と叫ぶ晴に宏太は平然とした様子でマグカップを持ち上げて、それを眺めながら了は長閑な日常に思わず微笑んでしまうのだった。
※※※
それは内密に仕掛けられた『耳』と呼ばれる物の一つ。普段は依頼が向こうから来るか、もしくはこの機器の主が必要に応じて起動させないと録音にはならないのだが、それは偶々主が離れる時に操作をし忘れたものだった。
『ん…………、おぉ、……すごい………吸ってる………。』
『耳』の傍で繰り広げられている秘めやかな睦事の声が、微かに流れてくる。それは男が感嘆に呻く歓喜の声で、合間にはチュプチュプ、ヌプヌプという湿った音が響く。その音に併せて男は呻き吐息を上げて、更に先を促していた。
『おぉ…………すごい、うまい……あぁ、いい…………倉橋さん………、もっと奥まで………。』
チュブチュブという大きな淫らな音をたてながらクポクポという注挿音をあげている相手を男は倉橋と呼んだが、相手はどうやら口淫奉仕に耽っているらしく相手の声は出ないまま。サラリと髪の毛の動く音をさせて更に激しくグポッグポッという音が響き渡るからには、相手は激しく顔を上下に動かして口淫を施している。
『あぅ…………、で、出ちゃうよ……、そんなに、吸ってナメナメしたら……ああっ、出るっ……。』
途端にチュボッと府設楽な音をたてて注挿音が止まると、男はハアハアと荒い息を上げて苦悩の呻きを上げていた。どうやら絶頂に達する寸前で相手が口淫をやめて、怒張を口から吐き出してしまったらしい。
『うぅ、後少しだったのに……倉橋さん、頼むよ……。』
懇願の声に相手はフフと低く微笑む。
何がそんなに面白いって話だ?あ?
プチキレ気味の宏太が食って掛かったのは了の記憶喪失を面白がるなと言いたいのだが、当然看護師の彼女はそこが面白いわけではない。看護師だが彼女はいうまでもなく、宏太の幼馴染みなのだ。
決まってるだろ?凹んだ宏太なんて面白いの何者でもない!
口喧嘩の流れだと思ったのに爽快な声で幼馴染みに宣言されたのには、流石に心底宏太がその場で脱力したくなったのは言うまでもない。一体お前は幼馴染みをどういう捉え方をしてているのかと真剣に思うが、そうとられても仕方のない人間だったのは事実なのだ。金融関係のエリートコースで社長の娘を嫁に貰っておきながら、当の本人は情緒障害に味覚障害、しかも妻が自死した後は転落人生ときている。人間味もなきゃ人情も知らないと散々子供の頃から言われ続けてきた宏太が、今更子供のように人間臭い状況に陥ると周囲には面白がられると言うのは理解はした。理解はしたが、正直二度と宏太はこんなことが起きないようにと真剣に願っている。その為には三浦を見つけても追跡しない約束を、了を散々ベットで泣かせた上で繰り返して確約はさせている辺りが宏太だったり。
全く…………約束破っても破らなくても結局は散々やりまくる癖に
と了だって無茶苦茶に抱き尽くされて足腰どころか、全く動けない有り様にされてしまうと。何しろ実は下に恭平達がまだいたのに、あのまま朝まで散々にヤりまくった宏太に了だって何度ストップと懇願したことか。流石に朝になって久保田惣一がノックをして来た時には、了は喘ぎすぎてて声はガサガサに嗄れているし全身キスマークやら何やらで申し訳ない状態だった。流石に静止は聞けと内心は思うのだが、これがまた宏太の愛情表現と考えてしまうと拒絶もできないのが惚れた弱味。
というか、あれ以降宏太の過保護に磨きがかかってきた気がするのは、若干気のせいではない気がする。何故か久保田惣一に過保護の方法を、宏太が聞き出している気がしないでもないのだ。過保護な方法ってなんだそりゃと思うだろうが、これこそ過保護って言葉の典型では謀りきれないことをされている気がする。何しろ買い物に出ようとすると心配してついてくるのはまぁ可愛い面で、宏太が出掛けている最中に出掛けると了は出掛けた先で先回りされている自分に気がつく。
「いーまさらぁ。」
「は?」
あちっとミルクティの熱さに驚きの声をあげる晴の放った言葉に、一瞬了はどういう意味か分からず声をあげる。というか最近宏太が過保護な気がするという了の呟きに何故今更と晴に笑われたのかわからない了に、晴の方は気がついてないのと言いたげだ。
「シャチョーの過保護なんて前からだし?」
「そうなのか?」
「そりゃそうでしょ。俺了と二人きりになったら給料ダウン宣言されてるよ?」
二人きりになったら、給料ダウン?!なんだそりゃ。思わず唖然とするがそんなことをいつ話しているのかとも思う。案外晴と宏太は仲がいいのだと思ってたのにそんな密約が二人で交わされていたとは、正直予想外だと呆れ返りもする。その様子に晴は呑気に今のところ実際はダウンしたことないけどねと笑っているから、もしかしたら二人の冗談の会話の範疇なのかとホッと胸を撫で下ろすが。呑気な口調ではあるが、微妙に晴の目が笑ってないのに気がついてしまう。
「大体にしてさ?耳の設置場所見たら一目瞭然でしょ?」
『耳』は今後は少しずつ規模を縮小予定の宏太の仕事のもう一つの一面で、実のところをいうと盗聴機の事だ。宏太は経営コンサルタントという表向きの話なのだが、以前はこちらが主体の情報屋擬き。様々な場所に仕掛けられた盗聴機の情報を駆使して、例えば店側には迷惑な客を事前に店舗に情報をいれたり、警察と情報交換をしたり。何しろあの聴覚なのでほんの僅かな会話でも聞き取ってしまうし、壁一つくらいなら問題なく情報収集も可能と来れば有能な情報屋なのも頷ける。
とはいえ『耳』の設置場所は了も使ったことのあるカラオケボックス・エコーやブティックホテルのキャロル。後は居酒屋や料亭、幾つかのビジネスホテルやシティホテルにも設置してある。心持ち怪しい素振りの客や何らかの情報がほしい客を、あえて仕掛けてある部屋に通して音から情報収集を謀っているわけだ。違法?知らないだろうが、盗聴機を仕掛けだけでは違法ではない。盗撮と違って盗聴するだけは、ただ聞いているだけは違法行為ではないのだ。勿論それを音源として利益にしようとすれば法にさわる可能性はあるが……。
「どういうこと?」
『耳』の設置場所と了の過保護?確かにどこもかしこも了にも聞き慣れた店舗だし行ったことがない場所の方が少ないが、ここ近郊の話なのだから気にもしていなかった。大体にして《random face》を中心に設置場所があるのは中継局がないと、広域では音声がとれないからで別段おかしくもない。それに了の方だって《random face》に入り浸っていた時期もあるのだから。
「え?気がついてないの?マジで?」
何が?と思う了に、晴の方が完全に呆れ顔を浮かべて口を開く。
「あんなに生活圏…………。」
「余計なこといってるんじゃねぇ、クソガキ。本気で給料削るぞ、てめぇ。」
パコンと背後から頭を平手で叩かれて晴が不貞腐れた顔をしているが、生活圏という言葉に了はあれ?と今更ながらに首を傾げる。確かに言われれば中継局は元《random face》の店舗なのだが、聞いている宏太の元住居のマンションを中心に設置している訳ではない。しかも確かに殆ど行っていた店舗だし、中には今は行っていないが以前は行っていたなんて場所も幾つかあるのは事実。
「俺の…………生活圏?」
「気にすんな、クソガキの話は。『耳』はお前と暮らす前から方々に仕掛けてある。」
確かに宏太の言う通りで了がここで暮らす前に、キャロルやエコーの『耳』はとうに設置してあったようだ。と言うことは?とは思うが何となく引っ掛かりを感じている了に、宏太は気にすると頭痛になるぞとヤンワリ嗜めて頭を優しい手つきで撫でてくる。とはいうが了の今の生活圏はどちらかと言うと駅の南側に変わってて、キャロルやエコーや《random face》のある以前よく出歩いてもいた北側とは駅と線路で南北に隔てられてもいるのだ。
「んん?」
「了。気にしなくていい、それより珈琲貰えるか?ん?」
穏やかにそう言われて分かったとキッチンに了が素直に向かった途端、宏太の口元から今の穏やかな笑みが消えて苦い口調でクソガキと吐き捨てる。
「余計なこと言うんじゃねぇ。バラしやがったら、ただじゃ済まさねぇぞ。」
「シャチョーさぁ?普通に考えたら分かるよ?了が行くとこと行きそうな場所ばっかだもん。了、何で気かつかないのかって言うか、気かつかないふりしてんじゃないの?」
そうなのだ。基本盗聴機の設置された店舗は、以前の了が通っていたり了が好むような場所を中心とした駅の北側の繁華街。そこから次第に仕事になって手を広げて行ったから、今では了に関連しない場所もあるのだが、ビジネスホテルの中の一つは了が以前のマンションの解約後に暫く滞在していたホテルだったりもする。それじゃぁって?勿論了には話していないが、後日とはいえ了が某卒業したばかりの高校生を拉致して、その彼氏を脅迫紛いに犯そうとしたのも知っていたりするのだ。何故止めなかったのかって?その時のことを忘れたのか?外崎宏太はあの時三浦和希の事件で上原杏奈という女性が死んで、久々に意気消沈していたのだ。おまけにあの時はまだ了は成田了で、こんな風に抱き合えるようになるなんて思ってもいなかった。
「黙ってろよ。」
「俺は黙っててもいいけどさぁ?先に謝っといた方がいいんじゃないの?ストーカー。」
後から気がついたらショックでまた記憶なくすかもよ?と呑気に言われるのに、宏太の苦い顔が更に苦く変わる。その顔に宏太が内心悪いことをしている自覚はあった様子なのに気がついて、結局は了の尻に敷かれてるも同然だよねと晴が呑気に笑う。そこにタイミングよく(悪く?)了が不思議そうな顔をして戻ってくる。
「なに?何がおかしいんだよ?晴。」
珈琲を片手に歩み寄った了が宏太の手をとってマグカップに導くのをながめながら、晴は呆れ返ったように日常を取り戻した二人の様子を眺める。普段使いのお気に入りのマグカップは落として割ってしまったというが、同じメーカーの同じ型のマグカップを即時で準備している了の甲斐甲斐しさ。結局はちょっと嫌なことを思い出すのを休んだって程度で、了が宏太のことを忘れる訳もないのだ。それが分からなかったのは結局は
「分かんなかったのって、パニックになってた社長だけっしょ?」
「あ?なんだと?クソガキ。」
晴と榊恭平も同一の見解だったが、普段の了と違うのは発言位なもので見た限り行動は普段の了と大差がなかったのだという。記憶がないとはいうが日常使っているものや生活能力は支障がないし、室内の物の置き方や家の中のことなんか当然みたいに何時もと同じ行動をしてると言われると。自分では気がつかないが、そういうものだったらしいのは正直少し恥ずかしいような、少し嬉しいような。
大体にして記憶がない相手と大人しく帰ってきて一緒に寝れるわけないでしょと言われてしまうと、実際のところ了としては反論の言葉もない。確かに幾ら養子縁組したと教えられたからって男同士で寝るのも問題なしはおかしいし、子供の頃からの知り合いとかなんかなら兎も角としても普通なら一緒の布団なんて拒絶して当然だと思う。
「大体さぁ?シャチョー、例えば………………俺と一緒なんて断固拒否るでしょ?」
「当然。」
「即答だし。じゃ仁聖とか、マスターとか。」
「ゲストルームに押し込む。」
ほら見ろと言いたげな晴に了も苦笑して納得するしかない。つまりはそういうことなのだ、結局は了だって宏太だから、ついてきて一緒にいたわけで。それにしても確かに自分ならどうかなぁなどと、思わずそれぞれに考えてしまう。確かに男同士では雑魚寝なら全く構わないが、一緒のベットに二人で寝ると言われると。以前なら兎も角、今は少し考えてしまうのは了にしても晴にしても、心境の変化ということなのだろう。考え込んでいる了に気がついた宏太が、どこか不満そうに口を開く。
「了、恭平なら平気とか言うなよ?言ったら、承知しねぇからな。」
「ほら出た、な?了。こういうとこ執着心強いし、嫉妬深いんだよ、シャチョーは。」
「あ?お前、今月から給料半分な?」
横暴!と叫ぶ晴に宏太は平然とした様子でマグカップを持ち上げて、それを眺めながら了は長閑な日常に思わず微笑んでしまうのだった。
※※※
それは内密に仕掛けられた『耳』と呼ばれる物の一つ。普段は依頼が向こうから来るか、もしくはこの機器の主が必要に応じて起動させないと録音にはならないのだが、それは偶々主が離れる時に操作をし忘れたものだった。
『ん…………、おぉ、……すごい………吸ってる………。』
『耳』の傍で繰り広げられている秘めやかな睦事の声が、微かに流れてくる。それは男が感嘆に呻く歓喜の声で、合間にはチュプチュプ、ヌプヌプという湿った音が響く。その音に併せて男は呻き吐息を上げて、更に先を促していた。
『おぉ…………すごい、うまい……あぁ、いい…………倉橋さん………、もっと奥まで………。』
チュブチュブという大きな淫らな音をたてながらクポクポという注挿音をあげている相手を男は倉橋と呼んだが、相手はどうやら口淫奉仕に耽っているらしく相手の声は出ないまま。サラリと髪の毛の動く音をさせて更に激しくグポッグポッという音が響き渡るからには、相手は激しく顔を上下に動かして口淫を施している。
『あぅ…………、で、出ちゃうよ……、そんなに、吸ってナメナメしたら……ああっ、出るっ……。』
途端にチュボッと府設楽な音をたてて注挿音が止まると、男はハアハアと荒い息を上げて苦悩の呻きを上げていた。どうやら絶頂に達する寸前で相手が口淫をやめて、怒張を口から吐き出してしまったらしい。
『うぅ、後少しだったのに……倉橋さん、頼むよ……。』
懇願の声に相手はフフと低く微笑む。
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