鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話2

間話8.勘違い……?

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世の中には時々過ちというものがあって、そう必死に弁明しようにも自分の事を陥れようとする人間が山程居たのに高橋至は絶望に満ち溢れていた。長く連れ添った筈の女房は高橋のしたことを耳にした途端、見事に顔を平手打ちし翌日再び平手打ちと共に離婚届を叩きつけてきて、女子高生の多感な時期の可愛い筈の娘には「キモい!」と蔑まれ、二度と顔を見せないでと母親と共に去っていった。……そして高橋至はあっという間に一人きりになってしまった。

下半身丸裸で、大事な鬘も落ちた姿で資料庫で失神。

しかも逸物はビンビンにおっ立てて、それを誰かが画像に撮って社内メールに一斉送信しやがった。あれだけで既に謹慎と言われているが、確実に解雇されるに違いない。自分は嵌められたと必死に弁明したが下半身の状況に誰も信じてくれないし、何かを証言させようにも成田了はあのまま消えた。

だけど……成田了が証言したら……余計に状況が悪くなったかも……

そう考えた後次から次へと高橋至はこんなことをしていますと暴露メールが飛び交い始めたのには呆気にとられるしかなかった。勿論相手の名前は匿名だが、自分がした事だけはあからさまに下品に書かれている暴露メール。しかも出所は全て社内。何しろ社内専用のメールで、外部には送ることも受け取ることもできないのだ。

高橋至は給湯室に新人女子社員を連れ込み、尻を撫で回しています。
高橋至は会議室で一人でマスをかいてます。
高橋至は第一女子更衣室に盗撮カメラを設置しています。

人事部に呼び出され問い詰められどんなに嘘だと言っても、どれもこれも何故か、じゃこれは何?と証拠写真が添付されているのを見せられた。密かに自分がカメラを設置している姿を撮影していたり、自分の行為を盗撮されていたり、逃げ場が何一つないのはなんでなんだ。

いつの間に…………

しかもどれもこれも高橋だけはハッキリ確認できるのに、相手は見えなかったりトリミングされていたり。確かに狭山が好みにドンピシャでおいたが過ぎたのは認めてもいいが、ここまで酷い目に遭わされるようなことを自分がしてきたとは思わない。ここまで仕事どころか家庭まで全て奪い去られて、割にあわないにも程がある。

ケチがつき始めたのは、何が原因なんだろうか

やはり成田か。それとも狭山か、それともあのキャンペーンガールの女か、それとも…………新人のあの女か、それとも。そんなことを一人うらぶれた頭で悶々と考えてるしかなくなった自分が、何気なく夕暮れ時の駅前を彷徨いていて予想外の人間達に出くわしたのだ。
そこにいたのは成田了と狭山明良、そして結城晴とあのキャンペーンガールの事務所の社長ともう一人。偶々出会って話すにはどう考えたって接点もないおかしすぎる組み合わせを見た瞬間に、高橋は自分に何が起こっているのか知った。

勘違いじゃない

あいつらが結託して俺を嵌めたのだと気がついた瞬間、勢いよく憤怒の炎が全身に沸き上がった。狭山が最初から高橋を嵌めて、会社から追い出すつもりだったのだ。高橋は激怒して奴等の中に怒鳴り込んで、全員を怒りに任せて殴り倒してやる筈だった。

「い、いででてででぇ!!」
「おー、早業。」

が、気がついた時には何でか自分の方が地面に大の字になって、メキメキと肩関節を固められ悲鳴をあげていた。しかも殴りかかったのは五人の中で一番ひ弱そうな結城晴だったのに、正拳突きの後の関節技をかけてきたのは横にいた狭山明良で相手は技をかけてから誰か気がつく始末だ。

「あ、誰かと思ったら下半身丸出し禿。」
「下半身丸だしいうなぁああ!!禿じゃない!!」

結城晴が自分を見下ろして言うが関節技をかけられた瞬間、大事な鬘が宙を飛んで陽射しを反射する広い「額」が顕になったのは言うまでもない。悔しいが関節がキッチリ固められて身動きすると、関節が折れてしまいそうだ。しかも、そんな状況に芸能会社の社長ともう一人の長身が呑気に口を開いている有り様。助けろ!普通はこんな状況の人間を放置するもんじゃないと思うが、見上げれば片方は白木の杖なんかついた盲人だ。しかも確認するみたいに盲人が成田に問いかけている。

「禿なのか、そいつ。ん?」
「鬘だしなぁ。宏太なら、禿げてもカッコいいと思うよ?俺。」
「そうか?お前がそう言うならいい。」
「な、なにっいっででででで!は、はな、せぇええ!さやまぁ!!」
「離したら…………晴のこと殴る気だったでしょ?あんた。」

関節の痛みに呻く高橋に、聞いたことのない声でとんでもなく冷ややかに狭山が言う。なんでこんな格闘技紛いの関節技なんだ?この間まで資料庫の奥で半べそで大人しく人のチンポしゃぶってた癖にと、高橋の方が大混乱のまま痛みにべそをかき始める。

「へぇ、空手にも絞め技とかあるのか?ノブ。」
「古流空手には関節や投げ技もあんのよねぇ。狭山先生のとこも古流だから。」

盲目と芸能会社社長が呑気に空手の話しているが、つまり何か?狭山明良はその古流空手とやらをやってるってことか?なんでならあの時大人しく従ってたんだと叫びたくなる高橋に、離してちょっとでも殴りかかったり変な動きしたら本気でやり返しますよと凄みを効かせて狭山が言うのだ。その目は顔射されてべそをかいていた高橋の好みの和美人とは、まるでかけ離れていて痛みと驚きにさっきまでの怒りなんて何処かに消し飛んでしまった。

「俺、今素面ですけど、晴に何かする気ならマジで殺しますから。」

何か?!あの時は少しとはいえ酔ってたから抵抗しなかったってことか?!っていうかあの時本気で抵抗してたら、これが襲いかかってきたのか?!そんなのありか?!



※※※



伊呂波で飲もうと藤咲に誘われて、今回の功労者や関係者に奢るからと誘い出されたのが、件の面子だった。顔を会わせた途端藤咲しのぶが狭山明良を見て目を丸くしたのは、高橋が奇声をあげて拳を振りかざして駆け寄ってくるほんの五分ほど前の事。先ずは高橋の件は既に報告済みで、モデルを辞めた瑞咲凜も落ち着いて舞台女優としてやり直すことにしたらしいというのは、ことの終結としては中々いい報告だ。

「なんだ、狭山先生んとこの孫ちゃんじゃないのぉ。」

一見するとイケメンなのに相変わらずのオネエ口調の藤咲に、実は昔からの顔馴染みだったという狭山も目を丸くしている。狭山自身はここいら近郊に実家があるわけではないのだが、藤咲の実家の空手道場との繋がりかあったのだ。明良は大学に入ってからは手習い程度にしか続けていないと言うが、それでも立派な有段者なのだという。
というか空手?!と晴が目を丸くして明良を見ているのは、どうりで華奢に見えるのに軽々と自分を抱き上げる筋肉!と今更理解したからだ。それだったら高橋なんかぶっ飛ばせばいいじゃないかと思ったら、最初の不埒な口淫の時酔っていてやり返したら死にそうだったんだよと明良が苦笑いで言う。

「し、にそう……?」
「確かに空手の寸止めなしは死ぬかもなぁ……ノブも殺しかねないもんな。」

宏太の言葉に晴がえええ?!と声をあげるが、藤咲の立派な体格での空手もかなり怖い。そうか、そう言うものを習得しているからって無敵って訳じゃなくて、ある程度手加減ができないと逆に使えないこともあるのかと驚く。と言うことは宏太はいつぞや手加減が難しくて極悪人の足をへし折ってたけど、実は下手するとこの間ラブホテルで了に悪戯した自分は本気で殺されかけてたのではと晴はゾッとしてしまう。
そんなオネエにウフフと笑いながらしなを作られてもと思った矢先、奇声を上げた高橋至がドタドタと腕を振り回して飛び掛かろうとしたのだった。しかも直後あまりにも鮮やかに明良に仕留められて関節をきめられた高橋が、ある意味では憐れにすら見える。高橋はしかもこの場に他にも空手関係者がいるのと、この間気絶させられたのが関係あるんじゃと気がついてしまったらしく見る間にしょぼくれていく。次にやったら殺しますなんてケロッとした顔で平然と言う明良に、晴があれ?明良って実は本質的にS?と思ったのはここだけの話だ。

「はーる。」

今日は然程酔いつぶれていない晴が振り返ると、既にいい具合に酔いが回っている明良の方はニコニコ笑いながら首元に腕を絡めてくる。こうしてみる分には明良は少し気弱そうに見えなくもない綺麗なイケメン。しかも、ちょっとスキンシップ好きで、晴としては気持ちいい体温にくっつかれて幸せ満載だ。そんなここは言うまでもなく居酒屋・伊呂波ではなくて、既に明良の自宅だったりもする。結局高橋にみずをさされてまた今度とそれぞれに帰途につくことになって、明良に一緒に家に帰ろうとお強請りされて恋人繋ぎで手を繋いで帰ってきた二人がイチャイチャしながら酒を飲んだのは兎も角。

「ね、そう言えば晴、あの禿のスマホにウイルスって言わなかった?」
「あ、うん。」

高橋のスマホに保存されていた明良の顔射画像は勿論完全消去したし、明良の他の画像は残してない。ただ他の画像は幾つか有効にトリミングなどをして利用させて貰ったが、晴曰く幾つかの画像はわざと残してあるらしい。何しろ勝手に消去はしているから高橋だって確認すれば画像や何かを弄られているのは分かるし、ここから高橋が他の端末に保存しようとする可能性がないわけではない。だからこの先悪さができないよう、リベンジポルノなんてもっての他だし!

「何かおきるの?」

もしもの時、その時のためにわざと何枚かは残してあって、不埒な事をしようとしたらウイルスが発動して警告が出る、勿論残してある画像に触れた時点でだから画像を開かないで移動させても警告は出るという。つまりは本当に触ったらアウトに近い。近いというのは触って警告がでた時点で画像の消去を選択すれば、まあ仕方がないから救済措置で破滅は回避させてやるのだと言う。これは新しい機種に移行するのだって同じわけで、ちなみに消去するしないに関係なくウイルスが起動したら晴達には分かるという優れもの。ある意味アメリカ映画の世界だ。

「反省して画像を消去したら、救済ってこと?晴。」
「まあ、そんなとこ。」

どうやってそんなウイルス作るのと聞くと、そっちはそっちで専門家がいて作ってくれるのだと言うから世の中蛇の道は蛇・もしくは餅は餅屋。なんなのその専門職とは思うが、もし消去でないのを選ぶとどうなるのか。それを問いかけると晴はうーんと考え込む。

「それはさぁ?自業自得ってことじゃないかなぁー。」
「自業自得?」
「名前は曝さなくても、画像って結構特定できちゃうんだよね。」

ということはネットで何かが曝されると言う事かと明良が聞くと、少なくとも禿はねーと晴が呑気に笑う。下半身丸だしを曝されるのと、禿げ頭を曝されるのと……どっちが嫌だろうか……。



※※※



報復するにも何も格闘技も何も身に付けていない自分が、空手の有段者を何人も相手にするにはと思うとやる気が一気に失せる。そこに次は殺す宣言までされて正直心が完全に折れてしまったのは、言うまでもない。何しろ狭山は気弱で華奢な和風美少年という認識だったのに、虎も虎、大虎だったとは。あの顔射に泣きべそをかいていた憐れで弱々しい青年は儚い夢だったのかと、高橋はがっくりと項垂れる。元々例えば清楚なお嬢様女子高生とか、気弱そうな儚げな青年とか喪服の未亡人とか、日本らしい古典的な弱く儚い雰囲気の相手が高橋の嗜好。

妻だって最初は深窓の令嬢といった感じだったのに……

子供を産むと女は強かで、狡くなる。気がついたら惚れた時は無垢な花のお嬢様のようなだった妻は、よくいる母親に変わり果てて男としての自分を完全無視するようになった。だから弱い立場の人間を虐げていたなんて理由にはならないだろうが、初見の狭山明良は物憂げに瞳を伏せて溜め息をついている儚げな空気が高橋の希望を理想の儚い姿を現実にしたようだったのだ。それを偶々虐げて淫らな顔射画像を手にしてしまったから、何度も脅して泣きそうになる瞳を見おろしながら口でさせた。次第に他のことも段階的に、実際にさせたくなってきた矢先だったのだ…………あの成田が再び会社に戻ってきたのは。

成田了

ずっと気に入らない男だった。最初からなんでもかんでも飄々とこなして、あっという間にクライアントも成田の話術に取り込まれて信頼を勝ち取って、その癖何時もどこか遠くを見ているような顔をした男。こっちが気がついてないものはすべからく気がついて、そっと何気なくフォローしたりする癖にそれを手柄にしようともしない。できた男だって?そんなことは分かっているが、それくらいならとっとと自己アピールして昇進して目の前から消えてほしかった。だから辞めた時には薔薇色の気分だったのに。
でも正直なところ成田を組み敷いた感触は、その感情もあったせいかとんでもない興奮だった。やめてと懇願する声、泣き出しそうに震える肌、あれを組み敷いて貫いているのはどんな男なのだろう。もしかするとあれと狭山が付き合っているのだとしたら。いや狭山は成田とは直接の接点がなかった筈だ。

出向社員としてきたんだからあの芸能事務所の社長の愛人。

今日も思ったがかなりガタイのいい長身の男だ、あれに組み敷かれ毎晩ヒイヒイ泣かされているのだろうか。成田は華奢で細くて上半身のキスマークには唖然としたが、あれをつける程の男の性欲はさぞかし激しいことだろう。やめて・許してと掠れ声で懇願するのなら、艶かしく、さぞ卑猥に喘ぎ泣くに違いない。そんな妄想に耽ると高橋の逸物は硬くテントを張った。男なんだから綺麗な顔の奴を支配する征服欲を刺激されるような妄想に弱いのは仕方がないことなのだ。仕方がないが今は処理する相手がいないから自分でヌクかと考えて、そうだスマホの画像をおかずにしようと手を伸ばした。
撮り貯めてきた高橋の至高の宝物達。
これのお陰で妄想を更に刺激して

《これらの画像は全て違法ですよ!フォーマットして人生やり直しましょうよ。削除しますか?それとも地獄に落ちますか?Dead or Alive!決めるのは自分自身だよ!勘違いしないでね!さぁ!決めようか!》

は?

画像ファイルを開こうとしたら、突然画面に薄暗くなってこんな表示が現れた。なんなんだ?馬鹿にしているのか?と思ったが、これが出ているのは自分のスマホで、しかも目下・下半身丸出しでポカーンとそれを見ている間抜けな状況。なんで自分のスマホにこんな妙な画面が?しかも、何だこの文面は。人を喰ったような間抜けな文面に戸惑いながらも、考え込んでしまうのは実は余りスマホに詳しくないという本音がある。パソコンだって実はそれほどではなくて、他の部下にやらせているのに、スマホを使いこなせるわけがない。秘蔵の画像や動画を他に保存すればと思ったが、そんなことをしてみて消したり変なところに添付するのが怖くてできなかったくらいだ。
悩むのは自分の欲望と戦っているからで、これの対処を先にするか性欲を先に対処するか。

まぁ一先ずスッキリしてから。

結果としてそう高橋至は考えたのだった。



※※※



今の世の中ネットワークってのは中々危険なもので、高々数秒の動画や一枚の画像で住所・氏名・家族構成なんてものまで突き止められる事がある。意図してバラす気がなくても、画像や動画の周辺の風景から湖人の特定なんてものは案外簡単なのだ。だからって全てを暴露されていいといえ訳ではないが、高橋至のしたことは実際にはかなり問題として大きな事だった。本来ならセクハラ程度に流せることじゃないし救済処置も要らないかとは思ったが、これに懲りて気持ちを入れ換えるなんて可能性くらいは考えてやったのはせめてもの仏心だ。

だけど、基本男って生き物はそう言うとこは変えようがねぇんだよな。

大概の奴は痛い目を見たら人生観が変わると思うが、こと性的なものに関しては男は余り変えようがない。生まれや育ちや、様々な条件が重なるが、女はそこら辺は強かにしなやかに乗り越えられても、男は中々変わらないものだ。だから浮気をするような男は何度も浮気を繰り返すし、DV男は反省してみせたって大概DVを繰り返す。何しろ自分がされて自分がしてたのがこれだと気がつくくらいでないと、それを変えるのには難しいものだ。

しかし、マツリもエグいな。

禿げを晒した上にトリミング画像で、自分がされるてる方に加工された画像。そんな気持ち悪い物が見えなくて宏太としては何よりだが、了と晴の方は見て大爆笑していた。勿論たかが数十分もしないで消されるが、ネットワークの怖いのはそれを見た人間が保存して拡散することだ。一度表に出た画像や動画は、消しても誰かが保存していると考えた方がいい。それを知って怯えながら生きるのは案外かなりの罰だと思うわけだが、ちなみに高橋至には追加でこのような画像が出回っていると手紙が送付されている。勿論警察に駆け込んでも構わないが、そうなるとトリミング画像の元が自分の撮影した画像でしかもかなり違法行為をしていたのを自分から話さないとならない。

マツリ的には望んでないのに顔射画像とか有り得ないし、万死に値するというところらしい。

そう言えばネットといえばだが、最近矢根尾俊一の曝し板というのを結城晴が見つけ。あれも知らないで暮らしていたとしたら、かなりえげつないさらされ方だった。嫁の高額医療補助を申請なんて市役所の職員まで曝しているとしか思えない内容だし、転落の様がありありと分かるのは友人達が揃って曝しているのだ。昔矢根尾は少しはまともなところもあった筈なのに、今では病院で誰とも会話もできずに何時までも壁と笑っているという。

勘違いしないように生きねぇとなぁ…………



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