鮮明な月

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間章 ちょっと合間の話

間話29.間男の黄昏

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正直言うと、俺・結城晴は幽霊ってものの存在は信じてない。そう全然信じてないんだ!ただ全然、ちーっとも信じていないんだけど、時々背筋が薄ら寒いなんて誰しも経験あるもんだろ?そういうのが俺は嫌なだけ。スリルとかサスペンスにはちゃんと当事者に原因と経過があるけど、ホラーは理不尽で唐突に降って沸いたりする。それが俺には我慢できないだけなんだ、な?分かるよな。大体にして見ず知らずの女が、血塗れで背後に立ってて冷蔵庫に引き込まれるとか、そんな意味の分からない理不尽な出来事が現実にあっていい筈がない。世の中なんでワザワザそんなのに巡り会いたくて、肝試しなんてことをするのか全然理解出来ないね。
え?ホラー映画とか見に行かないのかって?そりゃ、恋人が観たいなら付き合うけど、ジャパニーズホラーは断固阻止する。海外ならいいのかって?そうだな、アジア系じゃなきゃ大丈夫だと思う。アジア系の幽霊は日本幽霊に近いからなぁ。ゾンビ映画?あれはもうホラーじゃないだろ?だって死体が動いてるんだから、現実にはあり得ないし。日本系の幽霊ってのはさ、何でか当人じゃなくても襲ってくるじゃないか。その不条理に戦う何て言われても、形のないのにこっちは死ぬなんてあり得ない!
大学の時に企業見学にいったりとか就活とかさ、営業職のサラリーマンで駆け回っていた時にも、何だかこの会社にくると背筋が冷えるんだよななんて事は時々あったんだ。そういうとこは大概あんまりその先に良い事がなくて、あー選ばなくてよかったって結論に至る事が多かった。つまり、何かがいるってことだろ?
ほら、金融関係の片倉って会社あったじゃん?あすこも、本当は就活で受けたんだけどさ、面接に行った時入り口のホールに入った途端急に気持ち悪くなってさ。思わずそのままダッシュでトイレに駆け込んだわけ。

「君、大丈夫?」

俺の様子を見ていて心配してくれたんだろうその声は会社の人らしくて、今さら言うのもなんだけどとっても親切にしてくれたんだけど。大丈夫とかなんとか言う状況じゃなかったんだよな、俺。結局その泣き黒子のお兄さんには申し訳ないけど、泣く泣く面接を受けずに速攻で帰宅したわけ。あの時は超ガッカリしたね、帰ったら何ともないしさ。でも、なんかもう受ける気がなくなっちゃったから、これも運命かなぁーって。そしたらそれから数ヵ月くらいしたら片倉の悪事がマスコミとか警察とかに暴露した人がいたらしくて全部それが表に出て、あっという間に片倉自体が倒産したんだ。結局俺自身はその時には他の企業に勤めてたから、ある意味ホッとしたね。だって俺って本当は片倉が第一希望だったから、受けてもし内定貰ってたら迷わず勤めちゃったし。そんなわけで背筋が寒くなった時には、それには従うようにしてんだよな、俺。え?だから信じてないって、幽霊なんか。だって、社長が人が死んだって言う倉庫の中では、今までなんにも感じなかったしさ。じゃ、背筋が寒くなるのはなんだって?そうか、そういわれればなんだろう………怨念………?いやいや、それも幽霊の範疇だから……




※※※



外崎宏太の下で働くようになって暫く経つ。はっきり言うと仕事は以前より性にあっててすっごく楽しいし、給料は大幅アップだし、綺麗で色っぽい了に食事も振る舞って貰えて言うことなし。まあ社長も傷とかあってて完全なイケメンって訳じゃないけど、歳の割にはスタイルいいしなかなか格好いいと思う。強いて言うなら俺自身が何でかまだ了の事が好きなんだけど、以前の了より今の了の方が一層好きなんだよな。つまり社長と出来ちゃってる柔らかな了の方が、より俺の好みなわけ。

ってか間男呼ばわりされたけど、全くチラッとも間男する隙も与えねぇしなぁ、社長。

俺も了も男同士だしちょっと隙があればーなんて思うけど、これまた社長の外崎宏太の牽制がとんでもないんだよ。だってさ?四六時中あの人って了の傍にいるわけ、料理中も食事中も殆ど片時も傍を離れない。しかも了が家事をするからって言うと、逆に俺の事を監視してやがる。マジだって、この間も了が家事をしている合間は、ずっとこれもチェック、あれもチェックって仕事が矢継ぎ早に下ろされて身動きとれなかったんだ。その上目が見えない筈なのに仕事は俺以上に早いんだよ、社長って。この間何気なく書類を打ってるの見てたけど、目が見えないから当然ブラインドタッチな訳だけど間違いがひとっつもないんだよ。音声入力で確認のために読み上げさせてるの要らなくね?と言いたくなる完璧なキータッチって、何なのあんた?って感じだろ。その癖、時々了に手を引かせたりって、もうあれは絶対手を繋ぎたいだけだって俺は思う。
そんな矢先その日は予定になかったんだけど、書類を取りに社長宅に行ったんだ。そうしたら珍しく了が独りで掃除やら洗濯やらをしてて、少し驚いたように柔らかな笑顔を浮かべる。

「晴?なんだ、今日休みじゃないのか?」
「んー、書類取りに来た。社長は?」
「丁度出たとこ。『茶樹』にいったと思うけど。」

あ・そうなんだ、じゃ奥行くね~などと暢気に仕事場に入ったわけだけど、あれ?これってチャンス?間男出来なくないか?そんなことを思わず考えてしまう。元は俺と了は体の関係があったんだし、俺としても今の了が喘いでいるのを聞いた時の興奮はちょっと忘れがたい。
ベットで完全に拘束されて後ろから泣かされてる了の姿は、艶かしくてとんでもないエロさだったんだ。なんて事は考えるけど、亭主のいないのを襲う間男ってのもなんかカッコ悪いよなぁと言うわけで、ちょっと妄想に浸るくらいは許して欲しい。



※※※



「ちょ………、何してんだよっ……晴っ。」

戸惑うように俺の手に肩越しに小さな声で了が諌めるように言う。微かに上気した頬に掠れるように溢れる吐息。アイランドキッチンのカウンター越しに見えるリビングには、こっちには気がつかないソファーに座る社長の姿。了が弱く頭を振りながら俺の指先に弱く腰をくねらせるのに、俺は意地悪く耳朶を噛みながら囁く。

「あんまり話すと社長にバレるよ?」

俺の言葉に咄嗟に了が自分の手で口を塞ぎ思わず腰を折るのに、俺は迷わず服を引き下ろす。白く滑らかな尻をさらして了が怯えたような色っぽい瞳で、肩越しに俺の事を見る。

「や、……晴っ……。」

困惑に震える綺麗な瞳。指に嵌まるマリッジリングが銀色に鈍く光って、尚更背徳感を強めて欲情をそそる。ほんの数メートル先にいる社長にどうしてもバレたくなくて、必死に頭を振る了の貞淑な様子に俺は唇を舐めながら既に下折たった怒張を押し当てた。吸い付くような後孔がヒクリと蠢いてから、まるで咥えるように亀頭を含む。

「んっふうぅっ!」

質量と熱さに仰け反る了の腰を両手で掴んで、更に怒張を奥へと押し進めていく。ああ、熱くてうねってて、凄く気持ちいい。
了と別れた後にもう一度女と付き合ったけど、この快感には全然敵わなかった。勿論試しに男とも一度、だけど男の方は全く興奮もしなきゃ起ちもしなくて相手に悪いことしたと思ってる。だって女より了の方がずっと綺麗で色っぽいし、了は男でも俺はちゃんと興奮して起つし。こんなの教え込んでいて自分は別な男の嫁だなんて、正直ちょっと狡いよ。しかも、そいつと一緒の方がより綺麗で色っぽくて、ドンドン幸せそうに了は和らいでいく。

どうしてそんなに、花みたいに咲くんだ。

俺にもそんな相手ができるんだろうか。どこでそんな相手を見つけたらいいのか、こんな風に了を抱くことなんか二度とないってわかるのに。



※※※



虚しい……

自分で望んで自慰なんかやっててなんだけど、とてつもなくこれって虚しい。しかも自慰するにしても妄想の最中に、自分でやってきたことに自己嫌悪って俺は馬鹿か。大体にして了と別れたのは自分の一言が悪かったからで、あの時ちゃんと了に好きと言っていたらまた違う未来もあったかもしれない。しかもその後に付き合った人間と比較して、了が特別なんだって分かったなんて尚更馬鹿馬鹿しいだろ?やり直すったって、了は目下俺より遥かに大事な人間と結婚してる。相手がちょっと一風変わってて間男って俺を呼んだわりに、なんでか面倒見までいいからここに使ってもらってるけど。正直、社長も嫌いじゃないんだよなぁ、俺。面白いし、自分と考え方似てると思うしさ?だって、いつぞや俺に宝物傷つけられたらどうする?なんて真剣な顔で聞くんだ、あの人。言うまでもなくあの人の宝物ってのは了のことだし、一瞬俺のこと?って思ったんだけど、それは違ってて別な変態親父のことだったけど。

了のこととんでもなく大事にしてんだよな、社長って。

それこそ金も時間もいとめをつけずってやつ。だってさ?この家買ったのだって了がマンションがなんでか嫌だったからだって言うし、了の父親は有名な政治家だったけど警察に捕まる前に了の戸籍を自分のとこに移して裏工作してて、しかも了が以前悪戯された男を見つけ出して仕返しって。マトモな男なら相手の女にそこまでしてやるかな?俺がサラリーマンの時に恋人のためにそこまでやれたかな?
そんなことを考えてるとなんだかなぁと俺はそそくさと萎えたモノをしまう。よかった、こんな最中に了がここに顔を出さなくて。これで顔を出してこられてモノを出してるのに、了が優しく咥えてくれるんなら違う意味で万歳だけど。溜め息をつきながら書類をまとめてついでに昼飯食わせてもらおうなんて考えながら、俺は仕事場の扉からリビングに向かって足を進めた。

「馬鹿っ……こんなとこでっ!やっ!ん!」

そんな耳に届く艶かしい了の声。思わずあれ?俺の妄想まだ活動中なんて考えたけど、リビングから見えるアイランドキッチンの上に腰をあげられた了が必死に口元を塞いで声を堪えようとしている。足の間にはどうみても妄想の自分ではなくて、いつの間にか帰ってきたらしい見慣れた上背のある逞しい肩。

「やっこ……ぉた……、す、ぅなよ…んんっ!」

甘くて蕩けるような了の懇願の声にジュクジュクと淫らな水音が重なって、了は必死に頭を振りながら小さな声で可愛く懇願している。既に下は脱がされたのか、滑らかな肌をさらしてその足首を軽く掴み口付けるのに了が震えた。

「そんなとこ……んん……。」

ベロリと足首から膝まで舐められた感触だけで、了は更に必死に口元を押さえて肩を震わせている。頬だけでなく耳まで赤く染めて快感に震えながら、声を堪える姿はとてつもなく淫らで扇情的だ。

「こぉた……駄目……あっ……。」

どんなやり方をするとたかがキスであんなに淫らに喘いでしまうのか、舌でなぞるだけで了の肩がビクンッと大きく戦く。妄想より遥かに淫らで駄目と呟く声ですら喘ぎ声みたいで、一度は萎えたはずの俺の逸物が勢いよく固くなってしまう。

「こんな……駄目……ッああっこぉたっ……くっ……ぅ。」

ブルブルと足が震えて股間に沈んだ頭が、怒張をねぶっているのが動きでわかる。甘く切れ切れに喘ぎ吐息を溢しながら了の足が、まるで相手を引き寄せるみたいに肩にあげられた。懇願の声なんか気にもせずに強く音を立てて吸い上げる濡れた音に、ほんの僅かな甲高く甘い声が落ちる。

「やぁっ!あっ!!あうっっ!」

ハアハアと荒い息をつく了の腰をしなやかな指が抱き寄せ、耳元に口付けると何かを囁く。カァッと頬を更に赤くして、了が戸惑うように恥じらい俯く姿。

「馬鹿……そんな、………言えない……。」

チュと耳朶に口付ける音が響いて了が身をすくませると、縋るようにその肩に手を触れる。

「駄目……だって……あっ……。」

はだけていく上着の下に潜り込むようにして口付け、音を立てて舌を這わせられる感触に了の肌が薔薇色に上気していく。何処を舐められたらあんな甘い声になるんだろうか、何処に口付けたらあんな肌に染まるんだろうか。何度も駄目と弱く繰り返しながらも、相手に縋って震える声を出す了の妖艶さに目が眩む。チャリとジッパーを下ろす音がして、淫らに喉のなる音が響く。そうして更にグイッと大きな手の指が了の腰に食い込み、自分に向かって引き寄せる。そうしてまた耳元で何かを囁かれて、俯き怒張を見下ろす瞳が揺れて息を飲む。

「そんな……こぉた……、や、……んっ。」

ヌチュと淫らな音がして股間に怒張を擦り付けられているのか、了の足がヒクヒクと震えるのが見える。微かに湿って繰り返される摩擦の音が、次第に高くなって了の腰が更に前に引き寄せられていく。

「や……も、………こぉた…焦らすな………ってぇ………。」
「じゃ……なんて言うんだ?ん?」

腰を引き寄せられて殆どアイランドキッチンに寝かされた了が、口元に片手を当てて頬を染めながら何かを小さな声で呟く。聞こえないと言う相手の手が軽々とその足を抱き上げて開かせると、更に股間を擦り付ける音が日溜まりのキッチンで淫らに響く。

「馬鹿ぁ……早く、入れろよぉ……中に、欲しい…っ。」
「よく出来たな、いい子だ。」
「はぅっ!!あっ…ああっ……あー………っ!」

ヌプと淫らな音をさせて怒張を呑み込まされる快感に、淫らで甘い快感の喘ぎが溢れ落ちてのし掛かる体に了が縋りつく。怒張を体内に入れられただけで快感に蕩けてしまったような了の甘い声が、何度も掠れながら相手の名前を呼ぶ。

「こぉた…あっこぉたぁ……、これ、いっちゃう…こぉた…。」
「可愛いこと言う、気持ちいいのか?ん?」

ギシギシと軋みそうなほどにカウンターの上で揺さぶられる了のしなやかな足を更にあげて、淫らに腰を突き動かす外崎の均整のとれた体躯。日差しの中に男の艶が匂うような気がして、思わず微かに喉がなる。

「気持ち、い、だめ、も、こぉた……そこ、やぁ…。」
「ここ好きだろ?ん?」
「す、きだけど、やぁ、こぉた、いく…だめぇ……あああっ…」

突き上げられる快感に我を忘れて仰け反る了の、甘えきった声に嫉妬するのと同時に切望しているのが分かる。そんな風に誰かを見つけるにはどうしたらいい?そんな風に特別な相手は、自分にもこの世の中に本当にいるんだろうか。覆い被さり幸せそうに微笑んで額に口付ける外崎の姿に、了が強請るように手を伸ばして首元に縋りつく。

「愛してる……こぉた……。」

柔らかで甘いその言葉に、胸がチクリと鋭く痛んでいた。

仕事部屋に戻って機械のスイッチを入れて、何気なくヘッドホンをかけると今日は休みのはずだった『耳』の向こうに集中する。別に聞いてなくてもいいけど、後でなに聞いたと聞かれて答えられないのも困るから。やがていつの間にかやって来ていたらしい社長が、珍しく片手にしていたミルクティーを横においていく。

「あ、しゃちょー戻ってたんだ?」
「今日は書類だけじゃなかったのか?ん?」
「あー、書類忘れちゃってさぁ、面倒だからここでやっちゃおうって。」

ふうんっと言いながら社長は当然みたいに自分の椅子に座って、機械に向かうとパチパチとスイッチを入れる。多分この男は耳がいいから俺が見たのは薄々気がついていそうだが、それには触れないつもりらしい。まあ、あんなにイチャイチャしてるのを俺になんと言おうと、どうしようもないから言わないでくれる方が助かる。

「あー恋がしたい。しゃちょー、どっかに可愛くて綺麗な人いないかなぁ。どこで了みたいな人に会えるかなぁ?」
「恋ねぇ……。」

俺の言葉に社長は呑気な声で言う。そう言えば了と社長はどこで出会ったわけ?と問いかけるとなんと。

「墓場の桜の木の下。」

何だと?!それはあり得ないだろ!と俺が突っ込むのに、社長は相変わらず平然として本当だと言う。しかも、後で聞いたら了もまぁそうかななんて答えるのだ。

嘘だろ?!何でそんなとこで運命の相手と会うわけ?!俺にはそんな出会い絶対無理だ!
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