150 / 693
間章 ちょっと合間の話
間話7.嫉妬に焦がれて
しおりを挟む
築年数がある中古住宅とは言え数年前にリノベーションされていて、しかも駅も近い戸建て。庭もちゃんとあるしガレージもあって、隣家との境はキチンと塀とフェンスと生け垣で防犯もプライバシー保護もされてる。ただでさえ唖然としているのに、一階にはアイランドキッチンのLDK二十八畳にパントリー、仕事用の部屋迄完備。二階はデカい主寝室にウォークインクローゼット、デカい風呂場は恐ろしいことにジャグジーまで完備と来ている。しかもまだこれに半地下の部屋が二つ、書斎が一つ、和室が一つ。
「ほんとさぁ…これって………幾らすんの……?」
先日も一度朝に眺めに来た時には、その後バタバタしてよくよく考えなれなかった。でも正直、狭小住宅かなくらいに考えていたのだ。それなのに突きつけられたのは、二人で住むには恐ろしい広さの豪邸。しかも、リフォームで手摺を幾つかつけてくれただけでなく、家具もどうせ見えないんだからそのまま使いなさいよと志賀松理から言われたのだというがどれも高級ホテル級だ。宏太は志賀松理は文筆業で気が向いた時に、ここを使うが最近は全く使ってなかったのだと教えてくれた。それにしてもどれだけ儲けている作家なのかと呆れてしまう程だし、キングサイズのベットが小さく見える主寝室なんて、壁には液晶ディスプレイにスピーカーと何処の映画館だという設備投資だ。思わず呟いた了に宏太はケロリとした顔で、背後から恐ろしい金額を口にする。ええー?!と唖然としていたら背後でゴツッとぶつかる音がして、慌てて振り替えるとまだ目測がつかない宏太が何処かにぶつかったらしく苦い顔をしている。
「ちょっ!宏太!慣れるまで独りで動くなって!」
慌てて駆け寄って何処ぶつけたんだと覗きこむ了が、手を引いて既に置かれているソファー迄連れていく。住み慣れたマンションとは流石に勝手が違う新居では、宏太が慣れるまで暫くこれが続きそうだ。物の位置に気を付けてやらないとと了が考えていると、ソファーに座らせたばかりの手が自分の手を離そうとしない。離せよと言っても全く力の緩まない指が、躊躇いがちに了を引っ張る。
「……何処にいく?」
「え?キッチンとか見てこようかと思って。」
「なら、俺もいく。」
その言葉にまたぶつかるぞと了が苦笑していると、宏太の手が更に自分を抱き寄せてくる。どうやら慣れない場所で独りになりたくない様子なのに気がついて、了はそんな状況でも了の希望を優先した宏太に気がつく。思わず隣に座ると宏太の肩に頭を凭れさせ、リビングの頭上の吹き抜けを見上げた。
「なぁ、宏太。」
「ん?」
「ホントに俺でいいの?」
思わず呟いた了に宏太が少し眉を上げる。宏太がどれだけの資産持ちなのか知らないが、こんな豪邸を自分の我が儘一つで買わせてしまったのには少し心配してしまう。松理曰く二階に風呂場があると物件としては売りにくいと言うが、この規模ならどうとでもなりそうだ。下の階にもリノベーションでもすれば簡単には風呂くらい作れる余裕もある。それを宏太は値切ることもなく即決で購入して、二人の新居としてしまった。
「お前……今更そんなこと言うか?ん?」
「いや、そういう意味じゃ…んん……。」
唐突に横から唇を奪われ、了の言葉が途切れる。じゃあどういう意味だと不満そうに口を開く宏太に、了は躊躇いがちに小さく呟く。
「……幸せそうって………言われたんだよ………俺。」
今まで何人も人と触れあって来た筈なのに、そんな風に言われたのは始めてだった。しかも、了自身もそれに胸が熱くなるほど満たされている気がする。誰かといて幸せ……そんな風に感じたのは初めてで、家族でもこんな風に感じたことがない。そう思うと、幸せな反面凄く怖くなる。
「俺……欲張りだから、きっと……。」
そう呟いた瞬間もう一度唇が奪われて、今度は暫く離して貰えないネットリとした口付けなのに吐息が上がる。宏太は少し微笑むように囁く。
「………約束してやったろ?忌の際にちゃんとお前に愛してるって言ってやるって。忘れたか?ん?」
「いや、忘れてない……。」
よしと宏太は満足げに笑うと、了の手を掴む。了が何と言いたげに視線を向けたのを察して、宏太は口元を緩め耳元に顔を寄せてくると囁きかける。
「了、……俺をベットまで連れてけ。」
「は?何だよ、まだ明るいっつーの。人が折角………。」
「………お前、俺をあれから寸止めにしてんだぞ?……忘れてんだろ?」
そう言われればやっと射精出来そうだと言った宏太を、了がこの関係になって初めての射精なのにラブホテルじゃ嫌だと泣いてごねたのだった。そのせいでその日の内に引っ越すと言って聞かない宏太に唖然としたわけだが、実は宏太としてはだいぶ我慢してくれていたらしい。それに気がついて呆れたように了は立ち上がると、仕方なさそうな風に宏太の手をとる。
「……ムードもへったくれもねぇな、ほんと最低な男に惚れちゃったなぁ、俺。」
「ああ?お前何時ぶりの射精だと思ってんだ、年単位だぞ?覚悟しとけ、出たのは全部中に出して孕ませっからな。」
「幻想で喋んな、孕むかよ、男だっつーの。ほら、行くぞ。」
双方が悪態をついているのに握った手は熱くて、その先への期待で膨れ上がっているのが見え見えなのが可笑しくて仕方がなかった。
そんな訳で時間がかかったが一度射精出来た途端、了が悲鳴を上げても宏太はお構い無しであの色気を駄々漏れにして散々にやりまくった訳で。宏太が普段のシレッとした感じに落ち着くまで数日がかかったのはここだけの話。実際にあのとち狂った高校生みたいに甘ったるく抱き続ける宏太を経験すると、正直了ですら諦めるしかない。何しろ延々と好きだの愛してるだの囁きながら愛撫され続ける上に、全身くまなく愛されるってこう言うことなんだと理解できた。本当に髪の毛の先から爪先まで丹念に丁寧に半端ないくらいに、ねちっこーい愛撫をしてくるのだ。
拘束されてる方が、まだましだったとは………。
しかもその間中あの色気は駄々漏れで、腰の奥が疼くし軽く入れられただけでビクンビクンッと身体が痙攣してしまう。了が放つものは全て舐めとられ吸い上げられて、本気で死んじゃうと泣いても許して貰えない。掠れて聞き取りにくい筈の声は耳を擽り続けるし、耳で囁かれるだけで軽くいかされるなんて恐ろしい事だ。あんまりにも了は感じすぎてしまうから、何処かで宏太に薬でも使われてんじゃないかと真剣に考えて口にしたくらいだった。まあ、アッサリ宏太に薬なんか使ったらもっと狂うがいいのか?と耳朶を舐め回しながら聞かれたら、許してくださいとしか了には言えない。
やっと落ち着いたとところで丁度面会が出来るようになった遠坂喜一と意識が戻った宮直行の見舞いに行ったら行ったで、遠坂の方はとっくに退院間近で元気で、病院ホールで源川と鉢合わせになったわけだ。結果嫉妬にぶちギレた宏太に病院ホールで口淫はさせられるし、それでは足りなかったらしくてオストメイトトイレに連れ込まれ中出しまでされて。そのまま了はタップリ中に注がれた状態で歩かせられ、素知らぬ顔で帰る宏太に泣き顔で鬼畜!変態!人でなし!と了は言い続けたのだった。
※※※
数日後の朝、ベットで抱きかかえられながら揺り起こされた了は、何時になく真剣な顔で見下ろす宏太に気がつく。寝ぼけ眼を擦りながら視線を向けると、宏太の唇が熱く頬に触れてくる。
「了……。」
「……何だよ?……腹でも減ったか?」
味覚障害がある筈のこの男は何故か了の料理だけは味が分かるとか言い出して、了としてはすっかり最近で宏太を餌付けしたか胃袋を掴んだ気分だ。
「お前を成田から俺のものにしていいか?」
「はぁ?」
「俺ものにしていいか?」
その意図に気がついて、何を今更と了は唖然とする。こんなに散々にしておいて何を今更殊勝なことをと思ったら、宏太が肌を擦り寄らせるのが分かった。まるで、宏太が不安がっているみたいなその仕草に、苦笑しながら了は何を今更と呟く。
「もう、宏太のものだって言ってんだろ?」
「じゃあ、一緒に行ってくれるか?」
何処に?と唖然とするとお前の実家と呟いた宏太に、了は目を丸くしてその顔を見つめた。本気で宏太は自分と養子縁組して嫁にもらう気で、しかも自分ですら年単位で会ってない程の両親をなんと捕まえたのだ。
そんな訳でそれから数時間後、久々の実家のリビングの中には妙な緊張感が満ちている。
「外崎宏太と申します。」
両親が揃ったの自体何年ぶりかに見たなぁ等と呑気に考えている了の横で色気ムンムンのスーツ姿の外崎宏太は、顔の傷さえなかったら了の母親のもろ好みの男だった筈だ。均整のとれた身体、上背は逞しく足も長い。杖をつき盲目であるのに気がついた時の母親の落胆顔を、可能だったら宏太にも見せてやりたかった。ところがもっと予想外の反応を見せたのは了の父親の方で、何とも言いがたい表情で宏太の姿を眺めている。
「何の……用件かね?外崎さんは。ワザワザ呼び出してきて。」
何時もと変わらぬ上から目線の横柄な口振りの筈なのに、普段と比べて何処と無く覇気がない。了はおやと眉を潜めて、数年ぶりに会う年を重ねた父親の顔を眺めた。
了が年末に警察沙汰を起こした時でさえ、この二人は自分に会いに来なかったのだ。来たのは父親のお抱えの顧問弁護士だけで何をどうしたんだか、自分は何も知らずその場にいて巻き込まれた・だけを貫かされた。そうして気がついたら苦虫を噛み潰したような刑事に見送られ、了はあっという間に不起訴となった訳だ。政治関係者の息子の不祥事なんて珍しくもないんだろうし、なにしろこの息子は昔からの自由奔放な放蕩息子。その息子の話と呼び出された様子だが、どうも父親の様子はいつになくおかしい。
「早く用件をお話頂けるかね、私はこの後……。」
父親がソワソワと落ち着かない様子なのに、母親の方が眉を微かに上げてわざとらしいノンビリした様子で口を開く。母親の視線は顔の傷は兎も角宏太の身体は好みなのか、まるで服の下を透かすように舐め回すように眺めるのが正直忌々しい。
「あら、あなた、この後はなにもないでしょう?」
「い、いや、この後会食の予定があるんだ。」
「でも、まだ二時前ですから、平気でしょ?」
冷ややかな母親の言葉は了を思っての言葉ではなく、ただ単に父親への嫌がらせにしか過ぎないのは昔から変わらずだ。
「用件は一つ。了を頂きたい。」
とんでもない直球の物言いに母親は唖然とするし、父親は何処かで予感があったのか苦虫を噛み潰したような顔をする。遠回しに言うのかと思いきやこんなにアッサリ告げられた了の方もなんと言っていいか分からないでいると、母親の方がカナキリ声をあげた。
「何言い出すかと思ったら!了は一人息子です!跡継ぎを同性愛者みたいな不潔な関係にっ!」
「黙ってくれませんか?あんたの普段の声は煩い。」
「はあぁ?!!なんなの失礼な!」
ついと見えない筈の宏太の視線が母親を射竦める。
「俺は覚えてますよ?……あんたのこと、何度も店に来た。」
「何訳の分からない事っ。」
「random face。」
そういった瞬間母親の顔色が一気に青ざめたのが分かって、了は唖然と母親の顔を見上げた。あの店で出会ったことはなかったが、なんとまぁ母親があの店の客だったのだと気がついてしまったのだ。それを了の顔から感じ取った母親は、青ざめた顔を赤く怒りに変えた。父親がその空気を変えようと口を開き、言葉を絞り出す。
「了は、跡継ぎで……。」
「俺にその言い訳は通用しない、成田さん。………分かってんだよな?」
最初の丁寧な口調が嘘のように低く囁く声が父親の言葉を遮ると、母親は何かを感じ取ったように目を丸くする。父親の方は更に苦虫を噛み潰したように言葉を失って俯く。母も母なら、父も父だと了が溜め息をくつ。
母親はrandom faceで如何わしい享楽の時を過ごしてて、父親の方は何だよ?この感じじゃ……ああ、そうか、調教師の顧客ってやつか。
そう言えば宏太はこの間自分には弟が居るとか言っていた。情報だけを持っているのかと思っていたが、この様子だとその子供の母親は宏太に躾られた親父の所有する性奴隷なのかもしれない。
最悪な親……そりゃそうか、息子が不審者に悪戯されてるのも知らねぇんだもんな。
小学生の自分の変化など何一つ気がつくこともなく、互いに自由に過ごすことだけで生きてきた。それを今更どうこうしろとは考えないが、これじゃ何があっても仕方がないとしか了にも思えない。自由奔放な両親の子供は物を知らない危険人物になるしかなかっただけだ。母親の顔がワナワナと怒りで震えてるのを眺めていると、言葉を出すことも面倒になってきている自分に気がつく。それでもそっと隣の宏太の手を握ると、了は母親の顔を見上げた。
「………お袋、俺はゲイなんだ。昔から男が好きなんだよ。跡継ぎは、他に弟がいるらしいからそっちに任す。」
半分は嘘だが、この程度の嘘ならまあ逆に優しさだ。本当は自分はバイセクシャルでどちらでも気にしないが、欲しいのは宏太一人だからこれをゲイと言っても大差はない。それに高校時代に出会ってから、ずっと昔から宏太の事が好きだったのも本当だ。それに、宏太の言う弟の話も父親のこの顔を見れば、本当の事だとわかる。宏太の手をしっかりと握ったまま真っ直ぐに自分を見て言う了に、母親は怒る余力を失ったみたいにヘナヘナとソファーに崩れ落ちた。
「なんて事なの、貴方が外の女と子供なんか作るから……。」
「お前だって、外に何人も男を囲って遊び惚けている癖に……。」
結局怒る気力を失った母親と後ろめたいことばかりの父親から了は親子の縁を切ると言われて、そんなもんだろうなと宏太の手をとりながら思う。
並んで歩きながら溜め息をついてしまった了に、宏太が不意に歩調を緩めて了の手を引くと街の真ん中で了を腕の中に引き寄せた。
「人前だぞ……。」
文句を言う気力もなく、その程度しか悪態をつくことができない了の耳元に宏太が突然口付けてくる。
「こら。」
「悪かった………。」
しおらしく謝ってきた宏太に驚いたように了は、右手の中で呆れたように笑いながら何謝ってんだよと呟く。
「宏太が何かした訳じゃねぇだろ?何謝ってんだよ。気持ち悪い。」
「しんどかったろ?」
「何が。」
何故か頭を撫でながらそう言う宏太に了は再び苦笑してしまう。元々人を奴隷に堕とすような躾をして平気だった宏太がそんなこと気にするような質でもない筈なのに、今は何故か了が両親の事でうちひしがれているのではと心配しているのだ。そう考えたら酷くおかしくなってきて、自分を抱き締める手を握ると思わず口付けてしまう。
「何ともねぇよ、こんな親だったなって納得しただけだって。大体にしてあんたの親はどうなんだよ?」
「……さあな、生きてんだかどうかも知らねぇな。」
「はは、お互い大概だよな。」
帰ろうぜと呟き手を引くと、宏太は大人しくそれに従うように歩き出す。それでもその顔はどこか心配そうに見えて、了はまた苦笑を浮かべる。
「そうだ、食材買わなきゃな、何が食いたい?」
「……お前が作るんなら何でもいい。」
「少しは考えろよ、面白味がねぇ。」
「……食い物が食いたいって考えたことが今までねぇんだから、仕方がねぇだろ?この間のが旨かった。」
オムライスかよと了に子供舌だなと笑われ、宏太は少しだけ不満げに眉を潜める。それでも初めて味を理解したのなら、次は何を作ってみるかなと笑う了に宏太は興味津々の様子を浮かべていた。
「ほんとさぁ…これって………幾らすんの……?」
先日も一度朝に眺めに来た時には、その後バタバタしてよくよく考えなれなかった。でも正直、狭小住宅かなくらいに考えていたのだ。それなのに突きつけられたのは、二人で住むには恐ろしい広さの豪邸。しかも、リフォームで手摺を幾つかつけてくれただけでなく、家具もどうせ見えないんだからそのまま使いなさいよと志賀松理から言われたのだというがどれも高級ホテル級だ。宏太は志賀松理は文筆業で気が向いた時に、ここを使うが最近は全く使ってなかったのだと教えてくれた。それにしてもどれだけ儲けている作家なのかと呆れてしまう程だし、キングサイズのベットが小さく見える主寝室なんて、壁には液晶ディスプレイにスピーカーと何処の映画館だという設備投資だ。思わず呟いた了に宏太はケロリとした顔で、背後から恐ろしい金額を口にする。ええー?!と唖然としていたら背後でゴツッとぶつかる音がして、慌てて振り替えるとまだ目測がつかない宏太が何処かにぶつかったらしく苦い顔をしている。
「ちょっ!宏太!慣れるまで独りで動くなって!」
慌てて駆け寄って何処ぶつけたんだと覗きこむ了が、手を引いて既に置かれているソファー迄連れていく。住み慣れたマンションとは流石に勝手が違う新居では、宏太が慣れるまで暫くこれが続きそうだ。物の位置に気を付けてやらないとと了が考えていると、ソファーに座らせたばかりの手が自分の手を離そうとしない。離せよと言っても全く力の緩まない指が、躊躇いがちに了を引っ張る。
「……何処にいく?」
「え?キッチンとか見てこようかと思って。」
「なら、俺もいく。」
その言葉にまたぶつかるぞと了が苦笑していると、宏太の手が更に自分を抱き寄せてくる。どうやら慣れない場所で独りになりたくない様子なのに気がついて、了はそんな状況でも了の希望を優先した宏太に気がつく。思わず隣に座ると宏太の肩に頭を凭れさせ、リビングの頭上の吹き抜けを見上げた。
「なぁ、宏太。」
「ん?」
「ホントに俺でいいの?」
思わず呟いた了に宏太が少し眉を上げる。宏太がどれだけの資産持ちなのか知らないが、こんな豪邸を自分の我が儘一つで買わせてしまったのには少し心配してしまう。松理曰く二階に風呂場があると物件としては売りにくいと言うが、この規模ならどうとでもなりそうだ。下の階にもリノベーションでもすれば簡単には風呂くらい作れる余裕もある。それを宏太は値切ることもなく即決で購入して、二人の新居としてしまった。
「お前……今更そんなこと言うか?ん?」
「いや、そういう意味じゃ…んん……。」
唐突に横から唇を奪われ、了の言葉が途切れる。じゃあどういう意味だと不満そうに口を開く宏太に、了は躊躇いがちに小さく呟く。
「……幸せそうって………言われたんだよ………俺。」
今まで何人も人と触れあって来た筈なのに、そんな風に言われたのは始めてだった。しかも、了自身もそれに胸が熱くなるほど満たされている気がする。誰かといて幸せ……そんな風に感じたのは初めてで、家族でもこんな風に感じたことがない。そう思うと、幸せな反面凄く怖くなる。
「俺……欲張りだから、きっと……。」
そう呟いた瞬間もう一度唇が奪われて、今度は暫く離して貰えないネットリとした口付けなのに吐息が上がる。宏太は少し微笑むように囁く。
「………約束してやったろ?忌の際にちゃんとお前に愛してるって言ってやるって。忘れたか?ん?」
「いや、忘れてない……。」
よしと宏太は満足げに笑うと、了の手を掴む。了が何と言いたげに視線を向けたのを察して、宏太は口元を緩め耳元に顔を寄せてくると囁きかける。
「了、……俺をベットまで連れてけ。」
「は?何だよ、まだ明るいっつーの。人が折角………。」
「………お前、俺をあれから寸止めにしてんだぞ?……忘れてんだろ?」
そう言われればやっと射精出来そうだと言った宏太を、了がこの関係になって初めての射精なのにラブホテルじゃ嫌だと泣いてごねたのだった。そのせいでその日の内に引っ越すと言って聞かない宏太に唖然としたわけだが、実は宏太としてはだいぶ我慢してくれていたらしい。それに気がついて呆れたように了は立ち上がると、仕方なさそうな風に宏太の手をとる。
「……ムードもへったくれもねぇな、ほんと最低な男に惚れちゃったなぁ、俺。」
「ああ?お前何時ぶりの射精だと思ってんだ、年単位だぞ?覚悟しとけ、出たのは全部中に出して孕ませっからな。」
「幻想で喋んな、孕むかよ、男だっつーの。ほら、行くぞ。」
双方が悪態をついているのに握った手は熱くて、その先への期待で膨れ上がっているのが見え見えなのが可笑しくて仕方がなかった。
そんな訳で時間がかかったが一度射精出来た途端、了が悲鳴を上げても宏太はお構い無しであの色気を駄々漏れにして散々にやりまくった訳で。宏太が普段のシレッとした感じに落ち着くまで数日がかかったのはここだけの話。実際にあのとち狂った高校生みたいに甘ったるく抱き続ける宏太を経験すると、正直了ですら諦めるしかない。何しろ延々と好きだの愛してるだの囁きながら愛撫され続ける上に、全身くまなく愛されるってこう言うことなんだと理解できた。本当に髪の毛の先から爪先まで丹念に丁寧に半端ないくらいに、ねちっこーい愛撫をしてくるのだ。
拘束されてる方が、まだましだったとは………。
しかもその間中あの色気は駄々漏れで、腰の奥が疼くし軽く入れられただけでビクンビクンッと身体が痙攣してしまう。了が放つものは全て舐めとられ吸い上げられて、本気で死んじゃうと泣いても許して貰えない。掠れて聞き取りにくい筈の声は耳を擽り続けるし、耳で囁かれるだけで軽くいかされるなんて恐ろしい事だ。あんまりにも了は感じすぎてしまうから、何処かで宏太に薬でも使われてんじゃないかと真剣に考えて口にしたくらいだった。まあ、アッサリ宏太に薬なんか使ったらもっと狂うがいいのか?と耳朶を舐め回しながら聞かれたら、許してくださいとしか了には言えない。
やっと落ち着いたとところで丁度面会が出来るようになった遠坂喜一と意識が戻った宮直行の見舞いに行ったら行ったで、遠坂の方はとっくに退院間近で元気で、病院ホールで源川と鉢合わせになったわけだ。結果嫉妬にぶちギレた宏太に病院ホールで口淫はさせられるし、それでは足りなかったらしくてオストメイトトイレに連れ込まれ中出しまでされて。そのまま了はタップリ中に注がれた状態で歩かせられ、素知らぬ顔で帰る宏太に泣き顔で鬼畜!変態!人でなし!と了は言い続けたのだった。
※※※
数日後の朝、ベットで抱きかかえられながら揺り起こされた了は、何時になく真剣な顔で見下ろす宏太に気がつく。寝ぼけ眼を擦りながら視線を向けると、宏太の唇が熱く頬に触れてくる。
「了……。」
「……何だよ?……腹でも減ったか?」
味覚障害がある筈のこの男は何故か了の料理だけは味が分かるとか言い出して、了としてはすっかり最近で宏太を餌付けしたか胃袋を掴んだ気分だ。
「お前を成田から俺のものにしていいか?」
「はぁ?」
「俺ものにしていいか?」
その意図に気がついて、何を今更と了は唖然とする。こんなに散々にしておいて何を今更殊勝なことをと思ったら、宏太が肌を擦り寄らせるのが分かった。まるで、宏太が不安がっているみたいなその仕草に、苦笑しながら了は何を今更と呟く。
「もう、宏太のものだって言ってんだろ?」
「じゃあ、一緒に行ってくれるか?」
何処に?と唖然とするとお前の実家と呟いた宏太に、了は目を丸くしてその顔を見つめた。本気で宏太は自分と養子縁組して嫁にもらう気で、しかも自分ですら年単位で会ってない程の両親をなんと捕まえたのだ。
そんな訳でそれから数時間後、久々の実家のリビングの中には妙な緊張感が満ちている。
「外崎宏太と申します。」
両親が揃ったの自体何年ぶりかに見たなぁ等と呑気に考えている了の横で色気ムンムンのスーツ姿の外崎宏太は、顔の傷さえなかったら了の母親のもろ好みの男だった筈だ。均整のとれた身体、上背は逞しく足も長い。杖をつき盲目であるのに気がついた時の母親の落胆顔を、可能だったら宏太にも見せてやりたかった。ところがもっと予想外の反応を見せたのは了の父親の方で、何とも言いがたい表情で宏太の姿を眺めている。
「何の……用件かね?外崎さんは。ワザワザ呼び出してきて。」
何時もと変わらぬ上から目線の横柄な口振りの筈なのに、普段と比べて何処と無く覇気がない。了はおやと眉を潜めて、数年ぶりに会う年を重ねた父親の顔を眺めた。
了が年末に警察沙汰を起こした時でさえ、この二人は自分に会いに来なかったのだ。来たのは父親のお抱えの顧問弁護士だけで何をどうしたんだか、自分は何も知らずその場にいて巻き込まれた・だけを貫かされた。そうして気がついたら苦虫を噛み潰したような刑事に見送られ、了はあっという間に不起訴となった訳だ。政治関係者の息子の不祥事なんて珍しくもないんだろうし、なにしろこの息子は昔からの自由奔放な放蕩息子。その息子の話と呼び出された様子だが、どうも父親の様子はいつになくおかしい。
「早く用件をお話頂けるかね、私はこの後……。」
父親がソワソワと落ち着かない様子なのに、母親の方が眉を微かに上げてわざとらしいノンビリした様子で口を開く。母親の視線は顔の傷は兎も角宏太の身体は好みなのか、まるで服の下を透かすように舐め回すように眺めるのが正直忌々しい。
「あら、あなた、この後はなにもないでしょう?」
「い、いや、この後会食の予定があるんだ。」
「でも、まだ二時前ですから、平気でしょ?」
冷ややかな母親の言葉は了を思っての言葉ではなく、ただ単に父親への嫌がらせにしか過ぎないのは昔から変わらずだ。
「用件は一つ。了を頂きたい。」
とんでもない直球の物言いに母親は唖然とするし、父親は何処かで予感があったのか苦虫を噛み潰したような顔をする。遠回しに言うのかと思いきやこんなにアッサリ告げられた了の方もなんと言っていいか分からないでいると、母親の方がカナキリ声をあげた。
「何言い出すかと思ったら!了は一人息子です!跡継ぎを同性愛者みたいな不潔な関係にっ!」
「黙ってくれませんか?あんたの普段の声は煩い。」
「はあぁ?!!なんなの失礼な!」
ついと見えない筈の宏太の視線が母親を射竦める。
「俺は覚えてますよ?……あんたのこと、何度も店に来た。」
「何訳の分からない事っ。」
「random face。」
そういった瞬間母親の顔色が一気に青ざめたのが分かって、了は唖然と母親の顔を見上げた。あの店で出会ったことはなかったが、なんとまぁ母親があの店の客だったのだと気がついてしまったのだ。それを了の顔から感じ取った母親は、青ざめた顔を赤く怒りに変えた。父親がその空気を変えようと口を開き、言葉を絞り出す。
「了は、跡継ぎで……。」
「俺にその言い訳は通用しない、成田さん。………分かってんだよな?」
最初の丁寧な口調が嘘のように低く囁く声が父親の言葉を遮ると、母親は何かを感じ取ったように目を丸くする。父親の方は更に苦虫を噛み潰したように言葉を失って俯く。母も母なら、父も父だと了が溜め息をくつ。
母親はrandom faceで如何わしい享楽の時を過ごしてて、父親の方は何だよ?この感じじゃ……ああ、そうか、調教師の顧客ってやつか。
そう言えば宏太はこの間自分には弟が居るとか言っていた。情報だけを持っているのかと思っていたが、この様子だとその子供の母親は宏太に躾られた親父の所有する性奴隷なのかもしれない。
最悪な親……そりゃそうか、息子が不審者に悪戯されてるのも知らねぇんだもんな。
小学生の自分の変化など何一つ気がつくこともなく、互いに自由に過ごすことだけで生きてきた。それを今更どうこうしろとは考えないが、これじゃ何があっても仕方がないとしか了にも思えない。自由奔放な両親の子供は物を知らない危険人物になるしかなかっただけだ。母親の顔がワナワナと怒りで震えてるのを眺めていると、言葉を出すことも面倒になってきている自分に気がつく。それでもそっと隣の宏太の手を握ると、了は母親の顔を見上げた。
「………お袋、俺はゲイなんだ。昔から男が好きなんだよ。跡継ぎは、他に弟がいるらしいからそっちに任す。」
半分は嘘だが、この程度の嘘ならまあ逆に優しさだ。本当は自分はバイセクシャルでどちらでも気にしないが、欲しいのは宏太一人だからこれをゲイと言っても大差はない。それに高校時代に出会ってから、ずっと昔から宏太の事が好きだったのも本当だ。それに、宏太の言う弟の話も父親のこの顔を見れば、本当の事だとわかる。宏太の手をしっかりと握ったまま真っ直ぐに自分を見て言う了に、母親は怒る余力を失ったみたいにヘナヘナとソファーに崩れ落ちた。
「なんて事なの、貴方が外の女と子供なんか作るから……。」
「お前だって、外に何人も男を囲って遊び惚けている癖に……。」
結局怒る気力を失った母親と後ろめたいことばかりの父親から了は親子の縁を切ると言われて、そんなもんだろうなと宏太の手をとりながら思う。
並んで歩きながら溜め息をついてしまった了に、宏太が不意に歩調を緩めて了の手を引くと街の真ん中で了を腕の中に引き寄せた。
「人前だぞ……。」
文句を言う気力もなく、その程度しか悪態をつくことができない了の耳元に宏太が突然口付けてくる。
「こら。」
「悪かった………。」
しおらしく謝ってきた宏太に驚いたように了は、右手の中で呆れたように笑いながら何謝ってんだよと呟く。
「宏太が何かした訳じゃねぇだろ?何謝ってんだよ。気持ち悪い。」
「しんどかったろ?」
「何が。」
何故か頭を撫でながらそう言う宏太に了は再び苦笑してしまう。元々人を奴隷に堕とすような躾をして平気だった宏太がそんなこと気にするような質でもない筈なのに、今は何故か了が両親の事でうちひしがれているのではと心配しているのだ。そう考えたら酷くおかしくなってきて、自分を抱き締める手を握ると思わず口付けてしまう。
「何ともねぇよ、こんな親だったなって納得しただけだって。大体にしてあんたの親はどうなんだよ?」
「……さあな、生きてんだかどうかも知らねぇな。」
「はは、お互い大概だよな。」
帰ろうぜと呟き手を引くと、宏太は大人しくそれに従うように歩き出す。それでもその顔はどこか心配そうに見えて、了はまた苦笑を浮かべる。
「そうだ、食材買わなきゃな、何が食いたい?」
「……お前が作るんなら何でもいい。」
「少しは考えろよ、面白味がねぇ。」
「……食い物が食いたいって考えたことが今までねぇんだから、仕方がねぇだろ?この間のが旨かった。」
オムライスかよと了に子供舌だなと笑われ、宏太は少しだけ不満げに眉を潜める。それでも初めて味を理解したのなら、次は何を作ってみるかなと笑う了に宏太は興味津々の様子を浮かべていた。
0
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる