113 / 693
第十二章 愚者の華
107.
しおりを挟む
出来ることならそこに辿り着く迄に誰かに呼び止められたらと心の中では願っていた。不振な様子だとか理由は何でもいいし、相手も誰でもいいからどうしましたと一言かけてさえ貰えたら。そう心の何処かは言うのに夕方のシティホテルは客室数が多すぎて、歩き回る客足も多すぎる。不振だと気がつく間もなく、しかも指定の階に向かう酷く青ざめた恭平を見咎める者もいない。
指定の階は三十階。エレベーターがガラス張りで夕暮れに輝き始めた夜景が背後に広がっていることすら、高所恐怖症の筈の恭平は目にも入らないでいる。一人きりでグングンと昇っていくエレベーターの感覚すら吐き気を催しそうな程なのに、足を踏み出した絨毯敷きの廊下は人気すらない。誰に見咎められることもなくドアの前まで足を進め、血の気の引いた真っ白な指先が震えながらドアチャイムを押す。
微かな軋む音を立てて開かれたドアの先から、三ヶ月ほど前に見た時より肉をそぎ落としたような無表情の顔が覗く。戸惑いに満ちた瞳でその顔を見つめる恭平に、了はまるで友人を招待していたという風に微笑みかけ室内へ入るよう促した。
音を吸い取るようなフワフワした絨毯の感触。それともこれは気を失いかけているだけなのだろうかと足の裏に感じながら、促されるままに左側の扉に足を向ける。右側にはもう一つの扉と応接間のようなソファーが僅かに見え、ここが普通の客室ではなくスイートルームの類いなのだと理解した。
鈍った足取りを促すように肩を抱かれて、押し込まれるように扉を中に連れ込まれる。
その光景をみた瞬間に、自分の喉がヒュッと掠れた息を呑むのが分かった。
酷く湿度を感じる暑い室内。
よくあるシティホテルの簡素な室内と違う、視界の先にあるキングサイズのベットの存在。奥にはソファーとテーブル、入ってきた扉の向かいにあるもう一つの扉。しかも、視界は夕暮れに広がる一面の夜景。同時にそうだろうとは思っていたが取り返しに来た筈の姿がないことに、激しい失望と動揺を感じながら震えを押し殺した低い声が溢れる。
「……仁聖は…?」
不意にその声に盛大な溜め息をわざとらしくついた了の腕が背後からその体を絡めとる。
「最初の言葉がそれって………ホントつれないよな?恭平。」
「……何処にいる?」
強張った腕の中の体を楽しむように耳元に寄せた唇が不意に耳朶をネロリと舐り、恭平は更に体を強張らせた。肌に与えられる不快感と眼前に広がる高所の恐怖で鳥肌があっという間にたっていく。手を固く握りしめ震え出さないようにと思うのに、耳朶から項を舐りまわす舌に体が戦きを隠せない。
「………知りたかったら、大人しくしてろよ?」
耳障りな声を上げて体に触れてくる手の感触に息が詰まり、スルリと腰を撫でる指先の感触に全身がが粟立っていくのがわかって恭平は唇を噛んだ。なすがままにされ、それを必死で耐える気配を漂わせる恭平の仕草に嘲るように了が声を上げる。
「健気だねー?恭平ってそういうタイプだったっけ?」
※※※
不意に何かの気配で引き戻された微かな感覚に、ボンヤリと意識を取り戻していた。陽射しは暗く電気はついていないが、ウッスラと室内が見渡せる。大きな窓ガラスから射し込む外の灯りが、室内を浮き上がらせているのだ。
……ここ、どこ?
自分が気を失っていたことに気が付き、思わず鈍い痛みの残る首筋の違和感を感じながら身を捩る。思うようにならない体を動かそうとする内に、次第に意識がハッキリしていく。それと同時に自分が毛足の長い絨毯とはいえ床に転がされていて、手がガッチリと後ろ手に括られているのに気が付く。口もテープでキッチリ塞がれている事に気が付いて、絨毯越しの床の感触にズリ…と無造作に体を引き摺らせた。
何とか謝恩会を抜け出して、校外に抜け出てスマホを取り出したところまでは記憶がある。しかし次の瞬間何か鋭く針を突き刺されるような痛みを首に押し付けられたような感覚の後、意識はふっつりと途絶えていた。
……何だってんだよ…こんなの…っ…
ギチギチと音をさせて腕を捩りながら、朦朧とした意識を引き寄せる。恐らくスタンガンのようなものを、直接首に当てられ続けたのだとは理解できた。体を何とか回すと自分の手足を縛っているのが何か見ようと、体を捻り身を捩らせる。流石に同じ体勢で転がされていたせいか、普段は柔軟性のある体が強張っている。肩をミシミシと音をさせながら仁聖は、何とか腕の輪を下肢にくぐらせようと大きく身を捩じらせ始めた。
現実的にスタンガンでは、気絶することは殆どない。スタンガンは名前と違って威嚇や戦意を喪失させる為の道具だ。しかし、自分は首筋という危険な部位に長時間当てられたと言う事実を加えてもらその武器自体改造してあったとも考えられる。
ギシギシときしむ体の感覚を感じながら、それでも仁聖は必死になって何とか腕を自由にしようともがいていた。
気を失う時…一瞬見たような気がした………もしかしたら…。
それは見た事があると確信を持って言える靴だった。
少し独特のあまり見ないタイプ、気にしなければ分からないが海外製のメーカーはここいらでは取り寄せなければ中々手にはいらない。それは同時に酷く仁聖を不安に陥れる記憶と重なっているのだ。それはほんの数ヶ月前に恭平も仁聖にも忘れられない事件が起きた場所に、捨てるようにおき去りにした恭平自身の靴だった。
※※※
キングサイズのベットを前に息を詰めたまま立ち尽くしている恭平の項に音をさせて口付けて、了は心底可笑しそうに笑う。執拗に耳朶や項を舐り続け中々話を進めようとしない了に青褪めて強張った表情の恭平の視線が不意に怒りに満ちた色を浮かべた。それを見つめて了は、何故か少し嬉しそうに笑う。
「その目………変わんないよな…?」
「いい加減に………。」
言葉を繋ごうとした恭平の肩に、スルンと見慣れた紺色のネクタイが滑るように垂らされる。それが誰のものか一目で理解した恭平の表情が再び凍りついたのに、了は尚更面白そうに笑いながらそのネクタイを取り上げベットに向かって投げた。
「さ?恭平、どうする?」
パサっと軽い音を立ててベットの上に落ちたネクタイが音もなく床に滑り落ちていく。それを凍りついたまま見つめた恭平が、きつく握りしめた手を微かに震わせている。それが分かっていて了は歪に光る眼で、恭平の顔を肩越しに覗き込むとニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。そうしてユックリと背後から目の前に回った了の姿を凍りつき不安に曇る瞳が見据え、その言葉の意味をどう理解していいのか理解できていない風に揺れる。
「どうすんの?…ここで帰るんなら別に構わないけど?」
「………分かった…。」
「………何が、分かったって?」
あざける様にそう口にした了が歩み寄って、床からネクタイを拾い上げる。無造作にネクタイをベットの上に投げる姿を目に、恭平は苦悩に満ちた視線を懇願するように震わせた。
「……何でも言う事を聞く…だから…。」
今まで自分が知っていた恭平では、予想も出来ないほど安易に引き出された懇願の声。思わず了は、恭平に向けて嘲笑の声を放った。そうしながら了は自分に苦悩に満ちた視線を向ける恭平を眺める。今まで一度としてそんな風に自分に懇願する姿を見せた事のない恭平の姿は酷く脆く、了の加虐心を激しく煽りたてていく。
「跪けよ。」
ビクンとその言葉に慄く恭平の体が戸惑いながら声もなく了を見つめ、その視線が酷く歪な喜びに満たされているのを知って息を詰めてその場にユックリと跪いた。
「はは……言うなりだな。」
伏せた睫毛が震えるのを見下ろしながら、了が無造作に恭平に向かって歩み寄る。目の前にたった了が不意に微かに衣擦れの音を立ててジッパーをさげたかと思うと、グイとその手が恭平の俯いた細い頤を持ち上げた。恭平は顎を上げさせられ、目に突き付けられた現実に目を見張った。
下着から引き出された、半ば硬くなり始めた了の肉茎。赤黒く起ち始めている逸物を目の前に、明らかに不快感に凍りつく恭平の綺麗な顔を見下ろしながら残酷な笑みを敷く。
「口、開けろ。」
「……っ。」
グイともう一度顎を引かれて、柔らかな唇に突きつけられる亀頭にその肌が引き攣る。恭平の唇の感触をグニグニと押し付けた先端で楽しむ了の、冷ややかな声が無慈悲に囁きかける。
「………仁聖君がどうしてるか知りたいんだろ?」
その言葉に体が電流でも流された様に慄き、震える唇が薄らと開く。無造作に唇を押し開き、先端から涎を垂らす肉棒を一気に奥まで捻じ込む。無理やり捩じ込まれた衝撃で恭平がえずきながら、苦痛の呻きをあげるのを直に肉棒に振動で感じながら了が嘲笑を放つ。艶やかな黒髪に指を絡めるようにして頭を無理やり引き寄せ、腰を振り立てて柔らかく滑らかなその口腔の感触を味わう。
「っ……ぐ……ぅ…っ…う……!」
「あぁ…すっげ……ほら、もっと深く咥えろよ。」
眉を寄せて必死にその行為に耐える恭平の表情を楽しみながら、了はグイグイと腰を激しく前後に突き動かす。
「ほら、ちゃんと舐めろよ?もっと旨そうにさぁ?あのガキのだってしてやってるんだろ?」
嘲りの言葉に心を割かれながら、同時にその言葉が示す様な仁聖の存在をひけらかす声音に恭平の表情が苦悩に歪む。頭を押さえ込まれグポグポと卑猥な水音を立てて、激しい前後動作を続ける了がけしかけるような声を放つ。
「ほら、ちゃんと音たてて舌使えよ、気持ちよくねぇから。ほら、早くおしゃぶりしろって。チュポチュポ音たててよ。」
苦悩に満ちた表情がその言葉に硬く目を閉じ、僅かに促される音を立てる。クチュチュプと控え目にすら聞こえる舌を絡める濡れた音にゾクゾクとした快感を感じながら、了が更に無慈悲な動作を繰り返し歓喜に満ちる吐息を溢す。
「あぁ、いいな……口に出しちまいそうだ…。」
急激に熱を帯びて欲望を膨らませる怒張に望まない奉仕をしながら、掌に爪が食い込むほどに握られた手が震える。卑猥な水音を大きく上げて膨らみきった自身を口腔に擦りつける動作が性急さを増していくのを感じて恭平が必死に眉を寄せるのを目に、了が快感にうっとりとした声で囁く。
「いきそうだ……しゃぶるの好きなんだな?口に出してやるよ。」
嘲り貶められる言葉に切り裂かれる。それでも一度達したら全てが終わるのではないかと淡い期待がわいて、恭平の舌が悲しげに見える仕草で音を立ててそれを促す。
「何だ、そんなに口に出してほしかったのか?おしゃぶり大好きだな?恭平。」
熱を帯びたかのようなその動作の変化を感じ取った了が、自身に施される奉仕を暫く堪能したかと思うと不意に激しく腰を振り立て喉の奥まで犯し始める。
「ぐぅっうぐっぐぶっ!」
「はは、上手だ、出すぞ?」
ドブリと吐き出された精を口で一端は受け止めた恭平が、苦しげに顔を背けて床にそれを全て吐き出すのを了は息を荒げながら見下ろした。むせかえる様にしながらその動作に眉を欹てる恭平に、可笑しそうに表情を変えて了が覗き込む。
「口でいかせたら終わってくれるなんて思ってないよな?そんなの甘いって分かってるだろ?」
グイと腕を引き上げられ引きずるように立ち上がらされた恭平の背中を視線の先のベットに向かって押す。
「脱げよ。」
そう言いながら背後で服を肌蹴る衣擦れの音を感じながら、恭平は自分が一体どんな状況にあるのか既に理解できなくなっている。脱ぐ?ここで?恭平は呆然と立ち竦む。凍りつき身動ぎも出来ない恭平の背後に気配が歩み寄り、小さな低い声が命令するように呟く。
「服破かれたくないだろ?この後を考えたら。」
「……何で…こんな……こんな事……。」
困惑に満ちたその言葉に背後から肩に顔を乗せるようにした了が不意に冷たい視線でその顔を覗き込んだかと思うと、細くしなやかな腰に手を回し力を込めて肌に指を立てる。
「………前からずっと言ってやってただろ?お前とやりたいって。」
爪の立つような力の籠る指の感触に恭平の表情が、更に不安で凍りつく。
「お前に突っ込んでよがらせて…お前も他の奴と何にも変わんない、快感には勝てないって分かったら俺のこのモヤモヤもスッキリするんだよ…。」
背後から抱きとめられる様な体勢で低く囁かれる言葉の意味に、恭平の表情が信じられないと歪む。ただ自分の欲望を満たすために友人だった筈の自分を言うがままにして、しかも犯したらスッキリする?そんなの本気で言っているのかと恭平の瞳が訴えかけている。それでも、了は楽しげな表情を崩すことなく、その顔を笑顔でみながら言葉を続けた。
「自分で脱げよ?ほら。はやくしねーと?この後可愛い仁聖君をお迎えに行くんだろ?」
指定の階は三十階。エレベーターがガラス張りで夕暮れに輝き始めた夜景が背後に広がっていることすら、高所恐怖症の筈の恭平は目にも入らないでいる。一人きりでグングンと昇っていくエレベーターの感覚すら吐き気を催しそうな程なのに、足を踏み出した絨毯敷きの廊下は人気すらない。誰に見咎められることもなくドアの前まで足を進め、血の気の引いた真っ白な指先が震えながらドアチャイムを押す。
微かな軋む音を立てて開かれたドアの先から、三ヶ月ほど前に見た時より肉をそぎ落としたような無表情の顔が覗く。戸惑いに満ちた瞳でその顔を見つめる恭平に、了はまるで友人を招待していたという風に微笑みかけ室内へ入るよう促した。
音を吸い取るようなフワフワした絨毯の感触。それともこれは気を失いかけているだけなのだろうかと足の裏に感じながら、促されるままに左側の扉に足を向ける。右側にはもう一つの扉と応接間のようなソファーが僅かに見え、ここが普通の客室ではなくスイートルームの類いなのだと理解した。
鈍った足取りを促すように肩を抱かれて、押し込まれるように扉を中に連れ込まれる。
その光景をみた瞬間に、自分の喉がヒュッと掠れた息を呑むのが分かった。
酷く湿度を感じる暑い室内。
よくあるシティホテルの簡素な室内と違う、視界の先にあるキングサイズのベットの存在。奥にはソファーとテーブル、入ってきた扉の向かいにあるもう一つの扉。しかも、視界は夕暮れに広がる一面の夜景。同時にそうだろうとは思っていたが取り返しに来た筈の姿がないことに、激しい失望と動揺を感じながら震えを押し殺した低い声が溢れる。
「……仁聖は…?」
不意にその声に盛大な溜め息をわざとらしくついた了の腕が背後からその体を絡めとる。
「最初の言葉がそれって………ホントつれないよな?恭平。」
「……何処にいる?」
強張った腕の中の体を楽しむように耳元に寄せた唇が不意に耳朶をネロリと舐り、恭平は更に体を強張らせた。肌に与えられる不快感と眼前に広がる高所の恐怖で鳥肌があっという間にたっていく。手を固く握りしめ震え出さないようにと思うのに、耳朶から項を舐りまわす舌に体が戦きを隠せない。
「………知りたかったら、大人しくしてろよ?」
耳障りな声を上げて体に触れてくる手の感触に息が詰まり、スルリと腰を撫でる指先の感触に全身がが粟立っていくのがわかって恭平は唇を噛んだ。なすがままにされ、それを必死で耐える気配を漂わせる恭平の仕草に嘲るように了が声を上げる。
「健気だねー?恭平ってそういうタイプだったっけ?」
※※※
不意に何かの気配で引き戻された微かな感覚に、ボンヤリと意識を取り戻していた。陽射しは暗く電気はついていないが、ウッスラと室内が見渡せる。大きな窓ガラスから射し込む外の灯りが、室内を浮き上がらせているのだ。
……ここ、どこ?
自分が気を失っていたことに気が付き、思わず鈍い痛みの残る首筋の違和感を感じながら身を捩る。思うようにならない体を動かそうとする内に、次第に意識がハッキリしていく。それと同時に自分が毛足の長い絨毯とはいえ床に転がされていて、手がガッチリと後ろ手に括られているのに気が付く。口もテープでキッチリ塞がれている事に気が付いて、絨毯越しの床の感触にズリ…と無造作に体を引き摺らせた。
何とか謝恩会を抜け出して、校外に抜け出てスマホを取り出したところまでは記憶がある。しかし次の瞬間何か鋭く針を突き刺されるような痛みを首に押し付けられたような感覚の後、意識はふっつりと途絶えていた。
……何だってんだよ…こんなの…っ…
ギチギチと音をさせて腕を捩りながら、朦朧とした意識を引き寄せる。恐らくスタンガンのようなものを、直接首に当てられ続けたのだとは理解できた。体を何とか回すと自分の手足を縛っているのが何か見ようと、体を捻り身を捩らせる。流石に同じ体勢で転がされていたせいか、普段は柔軟性のある体が強張っている。肩をミシミシと音をさせながら仁聖は、何とか腕の輪を下肢にくぐらせようと大きく身を捩じらせ始めた。
現実的にスタンガンでは、気絶することは殆どない。スタンガンは名前と違って威嚇や戦意を喪失させる為の道具だ。しかし、自分は首筋という危険な部位に長時間当てられたと言う事実を加えてもらその武器自体改造してあったとも考えられる。
ギシギシときしむ体の感覚を感じながら、それでも仁聖は必死になって何とか腕を自由にしようともがいていた。
気を失う時…一瞬見たような気がした………もしかしたら…。
それは見た事があると確信を持って言える靴だった。
少し独特のあまり見ないタイプ、気にしなければ分からないが海外製のメーカーはここいらでは取り寄せなければ中々手にはいらない。それは同時に酷く仁聖を不安に陥れる記憶と重なっているのだ。それはほんの数ヶ月前に恭平も仁聖にも忘れられない事件が起きた場所に、捨てるようにおき去りにした恭平自身の靴だった。
※※※
キングサイズのベットを前に息を詰めたまま立ち尽くしている恭平の項に音をさせて口付けて、了は心底可笑しそうに笑う。執拗に耳朶や項を舐り続け中々話を進めようとしない了に青褪めて強張った表情の恭平の視線が不意に怒りに満ちた色を浮かべた。それを見つめて了は、何故か少し嬉しそうに笑う。
「その目………変わんないよな…?」
「いい加減に………。」
言葉を繋ごうとした恭平の肩に、スルンと見慣れた紺色のネクタイが滑るように垂らされる。それが誰のものか一目で理解した恭平の表情が再び凍りついたのに、了は尚更面白そうに笑いながらそのネクタイを取り上げベットに向かって投げた。
「さ?恭平、どうする?」
パサっと軽い音を立ててベットの上に落ちたネクタイが音もなく床に滑り落ちていく。それを凍りついたまま見つめた恭平が、きつく握りしめた手を微かに震わせている。それが分かっていて了は歪に光る眼で、恭平の顔を肩越しに覗き込むとニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。そうしてユックリと背後から目の前に回った了の姿を凍りつき不安に曇る瞳が見据え、その言葉の意味をどう理解していいのか理解できていない風に揺れる。
「どうすんの?…ここで帰るんなら別に構わないけど?」
「………分かった…。」
「………何が、分かったって?」
あざける様にそう口にした了が歩み寄って、床からネクタイを拾い上げる。無造作にネクタイをベットの上に投げる姿を目に、恭平は苦悩に満ちた視線を懇願するように震わせた。
「……何でも言う事を聞く…だから…。」
今まで自分が知っていた恭平では、予想も出来ないほど安易に引き出された懇願の声。思わず了は、恭平に向けて嘲笑の声を放った。そうしながら了は自分に苦悩に満ちた視線を向ける恭平を眺める。今まで一度としてそんな風に自分に懇願する姿を見せた事のない恭平の姿は酷く脆く、了の加虐心を激しく煽りたてていく。
「跪けよ。」
ビクンとその言葉に慄く恭平の体が戸惑いながら声もなく了を見つめ、その視線が酷く歪な喜びに満たされているのを知って息を詰めてその場にユックリと跪いた。
「はは……言うなりだな。」
伏せた睫毛が震えるのを見下ろしながら、了が無造作に恭平に向かって歩み寄る。目の前にたった了が不意に微かに衣擦れの音を立ててジッパーをさげたかと思うと、グイとその手が恭平の俯いた細い頤を持ち上げた。恭平は顎を上げさせられ、目に突き付けられた現実に目を見張った。
下着から引き出された、半ば硬くなり始めた了の肉茎。赤黒く起ち始めている逸物を目の前に、明らかに不快感に凍りつく恭平の綺麗な顔を見下ろしながら残酷な笑みを敷く。
「口、開けろ。」
「……っ。」
グイともう一度顎を引かれて、柔らかな唇に突きつけられる亀頭にその肌が引き攣る。恭平の唇の感触をグニグニと押し付けた先端で楽しむ了の、冷ややかな声が無慈悲に囁きかける。
「………仁聖君がどうしてるか知りたいんだろ?」
その言葉に体が電流でも流された様に慄き、震える唇が薄らと開く。無造作に唇を押し開き、先端から涎を垂らす肉棒を一気に奥まで捻じ込む。無理やり捩じ込まれた衝撃で恭平がえずきながら、苦痛の呻きをあげるのを直に肉棒に振動で感じながら了が嘲笑を放つ。艶やかな黒髪に指を絡めるようにして頭を無理やり引き寄せ、腰を振り立てて柔らかく滑らかなその口腔の感触を味わう。
「っ……ぐ……ぅ…っ…う……!」
「あぁ…すっげ……ほら、もっと深く咥えろよ。」
眉を寄せて必死にその行為に耐える恭平の表情を楽しみながら、了はグイグイと腰を激しく前後に突き動かす。
「ほら、ちゃんと舐めろよ?もっと旨そうにさぁ?あのガキのだってしてやってるんだろ?」
嘲りの言葉に心を割かれながら、同時にその言葉が示す様な仁聖の存在をひけらかす声音に恭平の表情が苦悩に歪む。頭を押さえ込まれグポグポと卑猥な水音を立てて、激しい前後動作を続ける了がけしかけるような声を放つ。
「ほら、ちゃんと音たてて舌使えよ、気持ちよくねぇから。ほら、早くおしゃぶりしろって。チュポチュポ音たててよ。」
苦悩に満ちた表情がその言葉に硬く目を閉じ、僅かに促される音を立てる。クチュチュプと控え目にすら聞こえる舌を絡める濡れた音にゾクゾクとした快感を感じながら、了が更に無慈悲な動作を繰り返し歓喜に満ちる吐息を溢す。
「あぁ、いいな……口に出しちまいそうだ…。」
急激に熱を帯びて欲望を膨らませる怒張に望まない奉仕をしながら、掌に爪が食い込むほどに握られた手が震える。卑猥な水音を大きく上げて膨らみきった自身を口腔に擦りつける動作が性急さを増していくのを感じて恭平が必死に眉を寄せるのを目に、了が快感にうっとりとした声で囁く。
「いきそうだ……しゃぶるの好きなんだな?口に出してやるよ。」
嘲り貶められる言葉に切り裂かれる。それでも一度達したら全てが終わるのではないかと淡い期待がわいて、恭平の舌が悲しげに見える仕草で音を立ててそれを促す。
「何だ、そんなに口に出してほしかったのか?おしゃぶり大好きだな?恭平。」
熱を帯びたかのようなその動作の変化を感じ取った了が、自身に施される奉仕を暫く堪能したかと思うと不意に激しく腰を振り立て喉の奥まで犯し始める。
「ぐぅっうぐっぐぶっ!」
「はは、上手だ、出すぞ?」
ドブリと吐き出された精を口で一端は受け止めた恭平が、苦しげに顔を背けて床にそれを全て吐き出すのを了は息を荒げながら見下ろした。むせかえる様にしながらその動作に眉を欹てる恭平に、可笑しそうに表情を変えて了が覗き込む。
「口でいかせたら終わってくれるなんて思ってないよな?そんなの甘いって分かってるだろ?」
グイと腕を引き上げられ引きずるように立ち上がらされた恭平の背中を視線の先のベットに向かって押す。
「脱げよ。」
そう言いながら背後で服を肌蹴る衣擦れの音を感じながら、恭平は自分が一体どんな状況にあるのか既に理解できなくなっている。脱ぐ?ここで?恭平は呆然と立ち竦む。凍りつき身動ぎも出来ない恭平の背後に気配が歩み寄り、小さな低い声が命令するように呟く。
「服破かれたくないだろ?この後を考えたら。」
「……何で…こんな……こんな事……。」
困惑に満ちたその言葉に背後から肩に顔を乗せるようにした了が不意に冷たい視線でその顔を覗き込んだかと思うと、細くしなやかな腰に手を回し力を込めて肌に指を立てる。
「………前からずっと言ってやってただろ?お前とやりたいって。」
爪の立つような力の籠る指の感触に恭平の表情が、更に不安で凍りつく。
「お前に突っ込んでよがらせて…お前も他の奴と何にも変わんない、快感には勝てないって分かったら俺のこのモヤモヤもスッキリするんだよ…。」
背後から抱きとめられる様な体勢で低く囁かれる言葉の意味に、恭平の表情が信じられないと歪む。ただ自分の欲望を満たすために友人だった筈の自分を言うがままにして、しかも犯したらスッキリする?そんなの本気で言っているのかと恭平の瞳が訴えかけている。それでも、了は楽しげな表情を崩すことなく、その顔を笑顔でみながら言葉を続けた。
「自分で脱げよ?ほら。はやくしねーと?この後可愛い仁聖君をお迎えに行くんだろ?」
0
お気に入りに追加
249
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる