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第一章
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都立第三高校三年一組。
別段特別じゃないと思うが、聞くに一組の選抜は各学年の成績上位とスポーツ特待生候補なのだと真しやかに噂されている。別にそれに入ったからどうと言うことはないのたが、管理する教師もその方が楽なのかもしれないとは思うのだ。
源川仁聖が高校三年の十八の誕生日を迎えて暫く、呆れるほどに澄んだ空は既に夏の兆しを見せていた。仁聖は退屈そうに一階の窓辺から校庭の喧騒を眺め、ふと物思いに耽る。人懐っこい癖にどこか少しに日本人離れしたような整った顔立ちに、これまた均整の取れた上背のあるしなやかな四肢。人付き合いも良く勉強も出来るし、運動も出来る。人に羨ましがられるほどの資質を備えていながら余り人の嫉妬心を買わないのは、その立ち回りのよさと愛嬌のある笑顔のせいかもしれない。様々な女性遍歴も多々あるという噂を醸しつつ、それでも同性にも異性にもそれ程嫌われもしないのは彼の独特の雰囲気なのだろう。
溜息混じりに頬杖をつくその姿に、小学校に入る前からの幼馴染である宮内慶太郎が歩み寄る。
「どうした?仁聖。彼女と喧嘩でもしたのか?」
少しまだ幼い我の強さは残しつつもこちらはすっきりとした純日本風な美丈夫といえる幼馴染の顔を見上げ、仁聖は何気なく気のない様子で口を開く。どちらもクラスではちょっと人目を惹くような顔立ちで時折クラスの女子の視線を感じることも多々ある訳だが、どちらもそれを鼻にかけることもないし何よりあまりそれに興味がなさそうでもある。
「んー?彼女……?あ、志保とはわかれた」
「はぁ?」
既に十年以上にもなる慶太郎と仁聖の付き合いだが、幼馴染としても仁聖がもてるのは分かっていた。女性と付き合ってても紳士的だし、目立ったような問題もないのに何故か数週間から数ヶ月もすると彼は女性と分かれてしまうのだ。大部分が女性から切り出されるのだが。とは言え別段彼はそれを気にした風でもなく、いつも飄々としている。実際今もそれではない何か別な事に思いをはせている様子で頬杖をついたまま深い溜息をついた。
「やっぱさぁ、女の子は鋭いよなぁ?慶太郎。」
「あぁ?」
「分かっちゃうんだもんなぁ。」
何がだよと問いかけながら、思わず目の前の席に慶太郎が腰かける。それに気がついているのかいないのか仁聖は物憂げに窓の外を眺めながら溜息をもう1つつくとまるで独り言のようにポツリと呟く。
「ほんとに好きなのは別な人だって…何でか分かっちゃうんだよなぁ。」
「はぁぁ?!」
思わず大声を上げて周囲の視線を集めてしまったのに、慌てながら慶太郎は改めて咳払いをする。そうして仁聖に向かって乗り出したかと思うと声を潜めた。
既に周囲は先ほどの彼の声などなかったかのように普段に戻ってはいたが、仁聖の爆弾発言は辺りに公表するには大きすぎる。なにしろクラスにも恐らく一人か二人は彼と付き合いたいと今もアプローチをかけているものもいるはずだし、目の前の幼馴染の彼自身が基本来るものは拒まずなのだ。
「ど…どういうことだよ?何でその本命にアタックしないんだよ?お前。」
「ん~…だって、どう考えても無理なんだよね、俺の場合。高嶺の花って言うかさぁ。」
はぁと再び溜息をついた悪びれもしない言葉に、慶太郎は呆れ顔で眺める。これほどもてる男がアタックも出来ない高嶺の花がそうそう存在するとは思えなかったが、彼が冗談を言っているようにも見えない。仁聖は物憂げな視線で窓の外を眺めながら口を噤むと、再び何かを考え込むように遠い目をしていた。
※※※
一瞬・机の上の時計に視線を走らせた榊恭平は、ふぅと息をついてキーを叩く手を止めると椅子の上で硬くなった背筋を伸ばすように伸び上がり、ゆっくりと首を回した。
現在二十五歳になるわりには涼やかな目元や少々女性的な顔立ち、しなやかで華奢と言った方がいいようなその体つきからも歳よりも若く見られがちな彼は大学を卒業して翻訳で生計を立てている。シングルマザーだった母親が残したマンションに十八歳の頃から独り暮らしをしているが別段不自由もなく、ある意味悠々自適な生活をしているとも言える。もともと一人でいることのほうが好きだし、この仕事を始めてからは更に交流は減ったが最低限の友人もいる。そういう訳で自分勝手な日々を過ごしているとも言えるのだが、必ず週に一度
「恭平っ、まぁた飯も食わないで仕事してんだろ?」
何故かもう十年以上も自宅に通う高校生の姿に、恭平は首だけを巡らせて視線を向けた。何時の間にか名前が呼び捨てになって大分経つが、何時の間にやらメキメキと成長した仁聖は体格だけ見たら自分よりしっかりしてきたような気がする。
昔は恭平自身キチンと自己管理していたのだが、独り暮らしの常か段々適当になって面倒になった時には食事をするのを止めてしまったりすることが増えた。そのせいで恭平の方は華奢だったのが、更に線が細くなってしまったのは事実だ。数年前にそれが原因で貧血を起こすと言うていたらくで倒れてしまったことがある。それが仁聖にばれてからと言うもの、彼は来る度まるで保護者のように自分の身の回りの事を気遣う様になっていた。
「………食べたって。」
「何時?なに食べたんだよ?言ってみろ。」
即答できない時点で反論も言い訳も半ば諦めて恭平は、椅子を回して立ちあがる。何がそこまで気に入られたのかはわからないが、この関係はもうずっと続いてきたもので変わらないような気すらしていた。子供のような仁聖の拗ねた表情の顔を眺めながら苦笑して恭平は歩き出す。
キッチンへと向かい何か作って一緒に食べる、それだけでその拗ねた顔が笑うのだから、まあ悪くはないのかもしれない。
昔からどうしてもコイツには甘いんだよなと内心呟きつつ、その理由を頭から締め出しながら恭平は、キッチンに足を踏み入れていた。
暫くしてカチンと硬く手にしていたスプーンが皿に当たる音がして、一瞬何を問いかけられたかが分からないまま恭平は目の前の高校の制服姿の青年を眺めた。
「は?」
思わず疑問符の浮かぶ声を恭平が返すと、皿からピラフを一口掬ったスプーンを元気に口に運びながら仁聖は上目遣いに彼を見やる。
「だから、恭平、最近彼女出来ないじゃん?あっちの方はどうしてんのかなーって。」
「……食事中の話しか?それが。」
やっと理解できた内容に呆れ顔になる恭平の綺麗で格好いい表情を眺めながら、然り気無いふりを決め込む仁聖は目を細めた。仁聖が知ってる恭平の最後の彼女はもう四年も前の話で、大学を卒業して恭平は極端に人付き合いが減った。目の前の穏やかな物腰の青年は、ある種の引き篭もりのようにひっそりとした生活をしている。大学生時代には彼女をとっかえひっかえしたと言っても過言ではなかったほどにもてていた姿を知っているだけに、今の静けさは不思議で仕方がない。今だって普通に街を歩けばモデルにはどうかと声をかけられる恭平なら普通にしていても彼女は直ぐできそうだ。何気ないふりをしながら問いかける言葉の裏側には、恭平は気がつかない。そんな様子の恭平の呆れた溜息を無視して、仁聖は更に言葉を続ける。
「だってさ?恭平、格好いいし、大学生の時はとっかえひっかえだったでしょ?」
格好いいと誉められれば不快は無いとは言え、若さゆえの直線的な物言いに半分呆れ・半分諦めといった風情で恭平はその質問を却下したように食器を片手に立ち上がる。
逃げに入った恭平の姿に子犬のように纏わりつきながら、その細い肩に後ろから顎を乗せて甘えるように仁聖は彼の横顔を覗きこむ。少し怒らせたかなと不安を感じながら恭平の顔を覗きこみ、その陽に当たらない分更に透ける様に白くなった肌を眺めた。フワリと不意に甘い恭平の香りが漂ったかと思うと、予想外に彼の顔が振り返り自分の顔とほんの数センチの間隔で、微かに睨むように見つめる。
「重い、洗いにくいだろ?」
数センチの先で開かれた口元を見つめた仁聖の表情に、初めて恭平の瞳に一瞬戸惑いが浮かぶ。一瞬そのまま触れてしまいそうになった動作に内心焦りながら頬を染めて仁聖は、自分でも最大限の努力をして肩から顎を引き剥がし体を離した。その動作に、僅かに恭平の表情が訝しげに曇ったのを感じながらキッチンから出た仁聖はカウンターを回り込む。
「恭平、俺珈琲飲みたい。」
一瞬の違和感が掻き消して普段とかわらない仁聖の声音に、恭平の表情が苦笑を浮かべ綺麗に揺れる。内心酷く自分の自制が効かない行動に焦りながらも仁聖は、文句を言いながらも珈琲を入れるために薬缶を火にかけた彼の綺麗な四肢をついウットリとした気分で眺めていた。
やっぱり凄く綺麗だ。
しなやかな細い指先に、滑らかな所作。流れるような体の動き。そのどれもが仁聖にとっては官能的で匂いたつように見えている。心の中でふと呟きながら仁聖はカウンターに頬杖をついてその姿を余すところがないように見つめる。
しなやかな動作も、その動きを生み出す体も凄く綺麗でカッコいい。
傍に居たいのに、近付き過ぎると自分の自制が効かなくなるのが怖かった。つい触れてしまって拒否されてしまったら、二度とこうして傍で見つめることが出来なくなるかもしれない、そう思うと怖くなってしまう。この言い方には語弊があるのだが相手が女性だったら簡単に通じる気持ちも、相手が彼では通じないだろう。そう感じている・分かっているからこそ、ただ子供のように装って彼の傍にいたい。ただ身の回りの気遣いや世話ということに託けても恭平の傍に居たかった。
「ほら。」
「ありがと、恭平。」
仁聖が笑いかけると少し嬉しそうに微笑む恭平の優しくて綺麗な顔を眺めながら、先ほどの仄かな香りを思い出して自分の奥底が欲望でざわめいているのを仁聖は自覚していた。
別段特別じゃないと思うが、聞くに一組の選抜は各学年の成績上位とスポーツ特待生候補なのだと真しやかに噂されている。別にそれに入ったからどうと言うことはないのたが、管理する教師もその方が楽なのかもしれないとは思うのだ。
源川仁聖が高校三年の十八の誕生日を迎えて暫く、呆れるほどに澄んだ空は既に夏の兆しを見せていた。仁聖は退屈そうに一階の窓辺から校庭の喧騒を眺め、ふと物思いに耽る。人懐っこい癖にどこか少しに日本人離れしたような整った顔立ちに、これまた均整の取れた上背のあるしなやかな四肢。人付き合いも良く勉強も出来るし、運動も出来る。人に羨ましがられるほどの資質を備えていながら余り人の嫉妬心を買わないのは、その立ち回りのよさと愛嬌のある笑顔のせいかもしれない。様々な女性遍歴も多々あるという噂を醸しつつ、それでも同性にも異性にもそれ程嫌われもしないのは彼の独特の雰囲気なのだろう。
溜息混じりに頬杖をつくその姿に、小学校に入る前からの幼馴染である宮内慶太郎が歩み寄る。
「どうした?仁聖。彼女と喧嘩でもしたのか?」
少しまだ幼い我の強さは残しつつもこちらはすっきりとした純日本風な美丈夫といえる幼馴染の顔を見上げ、仁聖は何気なく気のない様子で口を開く。どちらもクラスではちょっと人目を惹くような顔立ちで時折クラスの女子の視線を感じることも多々ある訳だが、どちらもそれを鼻にかけることもないし何よりあまりそれに興味がなさそうでもある。
「んー?彼女……?あ、志保とはわかれた」
「はぁ?」
既に十年以上にもなる慶太郎と仁聖の付き合いだが、幼馴染としても仁聖がもてるのは分かっていた。女性と付き合ってても紳士的だし、目立ったような問題もないのに何故か数週間から数ヶ月もすると彼は女性と分かれてしまうのだ。大部分が女性から切り出されるのだが。とは言え別段彼はそれを気にした風でもなく、いつも飄々としている。実際今もそれではない何か別な事に思いをはせている様子で頬杖をついたまま深い溜息をついた。
「やっぱさぁ、女の子は鋭いよなぁ?慶太郎。」
「あぁ?」
「分かっちゃうんだもんなぁ。」
何がだよと問いかけながら、思わず目の前の席に慶太郎が腰かける。それに気がついているのかいないのか仁聖は物憂げに窓の外を眺めながら溜息をもう1つつくとまるで独り言のようにポツリと呟く。
「ほんとに好きなのは別な人だって…何でか分かっちゃうんだよなぁ。」
「はぁぁ?!」
思わず大声を上げて周囲の視線を集めてしまったのに、慌てながら慶太郎は改めて咳払いをする。そうして仁聖に向かって乗り出したかと思うと声を潜めた。
既に周囲は先ほどの彼の声などなかったかのように普段に戻ってはいたが、仁聖の爆弾発言は辺りに公表するには大きすぎる。なにしろクラスにも恐らく一人か二人は彼と付き合いたいと今もアプローチをかけているものもいるはずだし、目の前の幼馴染の彼自身が基本来るものは拒まずなのだ。
「ど…どういうことだよ?何でその本命にアタックしないんだよ?お前。」
「ん~…だって、どう考えても無理なんだよね、俺の場合。高嶺の花って言うかさぁ。」
はぁと再び溜息をついた悪びれもしない言葉に、慶太郎は呆れ顔で眺める。これほどもてる男がアタックも出来ない高嶺の花がそうそう存在するとは思えなかったが、彼が冗談を言っているようにも見えない。仁聖は物憂げな視線で窓の外を眺めながら口を噤むと、再び何かを考え込むように遠い目をしていた。
※※※
一瞬・机の上の時計に視線を走らせた榊恭平は、ふぅと息をついてキーを叩く手を止めると椅子の上で硬くなった背筋を伸ばすように伸び上がり、ゆっくりと首を回した。
現在二十五歳になるわりには涼やかな目元や少々女性的な顔立ち、しなやかで華奢と言った方がいいようなその体つきからも歳よりも若く見られがちな彼は大学を卒業して翻訳で生計を立てている。シングルマザーだった母親が残したマンションに十八歳の頃から独り暮らしをしているが別段不自由もなく、ある意味悠々自適な生活をしているとも言える。もともと一人でいることのほうが好きだし、この仕事を始めてからは更に交流は減ったが最低限の友人もいる。そういう訳で自分勝手な日々を過ごしているとも言えるのだが、必ず週に一度
「恭平っ、まぁた飯も食わないで仕事してんだろ?」
何故かもう十年以上も自宅に通う高校生の姿に、恭平は首だけを巡らせて視線を向けた。何時の間にか名前が呼び捨てになって大分経つが、何時の間にやらメキメキと成長した仁聖は体格だけ見たら自分よりしっかりしてきたような気がする。
昔は恭平自身キチンと自己管理していたのだが、独り暮らしの常か段々適当になって面倒になった時には食事をするのを止めてしまったりすることが増えた。そのせいで恭平の方は華奢だったのが、更に線が細くなってしまったのは事実だ。数年前にそれが原因で貧血を起こすと言うていたらくで倒れてしまったことがある。それが仁聖にばれてからと言うもの、彼は来る度まるで保護者のように自分の身の回りの事を気遣う様になっていた。
「………食べたって。」
「何時?なに食べたんだよ?言ってみろ。」
即答できない時点で反論も言い訳も半ば諦めて恭平は、椅子を回して立ちあがる。何がそこまで気に入られたのかはわからないが、この関係はもうずっと続いてきたもので変わらないような気すらしていた。子供のような仁聖の拗ねた表情の顔を眺めながら苦笑して恭平は歩き出す。
キッチンへと向かい何か作って一緒に食べる、それだけでその拗ねた顔が笑うのだから、まあ悪くはないのかもしれない。
昔からどうしてもコイツには甘いんだよなと内心呟きつつ、その理由を頭から締め出しながら恭平は、キッチンに足を踏み入れていた。
暫くしてカチンと硬く手にしていたスプーンが皿に当たる音がして、一瞬何を問いかけられたかが分からないまま恭平は目の前の高校の制服姿の青年を眺めた。
「は?」
思わず疑問符の浮かぶ声を恭平が返すと、皿からピラフを一口掬ったスプーンを元気に口に運びながら仁聖は上目遣いに彼を見やる。
「だから、恭平、最近彼女出来ないじゃん?あっちの方はどうしてんのかなーって。」
「……食事中の話しか?それが。」
やっと理解できた内容に呆れ顔になる恭平の綺麗で格好いい表情を眺めながら、然り気無いふりを決め込む仁聖は目を細めた。仁聖が知ってる恭平の最後の彼女はもう四年も前の話で、大学を卒業して恭平は極端に人付き合いが減った。目の前の穏やかな物腰の青年は、ある種の引き篭もりのようにひっそりとした生活をしている。大学生時代には彼女をとっかえひっかえしたと言っても過言ではなかったほどにもてていた姿を知っているだけに、今の静けさは不思議で仕方がない。今だって普通に街を歩けばモデルにはどうかと声をかけられる恭平なら普通にしていても彼女は直ぐできそうだ。何気ないふりをしながら問いかける言葉の裏側には、恭平は気がつかない。そんな様子の恭平の呆れた溜息を無視して、仁聖は更に言葉を続ける。
「だってさ?恭平、格好いいし、大学生の時はとっかえひっかえだったでしょ?」
格好いいと誉められれば不快は無いとは言え、若さゆえの直線的な物言いに半分呆れ・半分諦めといった風情で恭平はその質問を却下したように食器を片手に立ち上がる。
逃げに入った恭平の姿に子犬のように纏わりつきながら、その細い肩に後ろから顎を乗せて甘えるように仁聖は彼の横顔を覗きこむ。少し怒らせたかなと不安を感じながら恭平の顔を覗きこみ、その陽に当たらない分更に透ける様に白くなった肌を眺めた。フワリと不意に甘い恭平の香りが漂ったかと思うと、予想外に彼の顔が振り返り自分の顔とほんの数センチの間隔で、微かに睨むように見つめる。
「重い、洗いにくいだろ?」
数センチの先で開かれた口元を見つめた仁聖の表情に、初めて恭平の瞳に一瞬戸惑いが浮かぶ。一瞬そのまま触れてしまいそうになった動作に内心焦りながら頬を染めて仁聖は、自分でも最大限の努力をして肩から顎を引き剥がし体を離した。その動作に、僅かに恭平の表情が訝しげに曇ったのを感じながらキッチンから出た仁聖はカウンターを回り込む。
「恭平、俺珈琲飲みたい。」
一瞬の違和感が掻き消して普段とかわらない仁聖の声音に、恭平の表情が苦笑を浮かべ綺麗に揺れる。内心酷く自分の自制が効かない行動に焦りながらも仁聖は、文句を言いながらも珈琲を入れるために薬缶を火にかけた彼の綺麗な四肢をついウットリとした気分で眺めていた。
やっぱり凄く綺麗だ。
しなやかな細い指先に、滑らかな所作。流れるような体の動き。そのどれもが仁聖にとっては官能的で匂いたつように見えている。心の中でふと呟きながら仁聖はカウンターに頬杖をついてその姿を余すところがないように見つめる。
しなやかな動作も、その動きを生み出す体も凄く綺麗でカッコいい。
傍に居たいのに、近付き過ぎると自分の自制が効かなくなるのが怖かった。つい触れてしまって拒否されてしまったら、二度とこうして傍で見つめることが出来なくなるかもしれない、そう思うと怖くなってしまう。この言い方には語弊があるのだが相手が女性だったら簡単に通じる気持ちも、相手が彼では通じないだろう。そう感じている・分かっているからこそ、ただ子供のように装って彼の傍にいたい。ただ身の回りの気遣いや世話ということに託けても恭平の傍に居たかった。
「ほら。」
「ありがと、恭平。」
仁聖が笑いかけると少し嬉しそうに微笑む恭平の優しくて綺麗な顔を眺めながら、先ほどの仄かな香りを思い出して自分の奥底が欲望でざわめいているのを仁聖は自覚していた。
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