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しおりを挟むエルツがグラナートに直接嫌いだと言ってから五日が経った。
この五日間、グラナートから話しかけられることは一度もなく、エルツも必要最低限の会話しかしないようにしていた。
昼食の片付けを終えたエルツが自室に戻ろうと廊下を歩いていると、グラナートの父親に呼び止められた。
「エルツ。頼みたいことがあるんだが、今は手が空いているかな?」
「はい。どうされましたか?」
「インクのストックを切らしてしまってね……。急で悪いが、街でインクを買ってきてくれないか?」
「わかりました」
「ありがとう。助かるよ」
エルツはグラナートの父親に一礼すると、使用人室に向かった。
使用人室にはブラウがいて、エルツはこれから街へ買い物に行くことを話した。
「…………わかった。他の使用人たちにも伝えておくよ。気をつけてね」
「はい。ありがとうございます」
外出の用意を済ませたエルツが家を出ようとすると、階段を下りてきたグラナートに声をかけられた。
「どこにいくの?」
グラナートは五日前のことなどなかったかのように平然としている。
今日まで全く話しかけてこなかったのに、いきなりどうしたのだろう、と思いながらエルツは答えた。
「……街へインクを買いに行ってきます」
するとグラナートはエルツの目の前まで駆け寄ってきた。
「俺も一緒に行きたい!」
目を輝かせているグラナートにエルツは戸惑った。
あれだけはっきり嫌いだと言ったのだから諦めたと思ったのに……。
「……グラナート様は勉強をしないといけないでしょう?」
「早起きをして午前中に終わらせたから大丈夫だよ」
どれだけ早起きをしたのかわからないが、一日分の勉強量を半日で終わらせられたということは、昨日の夜はかなり睡眠時間が短かったはずだ。
エルツは寝不足のグラナートを街へ連れて行くわけにはいかなかった。
「それなら疲れているでしょうから、休まれたほうがいいですよ」
「部屋でじっとしているよりもエルツと一緒に出かけた方が疲れがとれるよ」
「そんなこと——」
「まあ、いいじゃないか。グラナートは気分転換に外に出たいんだろう。一緒に連れていってやってくれ」
いつの間にか近くに来ていたグラナートの父親がエルツの言葉を遮ってそう言った。
「……わかりました」
「助かるよ。……お金を渡すのを忘れていたから持ってきたんだ」
グラナートの父親はエルツに巾着袋を渡すと、グラナートのことを見た。
「お金は余分に入れてあるから、グラナートが一緒に行くならインクと一緒に紙も買ってきてくれないか?」
「任せて! 他に必要なものはある?」
「あとは大丈夫だ。気をつけてな」
「うん!」
グラナートはエルツに、少し待っていて、と言うと階段を駆け上がっていった。
おそらく外出の用意をしに行ったのだろう。
エルツはグラナートの後ろ姿を見ながら、どうすれば諦めてくれるのか頭を悩ませた。
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