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しおりを挟むグラナートが自室で勉強をしていると、扉を叩く音とともにグラナートの名前を呼ぶブラウの声が聞こえた。
扉を開けると、ブラウは内緒話をするように小さな声でグラナートに聞く。
「エルツにアプローチできた?」
グラナートはワクワクとした様子のブラウを部屋に入れると、先程のエルツとの会話の内容を話した。
「…………なるほどね」
「無理にでもエルツの悩みごとを聞き出したほうがよかったかな?」
「いや、強引すぎるのはよくないから聞き出さなくてよかったと思うよ」
「そっか……」
グラナートは自分の判断が間違っていなかったことに安心した。
「ただ、別の聞き方のほうがよかったかもしれないね」
「……別の聞き方?」
「うん。グラナートは、エルツに力を借りてばかりだから自分もエルツの力になりたいんだって言ってエルツの悩みごとを聞こうとしたんでしょう?」
「ああ。なるべく自然な流れで聞いたつもりだったんだけど……」
グラナートは、自分の聞き方のどこが良くないのかわからなかった。
「自然だけどエルツに対して気を使っているように聞こえてしまうから、それだとエルツは、気を使わないでください、と返事をするしかないと思うんだよね。だから、不自然でもいいから気を使っているわけではないことが伝わるような聞き方をしたほうがいいんじゃないかな」
「……たとえば?」
「今回だったら『好きな人の役に立てると嬉しいから、悩んでいることがあったら教えてほしい』って感じかな?」
グラナートは、確かにブラウの聞き方だとエルツに気を使っているようには聞こえないが、もしそれで悩みごとを聞けたとしても、優しい人だとは思ってもらえないような気がした。
そのことをブラウに話すと、ブラウは腕を組んで、うーんと考え込む。
「時間がたくさんあるならまだしも、六日でエルツに優しい人だと思ってもらうのは至難の技だと思うよ」
「……それでも、少しでもいいからエルツの好みのタイプに近づきたいんだ」
「その気持ちはわかるけど、たぶん気を使うことで優しさをアピールする方法はエルツに対して効果がないと思うんだよね」
「どうして?」
普通は誰かに気を使われたら、その人のことを優しいと思うのではないだろうか?
グラナートはそう疑問に思いながらブラウに聞いた。
「気を使われたときに嬉しいと感じる人が相手だったら効果があると思うけど、エルツは申し訳ないと感じるタイプだろうから効果がないと思うんだ」
「そんな……」
優しさをアピールするには気を使うしかないと思っていたグラナートは絶望感に襲われた。
「それならどうすれば……」
「エルツに優しい人だと思ってもらおうとするんじゃなくて、グラナートの気持ちを真っ直ぐ伝えたほうがいいと思うよ」
「……気持ちを真っ直ぐ?」
「うん。スマートさには欠けてしまうけど、グラナートが思っていることや考えていることを全部そのままエルツに伝えるといいんじゃないかな」
格好良くエルツを振り向かせることが理想だったグラナートは、かなり悩んだがブラウのアドバイスを実践することに決めた。
「……やってみる」
「エルツの反応がよくなかったら、別の方法を考えよう。……仕事があるからまた後でね」
そう言うとブラウは部屋を出ていった。
グラナートはダンスの練習以外の時間でエルツと二人きりになることはできないか考えながら勉強を再開した。
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