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三章 1

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 翌日、エルツはダンスの練習に参加するため大広間へ向かっていると、ブラウとグラナートの父親に呼び止められた。

「エルツ、大広間へ行く前に一緒にきてほしいところがあるんだ」

「わかりました」

 エルツは返事をすると二人の後をついていった。

 二人は一階の廊下を進むと、一番奥の部屋の前で立ち止まる。
 
 どうしてここに連れてきたのだろう……?

 そう疑問に思っていると、ブラウが扉を開けた。

 部屋の中には、家具や装飾品が置いてあるが生活感は全くなかった。

 ここは六年前に亡くなったグラナートの母親が使っていた物や思い出の物が置いてある部屋のため、エルツは掃除以外の目的で入ることはなかった。

「グラナートにドレスを着た相手と踊る練習をさせたいと思ったんだけど、エルツはドレスを持っていないだろうから、この部屋にきてもらったんだ」

 ブラウはそう言うと、ワードローブを開けた。

 中には数着のドレスが入っていて、グラナートの父親は懐かしむような眼差しでドレスを見る。

「妻はエルツと背格好が似ていたから、サイズは合うと思うよ」

「……奥様のドレスを使用人の私が着るわけにはいきません」

 エルツの言葉を聞いたブラウは困ったような顔でグラナートの父親を見た。

 するとグラナートの父親はエルツに優しい口調で話す。

「私はたまにこの部屋にきて妻との思い出に浸っているんだが、ドレスを見るたびに、このまま誰にも着られることなくワードローブの中で眠り続けるのか、と悲しい気持ちになっていたんだ。だから、ブラウからエルツにドレスを貸すことができないか聞かれたときに快諾したんだよ」

「ですが……」

「きっと妻も私と同じ気持ちだと思うんだ。……私たちのために着てもらえないかな?」

「……わかりました」

 グラナートの父親は、ありがとう、と言うとワードローブの中からドレスを出してエルツに見せた。

「どれがいい?」

「……どのドレスも素敵なので選べません」

「そうか……。ブラウはどれがいいと思う?」

 ブラウは、うーん、と悩みながらドレスを見る。

「……このドレスが一番似合うと思います」

 ブラウが選んだのは淡い緑色のドレスだった。

「確かにエルツは淡い色が似合いそうだな。ドレスはこれにするとして、あとは靴なんだが……」

 グラナートの父親は、この一足しかないんだ、と言ってエルツの前に靴を置いた。

「それじゃあ、私たちは部屋の外で待っているからエルツはここで着替えてくれ」

「わかりました」

 二人が部屋を出ると、エルツはドレスを汚したり破いたりしないよう慎重に着替えをした。

 グラナートの父親の言う通り、ドレスのサイズはピッタリだったが、靴は少し小さいようで足に圧迫感がある。

 エルツは部屋の中をぐるりと一周すると少しだけ足が痛んだが、これくらいなら動きに支障はないだろう、と思い扉を開けた。

「すごく似合っているよ」

 グラナートの父親がエルツのドレス姿を見てそう言うと、ブラウもエルツのことを褒めた。

 エルツは二人にお礼を言うと、ブラウと一緒に大広間へ向かった。

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