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序章 1
しおりを挟む少年の視線の先には、黙々と仕事をこなしている少女がいた。
少女の名前はエルツといい、二年前から少年の家の使用人として働いている。
エルツは双子の姉の身代わりとして育てられていたが、姉の婚約が決まり身代わりの存在が必要なくなったため森へ捨てられたところを少年の兄のサフィーロに助けられ、住み込みの使用人として働くことになった。
エルツを助けたサフィーロは少年の兄といっても二人は血が繋がっていない。
少年は実子だがサフィーロは少年の両親に拾われた養子で、そのことを少年は長い間知らされていなかった。
ずっと本当の兄だと思っていたが、三年前に血が繋がっていないことを知り、それから家族との関係が悪くなって、少年とサフィーロのどちらが家を継ぐのか揉めていた時期もあったが、エルツのおかげで家族との関係を修復することができ、少年が後を継ぐことに決まった。
後継者問題は円満に解決したので、今は少年とサフィーロは仲がよく、少年は立派な後継者になるために毎日勉強に励んでいた。
「グラナート、何をしているの?」
自分の名前を呼ばれた少年はパッと後ろを振り返る。
そこにはエルツと同じ使用人の服を着た、中性的な顔をしている青年が立っていた。
青年は顔立ちや話し方からしてグラナートと同じくらいの年齢に見えるが、実際はサフィーロよりも少し歳上で、名前はブラウという。
ブラウは、一般的な使用人の仕事であるグラナートたちの身の回りの世話のほかに、外部の人間の調査の仕事をすることがあった。
二年前、ブラウがエルツの家に潜入調査をしていたときに、エルツを森へ捨てるという話を耳にして、それを急いでサフィーロに報告したおかげでサフィーロはエルツを助けに行くことができた。
ブラウは小さな頃からこの家の使用人として働いているため、サフィーロやグラナートとは敬語を使わずに話すほど仲が良く、まるで兄弟のようだった。
ブラウに、何をしているのか、と聞かれたグラナートは、正直にエルツのことを見ていたとは言えなかった。
「えっと……。朝から勉強しっぱなしだったから少し休憩をしていたんだ。……ブラウは何をしにきたの?」
「旦那様から一時間後に部屋に書類を取りにきてほしい、と言われたんだけど、ボクは出かける予定があるから、エルツにお願いしようと思ってさ……」
そう言うとブラウは先程までグラナートが見ていた方向に視線を向ける。
エルツはグラナートとブラウに背を向ける形で仕事をしているため、二人には気がついていないようだった。
ブラウはエルツに用事があったのか。
それなら……。
「ブラウは出かける準備をしないといけないだろうし、俺が代わりにエルツに伝えようか?」
「いいの?」
「ああ」
「助かるよ。実は少し急いでいたんだ」
ブラウは、それじゃあよろしくね、と言うと小走りで来た道を戻っていった。
これでエルツに話しかける口実ができた……。
グラナートは少しドキドキしながらエルツの元へ向かった。
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