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4 エルツ視点

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 グラナート様が怪我をしてから三日が経った。 

 毎日傷の洗浄と包帯とガーゼの交換をして、その時に傷の状態を確認していた。
 私は机の上の血の跡を見て心配をしていたが、傷口が開く事はなく順調に治っているようだった。


 グラナート様は怪我をした日から自分の部屋で食事をとるようになったため、私は朝食を乗せたトレーを持ってグラナート様の部屋の前に来ていた。

「朝食をお持ちしました」

 声をかけて少ししてから、ゆっくりと扉が開いた。
 
 私はグラナート様の部屋に入ると机の上に食事を置く。

「お怪我の具合はいかがですか」

「……変わりない」

 グラナート様はそう言うと椅子に座った。

 私はグラナート様が食べ始めたのを確認すると、失礼します、と言って部屋を出た。


 トレーを持って食堂に戻ると、食事を終えた旦那様に話しかけられた。

「足の怪我は大丈夫か?」

 足の怪我、というのはスープがかかった時に少し火傷をした事を言っているのだろう。

「はい。お二人がすぐに冷やしてくださったおかげで、もう痛みを感じる事はありません」

「……そうか」

 旦那様はホッとした顔をする。

「実は今日一日出かけないといけなくなってね。すまないが、サフィーロとグラナートの事を頼むよ」

 私は、はい、と返事をしてトレーと一緒に旦那様の食器を厨房に下げた。




 旦那様が出掛けてから数時間後、私はブラウさんと一緒に階段の掃除をしていると、玄関の扉を叩く音がした。

「誰かが訪ねてくる予定なんてなかったと思うんだけど……」

 ブラウさんは不思議そうな顔をして玄関に向かう。

 私は掃除用具を持って急いで玄関から見えないところに身を隠した。


 ガチャ

 扉を開ける音が聞こえる。

「……ゴルト様。お越しいただいたところ申し訳ないのですが、ただいま主人は出掛けておりまし——」

「御子息がいるだろう?」

 男の声がブラウさんの言葉を遮った。


 ……ゴルト様?

 私はゴルトと言う名前を聞いて、数ヶ月前の記憶を思い出した。

 その日、私はいつも通り地下室で勉強をしていると慌ててお母様が部屋に入ってきた。

「あの大富豪のゴルトが息子を連れて急に訪ねてきたのよ。息子の紹介がしたいって事だけど、息子は最近まで外国にいたから外国語しか話せないって言うの。だから、あなたが対応しなさい」

 綺麗な服に着替えさせられた私は急いで玄関に向かった。


 玄関には意地の悪そうな中年の男と、若い男がいた。

「遅くなって申し訳ありません。娘のベリルです」

 お母様が私を紹介すると、中年の男はニヤニヤしながら話しかけてきた。

「どうもはじめまして、ゴルトといいます。今日は息子の紹介をしにきたんですよ」

 ゴルトは若い男に目配せをする。

「〈はじめまして〉」

 ゴルトの息子は外国語で挨拶をすると、長々と話始めた。

 内容は他愛もないものだったが、私はところとごろ外国語で相槌を打って、ゴルトの息子と会話をした。

 その様子を見たゴルトは、だんだんと不機嫌になっていった。

 ……どうしたのだろうか?

 そう思っていると、ゴルトは私達の会話の途中でお母様に言った。

「いやぁ、てっきり私はベリル嬢が外国語を話せないと思っていたのですが、そんな事はなかったんですね」

「……どうしてそう思われたのです?」

 お母様が少し緊張した声で聞いた。

「以前パーティーで息子がベリル嬢に声をかけたら無視をされたらしくてね。もしかしたら外国語がわからなかったのかな、と思ったんですよ」

「そうでしたか。ご不快な思いをさせてしまい、申し訳ありません」

 そう言ってお母様は頭を下げる。
 私もゴルトとゴルトの息子に謝って頭を下げた。

 「そんなそんな、謝る必要はありませんよ。こちらこそいきなり来て申し訳なかった」

 言葉ではそう言うが、ゴルトは不機嫌な顔をしたまま、息子を連れて帰って行った。


 ……一体なんだったんだろうか。

 私はよくわからなかったが、お母様は大富豪との接点が出来たことを喜んでいた。


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