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「ん……ここは……?」
目を覚ますと、小さな木でできた小屋の中にいた。
暗くてよく見えない。それに、今の僕の状態は椅子に座らされ、背もたれの下の所で手を縛られているようだ。
取れないな……
「うっ……」
さっきの電流のショックなのか頭が妙にズキズキする。
スタンガンなんてよく持ってたなぁ……あんなの危ないよ……銃刀法違反ならぬスタンガン法違反だよ……
「ーーあ、お目覚めですか? ドロシーさん」
暗闇の中から静かにアンズくんが歩いてくる。
「かなり寝ちゃったみたいだね。アンズくん……いや、美玲ちゃん?」
「覚えててくれたんですか?」
「当然っ! 僕は僕のプリンセスの名前は全員覚えてるよ!」
アンズくんは「わぁ! すごーい!」と言って大袈裟に手を打った。
そして、どこからか椅子を持ってきて僕の前に座る。
「だけど、それが杏樹の悪いところでもあるんだよ?」
「悪いところ?」
アンズくんは1度頷いて微笑んだ。
辛そうな悲しそうな微笑みに思わず心臓がズキっと痛む。
「僕、アンズくんや美玲ちゃんに何か悪いことした? 悪いことしたなら謝るから。本当にごめんなさい」
僕は僕なりに誠心誠意を込めて深く頭を下げた。
アンズくんが椅子から立ち上がり近づいてくる足音がする。
抵抗が出来ない状態で相手の行動が見えないのはとても怖い。でも、僕のせいでアンズくんにあんな辛そうな顔をさせてる方がもっと嫌だった。
「杏樹、覚えてる? 俺が美玲の時初めて貴方と会った時のこと」
不意に聞かれて顔を上げ、杏樹の時の記憶を巡らせる。
「初めて……あー。あの時は他の友達といたよね?」
美玲ちゃんと会ったのは僕が初めてホストの仕事をした時。
美玲ちゃんをいれて3人の友達と来ていて、僕と先輩達でそこを担当した。
「前も言ったけど、俺はあの時初めてホストに来たんだ。それで、雰囲気に馴染めないでいると、杏樹が現れた」
お、おぉ! その言い方だと僕ヒーローみたいじゃない?
「正直放っといてほしかった」
「ごめんなさい!」
自惚れてた自分が恥ずかしくてつい謝ってしまった。え、なに、もしかしてアンズくんが怒ってるのそこかな? 余計なお世話だったのかな?
なんて思ったが、アンズくんは首を横に振った。
「違う。謝ってほしいんじゃない。むしろ、俺の方がお礼を言いたいくらい」
「……え?」
「俺は元からイケメンは好きだった。だけど、恋をしたことなかったから初めて杏樹に恋が出来て嬉しかった」
アンズくんはそっと僕の頬に手を添えた。
僕に……恋?
頭が上手く働かないため、理解が出来ずに身体が硬直してしまう。
「だけど、杏樹はそこら辺の人よりもイケメンだし、性格もいいし、すぐにNo.1ホストになるのは予想ができたし、事実なっちゃった」
「いっ……痛いっ!」
添えられてる手に力が入り僕の頬に爪がくい込んだ。
アンズくんの口元がだんだんつり上がっていく。あの日の夜見た笑顔のように。
こ……怖い……
「だから、他の人のモノになる前に俺は俺自身の手で殺して俺のモノにした! 杏樹はこれで俺のモノ! 俺だけの杏樹だって!」
気持ちが昂ってるのか、言い終わると呼吸が荒くなり肩で息を吸っている。
しばらく呼吸整えると、アンズくんはまた表情を暗くした。
「でも……貴方は俺のモノにならなかった。杏樹の身体は大人に取られたし、ここの世界に来ても、杏樹はみんなから好かれてる。嫌われ者の俺とは違って、ドロシーさんはみーんなから好かれてた」
「そんな事はないよ!」
アンズくんの発言を聞き、黙って聞いてたが口を挟んでしまった。
でも、挟まずにはいられなかった。
だって、彼女のおかげで今の僕がいる。こんな夢みたいな世界にいられてる。
だからーー。
「美玲ちゃんもアンズくんも好かれてるから。少なくとも僕は美玲ちゃんもアンズくんも大好きだ!」
びっくりするくらい自分の声が震えてる。途中途中裏返っててかっこ悪い。
でも、伝わったのかアンズくんは目を大きく開いた。
「そっか……杏樹は俺の事が好きなんだ……」
独り言なのか僕に言ったのかわからないくらいの声量で呟くと、鞄の中から何かを取り出した。布に巻かれてるソレは布を取ると研ぎ澄まされた刃が銀色に光った。
ほ、包丁……!?
「ーーじゃあ、今度こそ俺のモノになってくださいね。ドロシーさん」
高々な笑い声を上げるアンズくんが僕の頭上に包丁を振り上げた。
……僕、また死ぬのかな……
目を覚ますと、小さな木でできた小屋の中にいた。
暗くてよく見えない。それに、今の僕の状態は椅子に座らされ、背もたれの下の所で手を縛られているようだ。
取れないな……
「うっ……」
さっきの電流のショックなのか頭が妙にズキズキする。
スタンガンなんてよく持ってたなぁ……あんなの危ないよ……銃刀法違反ならぬスタンガン法違反だよ……
「ーーあ、お目覚めですか? ドロシーさん」
暗闇の中から静かにアンズくんが歩いてくる。
「かなり寝ちゃったみたいだね。アンズくん……いや、美玲ちゃん?」
「覚えててくれたんですか?」
「当然っ! 僕は僕のプリンセスの名前は全員覚えてるよ!」
アンズくんは「わぁ! すごーい!」と言って大袈裟に手を打った。
そして、どこからか椅子を持ってきて僕の前に座る。
「だけど、それが杏樹の悪いところでもあるんだよ?」
「悪いところ?」
アンズくんは1度頷いて微笑んだ。
辛そうな悲しそうな微笑みに思わず心臓がズキっと痛む。
「僕、アンズくんや美玲ちゃんに何か悪いことした? 悪いことしたなら謝るから。本当にごめんなさい」
僕は僕なりに誠心誠意を込めて深く頭を下げた。
アンズくんが椅子から立ち上がり近づいてくる足音がする。
抵抗が出来ない状態で相手の行動が見えないのはとても怖い。でも、僕のせいでアンズくんにあんな辛そうな顔をさせてる方がもっと嫌だった。
「杏樹、覚えてる? 俺が美玲の時初めて貴方と会った時のこと」
不意に聞かれて顔を上げ、杏樹の時の記憶を巡らせる。
「初めて……あー。あの時は他の友達といたよね?」
美玲ちゃんと会ったのは僕が初めてホストの仕事をした時。
美玲ちゃんをいれて3人の友達と来ていて、僕と先輩達でそこを担当した。
「前も言ったけど、俺はあの時初めてホストに来たんだ。それで、雰囲気に馴染めないでいると、杏樹が現れた」
お、おぉ! その言い方だと僕ヒーローみたいじゃない?
「正直放っといてほしかった」
「ごめんなさい!」
自惚れてた自分が恥ずかしくてつい謝ってしまった。え、なに、もしかしてアンズくんが怒ってるのそこかな? 余計なお世話だったのかな?
なんて思ったが、アンズくんは首を横に振った。
「違う。謝ってほしいんじゃない。むしろ、俺の方がお礼を言いたいくらい」
「……え?」
「俺は元からイケメンは好きだった。だけど、恋をしたことなかったから初めて杏樹に恋が出来て嬉しかった」
アンズくんはそっと僕の頬に手を添えた。
僕に……恋?
頭が上手く働かないため、理解が出来ずに身体が硬直してしまう。
「だけど、杏樹はそこら辺の人よりもイケメンだし、性格もいいし、すぐにNo.1ホストになるのは予想ができたし、事実なっちゃった」
「いっ……痛いっ!」
添えられてる手に力が入り僕の頬に爪がくい込んだ。
アンズくんの口元がだんだんつり上がっていく。あの日の夜見た笑顔のように。
こ……怖い……
「だから、他の人のモノになる前に俺は俺自身の手で殺して俺のモノにした! 杏樹はこれで俺のモノ! 俺だけの杏樹だって!」
気持ちが昂ってるのか、言い終わると呼吸が荒くなり肩で息を吸っている。
しばらく呼吸整えると、アンズくんはまた表情を暗くした。
「でも……貴方は俺のモノにならなかった。杏樹の身体は大人に取られたし、ここの世界に来ても、杏樹はみんなから好かれてる。嫌われ者の俺とは違って、ドロシーさんはみーんなから好かれてた」
「そんな事はないよ!」
アンズくんの発言を聞き、黙って聞いてたが口を挟んでしまった。
でも、挟まずにはいられなかった。
だって、彼女のおかげで今の僕がいる。こんな夢みたいな世界にいられてる。
だからーー。
「美玲ちゃんもアンズくんも好かれてるから。少なくとも僕は美玲ちゃんもアンズくんも大好きだ!」
びっくりするくらい自分の声が震えてる。途中途中裏返っててかっこ悪い。
でも、伝わったのかアンズくんは目を大きく開いた。
「そっか……杏樹は俺の事が好きなんだ……」
独り言なのか僕に言ったのかわからないくらいの声量で呟くと、鞄の中から何かを取り出した。布に巻かれてるソレは布を取ると研ぎ澄まされた刃が銀色に光った。
ほ、包丁……!?
「ーーじゃあ、今度こそ俺のモノになってくださいね。ドロシーさん」
高々な笑い声を上げるアンズくんが僕の頭上に包丁を振り上げた。
……僕、また死ぬのかな……
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