上 下
22 / 32

21

しおりを挟む
「ん……ここは……?」
 目を覚ますと、小さな木でできた小屋の中にいた。
 暗くてよく見えない。それに、今の僕の状態は椅子に座らされ、背もたれの下の所で手を縛られているようだ。
 取れないな……
「うっ……」
 さっきの電流のショックなのか頭が妙にズキズキする。
 スタンガンなんてよく持ってたなぁ……あんなの危ないよ……銃刀法違反ならぬスタンガン法違反だよ……

「ーーあ、お目覚めですか? ドロシーさん」

 暗闇の中から静かにアンズくんが歩いてくる。

「かなり寝ちゃったみたいだね。アンズくん……いや、美玲ちゃん?」
「覚えててくれたんですか?」
「当然っ! 僕は僕のプリンセスの名前は全員覚えてるよ!」
 アンズくんは「わぁ! すごーい!」と言って大袈裟に手を打った。
 そして、どこからか椅子を持ってきて僕の前に座る。
「だけど、それが杏樹の悪いところでもあるんだよ?」
「悪いところ?」
 アンズくんは1度頷いて微笑んだ。
 辛そうな悲しそうな微笑みに思わず心臓がズキっと痛む。
「僕、アンズくんや美玲ちゃんに何か悪いことした? 悪いことしたなら謝るから。本当にごめんなさい」
 僕は僕なりに誠心誠意を込めて深く頭を下げた。
 アンズくんが椅子から立ち上がり近づいてくる足音がする。
 抵抗が出来ない状態で相手の行動が見えないのはとても怖い。でも、僕のせいでアンズくんにあんな辛そうな顔をさせてる方がもっと嫌だった。

「杏樹、覚えてる? 俺が美玲の時初めて貴方と会った時のこと」
 不意に聞かれて顔を上げ、杏樹の時の記憶を巡らせる。
「初めて……あー。あの時は他の友達といたよね?」
 美玲ちゃんと会ったのは僕が初めてホストの仕事をした時。
 美玲ちゃんをいれて3人の友達と来ていて、僕と先輩達でそこを担当した。

「前も言ったけど、俺はあの時初めてホストに来たんだ。それで、雰囲気に馴染めないでいると、杏樹が現れた」
 お、おぉ! その言い方だと僕ヒーローみたいじゃない?
「正直放っといてほしかった」
「ごめんなさい!」
 自惚れてた自分が恥ずかしくてつい謝ってしまった。え、なに、もしかしてアンズくんが怒ってるのそこかな? 余計なお世話だったのかな?
 なんて思ったが、アンズくんは首を横に振った。
「違う。謝ってほしいんじゃない。むしろ、俺の方がお礼を言いたいくらい」
「……え?」
「俺は元からイケメンは好きだった。だけど、恋をしたことなかったから初めて杏樹に恋が出来て嬉しかった」

 アンズくんはそっと僕の頬に手を添えた。
 僕に……恋?
 頭が上手く働かないため、理解が出来ずに身体が硬直してしまう。

「だけど、杏樹はそこら辺の人よりもイケメンだし、性格もいいし、すぐにNo.1ホストになるのは予想ができたし、事実なっちゃった」
「いっ……痛いっ!」
 添えられてる手に力が入り僕の頬に爪がくい込んだ。
 アンズくんの口元がだんだんつり上がっていく。あの日の夜見た笑顔のように。
 こ……怖い……
「だから、他の人のモノになる前に俺は俺自身の手で殺して俺のモノにした! 杏樹はこれで俺のモノ! 俺だけの杏樹だって!」
 気持ちが昂ってるのか、言い終わると呼吸が荒くなり肩で息を吸っている。
 しばらく呼吸整えると、アンズくんはまた表情を暗くした。

「でも……貴方は俺のモノにならなかった。杏樹の身体は大人に取られたし、ここの世界に来ても、杏樹はみんなから好かれてる。嫌われ者の俺とは違って、ドロシーさんはみーんなから好かれてた」
「そんな事はないよ!」
 アンズくんの発言を聞き、黙って聞いてたが口を挟んでしまった。
 でも、挟まずにはいられなかった。
 だって、彼女のおかげで今の僕がいる。こんな夢みたいな世界にいられてる。

 だからーー。

「美玲ちゃんもアンズくんも好かれてるから。少なくとも僕は美玲ちゃんもアンズくんも大好きだ!」

 びっくりするくらい自分の声が震えてる。途中途中裏返っててかっこ悪い。
 でも、伝わったのかアンズくんは目を大きく開いた。
「そっか……杏樹は俺の事が好きなんだ……」
 独り言なのか僕に言ったのかわからないくらいの声量で呟くと、鞄の中から何かを取り出した。布に巻かれてるソレは布を取ると研ぎ澄まされた刃が銀色に光った。
 ほ、包丁……!?

「ーーじゃあ、今度こそ俺のモノになってくださいね。ドロシーさん」
 高々な笑い声を上げるアンズくんが僕の頭上に包丁を振り上げた。

 ……僕、また死ぬのかな……
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...