悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

17

｢意味わかんねぇよ！ オレ様にもわかるようにしっかり説明しろ！｣

 先程まで声を抑えていたルイ様がついに爆発し、いつものトーンで話し始めた。
 ウィル様もルイ様の言葉には反応せず、じっとアンズくんの次の言葉を待っている。

｢俺にとってドロシーさんは運命の人なんですよ。初めはただ杏樹と似てるだけの別人だと思っていましたが、あまりにも言動や、好きな食べ物、嫌いな食べ物、性格が似すぎていて確信したんです｣
｢何を確信したのですか？｣
｢ドロシーさんは杏樹だって事をですよ｣
 聞き間違いじゃない。やっぱり、この子は杏樹を知ってる。
｢それに、ドロシーさんは言ってくれた。前世の時から俺を求めてたって｣
｢それは、いつものかっけぇ言葉のやつだろ？ 深く考えるなっつーの。それにさっきから言ってるアンジュって誰なんだよ？｣
｢それは、あなた達には関係のないこと。ドロシーさんと俺だけが知ってればいいです｣
 アンズくんは人差し指を口元にあて、小首を傾げた。

｢なら、なんで本人ではなく、僕達にそのワードを出したのです？ 本人が聞いてるわけでも…………まさか……っ！｣
 何かに勘づいたウィル様が勢いよく扉の方を向いた。
 やばっ！ バレた！
｢ふふっ。そのまさかです｣
 僕とアレンは扉を閉め壁の方へと張り付いて隠れようとしたが、すぐに扉が開き、ウィル様が出てきた。
 ……もし、忍者なら忍法隠れ身の術とか言って隠れられたのになぁ……あはは……
 見つかったことによって力が抜け床にへたれこんでしまった。
 もう、逃げるすべもない。

｢ドーローシーさーまー？｣
 お怒りモードのウィル様が僕を見下ろしてる。
 ど、どうしよ……ウィル様怒ってる……怒ってるウィル様もレアで可愛い。じゃなくて、な、なんか言い訳……いや、その前に謝らないと……
 光の速さで頭が回転し、僕は喉の奥から絞り出すような声でポツリと呟いた。

｢ご、ごめんなさい……ウィル様が……心配で……｣

 そう簡単には許しては貰えないだろう。ウィル様の表情は変わらず険しいまま。
 そこに、ルイ様も加勢してしまった。
 僕は恐怖を押し殺してウィル様の瞳をじっと見つめ次の返事をまった。
 たっぷり間をあけ、ウィル様の口が開く。

｢こら。そんな可愛いと許しちゃうでしょうが｣

 ……簡単に許してもらえたようです。
 そんなウィル様に向かってルイ様が｢お前、自分の意志を強くもて！｣と言っている。
 ウィル様はルイ様の言葉には気にせず跪き僕の頭を優しく撫でた。
｢ドロシー様が僕を心配してくれてるのと同じくらい僕もドロシー様の事を心配してるのです。なので、好奇心だけで動こうとしないでくださいね｣
 大人びた表情でニコリと微笑むウィル様。

｢は、はい……｣

 あまりのかっこよさに見とれてしまいポーっとしてしまう。
 何この人。尊い。え？ なに？ 好きすぎるんだけど。
 語彙力が壊滅してしまうほどのイケメンぶりにしばらく放心状態になっていると、足音を立てながらアンズくんが部屋から出てきた。

｢見せつけられた感じだなぁ……でも、“ドロシーさんは俺のモノ”だから｣

 そう言って、アンズくんは颯爽と去っていった。
 ドロシーさんは俺のモノ……？
 似たような言葉……前にも聞いたことがある……いつだっけ？


 ……あ、僕が死んだ時だ。


 思い出した瞬間、不意に僕の目の前の世界が歪み、意識を失ってしまった。