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ーーという夢を見たドロシー・リベラ。齢16歳。

 …………

「いやいやいやいや!! 何今の!? 夢!? まだ刺された感触残ってるんだけど!?」

 明らかに夢ではないことに対して、混乱と恐怖のせいで感情任せに叫ぶ。
 確かに、ドロシーとしての昨日までの記憶はある。鮮明に残ってる。
 だけど、杏樹時代の自分の記憶もはっっっきりと残ってる!
 僕が俺で、俺が僕? 2人の人物の生き様が頭の中に残ってる感じでめちゃくちゃ気持ち悪い。

 なんだか、俺って言うのすら違和感を覚えてくる。もう、これから僕ってしよ……その方が真面目そうでいいっしょ。うん。

 僕はベッドから降り、姿見の前に立つ。
 身長は163cmとこの年齢の男の子なら少し低めの身長で、絹のような綺麗な黒髪、タレ目がちの目に茶色の瞳。前世(?)でも、こんな美少年なかなかいないって言うほどの容姿端麗さ。
 て、なんかナルシストみたいになってるんだけど……客観的に見るとそうなんだよ! 
 でも、この顔……どこかで見たことがあるような……ないような……
 いや、確かに毎日鏡で顔は見てるけど……そういう意味じゃなくて……うーん。
 僕が姿見を見て唸っていると、ノック音がして1人の黒い燕尾服を纏った男が入ってきた。
 黒髪、赤目と、どこか厨二病心をくすぐられるような見た目の男。
 彼の名前はアレン・ルイス。
 僕の専属執事だ。

「坊ちゃん。先程叫ばれてたようですが、どうされました?」
「あ、いや。大丈夫。特に何も問題は無いよ」
 僕が淡々と応えるとアレンは血相を変えて僕の額に手を当てた。
「なんですか!? その口調! 熱でもおありで!?」
「ないから!? 僕は正常!」
「僕!?」
 そうだ……こいつ、過保護だったっけ。
 いつもは口調が荒い僕の豹変ぶりにアレンは「専属の医者に……いや、ここは科学者……それとも、隣のマルコ爺さんに……」とブツブツ呟きながら部屋の中をグルグルと回っている。
 ……特に異常はないけど……診てもらうなら専属の医者でいいだろ!? 科学者ってなに!? 解剖されそうなんだけど!? 隣のマルコ爺さんって農家やってる人だよね!? もはや関係ない!

 落ち着け……ってアレンに言いたいが、この様子じゃ聞く耳持たないだろう。
 どうにか話を聞いてもらわないと。
 話を聞いてもらう……そのためには、興味を持たせないと……興味を持たせる……ならば、今こそNo.1ホストである僕の実力を発揮する時! 何人ものプリンセスを口説いてきた僕なら興味を引かせる事くらいできるはず!

 僕はアレンの動きを制御するために燕尾服の端を掴んだ。
 思惑通りにアレンは動きを止め、振り向いてくれた。まだなんかブツブツ言っていて、ここまで来ると呪文のようにすら聞こえる。
 だが、僕は怯まない。呪文だろうがなんだろうが関係ない!
 僕は上目遣いでアレンを見て小さく息を吸った。

「アレンの脳内を僕でいっぱいになるのは嬉しいけど、本物の僕も見て欲しいな……っ。えへへ」

「……」

 …………ぽくぽくぽくぽくチーン。

 時が止まったかのように、アレンが全然動かない。
 あれ? これ、滑った?
 セリフがセリフなだけ、めちゃくちゃ痛い。恥ずかしい。死にたい。よし。死のう。
 僕が自殺を心に決めていると、アレンがまたブツブツと呟き始めた。
 今度は何を言ってるんだ?
 その呟きを聞くのは怖かったが、興味本位で恐る恐る聞き耳を立てると、
「坊ちゃん、かわいすぎるでしょ。なにあれ。ギャップ萌え。天使? 天使ですね。惚れた」
 なんて事を呟いている。
 んー……これは、結果オーライ……かな?
 特に状況は変わってない気がするが、滑ってないことに安心したため、それでよしとしといた。
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